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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
160/342

∥005-38 道化の語る『真実』

#前回のあらすじ:なんでここに真調が!?



[マル視点]



()()()()が本日お伺いしたのはですねぇ、耳寄りな情報を()()達にお伝えしたいと思ったからなんですよぉ」


「耳寄りな情報、だと・・・!?」


「『深泥(ミドロ)族』の目的と、おデブの施設長さんの正体について。今なら出血大サービスで・・・お教えしちゃいますよぉ?」



―――そんなやりとりを交わした後。


痩せぎすの中年男―――真調(ましら)は、今もサウナルームの片隅からぼくらをうっそりと見つめながら、ニタニタと猫のような笑顔を浮かべている。

一方、それに対峙する、ぼくこと丸海人(マルカイト)犬養剛史(いぬかいつよし)の両名は、不良中年のニヤケ顔とは対照的に、揃って顔がひきつっていた。


現在位置は、犬養家所有の別荘内部。

その離れに位置する、大浴場の一角である。


うだるような熱気の立ち込める、小ぢんまりとしたサウナルームの入口は、今もなおぴったりと閉じられたままだ。


―――先程、ぼくと犬養青年が入室した時以来。

そこは一度も開かれていなかった筈である。


にも関わらず―――この奇妙な男は、忽然とこの場に姿を現していた。

招かれざる闖入者の真意を図るように、短髪の青年はその顔を覗き込みながら口を開く。



「マル君達以外の来客を、招いたつもりなど私には無かったのですがね?」


「そうですかぁ?それは知りませんでしたぁ。()()()()、お呼びじゃ無かったですかねぇ・・・キヒヒヒヒ!」


「よ、よくも抜け抜けと・・・!」



何が楽しいのか、犬養青年の鋭い視線で射すくめられた中年男は、カエルの面に小便、といった表情で()()()()と肩を震わせている。

そのままひとしきり笑い声を上げると、ぴたりと笑いを潜め、奴は()()()と、幽鬼のように呟くのだった。



「・・・では、本題に入りましょうか。()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ」


「―――なにっ!?」


「犬養さん?転化者って、一体・・・?」


「・・・一言で表すならば、【深きもの(ディープワン)】へと変化した人間のことです」


「うぇえっ!?」



出し抜けに男の口から呟かれたその一言に、犬養青年は、思わずといった様子で立ち上がっていた。

その背中にためらいがちに声を掛けると、彼はぽつりとそれに答える。


その意味するところを理解すると同時に、ぼくは思わず素っ頓狂な叫びを上げていた。



「それって・・・。施設長が、人間じゃないって事!?」


「えぇそうです。彼の経歴・・・調べても調べても、何も出てこなかったでしょう?氏名も戸籍も、全部()()()()。それもそのはず、後から間に合わせで用意された、作り物だからなんですよ。・・・()()()()()()()()()()()()ですよ、彼」


「そんな・・・」



答え合わせをするかのように、ぼくが呟いた内容に真調が注釈を入れる。

件の施設に居た、施設長を名乗る男。


やたらと深海魚系の顔つきをしているかと思えば、本当に【深きもの】のお仲間であったらしい。

信じられない、といった表情で愕然とするぼくに、犬養青年はそれが事実である証左を語るのだった。



「古今東西を問わず、世界各地には人魚―――水棲の知的生命体に関する伝承は存在します。その背景にある存在こそが【深きもの】なのですよ」


「マーメイドとか、昔の日本の人魚だとか?」


「ええ、そうです。他の幻想種と同様、彼等にまつわる伝承には異種婚―――人魚を娶る、夫婦として子をなす、といった内容のものが散見されます。それは単に、ヒトと【深きもの】が交雑するという意味に限りません。ヒトが彼等へと変貌し、共に水底にて暮らすという例も、歴史上、僅かながら存在するのですよ」


「それって・・・。インスマスの事件であったみたいな、先祖返りとは違うの?」


「違います」



犬養青年による説明に、ぼくは首を傾げて沸き上がった疑問をぶつける。

過去のアメリカ東海岸で起きた、件の怪事件に関する書籍にあった、多数の人間が【深きもの】へと変貌した事例を思い出したからだ。


それを否定すると、犬養青年は更に驚愕の事実を語るのだった。



八百比丘尼(やおびくに)を始めとして、人魚の肉は不老不死の効力を有する、そんな伝承が存在します。それは、ヒトが【深きもの】の()寿()()()()()()()()()()()の存在を示しているのですよ。―――無論、単に肉を喰らうのではありません。互いの精気(オド)霊力(マナ)を交換し合う、儀式魔術に近いものだと私は聞いています」


「儀式、魔術。・・・そういえば、霊的な変化が肉体に影響を及ぼすことがあるって、ヘレンちゃんから聞いたっけ」



狼男(ワーウルフ)の存在は遺伝子学上ありえないが、霊的な視点であれば、狼男は実在しうる。

確か、そんな内容だった筈だ。


昔話の魔女よろしく、人を豚や鳥に変えるように、【深きもの】へ変化させる魔法が存在するのかもしれない。

そんなふうに解釈すれば、今の荒唐無稽な話も、不思議にすとんと肚のうちに収まるのであった。


そんなぼくらの様子に眼を細め、猿めいた顔の中年男がうそぶく。



「互いの解釈が一致したようで何よりです。話を戻しますが・・・。あの施設長は元『深泥族』です。当然ながら、片洲(カタス)の裏に潜む異種族の存在と、海の彼方にある、彼等の都のことも知っていました。片や、『深泥族』は片洲の山間の施設を目の敵にして、夜な夜な襲撃を繰り返しているそうです。・・・おやおやぁ?この二つ、()()()()()()()とは思いませんかぁ・・・?」


「そんな・・・、関係ったって―――」



ぼくたちの会話が一段落したところを見計らったようにして、真調が声を潜めて囁く。

その様子を訝しみながらも、二人して首を捻るぼくたち。


この男は一体、何のつもりでこんな情報を与えるのだろうか?

非常に怪しいが―――今はひとまず、これまでに知り得た内容を、改めて整理してみよう。


【深きもの】の一氏族である、『深泥族』が潜む町、片洲。

その遥か沖には、水棲種族の都市である『深泥都邑』(みどろとゆう)が存在するという。


一方。


片洲の山間に位置するゴミ処理施設では、密かに周辺地域の原発から放射性廃棄物を集めては、海へと投棄しているという。

その施設の長には、元・『深泥族』の男が収まっている。


これらの情報から、導き出されるの答えは―――?



「・・・・・・あっ」


「マル君・・・?」



気付いた。

・・・気付いて、しまった。


それぞれ、単体では関連性の見えない点と点が結ばれ、事件の全体像がおぼろげながらに浮かび上がる。


だがしかし。

()()()()()()()()()()―――()()()()()()()()()()



「何てこった・・・」


「どうかしたのかね?先程から顔色が優れないようだが・・・」


「え、ええ。ぼくは大丈夫です。でも・・・なんてこった。これじゃまるで、()()()()()()()()()じゃないか!」


「・・・」



顔面蒼白となり、小さく叫びを上げたぼくの様子に気付き、心配そうに声を掛ける犬養青年。

それに首を振って大丈夫だと答えると、ぼくは混乱する思考を纏めるようにして、ぽつりぽつりと語り始めた。



「ぼくたちは―――この事件について、前提から間違って認識していたのかも知れません」



今週はここまで。

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