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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
165/343

∥005-43 車内にて

#前回のあらすじ:でぃすぱっち!



[マル視点]



「坊ちゃま、それとお友達の皆様。簡単ながら朝食を用意いたしました、お召し上がりください」



別荘の玄関より出発して、十分程経った頃。

車内のシートにて心地よい揺れに身を任せていたところ、運転席から落ち着いた雰囲気の声が上がり、そちらに目を向ける。


見れば、運転席の老執事―――保科(ほしな)さんが用意したのか、運転席と助手席の間に位置するプラスチックのボードに、二つのバスケットが置かれていた。

今も彼はハンドルを手にしたままだというのに、器用なものだ。


一早くそれに気付いた助手席の巨漢―――西郷(せご)どんが蓋を開ける。

中には、所せましとサンドイッチが詰め込まれていた。


バスケットの中を覗き込んだ面々から、思わず感嘆の息が漏れる。



「うむ、頂こう」


「ありがとう!うまい!」


「もう食べてる・・・。あ、頂きます」


「いただきまーす。おいしい!」



よく出来た家令を労う犬養(いぬかい)青年の言葉を皮切りに、皆が口々にお礼を言いつつサンドイッチを手に取っていく。

大ぶりのバスケットの一つは、瞬く間に空になってしまった。


ぼくもまた、用意してくれた執事さんに一言お礼を言いつつ、大口を開けてサンドイッチにかぶりつく。


薄切りのパンを何層にも重ねたその間には、ローストチキン、ベーコン、チーズ、シャキシャキのレタスに輪切りのトマト、ピクルスと、色とりどりの具が挟まれていた。

それらの味を、マヨネーズをベースとした酸味の利いたソースが一つにまとめている。


物凄く、美味しい。

思わずほっぺが落ちてしまいそうなくらいだ。


ぼくは一口頬張って目を丸くすると、ガツガツと残りを一気に食べきってしまった。

ごくりと呑み込むと、ほう、と恍惚としたため息が漏れる。



「・・・ふぅ、満足満足―――してなくも無い、かな?」



ボリューミーなサンドイッチだったが、一つ食べただけでは正直、まだ少し物足りない。

食べ切れるか微妙な所ではあるが、素晴らしい味もあり、出来ればもう一つくらいは貰いたいのが正直な所だった。


そんな魂胆を抱えながら、ぼくはもう一つのバスケットへちらりと視線を送るが―――

時すでに遅し。


バスケットは両方とも既に空になっていた。

あれだけあったサンドイッチの山は、全て乗客の胃袋へと消えた後だ。


おのれ。



「皆、そのままで聞いて欲しい」



もう一つくらい、あらかじめサンドイッチを確保しておくべきだった―――

そんな懺悔の念に囚われ悶えるぼくを尻目に、良く通る声が車内に響く。


視線を向けた先では、犬養青年が再び口を開くところだった。

乗客たちの視線が、彼の前へ一斉に集う。



「本日向かう目的地―――片洲(カタス)について。我々には政府による虐殺作戦阻止の為、先んじてかの町に潜む『深泥(ミドロ)族』達とコンタクトを取る必要がある。よって、最初の目的は彼等の潜伏場所を探る事となります」


「ねぇねぇ。それって、お家に訪ねていってお話しするんじゃダメなの?」


「―――ふむ」



授業でも受けているかのように、右手を勢いよく上げる(あずさ)

それに犬養青年は少し考えると、かぶりを振って答えた。



「それも一つの手段ではありますが・・・。やはり、確実に説得するのであれば、彼等の中心人物が居る場所へ直接、踏み込むことが望ましいでしょう」


「町の中にある家屋には、リーダーにあたる人は居ないって事ですか・・・?」


「うむ」



彼の言葉に、ぼくは昨日の夕方頃、梓と二人で歩いた町並みを思い起こす。

彼女の談では、点在する家屋の中から()()とぼくらを観察する『()()()』―――恐らくは潜伏している『深泥族』が居たという。


しかし、言われてみれば確かに、夜に目にした程の大人数が隠れるには、いささか建物の数が心許なかった。

犬養青年が再び口を開く。



「あの町は、敷地面積こそれなりですが、いかんせん家屋がまばらで、その数も然程多くは無い。とてもではないが、総数を収容するにはとても足りないでしょう。・・・私は何処か別に、『深泥族』の主となる潜伏先があると見ています」



