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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
195/343

∥005-72 集団戦・第一幕

#前回のあらすじ:トラップ炸裂



[Oscar(オスカー)視点]



―――天に()()()()()が煌めく夜。

我が陣営の進む先には、白々と淡い光を放つ美しいビロードのような『()』が真っすぐ、海の彼方に向けて伸びていた。


光の道は横幅20m程だろうか、隊列を組んで進行する分には問題無さそうだ。

そしてその下には、()()()()と渦巻く海が波しぶきを上げ、黒く()()()を巻いている。


月の光を反射して白く煌めく波間には、()()()()と人間大の影が見え隠れしていた。

おれたちの敵―――【深きもの】(ディープワン)どもだ。


おれたちは今、【イデア学園】と彼等【敵性人類】(ホモ・イニミークス)との戦端を開く、そのまさに最前線に立たされていた。


尤も―――

話によれば彼等は『ミドロ』という、【深きもの】の中でも穏健派にあたる一派、らしい。


故にこの戦いは、互いの殲滅を目的としたものではなく、ルールを課した上での()()()()()()となる。


しかし、どんな事情があろうと戦は戦。

おれは手を抜くつもりも、敵を前に油断してやるつもりも無い。


そしてそれは―――あちらとて同じこと。


脳裏に焼き付いた、視界を埋め尽くす巨大な津波の光景を思い起こす。

彼等はその気になれば、一挙に味方陣営を壊滅しうるだけの()()を有している。


その事実は、つい先刻証明されたばかりだ。

そして今、海の様相はあの、巨大波が発生した直前と瓜二つの様相を呈していた。


行軍を続ける団員達の緊張は、今や最大限に高まっている。


最早、いつ漆黒の海面を割って敵が飛び出して来てもおかしくはない。

今か今かと待ち受ける戦友達の耳に、ついに敵襲を報せる第一報が飛び込んできた。



「敵の集団が急浮上中―――3時方向、来るぞ!!」


「盾手3番!構えェーーーッ!!」


「―――フィアナ騎士団、万歳!!!」



双方睨み合いの均衡が崩れたことを報せたのは、観測手隊の上げた鋭い一声だった。


敵の襲撃方向を知らせるその言葉に、おれは反射的に戦場一帯に響き渡るよう、大声を張り上げる。

常からの訓練により、鍛え上げられた団員達はそれに呼応し、即座に右手に広がる黒い水面に向かって盾を掲げた。


次の瞬間。


隊列の右側に展開した盾手隊に向け、圧縮された水塊が着弾した。

大人の両腕幅はあろうかという、水弾。


それが目にも止まらぬ速度で飛来し―――

隊員の目の前で()()()()()に阻まれ、あっけなく空中に四散した。


―――フィアナ騎士団は、今や【イデア学園】で最大規模を誇るクランの一つである。


かつて『英雄』フィン=マックールを慕った若者達が、その足跡を追って現代の英雄たらんと集ったのが、そもそもの始まり。

いつしか彼等は【学園】最強の一角として、その名を知られるにまで成長を果たしていた。


その強みは―――()()()()()()()()()()


攻撃、防御、偵察に支援、そして回復。

戦いにおける各要素ごとに適した異能を配し、部隊すべてを有機的に連携させる。


それを結成初期より追究し、実戦可能なレベルにまで高め続けたのがフィアナ騎士団であった。

現在の我等は、戦において一個の生物として力を振るい、強大な敵をも打倒することが出来る。


盾手隊が予定通りの仕事をしたことを見届けると、おれは素早く視線を上げた。


おそらく先程の攻撃は陽動、()()()()()()

前衛を飛び越えての―――()()


夜空をバックに黒い影が4つ、矢のような速度で落下してくる様子が視界に入る。

おれは即座に愛剣を鞘から引き抜くと、ありったけの【神力】(プラーナ)を込めてその名を叫んだ。



「叫べ!硬き(ゲル・ナ・)稲妻(グコラン)よ!!雷光の―――剣閃ッ!!!」


『ギッ!?』



二度、横に薙ぐ剣閃が夜空に走る。

異能により拡大された斬撃は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


呻くような叫びを残し、4体全ての『ミドロ』達が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


それを見届けると、おれはなおも油断なく漆黒の海を睨みつける。

()()()()、と波音だけを残し、静寂が続く事数秒。


再び、観測手の声が新たなる襲撃者の到来を告げた。



「もう一回来るぞ!今度は8時、5時、二か所同時だ!!」


「盾手4番!5番!構えェーーーッ!!」


「―――フィアナ騎士団、万歳!!!」



防御系の異能を持つ団員達が、左右両方向からの襲撃に備え、防壁を展開する。

先に左後方から飛来した圧縮水弾を防ぎ、続いて少し遅れて、右後方から飛んできた高圧放水を別の防壁が受け止める。


先程と同じ攻撃が、今度は二連続。

しかし、僅かに感じた()()()におれは顔をしかめた。



(二つの攻撃の質が違う―――左は()()()か!)


