∥005-72 友情ブレイカーズ
#前回のあらすじ:なんというトラップ・・・!
[マル視点]
「「くぉの・・・裏切りモンがぁぁぁあああ!!!」」
「突然の謂れなき中傷っ!?」
―――見知った顔が二つ、口の端から唾を飛び散らせながら鬼の形相(見えないけど)で襲い掛かって来た。
ガチムチ体形のバケツヘルムと、ひょろりと上背の高いモヤシ体型のバスネット。
それぞれに異なる形状の金属兜を被ったバカが二名、フルヘルムにサーコート付きチェインメイルという、見るからに重そうないでたちで全力疾走してくる。
それも、ぼくの顔を見つけたかと思いきやの、これだ。
ぼくはとっさに、二人の前に【バブルシールド】を展開する。
勢いのままに、淡く輝く水膜へと顔から突っ込む鎧野郎共。
ぐぐぐ、と彼等は水膜に半ばのめり込むと、発条が戻るようにしてバイン!と弾き返されて行った。
うぎゃあ、と汚い悲鳴が上がり、どんがらがっしゃんと甲高い金属音がそれに続く。
騒音が収まるまで待った後、ぼくは仰向けに横たわる二人の側に小走りで近寄ると、金属兜のつるりとした表面をつんつんと指先で突いた。
「・・・で。何で急に襲い掛かってきたりしたのさ?」
「―――それは無論!貴様が!裏切者だからで!あ~~るっ!!」
「某たちをさしおいて彼女を!そぉれもこんな美少女を侍らすなんて!まごうこと無き裏切りですぞキィィ!悔しいぃ妬ましいぃぃ!!」
「えっ」
がばりと勢いをつけて起き上がった彼等は二人揃ってこちらを指差し、口々に恨み節を唱え始めた。
しかし、こちらはその内容にとんと心当たりが無い。
ぼくはこてんと首を倒し、改めて眼前の二人組をしげしげと眺めた。
―――この、見るからに騒々しい連中、出会うのはこれが初めてではない。
ぼくは以前から【学園】の『任務』で、何度か彼等と顔を合わせている。
名前は、バケツの方がDaniel、バスネットの方がJames。
煩悩と承認欲求に全開な感じの、実に十代男子らしい人達だ。
彼等とは毎度、出会う度にバカバカしくも楽しい一時を過ごさせて貰っている。
そんな訳で、行く先々で騒動を巻き起こすこの二人とは、文句を言い合いながらも楽しく友達付き合いさせて貰っていた筈。
―――その筈、だった。
それが、何故いきなり襲い掛かられるような事態になったのか。
ぼくはむむむ、と更に首を倒し唸ると、その理由を求めゆっくりと首を巡らせ始める。
―――そして、90度右へ視線をスライドさせた辺りで、ぼくの背後に縮こまって隠れた叶くんとばったり目が合った。
「・・・なるほど!」
「え?・・・えっ?」
ぽんと膝を叩き、大きくうなずく。
謎は全て解けた!
それに対し白髪の少年は、戸惑い混じりの声を上げぱちくり、と両目を瞬かせている。
サーチライトの光を受け、ふたつの瞳はルビーのように妖しく、美しい光を一瞬放った。
―――抜けるように白い肌と、幼なげだが、極めて整った顔立ち。
ふわふわの新雪のような髪と、紅い瞳のコントラストが非常に美しい。
その容姿といい、どこか儚げな雰囲気といい、『彼』は見た目だけで言えば、文句なしの美少女であった。
うん。
要するに、ぼくはいまあらぬ誤解を受けているらしい。
ふう、と小さくため息をつくと、再び二人の側に視線を戻した。
「・・・裏切者だなんて酷いです。ぼくは何時だってお二人のよき理解者のつもりですよ?」
「嘘である!吾輩は騙されんぞ!!」
「そうですぞそうですぞ!現に今、マル氏は彼女同伴でラブラブランデブーな一時を過ごしている!そぉれが何よりもの証拠ですぞ~~!!!」
「男です」
じたばたと両手両足を振り回し、悔しさを全身で表現する二人。
それに対し、ぼくはきっぱりと、簡潔に、事実を伝えた。
ぴたり、と同時に、二人は動きを止める。
「はっ?」「えっ?」
「―――だから、男です」
ぎぎぎ、と錆付いた人形のような動きでこちらを向いた彼等に対し、もう一度同じ内容を繰り返す。
一瞬、言われた内容が理解できなかったのか、二人は同音異句に疑問の声を上げた。
それきり、しんと静まり返った彼等に向けて、諭すようにぼくは言葉をつづける。
「・・・今、何て?」
「こちらの叶くんは、男の子。そしてぼくは、ノーマル。普通に女の子が好きで、同性は恋愛の対象外な人です。つまり、彼と一緒に居たとしても、先程仰った『彼女同伴』にはあたらないという訳です」
あーゆーあんだすたん?
ゆっくりと、噛んで含めるように説明を終える。
そして、二人は唖然とした表情のまま、ぼくの背後へと視線を送った。
びくり、と緊張に身体を強張らせる気配が背後から伝わってくる。
「・・・・・・男。」
「これが―――男?」
「えっと・・・はい。男です・・・ごめんなさい」
初対面の相手に人見知りが発動したのか、おろおろと見るからにうろたえた様子で後ずさる叶くん。
ぽつりぽつりと、消え入るような声でそう答えた末に、彼は再びぼくの後ろに隠れてしまった。
ぴしっ、と音を立てて、二人は地面から起き上がった姿勢のまま凍り付く。
「「Oh・・・My.GOD・・・」」
そして彼等は天を仰いだ。
―――見れば、二人の背後では、謎の鎧集団が続々と膝から崩れ落ちていっている。
あっという間に目の前には、虚ろな様子で「男…」と呟く野郎共の屍が、死屍累々と横たわっていた。
どうやら、ぼくたちのやりとりをコッソリ聞き耳を立てていたらしい。
思わず嘆息するぼくの後ろに隠れるようにして、白髪の少年は奇妙な光景を怯えたように見つめている。
どーするんだこれ。
戦端が開かれる前から、早くもグダグダになってしまったこの状況に、ぼくは思わず頭を抱える。
『フィアナ騎士団』と『深泥族』、二勢力による衝突はもう、すぐそこにまで迫っていた―――
今週はここまで。




