∥001-18 反撃開始!(敵が)
#前回のあらすじ:しんぐは なかまをよんだ!
[エリザベス視点]
「あと少し・・・っ!!」
あと少しで、眼前の巨人を討伐できる。
そう意気込み、エリザベスは愛鞭を握る右手へありったけの【神力】を込める。
陽炎を纏い灼熱化した鞭は囚われの巨人を更に締め上げ、じりじりとその巨体を焼き焦がしていた。
あれだけ暴れまわったコイツもとうとう観念したのか、今ではろくな抵抗も示さない。
(勝った―――!)
令嬢は密かに勝利を確信する。
それと、足元から警戒を促す叫びが上がったのは、ほぼ同時の出来事であった。
少女は怪訝な表情を浮かべる。
全方位から?
何かが来るですって?
そんなバカな。
そう一笑に付したくなる気持ちを押さえつけ、少女はちらりと周囲へ視線を飛ばす。
その先にて、きらりと鈍く光を放つ『もの』が視界に入り―――エリザベスは思わず己の目を疑った。
四方八方、あらゆる方向に何時の間にか、渦巻く菫色のゲートが生じている。
そこから飛び出してくるのは、先刻自分達が片付けたのと同じ『UFO型シング』どもだった。
ここへ来て、まさかの敵の増援。
しかし、歴戦の【神候補】である彼女にとって、今更円盤の十や二十が追加されたところでものの数ではない。
だが―――
「か・・・数が多すぎでございます!?」
問題は、その物量であった。
視界に映るだけでも、数百を下らない群れ。
それだけではなく、渦の向こう側からは追加のUFO達がなおも続々と、尽きる事無く吐き出され続けていた。
それら全てが―――エリザベス達の下へと殺到した!
「この・・・ッッ!!?」
反射的に巨人の拘束を解く。
戻した鞭を再び振るうと、黒褐色の暴風が通り抜けた跡には、砕けたUFO達が残した破片が四散していた。
すぐにそれは菫色の燐光となり、空中に溶けるように消える。
―――が、すぐに空白地帯となった空間は追加の敵群によって埋め尽くされていた。
先程以上の大群が、更に勢いを増して肉薄する。
あっという間に、鈍色の輝きで埋め尽くされる視界。
しかし、愛用の鞭を振り切り、エリザベスは今、正に死に体となっていた。
万事休す―――
被弾を覚悟し、令嬢はぎゅっと固く眼を瞑った。
「間に合って・・・【猫女神の盾】!!」
「(にゃおん)」
「えっ・・・!?」
一方。
犬養の言葉にいち早く反応していたマルヤムは、UFO達の動きを予測しあらかじめ先手を打っていた。
素早く宙に指を走らせ、その軌跡を追うように壁画猫が宙を走る。
『ネフェルティティ』は空中へ彫刻の楯を続々と生成し、銀色の群れが向かう先々でそれを堰き止めた。
エリザベスの眼前にまで迫った一群もまた、進行方向を反らされ火花を散らしてあらぬ方向へと飛び去ってゆく。
友人の声に再び目を開いた少女は、目の前に浮遊する猫のレリーフで彩られた盾を目にし、思わず驚きの声を上げた。
「あ、ありがとうマルヤ―――」
『LILILILILILILI!!!』
「きゃああっ!!?」
「・・・!?」
その時突如、幾度となく耳にした笛の音のような咆哮が響いた。
衝撃波を伴って到来した声の大本へ視線を向けると、満身創痍の巨人は菫色のオーラを纏い、頭上になおも立ち塞がっている。
先程、迎撃に使ったせいで鞭による拘束は既に解けていた。
その全身から放たれるかつてないプレッシャーに、その場の全員が緊張に顔をしかめる。
「全員っ・・・来ますわよ!!!」
「LII!ILILI?LILILILI!LIL!!LLLL!!!!」
再度の絶叫。
途切れ途切れに大気を震わせる轟音を皮切りに、巨人を中心にかつてない規模のゲートが開く。
ぐるぐると渦巻く菫色の光は激しく歪み、振動し、世界のくびきを断ち切って彼方よりの来訪者を招いた。
―――スコールの如き勢いで、大小無数の円盤が降り注ぐ!
