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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
189/341

∥005-67 狂言回しと式神少女

#前回のあらすじ:選手入場!



[真調(ましら)視点]



「これは、これは。随分とまあ、沢山いらっしゃいましたねぇ・・・?」



丸く切り取られた視界の中。

緊張した面持ちの少年少女達が、海岸線を前に立ち並んでいる。


その視線の先、黒々とした海の只中には、小山と見まごうばかりの巨人―――『泥艮』(ディゴン)が立ちはだかっていた。


軍用暗視装置(ノクトビジョン)を最大望遠に合わせ、真調は口元を()()()と吊り上げる。

現在地は片洲(カタス)の町外れ、海沿いに点在する、家屋の屋根の上だ。


現場を一望にできる、絶好のポジションを確保した彼は、瓦屋根の上にあぐらをかき、一人安全な場所から()()()()としゃれ込んでいた。


【イデア学園】―――これまで名称だけを確認されており、その実在が確認できていなかった覚醒者集団。

その全貌を明らかにする為、この男はこれまでずっと、片洲の内部に潜伏し続けていたのだった。


そして―――ついに明らかになったその全容は、正に驚愕に値するものだった。


現在位置から目視できるだけでも、50名以上。

これが氷山の一角だとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる。


そして、そのほぼ全てが十代前後の少年少女だ。(一部の例外は居るようだが)


つまり―――思想的に染まっておらず、()()()()()()()()()()力を持つ集団が、人知れず何処かに潜伏している、という事だ。

それは、明らかに看過できない事態だった。


覚醒者を密かに管理し、社会の維持に貢献する真調のような人間にとって、未所属の覚醒者とは()()()()()()()()()である。

それが数十名、それも何の情報も無い状態で潜伏していたのだ。


明らかに、異常事態である。


幸いにして、その力量の程は、鍛えた常人に毛の生えた程度のものが多いようではある。

だが―――



「・・・っ!!?」



暗視装置の視界の中で、一人の青年が前触れもなく振り返った。


浅黒い、よく日に焼けた肌。

それとは対照的な、白目がちな瞳がこちらを真っすぐ、じっと覗き込んでくる。


―――明らかに、こちらのことを認識している動きであった。


()()、と背筋を冷や汗が伝い落ちる。

それ感じながら、微動だにできずレンズ越しに睨み合う、二名。


やがて興味を失ったのか、青年は視線を外すと再び、海上の怪物へと向き直った。

()()、と人知れずため息が漏れる。



「―――ふぅ。いやはや、怖いですねぇ・・・キヒヒヒヒ!」



無意識のうちに早まっていた鼓動を落ち着かせながら、観察を再開する。


暗視装置越しに、少年少女へと無遠慮な視線をぶつけていくが―――

幸いにして、青年の他に真調の存在に気付いた者は居ないようだ。


ふうむ、と片手で顎をさすりつつ、男は思案する。



(どれも()()ですねェ・・・。さしずめ玉石混合、といった所ですか。しかし中にはああいう、明らかに()()()()()のも居る、と)



この世ならざるモノを見抜く『()()』を通し、真調は若者達の力量を見定めていた。

これが、『既知概念凌駕実(キチ)体究明・対策室(タイ)』という組織において、真調が重宝される理由の一つである。


―――人間を含め、全ての生命体はある日突然、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


いわゆる変化、化生、あるいは―――『()()()』。

そう呼ばれるモノは、大なり小なり物理法則を超えた力を有し、時として世を乱し、大いなる混乱を招く。


故に、世界各国の政府はどれも、秘密裏に覚醒者を管理し、その力を有効活用する為の組織を有しているのだ。


長年、世界の裏側を目にしてきた真調は、これまでに数多の覚醒者達と直に接してきた。

その目から見ても、先程の青年は相当の使い手だと言える。


ふと、自らが属する組織―――

『既知対』の中で、かの青年に抗しうる者がどれだけ居るかが気になった。



()()()()()のようなベテランならいざ知らず。尻の青いヒヨッ子では少々、荷が重いかも知れませんねぇ。・・・あぁ、そうそう」



今回の『()()』でもお世話になっている、重鎮中の重鎮の名を上げた後、伝統的呪術師や、宗教家に属する若者達の顔を思い浮かべる。

血気ばかりが先立ち、肝心の実力が追い付いていない彼等では、【イデア学園】の若者達相手でも不覚を取る可能性すらあるだろう。


そこで一つ、真調は背後を振り返ると、どこか楽し気な調子で再び口を開いた。



「―――貴女なら、先程の青年相手でもチャンス位はあるかも知れませんねぇ?」


「・・・?」



振り返った先には、瓦屋根の上に()()()()と腰かけた、小柄な少女の姿があった。


歳は18・9といった所に見える。

うつむき加減の姿勢のせいか、その目元は()()()()に乱れた前髪に隠れてしまっている。


どこか印象の薄い、影法師のような少女であった。


シンプルなシャツとジーンズの上下は以前、真調が買い与えたものだ。

そして、そのほっそりとした手には不釣り合いな、()()()()()()()()()()が握られていた。


―――その刃先には、軽く拭われはているが、()()()()()()()が点々とこびり付いている。


先日。

宿泊中の部屋へ踏み入ってきた、『深泥(ミドロ)族』達を斬り付け、撃退した際の名残である。


あの時、真調達4名以外には誰も居ないように見えたが、()()()()()()()()()()()()()()()()

