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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
187/343

∥005-65 救出、暗転、第二幕へ

#前回のあらすじ:



[泥艮(ディゴン)視点]



『居ナイ―――』



見上げるような巨体を窮屈そうに屈めて、粗末なアパルトメントの中を覗き込む。

職員用宅地一帯は()()と鎮まり返るっており、夜間という状況を差っ引いても、人の気配というものが全く感じられない。


ここは山間に存在する、ゴミ処理施設の敷地内。

先程の戦いが繰り広げられた、玄関口の辺りからは幾分離れた一角にあたる。


職員向けの住居が集まるこの辺りには、巨人―――

『泥艮』の目的となる()()が存在する筈であった。


しかし、灯りの落とされた建物はもぬけの殻。


巨人の()()―――

すなはち、同胞である『深泥(ミドロ)族』はここには居ない。


では、同胞たちは何処へ行ったのだろうか?

低く唸りを上げ、怪物は思考する。


居るとすれば、この敷地内の()()()であろう。

これまでの経験から、それは恐らく間違いない。


そもそも、『泥艮』がこの地に姿を表した目的は、片洲(カタス)の地下―――

片洲深都(カタスシント)より姿を消した、同胞たちを探し出し、故郷へと連れ帰る事である。


()()の治療の為、金銭を必要としていた同胞達は何者かに言葉巧みに誘い出され、この地に半ば監禁されて働かされているのだ。

そして、()()()の正体はこの施設の長であり、郷の(はぐ)れ者でもある人物。


―――つまり、かつての同胞である。


今は袂を分かったとはいえ、一時は共に郷で過ごした者。

それだけに、一族の者を拐せばどうなるかは、相手も承知の上なのであろう。


これまで、幾度となく同胞を取り返しに来た『深泥族』に対し、施設側は同胞達の隠し場所を変え抵抗していた。

対する『深泥族』も、手分けしてそれを見つけ出し、両者の争いはイタチごっこの様相を呈している。


今回もまた、やるべき事は変わらない。

『母』(ゲンゲ)の情報によれば、先んじて施設内部へ侵入した別動隊が、地下から同胞の居場所を探る手筈になっていた。



「・・・!」「―――!!」



―――遠方より、人の気配と複数の靴音が近づいてくる。

こちらの居場所は、既にバレているという事であろう。


巨人はいつでも走り出せるよう身を深く沈め、その『()』を待った。

そして―――



『アレハ―――!』



遠目に見える建物の一つに、不規則にオレンジ色の灯りが明滅する。

それをじっと見つめると、次の瞬間には地を蹴り、移動を始める巨人。


地響きを上げて、高層ビルにも匹敵する質量が疾走する。


敷石を砕き、道端の並木をへし折り、大地を踏みしめなおも進む。

遅れてその姿に気づき、周囲より銃火の雨が降り注ぐが―――


それを意に介さず、ある一点を目指し、『泥艮』はひた走るのであった。




  ・  ◇  □  ◆  ・




[深泥族視点]



施設長の必殺兵器(メーサー砲)が敗れ、同胞を求め巨人が敷地内を疾走していたその頃。


時を同じくして、敷地内に無数に存在する建屋の一室へ、()()()一団が集められていた。

薄暗い室内に居並ぶのは、作業着に身を包んだ20代~40代の男女たち。


その誰もが、施設が存在するこの地方特有の奇形―――

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・といった、奇妙な特徴を備えていた。


それはかつて、海底の都に暮らし、奇病に見舞われた同胞を救うため、地上へと進出した者達―――

『深泥族』の面々である。


この場に居るのは一様に、地上における『深泥族』の拠点へと集った後、()()()人物の手引きによって行方をくらませていた者達であった。

彼等は、施設長の使者から良い働き口があると聞かされ、秘かにこの地へと集められていたのである。


そして、彼等を待っていたのは施設での労働と、半ば軟禁状態での生活だった。


―――山間にあるこの施設は、日本各地の原発から放射性廃棄物を集め、秘密裏に処理することを目的に存在する。

地層処分など、然るべき処置をされるべき『()()()()()』を、人知れず海底へと投棄する為だ。


本来であれば、高レベル核廃棄物の処分には、莫大な費用が必要となる。

()()()()()()()()()()()()を例に挙げるのならば、ガラス固化体とTRU廃棄物の処分費だけでも約四兆円(2020年度計)が必要となる程だ。


それを―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


地層処分を、海洋投棄へ。

莫大な予算を、輸送費と加工費―――そして人件費へと。


両者の()()()は巨額の富を生み出し、それは利権と化して政府各所へと伝播し、組織を腐敗させた。

典型的な、公金横領の構図である。


―――その中において、『深泥族』達が担ったのは、放射性廃棄物の加工役としての役割だ。


海洋投棄、と一口に言っても、実際には幾つかの段階がある。

そのままでは膨大な量となる廃棄物の()()を減らす為、焼却、あるいは固形化を経て、捨てやすいよう加工をする必要があるのだ。


当然、作業者は()()()()()()()()()()


たとえ、全身を防護服で覆っていたとしても、それを透過して細胞組織を侵す放射線を、完全に遮断することは不可能だからだ。

それ故に、放射線に関する作業に従事する者には、許容される()()()()が存在する。


定められた限度を超えた労働は、そもそも許可されていないのだ。

(現実世界では関係法令において、5年間につき100mSv、1年で50mSvまで)