「ふ・・・副長ォーッ!破られます!!」



はたして、右後方から悲鳴のような報告が上がる。



「援護ぉ―――ッ!即応できる者は、5番隊を手伝え!!」


「ふ、フィアナ騎士団・・・万歳ッ!!」



ウォーターカッターのような、収束された水流。

()()()()と防壁を削り取る間断の無い攻撃により、危うく防りを破られかけるも、残りの盾手達が指令に応じ、即座に補助に回った。


より強固となった防壁が水流を押し返し、5番隊の盾手達は()()と安堵の息を吐く。


そして攻撃を諦め、集結していた『ミドロ』達は海面近くから反転し、海の底へさっと散会してゆく。

その気配を察し、おれは鋭く声を張り上げた。



「連中のケツを蹴り上げてやれ!射手隊、魔導士隊、5時方向―――海中!!」


「フィアナ騎士団、万歳―――!!!」


『グオォオオオ!!?』



次の瞬間。


漆黒の闇を引き裂いて、炎の矢と雷の束が隊列の中程より放たれる。

指令に先んじて、行く手を阻む前衛は射線から退避済みだ。


雷火の奔流は墨を落としたような海の中へと吸い込まれ、急激に盛り上がった海面は直に巨大な水柱と化した。


滝のように降り注ぐ海水の中、数体の『ミドロ』達が()()()()()()()()()()様子が垣間見える。

おれは油断なく、付近から敵の気配が消えるまで警戒を続けると、ようやく長く息を吐いた。


両腕を回し、緊張に強張った肩から力を抜きつつ、激闘を切り抜けた団員達にねぎらいの言葉を掛ける。



「どうやら敵の第一波は防げたようだな。皆、よくやってくれた」


「ありがとうございます、副長!」


「この調子で【深きもの】どもに目にもの見せてやりますよ!」


「フ、頼もしいものだな―――」



束の間、訪れた平穏な一時。


団員達は両腕に力こぶを作り、朗らかに笑って見せる。

それに破顔して応じるおれだったが、内心では今回の敵―――『ミドロ』への警戒を高めつつあった。


結果から見れば、こちらの犠牲はゼロ。

対する敵は数体ではあるが、犠牲を出している。


しかし―――先程の戦いは非常に危いものであった。


こちらの防衛体制を見て即座に攻め方を変え、通じないと見ると即座に逃げに入る。

何とか追撃が間に合いはしたが、討ち取れた数も想定したよりずっと少ない。


知性の無い蛮族とばかり思っていた、敵。

だが、この短い時間の間に垣間見えたその脅威度は、いささか想定を上回っていた。


【敵性人類】(ホモ・イニミークス)―――


何故、彼等を含め【深きもの】が怪物ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()

その理由を、おれは今更ながらに実感し始めていた。


敵は賢く、そして予想以上に手ごわい。

今回は無傷で切り抜けられたが、次はそうは行かないだろう。


だが―――ここで立ち止まる訳には行かない。

おれには勝って、もう一度遭うべき()()が居るのだから!



「休憩はここまでだ!総員、進軍開始―――!」


「了解!!」



号令と共に、弛緩した空気は瞬時に消え去り、全軍は適度な緊張を保ちつつ行軍を再開する。


行く手に見えるは闇の中、白く輝く光の道。

そしてその彼方にて待ち受ける―――途方もない体躯を持つ、魚頭人身の大巨人(ディゴン)


