∥005-60 誘導放出マイクロ波収束投射砲、出撃!
#前回のあらすじ:ばかな・・・ロケランが効かないだと!?
[孫六視点]
「急げ!何時までモタモタしている!!」
「は・・・はいっ!」
保安兵達が決死の戦いを続ける一方。
施設の内部では、また違った騒動が起きていた。
正門へ直通の道路上を、幾人もの職員達が慌ただしく行き交っている。
その列の中心にて、仁王立ちになりながら大声を張り上げているのは、先程、正門前から姿を消した施設長―――孫六だった。
彼の声に追い立てられるようにして、職員達がで押しているのは、極太のケーブルを中心に巻いた、木製のドラムだ。
送電ケーブル含め、相当の重量があるであろうそれを、大柄な職員二人がかりで少しづつ転がしてゆく。
その様子を、明らかに苛立った様子で孫六は見守りつつ、時折我慢できずに銅鑼のような声で怒鳴り散らしていた。
ドラムの足元に垂らされたケーブルの先は、コンクリートの上をのたうつようにして、施設の奥へと伸びている。
更に先へと、ケーブルが伸びる先を追ってみれば、その先端は施設の脇に設けられた、小型の変電施設へと接続されていた。
「オーライ、オーライ、そこまで!」
「~~~~っ!つ、疲れた・・・」
「よく頑張ったな、後は任せろ!」
そして、ようやく目的の場所へ到達すると、疲労困憊になった男達は思わず道路の上にへたり込んでしまう。
別の職員達がその肩をぽんと叩くと、苦労して運んできたケーブルドラムの下へとストッパーを噛ませた。
別の場所へ視点を移してみれば、同じようなドラムが施設内の各所より、同じ地点を目指し運ばれている最中であった。
しかめっ面の孫六の前で、てきぱきとした手際で何らかの準備が進められてゆく。
そして―――徳用の送電ケーブルが目指す先には、一台の大型トラックが停められていた。
トラックの荷台は後部扉が開かれ、その奥からは先程運ばれたものとはまた別の、極太送電ケーブルが伸びている。
それを手にケーブルドラムの下へと駆け寄った職員は、ケーブルの先端をドラムの側面にある、特大コンセント口へと差し込んだ。
がちゃりと音を立て、送電ケーブルとコンセント口の接続が固くロックされる。
同様にして、施設中から集った送電ケーブルが、二つ、三つ、と、トラックと敷地内に点在する変電施設との間を連結してゆく。
一本だけで、相当量の電力を送電できるであろうケーブルが、合計3つ。
それだけのエネルギーを必要とする『何か』が、トラックの荷台でじっと息を潜めていた。
「―――準備、OKです!!」
「そうか。(ザザッ)―――おい!儂だ、こっちまでゆっくりと後退しろ・・・。彼奴を、門の正面まで引き込むんですよ!」
『り・・・了解っ!(ザザッ)』
ケーブルの接続を行っていた職員が、大きく両手で『〇』を作り、作業完了のサインを出す。
それを目にした孫六は、だぼだぼのズボンのポケットから無線機を取り出し、スイッチを入れると何事かを呟いた。
僅かなノイズの混じった男の声が無線機から聞こえた後、孫六はひしゃげた正門を睨みつけたまま、じっと何かを待つ。
―――やがて、自動小銃の上げる乾いた音が近づいてくる。
それに続き、ボディアーマーに身を包んだ男達が、開きっぱなしの正門から次々と飛び込んできた。
彼等は敷地内に入ると、左右へ散会した後に振り返り、再び銃を構える。
そして、残骸となった正門越しに、視界の奥に広がる闇の中に向かって撃ち始めた。
断続的に閃くマズルフラッシュが紅く、闇夜を切り裂いてゆく。
一早く、敷地内にたどり着いた友軍に援護される形で、残る兵達も次々と敷地内へと戻って来つつある。
そして、最後の保安兵が正門をくぐると―――
後を追うようにして、そいつは闇の中からゆっくりと姿を表した。
「『泥艮』・・・!」
遠目に見える小山のような巨体に、職員達の間から誰ともなく呟きが漏れる。