無論、この施設は()()()()()()()()()である。

公共の施設のように、一般的な基準がそのまま適用されることは、無い。


だがしかし―――労働者に放射能被爆が多発したとあっては、流石にそれを隠しきれなくなる。

イリーガルな世界だけに、摘発を受ける可能性の()は、可能な限り除去されるのだ。


かつて『()()』が発足した当初。

いわゆる()()()()―――暴力団の息が掛かった業者が、人足の都合を担当していたという。


しかし、前述の問題によって頓挫。

立ち行かなくなってしまった『()()』を嗅ぎ付け現れたのが、現在の施設長(孫六)である。


元々、彼は産業廃棄物を無断で山野へ置き去りにするような、極めて黒に近いグレーゾーンの仕事に手を染めていたらしい。

その伝手を使い、『()()』を存続させる為の基盤作り、そしてそれを回す為の車輪となる、働き手を何処からか連れてきたのだ。


永遠の時を生きるとさえ言われる生命力、それ故に放射線に強い耐性を持ち、潰れることなく使い続けられる労働力。

公的に戸籍が無く、切実に収入を必要としている者達―――


つまり彼等、『深泥族』である。


結果として―――『()()』を治療する為の資金を、その元凶となった施設で稼ぐという()()が発生してしまった。

その事を、当の『深泥族』達はまだ知らない。


そして今。


一族の者達は所属する班の上司から指示され、施設の一室へと集っていた。

無論、それは『泥艮』の目から、彼等を隠す為の()便()である。


部屋の周囲には小銃で武装した保安兵達が巡回し、『深泥族』が逃げ出さないよう常に目を光らせている。


正に、万全の防衛体制。

たとえ『泥艮』が来ようとも、迎え撃てるだけの準備は整えられていた筈であった。


だが―――



『迎エニ、来タ』


『オオ…』


『我等ガ神、偉大ナル祖タル霊ヨ―――』



地響きのような声が、おごそかに闇の中から降り注ぐ。

部屋の四方を覆っていた壁は一面が()()()()と削り取られ、剥き出しとなったその奥からは爛々と輝く、二つの()()()()()が覗き込んでいた。


人身魚頭の巨神―――『泥艮』である。


一方。

部屋の中へと目を向けると、床の上には昏倒した保安兵達が()()()と横たわっている。


その側には、『深泥族』の若者達が片膝をついてかしずき、闇の中から覗き込む()()へ祈りを捧げていた。

彼等は一族の暫定的な指導者―――玄華(ゲンゲ)に率いられ、施設地下より突入した別動隊である。


彼等の身体には、幾所にも銃創が残され、赤い血潮を滴らせていた。

向けられた銃口にも怯まず、勇敢に突撃した勲章である。


気絶した保安兵と、崩れた壁の外に垣間見える、巨大な瞳とを順に見ると、囚われの同胞たちはためらいがちに口を開いた。



『大イナル霊ヨ、来訪ヲ歓迎シマス。シカシ、我々ニハ仕事ガ・・・』


『モウ、良イノダ』



半ば強制的な労働を課せられても、なおも仕事を続けようとする同胞。

彼等に向け、地響きのような声が優しく語り掛ける。



『地上ヘ出タミドロハ、スベテ引キ上ゲサセル。我等(ミドロ)ハ常ニ、故郷トトモニ在ルベキダッタノダ。地上ニ、我等ノ安息ハ無イ・・・』


『シカシ、郷ヲ蝕ム()()ハドウスルノデス?』


『―――ドレダケ姿ガ変ワロウトモ、我等ノ心ハ郷ト共ニ在ル』



穏やかな、青白い光を放つ瞳に、部屋中からの視線が集う。


生来の性として変化を厭い、閉鎖的な生活を送ってきた『深泥族』達。

彼等の心に今、去来するのは懐かしき故郷の光景であった。


人知れず、誰もが大粒の涙を零していた。


必要に駆られ、地上へと進出した彼等。

しかし、急激な環境の変化は表面からは見えない所で、その心を密かに蝕んでいたのだ。


それは、密かに重くのしかかっていたストレス故か。

それとも、祖霊自ら語り掛けた言葉に心を強く動かされたのか。


無言のまま立ち上がると、囚われの『深泥族』達は巨人の前へと集った。



(カエ)ロウ』


『故郷ノ地ヘ、暖カキ深キ泥ノ底ヘト―――』



口々にそうつぶやくと、取り払われた壁の外に差し出された、巨大な掌へと次々と乗り込んでゆく。

そうして最後の一人が地上に降り立ったところを見届けると、巨人は何かに気付いたように天を仰いだ。


――――()()()



『・・・ルオォォオオオオオオオオ!!!』


『アレハ・・・』


『龍!?』



突如、上空に立ち込める黒雲。


かと思えば、そこから数条の稲光と共に、()()()()()()()()()()漆黒の龍が舞い降りてきた。

それは、蛇のような長い胴体を、巨大な顎にたなびく髭を、頭上には節くれだった短い角を備えていた。


屏風絵に見るような、東洋風の龍そのものの姿が、まっすぐ『泥艮』目掛け突き進んでくる。



『大イナル霊ヨ・・・!』


『手出シハ無用、オ前達ハ海ヲ目指セ―――!!』


『ルォォオオオオオオ!!!』



振って沸いたような異常事態に、慌てた様子で『深泥族』の戦士たちが巨人の下へ駆け寄ろうとする。

しかし、それを制止するように掌を突き出すと、巨人は空中より襲い掛かる敵に対し、素早い動きで掴みかかろうとした。


―――が、それを読んでいたのか、長い身体をくねらせると逆に腕へと絡みつき、墨龍はそのまま巨人の身体を締め上げてしまった。



『疾イ―――!?』


『ルゥ・・・オォオオオオオオオ!!!』



そして、天を仰ぎ一声吠えると、雲を纏った龍は『泥艮』の巨体ごと、上空高く飛び立つのであった―――


今週はここまで。

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