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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
179/342

∥005-57 決裂、そして―――

#前回のあらすじ:オカマさんは元女



[マル視点]



「・・・長くなっちゃったけれど、アタクシの話はこれでお終いよぉん。ここまで付き合せちゃって、悪かったわねぇ」


「いやいや・・・。こちらこそ、辛いことまで話してもらって、申し訳ありませんでした」



・・・過去数十年にも渡る、『深泥(ミドロ)族』達の過去。


それを語り終えたナマズ顔の人物―――

玄華(ゲンゲ)は、帽子を取って()()()とした頭部を晒すと、()()()と深く頭を下げた。


それを両手を振って制止すると、ぼくもまた彼(彼女)に合わせてお辞儀をする。



「・・・貴重なお話しを聞かせて頂けたお陰で、私の決意は更に強まりました。玄華さん。そして、この場に集った『深泥族』の皆さん。改めてお願いします。私に―――貴方がたの手伝いを、させて貰えませんか?」


「手伝う?・・・人間の、アナタが?」


「ええ。・・・申し遅れましたが、私は犬養(いぬかい)。未来の日ノ本を背負って立つ、そう心に定めた、一介の志士です。此度の一件は全て、私の同族がしでかした過ちに端を発しています。皆様も御存じの、()()施設。そこから生み出される利権、そして―――それに群がる有象無象のハイエナ共。同じ人間として、彼等の所業は看過できかねます。・・・日本男児として!一人の人間として!是非とも私に、貴方がたの助力を―――!」


()()()()


「―――はっ?」



胸に手を当て、熱っぽい調子で真摯な眼差しで語る犬養青年。


内に秘めた想いを込め、『深泥族』達への協力を申し出る彼の姿は、まるで一枚の絵画のようだ。

どこか崇高な気持ちでその光景を見つめていたぼくは、スーツ姿の人物より予想外の反応が飛び出したところで、思わず間の抜けた声を上げてしまった。


そして―――

たった今、申し出を断られた彼もまた、信じられないものを見るような表情を浮かべていた。


ぼくも気持ちは同じだ。

一体、なぜ?


たった今聞いた言葉の意味が飲み込めず、混乱の極致にいるぼく。

一方、先に呆然自失の状態から立ち直った青年が、ためらいがちに口を開く。



「っ・・・。理由を、お聞きしても?」


「一言で言うなら、()()()()のよぉ。ワタクシ達は端から、一族の皆で故郷へ帰ることしか望んでないの。でも―――それも、今夜でおしまい。姿を消した同胞はもうすぐ、全て集まるわぁ。今更アナタ達に出来る事なんて、何もないのよぉ」


「そんな!?じゃあ何で、ぼく達に事情を話したりしたんですか・・・?」」


「どうしてかしらねぇ。強いて言うなら・・・。()()()()()()()()()()()()()()、かしら」



そう言うと、彼(彼女)はふっと口元を歪めた。


相変わらず、表情のわからないナマズ顔だが―――

ぼくにはそれが何処か、やるせない、泣き笑いの顔のように見えたのだ。


見えない痛みを堪えるようにかぶりを振り、犬養青年は再び口を開く。



「理解できません。放射能に汚染され、死病のはびこる地と化した故郷に何故、そうまでして固執するのですか・・・!?」


()()()()()、よ。生まれ育った地が、何時の日か帰るべき場所があるからこそ、ワタクシ達ミドロは団結できるの。―――野呂(ノロ)


『オォ―――ッ!()ヨ!!』


「!?」



轟、と地響きのように、隠し入り江より雄叫びが立ち昇った。

それに呼応するかのようにして、それまで事態を静観していた『深泥族』達がやにわに騒がしくなる。


()()()、とぼく達を取り囲んでいた包囲が動き、狭まるそれに追い立てられるようにして、ぼくらは一方向へと追いやられてしまった。

―――洞窟の奥へと。



「母、だと・・・!?」


「ゲンゲさん!まさか、あの巨人(ディゴン)は―――」


「可愛い可愛い、()()()()()()()()()()()()よぉ。放射能に蝕まれ変貌を遂げたのは、()()()()()()()()という事。―――地上へお帰りなさぁい。未来ある子供達は、こんな処に居ちゃダメ。お姉さんとの約束よぉん?」


『ゲッ!ゲッ』『ギャア!ギャアア!』



彼(彼女)の言葉に、ぼくは()()となって水際へと視線を走らせる。

揺れるライトの光に照らされ、一瞬だけ浮かび上がった魚頭の巨人は、確かに眼前の人物の面影が感じられた。


両者には、同じ血が流れている。

そう言われてみれば、確かに納得せざるを得なかった。


僅かな間、入り江に佇む巨人を見つめていたぼく。

だがすぐに、『深泥族』の群れに後ろから追い立てられ、逃げるようにして洞窟の奥へと押し込まれてしまった。


小山のような泥艮の姿が次第に小さくなる中、石牢から慌てた様子のダミ声が上がる。



「お、おい―――貴様等ァ!おれをこのまま置いて行く気か!?」


「残念だけれど、貴方はもうちょっとお留守番よぉ?下手に放逐して、邪魔でもされたら敵わないし・・・。何より―――今、不用意に外に出すのは、ちょっと不味いような気がするのよねぇ」


「な、なに!?そりゃ一体どういう了見・・・お、おい!待て!行くな!!こら―――」



少しづつ上に傾斜する、岩だらけの道を走る中。

背後から、慌てた様子の男の声が追いかけてくる。


ぼくは立ち止まって背後を振り返ろうとする―――が、すぐ後ろには興奮した様子の『深泥族』達が、()()()()()()と喚きながら迫りつつあった。

慌てて正面へと振り返り、追いつかれないようスピードを上げる。


さっきの玄華の様子からして、仮に追いつかれたとしても酷い目には遭わない気がするが・・・。

もし万が一、生田目(ギョロ目)と同じ牢屋にでも入れられたら()だ。


仕方なしに、洞窟の奥へ奥へと走り続けるぼく達。

その後ろ姿を見送ると、スーツ姿の人物は()()()ときびすを返し、闇の奥へと姿を消すのであった―――



今週はここまで。

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