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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
173/343

∥005-51 語られる真実 上

#前回のあらすじ:オカマさんの昔語り、開始。



[マル視点]



「そっちのお二人には一度名乗ったけれど、アタクシの名前は()()()。ただの()()()よ。『玄華孫六』(ゲンゲマゴロク)っていうのは―――そうね、地上で暮らす為に名乗っている、便宜上の名、といった所かしらん?」


「そーだったの?」


「そうなのよぉ。勿論それだけじゃなくて、この名を名乗ること自体に、()()()()()も存在するのだけれど・・・」



スーツ姿の異相の男は、のっぺりとした頭部に()()()()と載せていた帽子を取り、うやうやしくお辞儀をして見せた。

彼の名乗りにぼくは慌てて目礼で応じると、今しがたの発言に感じた疑問に首を捻る。



「目的って、一体・・・?」


「あくまで、個人的な事情よぉ。ボウヤ、レディの秘密をあまり知ろうとしちゃダメよん?」


「あっ、はい」



ぼくの質問に対し、はぐらかす調子で答える玄華。

空気を読んで引いたぼくにこくりと一つ頷くと、男は再び口を開いた。



「・・・まあ、脱線はこのくらいにしておきましょうか。それで本題なんだけれど、アナタ達。『ミドロ』(アタクシたち)については、どの程度知っているのかしらん?」


「・・・遥かな昔よりこの地に棲んでいて、幼少期は地上にて、年経てよりは海中に入りて暮らす。そういった種族であると聞いています。そして―――寿命を持たず、極めて強靭な生命力を持つ、とも」



居住まいを正し、改めて質問を放つスーツ姿の男。

それに応じたのは彼の対面に立つ、犬養(いぬかい)青年であった。


ゆっくりと頷くと、どこか愉し気に(表情は全く読めないままだが)男は続ける。



「大体合ってるわねぇ。ついでに付け足すのなら、急激な変化を嫌い、閉鎖的で保守的。人間の事は割とどうでもいいと思っている、()()()()()()()()()―――って所かしらん?」


「ム、ムチャクチャ言ってますね・・・」


「ギョフフフフ、事実よぉん?」



()()()()と肩を震わせると、口の端をニヤリと持ち上げる玄華。

身内ならではの容赦のないその品評に、ぼくたちは頬を掻きつつ苦笑を浮かべて見せる。


しかしすぐに笑いを収めると、再び男は語り始めた。



「・・・そういう訳で、アタクシ達は平穏な生活が大好きなの。来る日も来る日も続く、静かで代り映えのない日々。―――それに変化が現れたのは、こちらで言う40年くらい前のことだったかしらねぇ」


「変化、って?」


「『ミドロ』の郷は海の底。静寂と泥がが満ちる、深き水底の(まち)よん。そこには潮流によって、色々なモノが流れつくの。皆はそれを持ち帰って、家の建材や様々な道具を作る資材として利用していたわぁ。時が過ぎ、時代が遷り変わるにつれて、流れ着くモノも次第に様変わりしていくの。木片、陶器のかけら、元の形がなんだったかわからないような金属製のガラクタ。そして―――()()()()()()()()()


「―――っ!!」



()()、と誰かが息を飲む音が聞こえた。


これまで、状況証拠によって導き出した推察に過ぎなかった、海洋投棄された核のゴミが『深泥(ミドロ)族』の故郷を汚染したという、疑念。

それに対し、ついに決定的な証言が出てきてしまった。


無意識のうちに強張った声が、ぽつりと漏れる。



()()()()()()()・・・」


「―――そうね。地上から流れ着いた品々の中には、使用済み核燃料のような危険なものが混ざっていた。でも当時、誰もそれが()であると気付かなかったのよぉ。無知って、怖いわよねぇ」



―――チェレンコフ光。

あるいはチェレンコフ放射と呼ばれる現象は、主に、放射性物質が引き起こすものとして知られている。


地上から流れ着いたという廃棄物がそれを放つという事は、それが投棄された放射性廃棄物であることを示す、何よりの証左だ。

暗闇をほんのりと照らす青白い光は、そこに潜む、恐るべき『毒』の存在証明となるのだ。


・・・男の述懐は続く。



「『光る筒』を最初、郷の者達は警戒したのだけれど。好奇心の強い若いコは、それを持ち帰って飾ったりしていたわぁ。でも、少し経つと筒が流れ着く事も無くなっていって、多くのミドロ達は普段通りの日常へと戻っていったの。・・・でも、またある日、同じようなモノが流れ着くようになったのよぉ」


「・・・例の施設が稼働を始めたのが、丁度その頃でしょうか。ゲンゲさん、それまでに『深泥族』の間で、不調を訴えるような方は出なかったのですか?」


「初めの頃は、ね」



ゆっくりとかぶりを振ると、玄華は小さくため息をつく。


―――彼の証言によって点と点が繋がり、ようやく事件の背景がおぼろげに見え始めていた。

やはり、件の施設と『深泥族』がこの地に移動してきたことは関連していたようだ。


しかし、だとすれば、先程彼が口にした「()()()()()()()()」とは、一体何を意味するのだろうか?



「でもね。時が流れるうちに、段々と()()()()()を訴える者が郷に増え始めたのよぉ。『ミドロ』は基本的に病に(かか)らないから、初めは誰も、それが()()だとわからなかったわぁ。目に見えない不安と焦燥が、じわじわと郷に広がり始めていた。病に倒れるミドロは一人、また一人と増えていき―――。・・・たったひとりの家族、アタクシのベイビーちゃんも・・・」


「ナマズのおっちゃん・・・」



閉じることのない瞳で遠くを見つめながら、スーツ姿の男はしばしの間、じっと黙り込む。

どう声をかけてよいかわからず、互いに顔を見合わせるぼく達。


彼が今思い浮かべるのは、犠牲となった我が子の事だろうか?



「・・・また脱線しちゃったわ。トシを取ると無駄話が増えちゃって、嫌ぁね」


「仕方ないですよ。他ならぬ、自分のお子さんの事なんですから・・・」



ためらいがちに掛けた声に小さくかぶりを振ると、男は再びこちらへと向き直る。

その目元には、かすかだが光るものが垣間見えたような気がした。



「優しいコ。でも大丈夫、大丈夫よぉ。アタクシの中でも、ベイビーちゃんの事は一応、割り切ってるもの」



そう言って、くすりと笑って見せる玄華。


今はそれよりも、話を続けましょうか、と言った後。

海底の民の昔語りは、再び開始されるのであった―――



今週はここまで。

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