その威容に()()()と唾を飲みこみつつも、一同は行進を続ける。


光の道の下に広がる海は、なおも()()()()と渦を巻いたままだ。

彼等は虎視眈々と、その奥底より攻撃の機会を伺っているのだろう。


夜天には白銀の月が掛かり、()()()()()には星々が儚くはためいている。


幼い頃に読みふけり、憧れを抱いた物語の一頁のような。

そんなどこか、現実味の無い光景であった。


この道の行く手に待ち受けるのは、果たして破滅(ルイン)か、栄光(グローリー)か。


しかし、今この時、おれの胸を満たすのは、先程目にした白い()()()()であった。

()()()、と小さく口の中でその名を呟く。


それだけで()()と全身の血が熱く燃え上がり、無限の勇気が身体の奥底から沸き立ってくる。


何のことは無い。

おれはもうすっかり、あのたおやかな花のような()()に、恋してしまっていたのだ。



「おれは―――この戦いが終わった時。この胸にたぎる想いを打ち明けようと思う」


「「「・・・!?」」」



無意識のうちか、そんな呟きが口から零れ落ちていた。

周囲の団員達から()()()、と波紋のようにどよめきが上がる。


彼等が一様に、出発前に見かけた一人の()()()())を思い浮かべる、一方。

気心の知れた戦友たちは、おれに負けじとばかりに大声で、独り言をつぶやき始めるのだった。



「あーハイハイ!そんじゃ俺っちも立候補しようかねぇ、副長が派手に爆死した二番手にでも!!」


旗手隊―――『若鹿』のOssian(オシーン)


「なら、ぼかぁーその次。残り物には福があるって、ね!」


斥候隊―――『心通』のCailte(キールタ) mac(マック) Ronain(ロナン)


「では、儂は高見の見物と行こうか。なあ、『先見』の?」


魔術師隊―――『強き手』のLugaid(ルガイド)


「ククッ。拙者としてはLugaid(ルガイド)、貴殿の吠え面を見てみたくもあるが―――」


観測手隊―――『先見』のDiorruing(ディアリン) mac Dobar(マクドバ)



彼等は皆、一騎当千の兵であり、フィアナ騎士団の中核をなすメンバーである。

おれを始め、慣例として騎士団の主要なポストに就く団員には、伝承に()()()()『フィアナ騎士団』の英雄と、()()()()()()()事が許されていた。


彼等は皆、気心の知れた仲間であり―――

しかしたった今から、()()()()()を巡り火花を散らす、ライバル同士となった。


そんなやりとりを、遠巻きに眺めていた最後の一人。

革の眼帯を付けたニヒルな男が、()()()と口元を吊り上げ、その場に()()を投下した。



「そうかいそうかい。まあ、勝手にやっておくんなせぇ。コッチは子供は趣味じゃないんでね。―――あぁ、そうそう。こいつは()()()ですがね、来る途中見かけたんですよ。来てるみたいですぜ―――()()()()()()()


「「―――何ッ!?」」



『隻眼』のGoll(ゴル) mac(マック) Morna(モーナ)


親衛隊の隊長を務める()()()にして()()()()が、団員の間で密かに話題になっていた()()()()()に言及する。

それまで熱っぽく、『()()()()()()()』について語らっていた同士達の約半数は、即座に目の色を変えて喰い付いた。


―――【イデア学園】にて、『任務』(クエスト)の発着場となる施設である、大ホール。


そこに時折姿を現し、その度に周囲の耳目を掻っ攫う移動販売店が、存在するという。

おれは寡聞にして、直接この目で見たことは無いが―――その()だけは耳にしている。


曰く―――品揃えがよく、値段もお手頃で高品質の物を取り揃えている、良店だという。

曰く―――チャイナドレスに豊満な肢体を包んだ絶世の美女が店主を勤め、一目その姿を見た者は()()()()()()心奪われるという。


それが今、光の橋の根本にまで足を延ばし、店を開いている。


その情報に反応を示したのは2名。

魔術師隊長のLugaid(ルガイド)、そして観測手隊長のDiorruing(ディアリン) mac Dobar(マクドバ)


()()()()()()()()()()()()



「気が変わったぞ兄弟。本日一番の戦功を打ち立て、あの豊満な双丘に包まれ祝福のキッスを貰うのは儂よ!」


「なんの。今こそ拙者こそが最強であると証明して、パイタッチを許して貰うのだ!!」


「オッパイだの何だの正気を疑うね、あの折れそうな腰が最高なのさ!」


「そうだとも、少女こそが至高!BBAは不要!それがわからんとは・・・」


「「「「貴様―――ッ!!」」」」



あっという間に分裂し、セクト争いを始める戦友たち。

()()()()()()と途端に騒がしくなった周囲に軽く頭痛を覚え、おれは思わず天を仰ぐ。


夜空に小さく瞬く星々の彼方に、苦笑する白いかんばせが一瞬、垣間見えたような気がした。

おれだけは心を強く持とう。


何よりおれは―――()()()だ。

腰の愛剣を強く握りしめると、おれは再び団員達へ行軍を命ずるのであった―――


今週はここまで。

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