彼はそう言うと、A4サイズのタブレット端末を取り出し、片洲周辺の地図を画面に呼び出しながら説明を続ける。

地図商には、家屋を示す四角いシンボルが道路沿いに点在してはいるが、確かに言う通り、その数は少ない。


ぼくと梓はそろって眉を八の字にしながら、液晶画面に映し出された地図と睨めっこを始める。

やがて、何かを思いついたように拳を()()と叩くと、後輩の少女は素っ頓狂な声を上げるのだった。



「ん~~む~~・・・。お魚のヒトが隠れる、場所?―――あ、そうだ!()()()!!」


「あーちゃん?何か気付いたの・・・?」


()()()()()だよ!海賊の財宝の隠し場所!!映画でやってた!」


「海賊・・・?梓君、それは一体どういう事かね?」



彼女が思わず叫んだのは、恐らく一昔前の楼蘭(ローランド)映画のタイトルだろう。

若干記憶があいまいだが、確か、悪ガキ軍団が倭寇(わこう)の財宝を巡って地元のギャング団と小競り合いを繰り広げ、その末に洞窟の奥にある隠し財宝を見つけ出す―――そんな内容だった筈だ。


当時としては結構なヒット作で、TVを点ければ頻繁にタイトルテーマが流れていた記憶がある。

とは言え、ぼく自身保育園にも通っていない頃の話なので、流石に内容までは朧げだ。


彼女はそんなぼくより更に一歳歳下なので、多分言っているのは、再放送のロードショーを見た時の事だろう。

そこまで考えを巡らせたところで、ぼくはようやく彼女が言わんとしているところを理解した。



「えっと―――。多分、()()()()()()()?みたいなものの事を言ってるんだと思います。『深泥族』は水棲種族だし、海と地上の両方から出入りできる、隠れ家みたいな地形ががあるなら、そこが本命の拠点になってるのかも。・・・って言うか、あの場所は元々、()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性も・・?」


「・・・なるほど。―――保科!」


「心得ております」



―――海食洞とは、波の浸食により細長い洞穴が形作られた地形のことを指す。

例の映画のクライマックスシーンで、隠し財宝が見つかる場所が、そういった海に面した洞穴の奥だった筈だ。


・・・いや、侵入口は地上側にあって、そこから進んだ洞窟の行き止まりの壁を崩すと、海に出られる仕掛けだったような?

なにはともあれ、要はそういう、地上からは見つけにくいが、海からは出入りが自由な―――そんな場所があるのではないか?という話である。


一方。

ぼくの拙い説明でも理解して貰えたのか、犬養青年はひとつ頷くと、運転席へ声を掛ける。



「・・・地理分野の7番資料をご覧下さい、坊ちゃま」


「ご苦労」



阿吽の呼吸で答えた老執事に頷くと、ボードの引出しからプラスチック製のケースを取り出す犬養青年。

ケースに収められていた小型記憶媒体のうち一つを抜き出すと、青年はタブレット端末のスロットにそれを素早く差し込む。


しばしデータの読み込みを挟んだ後、新たに表示された図に、その場の面々は食い入るようにして見入るのだった。



「これは、一体・・・?」


「国土地理院の調べた、海岸沿いの地形を網羅した資料です。その中でも片洲周辺に関するものは―――あった」



青年が指し示す地図上の一点に、車内からの視線が集う。

そこには、日本海に面した岸壁から細長く伸びた、海底洞窟の存在が示されていた。



「ここが恐らく―――『深泥族』の潜伏場所です」


今週はここまで。

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