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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
172/342

∥005-50 異色の対談

#前回のあらすじ:バックアタックだ!!



[マル視点]



()()()()()()()()()()()()()―――だったかしらん?ギョフフフフ。じゃあ一体、何の為にこんな処にまで来たのかしらねぇ、アナタ達は」


「そ、それは・・・っ」



スーツ姿の怪人物が低く笑う。


ナマズめいたユーモラスな様相の彼だが、左右に『深泥(ミドロ)族』を引きつれた今の姿は迫力十分だ。

その()に、思わずたじろいだぼくが一歩後ずさると、たくましい掌が背中を優しく受け止めてくれた。


視線を上げると、そこには真っすぐなまなざしでぼくを見下ろす、短髪の青年の姿があった。



犬養(いぬかい)さん・・・」



視線だけでぼくの呼びかけに応じると、犬養青年はひとつ頷いた後に前へと向き直る。

そして良く通る声で、高らかに宣言するのだった。



「―――何故か、と問うのであればこう答えましょう。悲劇を未然に防ぐ!その架け橋となる為である、と!」


「ふぅん?」



闇に閉ざされた空洞に朗々と響き渡るその声に、今度は周囲を取り囲む『深泥族』の間に動揺が走る。

小さく上がるざわめきに、()()()()と楽し気になだらかな肩を震わせると、ナマズ顔の男は再び口を開くのだった。



「正面から堂々と乗り込んできた割には、随分と大人しい事言うのねぇ?アタクシてっきり、()()()が寄越した刺客かと思ったわよん」


「・・・古旦那。」



犬養青年と玄華(ゲンゲ)、二人は互いに一歩進み出て、真正面から向かい合う。


青年は目の前の人物が零した一言に、小さく「政府が、では無いのか・・・」と呟いた。

しかし、そのまま何事もなかったかのように会話を再会する。



「重ねて申し上げますが、我々に交戦の意思はありません。ですが火急の用故、可能な限り早く貴方がたと情報を共有したいのです。この地に―――()()()()()()()()()()()


「危機、ですって?」


「詳しく説明します。事の発端は―――」



真剣な表情を浮かべ、身振り手振りを交え説明を始める犬養青年。

それを、いまいち表情の読めない様子のまま、男は黙ったまま聞いている。


その様子を、後ろからハラハラしつつ見守る僕たち。

両者の話し合いは、こうして始まりを見せたのだった―――




  ・  ◆  ■  ◇  ・




「―――事情はわかったわぁ」



30分余りに及ぶ会談の末。

ゆっくりと頷いたスーツ姿の男の様子に、犬養青年がほっとした表情を浮かべる。


 山間の施設が排出する廃棄物が、海底に位置する『深泥族』の都を汚染していると思われる事。

 何者かによる襲撃を受けた件の施設は、国が所有する『表向き存在しない』施設である事。

 そして―――国は事態の隠蔽の為、『深泥族』の殲滅を企んでいるであろう事。


―――その全てを。


溢れんばかりの情感と、ありったけの熱意を込め、語りつくす。

最後に、小さく息を吐きだした青年は、額の端に汗をきらめかせつつ、会心の手応えを感じていた。


ぼくらを取り囲む『深泥族』達も、一段と大きな声でざわめきを上げている。

それは戸惑いからか、それとも、その内容に衝撃を受けたからか。


後ろで、それをただ聞いていたぼくでさえも、熱に当てられたように身体が熱い。


日ノ本の将来を担う者としての、その片鱗。

それをまざまざと見せつけられ、ぼくは改めて、目の前の青年の凄さを今更ながらに実感していた。


一方。


対談の相手であるスーツ姿の男は、先程言葉を発したきり―――

不気味な沈黙を保っていた。



「感謝します。それでは、我々と共に避難を―――」


「折角の申し出だけれど、それはお断りするわぁ」



にこやかに微笑み、『深泥族』を逃がすための話し合いを始めようとする青年。

しかし、それに対する答えは否定の一言であった。


静かにかぶりを振る男に、周囲から驚愕の視線が集う。



「えっ・・・?」


「どうして!?」



好感触を得ていただけあってか、犬養青年が浮かべる表情には当惑の色が強い。

対するコート姿の男は、()()と何かを思い起こすように俯いたままだ。


何故、犬養青年の提案は断られたのか?

何故、男は滅びが迫る状況を前にして、差し伸べられた手を振り払ったのか?


その答え合わせをするかのように、彼は()()()()()()と語り始めた。



「―――こうして態々地の底に出向いてまで、事情を説明してくれたのは感謝してるわぁ。お陰で色々と、腑に落ちたもの。だけれど、ね。()()()()()()()()なのよぉ。アタクシ達が止まれない理由は・・・()()()


『同胞・・・』『我ラ・・・共ニアルベキ』


「・・・そうね、本当にそう」


「ナマズのおっちゃん・・・」



訥々(とつとつ)と続ける男に、周囲から上がるざわめきが応える。

相変わらずの無表情ながら、そこに隠し切れない悲しみのようなものを感じ取り、少女が()()()とつぶやきを漏らした。



「・・・折角だから、聞いて貰えるかしら。海の底から迷い出て、アタクシ達『ミドロ』が何故、こんな処に居るのか―――」



これより彼が語るのは、陽の当たる場所では語られぬ影の歴史。

海底の民が歩んだ苦難の年月が、今、明らかになる―――


今週はここまで。

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