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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
162/342

∥005-40 ネズミの穴

#前回のあらすじ:37564だってさ



[マル視点]



「バカな!そんな真似・・・許される筈がない!!」



ガタン。


隣から聞こえた物音に振り向くと、短髪の青年は立ち上がった姿勢のまま、()()()()と両手を震わせている。

深く眉間に皺が刻まれたその表情には、驚愕と嫌悪の色がありありと見て取れた。


その視線の先では、類人猿(チンパンジー)めいた貌が()()()()と得体の知れない笑みを浮かべている。


奴―――

真調(ましら)が先程放った言葉は、ぼくたちに対し『深泥(ミドロ)族』の殲滅を命じるものだった。


犬養(いぬかい)青年の反応はもっともだ。

そんな事、倫理面でも、労力面から見ても、到底出来る筈が無い。


それを、事も無げに言って見せる目の前の男の異様さに、ぼくはサウナルームの中にも関わらず、思わず()()()と怖気に震えるのだった。



「・・・ぼくも同感です。第一、向こうには山のような巨人(ディゴン)だって居るんですよ?敵うワケ無いじゃないですか」


「そうなんですかぁ?それは困りましたねぇ。ですが・・・()()()()()()()()()?」


「・・・どういうこと!?」



要求の理不尽さを訴えるぼくの言葉に対し、真調は小馬鹿にしたような調子で応じる。

少々()()()ときて語気を強めたこちらに向かい、男はヘラヘラとした笑みを貼り付けたまま、再び口を開いた。



()()()()はまだ、【イデア学園】の実態を知らないんですよぉ。()()には無理だとしても、それが出来うる人材はまだまだ、後に控えているかも知れないじゃ無いですかぁ?()()はお忘れみたいですがぁ・・・。()()()()()()()()。【イデア学園】の有する最大戦力を測ることも、その目的の内なんですよぉ」


「彼等の手を・・・無辜の血で、汚せと言うのか!!」



拳を強く握りしめ、鋭く真調を睨みつける犬養青年。

その様子にうっすらと口元を歪めると、男はゆっくりと言葉を続けるのだった。



やむを得ない犠牲(コラテラル・ダメージ)、というやつです。まぁ―――()()()()も無理に、とは言いません。やるもやらないもまた、自由ですからねぇ?ですがぁ・・・。()()()()がこの地に居ることの意味を今一度、よぉぉぉく考えてくださいねぇ?・・・キヒヒヒヒヒ!!」


「・・・?」



男はひとしきり語り終えた後、意味深に嗤う。

それに対し、ぼくは訝し気な視線を向けた。


―――ここまで一方的に喋っておいて、急にやらなくてもいいとは一体、どういうつもりなのだろうか?


乗り気でない様子だから、苦し紛れの出まかせを言ったのだろうか。

・・・にしては、妙に自信あり気だ。


その真意を測りかね、うーんと首を捻っていると、隣から()()、と肩をたたかれ、ぼくはそちらを振り返る。

短髪の青年が、玉のような汗が浮かぶ眉間に深い懊悩を浮かばせながら、こちらを見つめていた。



「恐らくだが―――彼はたとい、我々抜きであったとしても、目的遂行に十分なだけの戦力を持っているのだろう。彼は無傷のままあの町から脱出し、こうしてセキュリティを搔い潜り、我々の目の前に姿を現している。少なくとも、見た目通りの相手だとは考えない方が良い」


「犬養さん・・・」


「どうやら坊ちゃんの方は、()()()()についてそれなりに予備知識がある様子ですねぇ?いやぁ、感心、感心」



ぱちぱちぱち、とにこやかに手を叩く真調に対し、ニコリともせず犬養青年は応じる。

そして、彼が一旦言葉を切るやいなや、バン、と荒々しくサウナルームの入口を蹴破られた。


慌ただしく響く靴音に視線を微動だにせず、短髪の青年が続ける。



「えぇ。貴方の恐ろしさは、この場に居る誰よりも理解しているつもりです。だから―――こちらも十分な備えをさせて頂きました」


「へぇ?」


「うわぁ!急に入ってくるなんて一体誰―――銃!!?」



一方。

びっくりして振り返ったぼくの視線の先では、ボディアーマーに身を包んだ警備兵達が続々と室内になだれ込んでいた。


あっという間に室内へと展開し、黒光りする銃口を構える兵達。

いきなり現れた完全武装の兵達に、思わず両手を上げたまま固まるぼく。


赤外線照準の光が一斉に、真調の眉間を()()()と捉える。


赤い光線が全身を舐める中。

類人猿めいた男は冷や汗ひとつかかず、うっそりと微笑みを浮かべた。



「これはこれは―――ちっぽけな老人一人に、随分と御大層な()()ですねぇ?」


「本名不明、出身地不明。我が国に百年以上前からその足跡を残す、歴史の影の生き証人。貴方を捕縛するなら、この程度の戦力では心許ないくらいですよ」



犬養青年が送るハンドサインに併せて、兵達がじわりと歩みを進める。

どうやら、彼等は犬養青年が用意した戦力らしい。


直立不動の姿勢のまま、ぼくが固唾を飲んで見守る前で、犬養青年は無機質な声で真調へと語り掛ける。



「―――貴方には、色々と聞きたいことがあります」


「そうですかぁ。ですが残念ながら、()()()()の方にはもう、何も話す事が無いんですよぉ」


「それを決めるのは我々です、黙って付いてきてください。―――丁重にお連れしろ」


「ハッ!」



主の命を受け、真調に向けて手を伸ばす兵達。


しかし、その手が届くより前。

顔を上げた奴の表情に―――その場の全員が、思わず立ちすくんでいた。



「眼が青く、光って・・・!?」


「―――()()か!」


「残念ながら、ここで捕まる訳には行きませんので。―――お暇させて貰いますよ」



男の双眸に、青白い光が宿る。

異様な光景に一瞬、周囲を取り囲む兵達の中に動揺が走った。


その隙を見逃さないとばかりに、くるりと背後を向くと―――

男は()()()と軽く飛び上がると、()()()()()()()()()()()()()



「「!!!??」」



声にならない呻きがサウナルームに満ちる。


束の間、呆気に取られていた面々であったが、すぐに我に返ると真調の居た所へと駆け寄った。

何の変哲もない壁を前に、呆然と立ち尽くす兵達。


やがて、ぽつりと漏れ出た一言が、表面に細かい水滴の浮いたスギ板に吸い込まれていった。



「・・・逃げられた、か」



真調が姿を消した場所には、通れそうな穴や隠し扉など、脱出に使えそうなものは何一つ見当たらなかった。

こうしてぼくたちは、まんまと奴に逃げられたのだった―――


今週はここまで。

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