そこまで思い返した時、真調は不可思議なある事実に思い当たり、一人首を傾げた。



「貴女―――()()()()()()()()()()()?」


「・・・・・・」



ぽつり、と零されたその一言に、少女は無言のままぼんやりと首を傾げた。

両者の間に、束の間、静寂が満たされる。


沸き上がる疑問に顔をしかめる真調。

その脳裏に、初めて彼女を目にした過去の光景が去来する―――




  ・  ◇  □  ◆  ・




―――()()()()()()()()()()


曰く―――

高名な呪術師の家に尋ねれば、年若い使用人に出迎えられる。


案内された先でその素性を訪ねれば、主人はこう答えるのだという。

「ああ、その者はそれがしの()である」―――と。


驚いて振り返ってみれば、使()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()

果たしてそれは、幻か、否か。


その正体は陰陽師が操るという、鬼神、もののけの類―――式神。


本来は肉体を持たぬ、術者の意のままとなる存在である―――と。

()()()本にはそう、伝えられている。


()()()()()()()()()()()()


ただの使用人、ただの鳥獣、ただの虫けらが引き起こす、一見、不可思議な出来事。

それを、さも()()()()()()かのようにうそぶき、人をけむに巻く。


その為の方便であり、迷信に陥りやすい人の性質を物語る存在。

式神とはごく一部の『()()』を除き、霊妙なる力など欠片も無い、有象無象ばかりがその実態であった。


だが―――()()()()()()()


土御門という家がある。

平安時代の陰陽師、安倍晴明に端を発すると言われる、呪術師の名家。


彼等は世の権力に寄り添い、その類稀なる呪力を以て、子々孫々に至るまで活躍を続けてきたという。

その権威が没落したのは後年、維新の熱に世がうかされた幕末のこと。


そして―――明治維新。

陰陽寮は解体され、その余波を受けて数多くの家が没落し、歴史の闇に姿を消した。


その渦中に―――真調は居合わせていた。


政府の再編と並行し、日本各地に散らばっていた覚醒者達を一本化する。

表の歴史から隠されて進むその過程に、この男は大きく関わっていたのである。


数多の霊能者、呪術者の中から『本物』を選び抜き、拾い上げるのが彼の役割だった。

そんな中、真調が立ち寄ったのは土御門家の傍流を名乗る、旧い家だった。


―――曰く、その家には()()()宿()()という。

―――曰く、その家では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という。


その正体は―――()()()()()()()()()()という、奇妙な異能を発現した一人の女であった。


ある日を境に、霞が如き曖昧な存在となった女。

彼女はそれまでと同様に家に属し、()()()()()()()()()


彼女は家と共に生き、暮らし、家の敵となるものを密かに始末してきた。

符に記された標的に放たれ、人知れず命を奪う一本の嚆矢。


それが式神の名で呼ばれ、人としての名を持たぬ少女の人生であった。

そんな彼女を、真調の『浄眼』はおぼろげながらに視認することができたのである。


―――それ以来。


彼女は各地を渡り歩く真調の側に、専属のボディーガードとして寄り添うようになった。

家に憑いた式神は、一個人を守護する懐刀として、第二の生を得る事となったのである。




  ・  ◇  □  ◆  ・




そして今。



「ふむぅ・・・」


「・・・?」



暗視装置を側に置くと、真調は少女の姿をしたモノの前に屈み込み、()()()()とその顔を眺めていた。

目が二つに鼻口が一つずつ、いたって普通の人間の顔だ。


しかし、これまで視認できなかったものが、今、こうして目の前にある。

真調は妙な感慨と共に、飽きもせず少女の姿の観察を続けた。


―――男が持つ『浄眼』は、唯一、少女の姿を見ることができる。


だが、見えると言っても、()()()()()()()()()()()()()()が見える程度ではある。

それがどんな姿形をしているか、朧げにしかわからないのだ。


その実態は恐ろしげな山姥の姿か、それとも傾国の美姫か。

色々と想像した事もかつてはあったが、最近はそんな事もすっかり少なくなっていた。


そして今、改めて見れば、いたって普通の少女である。


覚醒と同時に肉体年齢が停止したのか、自分と同程度には年嵩である筈の女は、未だ幼げな外見のままだった。

ほっそりとした体つきは華奢で、いささか陰気である他は特に普通の女の子である。


荒れ放題の前髪の間から、感情の乏しい瞳が()()とこちらを見返してくる。

それを正面から受け止めると、()()、と男はひとつ頷いてみせた。



「・・・こうして見ると結構、カワイイんですねぇ。貴女」


「・・・・・・?」



キヒヒヒヒ、と奇妙な笑い声を上げる男。

()()()()と瞬きをすると、式神少女はもう一度、不思議そうに首を傾げるのであった―――



今週はここまで。

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