孫六はその雄姿を睨みつけると、トラックの荷台に配した職員に向け、目配せで合図を送った。
「いいぞ、起動させろ・・・。彼奴に気付かれんよう、ゆっくりとだ・・・!」
「了解―――!」
一度、大きく頷くと、孫六に命じられた職員は後部扉から、荷台の内部へと姿を消す。
―――発砲音に紛れ、低くうなる駆動音がトラックの荷台より漏れ聞こえ始めた。
密かに準備が進む、施設長の策から目を逸らす為、保安兵達による一斉射撃が始まる。
間断なく鉛玉の雨が巨人の肌を撫でる一方。
送電ケーブルが接続されたトラックには、また新たな変化が現れ始めていた。
荷台を覆うコンテナの側部が持ち上がり、ゆっくりと鳥が片翼を広げるようにして開いてゆく。
そうして、露になった荷台には―――奇怪な物体が据え付けられていた。
それは一見、通信用のパラボラアンテナと酷似していた。
アンテナと異なるのは、横に倒された円錐状の部分の根本に、ゴテゴテとした大型の機械が繋がっている所だ。
無数のパイプと、ケーブルが接続された物体は、不気味に唸りを上げ全身を震わせている。
そして、機械の足元には、先程荷台に消えた職員がしゃがみ込み、計器と睨めっこしながら何やら作業を続けていた。
機械の側面に配された計器類には灯りが点され、目まぐるしく針を震わせている。
鋼鉄の塊はごうごうと唸りを上げ、少しづつ内部に秘めたエネルギーを高まらせていた。
「最後の成形炸薬弾だ、喰らえ―――!!」
『・・・!』
一方。
トラックの向こうでは保安兵の一人が、残り最後となったロケット弾頭を巨人に向け、撃ち放っていた。
噴煙をたなびかせ、厚い鋼鉄版をも貫く殺意の塊が怪物へと迫る。
しかし、巨体に見合わぬ身のこなしで、横っ飛びにステップした『泥艮』により、空を切った弾頭は背後のスギ林へと突っ込み、盛大に爆炎を上げる。
既に何度も見られていることもあり、対戦車榴弾の軌道は怪物によって完全に読まれていた。
銃は効かない、切り札も当たらず、今ので完全に弾切れだ。
理不尽の塊と言うべき存在を前にして、絶望的な気分のまま兵達はなおも銃撃を続ける。
(やはり、駄目なのか?今回も我々は為す術なく、この怪物に蹂躙されるしか無いのか―――?)
兵達の間に諦めの空気が漂い始めた、その時。
聞き慣れた銅鑼声が響き、周囲の視線が一斉に声の元へと集まった。
「ぐわっははははは!待たせたな!!今日こそ貴様の命日ですよ、化物ぉ!!」
「システムオールグリーン・・・撃てます!」
「貴様のために旧満州から取り寄せた、とっておきの最新兵器だ・・・。これまでのお礼に、嫌と言う程くれてやるわ!!」
視線の先、トラックの荷台には何時の間にか、リフトによって持ち上げられ、パラボラアンテナのお化けが姿を表していた。
施設中の電力をかき集めた異形の機械は、内臓するエネルギーにうち震え、高熱を放ち、甲高く唸りを上げている。
腹肉でパンパンになった作業着を震わせ、施設長がびしっ、と巨人を真っすぐに指差した。
それに応じ、これまで機械の下で額に汗を浮かべ作業を進めていた職員は、計器盤の傍らに据え付けられた、発射レバーを力強く引くのだった。
発射の瞬間、電気系統に掛かった負荷により、ぶつんと施設中の照明が落ちる。
「誘導放出マイクロ波収束投射砲―――発射!!」
「死ねぇ!!!」
―――そこからの数秒間は、まさに一瞬であった。
ゆっくりと流れる時間の中、巨人は己に向けられた物体に、得体の知れない脅威を感じ取る。
ロケット推進弾にそうしたように、その射線上から退避しようとする『泥艮』。
巧みな重心移動により、その巨体からは考えられぬ程の速度で跳躍に入るが―――
射線上に重なる右腕上部が、みるみるうちに黒ずみ、炭化し、虫食い穴のように欠け落ちてゆく様子が視界に入り、巨人は驚愕の表情を浮かべる。
直後。
全身を貫く灼けるような激痛に、怪物は凄まじい雄叫びを上げるのだった―――
今週はここまで。