それは鈍い輝きを放ち、怒涛の勢いで味方陣地へと殺到した。
これまでにない絶望感を伴って、数千単位の空飛ぶ円盤が迫りくる。
その光景、まさに雲霞の如く。
無論―――エリザベス達もまた、無策でそれに臨んだ訳ではなかった。
「ぼ、墨鯨招来!墨鯨招来!あうううう・・・!い、幾ら倒しても倒してもキリが無いでございますぅぅ・・・!」
「こん・・・のおおおおッ!!冗談じゃありませんわよっ!こんな所で!負けてなんてやるもんですかーーー!!!」
漆黒の巨体を持つ鯨が、大口を開けてごうごうとUFOの群れを吸い込んでゆく。
空を泳ぎバキュームのように鈍色の群れを喰らう巨鯨は、胃袋を満たすまで敵郡を処理するとぱしゃりと泡のように弾け、跡形も無く消え去ってしまった。
抄子はすぐさま次の鯨を描いて空へ放つが、敵はそれを上回る勢いで殺到してくる。
正直キリが無い。
その惨状についに泣きが入った友人をよそに、エリザベスは打ち漏らしの円盤を次々と迎撃し続けていた。
【神力】を高め、爆発的に上昇した身体能力を以て獲物を振りかぶる。
その動きは既に音速を超え、衝撃波を伴った鞭打ちは自陣に近づいたUFOを瞬時に撃ち落していった。
永遠にも思える時間、発狂せんばかりの勢いで到来する敵郡を、負けじと歯を食いしばり迎撃し続ける。
このやりとりは何時まで続く?
―――いつまで続けられる?
抄子の戦闘スタイルは万能型であるが故に、消費が激しく継戦能力に欠ける。
彼女がガス欠を起こすまでに、この状況を打破する一手を打たねば―――負ける。
ぞわり、と背筋に這い上がる危機感に、人知れずぎりりと歯がみした瞬間。
背後で別方向からの敵を処理していた西郷が、唐突に野太い笑い声を上げた。
「うわっはははは!皆、大した気概ばい!!女子にしておくのは勿体なかと!」
「・・・こんな時に冗談言ってる場合ですの!?」
「本気も本気。これはおいどんも負けてられんでごわす!・・・行たっど、ツン!!」
「わんわんっ!」
若干涙目になりつつも縦横無尽に鞭を振るうエリザベスに触発されたのか、西郷は白い歯を見せ破顔するとひらりと宙に躍り出た。
それに、彼の【神使】である柴犬のツンも続く。
何事か、と周囲からの視線が集う先にて、一人と一匹は動きをシンクロさせ、空中にて猛烈に回転を始めた。
「これがおい等の奥の手よ!【合・双天破裏犬】ーーーっっっ!!!」
「う・・・わおおおーーーーんっ!!」
「・・・!!??」
それは風を呼び、渦を巻き、轟音を伴いて二つの竜巻と化す。
あっという間に、その場に敵軍を呑み込む巨大な竜巻が出現していた。
人犬合一の大技、【合・双天破裏犬】と名付けられたそれは瞬く間に、周囲を埋め尽くしていた鈍色の群れを平らげてしまった。
あんまりにも唐突すぎる展開に、エリザベス達は思わず手を止め、ぽかんと頭上で荒れ狂う嵐を見上げる。
それはもう凄いを通り越して、完全にギャグの領域であった。
しかし威力だけは見た目通りにあったのが、なおタチが悪い。
自陣を圧し潰しつつあった弾幕は西郷の奥の手により粉みじんに打ち砕かれ、一人と一匹は勢いのままに【霧の巨人】本体へと接触した―――!!
※2023/11/13 文章改定