∥001-17 オールレンジアタック!!
#前回のあらすじ:総攻撃開始!
[エリザベス視点]
『LILILILI!!LILI!LILILI!!!』
「くっ、この、馬鹿力・・・!!」
「牽制します!」
「おい等も合わせるばい!ツン!!」
「がうがうっ!!」
「【回天十字手裏犬】ーーーッ!!!」
『!?』
全身に絡みつく鞭を、巨体をよじり強引に引きちぎろうとする。
そんな【霧の巨人】の動きに対し、即座に周囲から牽制の一撃が飛んだ。
頭部にたかる墨絵の烏達を払いのけると、蜘蛛の子を散らすように散った烏の代わりに飛び込んできたのは西郷とツン、主従一体の一撃であった。
腹部をえぐるように突き刺さる肉弾、それに合わせ、四肢を縛る髭鞭が更に灼熱の炎を吹き上げる。
苦し気にもがく巨人の姿に、少女達はこれまでにない確かな手ごたえを感じていた。
―――勝てる。
さしもの巨人も、先程のクナイが破壊した内部が復元し切れておらず、身体の端々から菫色の粒子を煙のように吹き上げている。
不定形ながらも圧迫感のあった巨体も、僅かずつではあるが輪郭がぼやけ、存在自体が薄れてきたように感じられた。
このまま攻め続ければ、遠からず撃破することも可能であろう。
若き【神候補】達は互いにアイコンタクトを交わすと、なおも油断なく攻撃を続ける。
戦いの趨勢は、既に決しつつあった。
―――少なくとも、そう見えていた。
この時点までは。
「LILILILILILILIIIIIIILLLL!!!!???!??」
「み、耳が・・・!?」
「なんつー大音響でごわすかっ!」
空気を震わせ、笛の音のような断末魔が上がる。
全身を締め上げられ、灼かれ、引き裂かれ、内部より発破され、とうとう窮地に追い込まれた怪物。
この時まさに巨人は今際の際でもがき、絶命寸前の体であった。
「リズ、巨人の身体が・・・」
「スミレ色の粒子になって、溶けるように・・・?今度は再生することも無い、ようですわね・・・」
ゆっくりと、消滅を始める巨人の肉体。
それを油断なく取り巻く【神候補】達。
だが―――慎重を期していたが為にかえって、その『異変』に気付くのが遅れた。
末端から順に光のスペクトラムに変じ、崩壊を始めた巨人。
既にその体は大半が煙のように溶けて消え、出現時の半分以下にまでサイズダウンしていた。
一同の間に、安堵の息が人知れず漏れる。
【神候補】達はなおも油断なく拘束を続け、散発的に攻撃を加えながら敵の完全消滅を待ち続ける。
―――その中で唯一、『異変』に勘付いたのは犬養であった。
(これは・・・巨人から分離した粒子が残留して、周囲に―――?)
マルヤムよりさらに一歩引いた位置、バスの窓際から戦況を伺っていた犬養青年。
彼は周囲に浮かぶ半透明のパネルを通し、戦場をくまなく観察しながら事の推移を見守っていた。
そのうち一つに気になるものを見つけ、正面側へと移動させる。
四角く切り取られた景色の中でおぼろげながらに煌めくのは、巨人の身体から剥離した菫色の粒子であった。
更に視点を切り替えると、同じような光点はまばらに、バスを取り囲むようにして明滅している。
一見、星空のような美しい光景。
しかし、それに妙な胸騒ぎを感じ、青年は先程のパネルを注視し続ける。
そして―――粒子の周りの空間がぐにゃりと歪み、渦を巻いて揺らぎ始めたところを目にし、犬養は精悍な顔をひきつらせた。
「―――皆さんっ!!まだ終わってません・・・全方位から来ますよっっ!!!」
「「「「・・・!!!??」」」」
次の瞬間。
ひっそりと、しかし確実に戦場に広がりつつあったスミレ色の粒子から爆発的な閃光が放たれた。
渦を巻き、小さな振動と共に広がる光。
――その向こう側から、鈍色の光を放つ円盤が飛び出した!
※2023/11/05 文章改定
西郷どんの台詞はなんちゃって薩摩弁なので、「これ違うよ?」的なツッコミを貰っても直さないんでよろしく
(今後もこのキャラについてはこのスタンスです)