∥001-16 焦燥、挟撃、大爆発!
#前回のあらすじ:西郷どん参戦ッッ!!
[エリザベス視点]
『LILILILILILI!!!』
「ぐわっはははは!!」
「わおーんっ!」
「鬼さんコチラ、手の鳴る方ネ!」
笛の音のような怪物の声が、周囲に鋭く響く。
それは、威嚇のようでもあり、己の狩りを邪魔する羽虫どもに募らせる、怒りの咆哮のようでもあった。
一方、鈍く輝く巨人の周囲を、翻弄するように素早く交差しながら人影が飛び回っている。
二人と一匹、それぞれの影はランダムに動き回りながら牽制の一撃を放ち続けている。
巨人はその動きに対応し切れず、先程から伸び縮みする腕を振り回すばかりで一向に彼等を捕まえられずにいた。
令嬢達の攻撃もまた、面白いようにクリーンヒットしている。
銀色のボディへと吸い込まれた攻撃は、少しづつではあるが着実にダメージを蓄積させていた。
つい数刻前、エリザベス達三人で戦っていた時とは大違いだ。
(私が、あの子を助けなきゃならないですのに―――!)
気付けば、ぎり、と人知れず歯がみしている。
そんな自分に気付くと同時に、さっと赤く染まった頬を周知に隠すようにうつむくエリザベス。
灼けつくような焦燥感が、胸を満たす。
何かに急かされるようにして、少女は鞭を握る手を幾度となく閃かせる。
―――が、その動きは普段の彼女を知る者から見れば、明らかに精彩を欠いていた。
「リズ、・・・リズ」
「何ですの!?私、今忙しいんですの!何かお話でしたら、後に・・・」
「リズ!・・・落ち着いて、わたしを見て」
「―――マルヤムが、声を!?」
聞き慣れた声が上げた小さな叫びに、思わず振り返る。
普段、滅多に声を荒げない小さな友人。
エリザベスの袖を引く小さな手の先には、心配するように揺れる黒曜の瞳があった。
ぽつりぽつりと諭すように、少女はエリザベスへ語り掛ける。
「大丈夫、焦らないで。普段通りのあなたなら、必ず勝てる相手だから。・・・今はゆっくり息を吸って、吐いて」
「すぅ・・・はぁ。―――普段通りにやれば、勝てる。本当ですの?」
「ばっちり、わたしが保証する」
無表情のままサムズアップするローブ姿の少女に、エリザベスは思わず小さく噴き出す。
友人の変調を察し、急遽駆け付けたマルヤム。
エリザベスの顔に、普段通りの自信と余裕が戻ったことを確かめると、彼女はそっと微笑むのだった。
「・・・事情はあると思う。けど、乗客達の命と天秤には掛けられない。いつも通り戦って、守って、勝つ。それだけ」
「―――ですわね!」
「お、お二人とも~~?そろそろ戻ってきて欲しいのですけどぉ~~~。・・・あ、ああっ!?」
一方。
戦線離脱した二人の穴を埋める為、抄子は孤軍奮闘を続けていた。
休むことなく大筆を動かし、空中に多彩な獣達を描き出してゆく。
精緻な筆跡で描き出されたそれらは、完成と同時に実体化すると宙を駆け、上空に控える巨人へ向かい殺到する。
まとめてそれを腕の一振りで薙ぎ払うと、巨人は一瞬、その巨体を屈めてから、両腕を振り上げ胴体から落下を始めた。
所謂、フライングボディプレスの体勢。
万歳のようなポーズで一直線に地表を目指す巨体、その周囲にはオーロラのように菫色の輝きが生じていた。
「―――ついに痺れば切らしたか!」
「くっ・・・何としても止めるのよ!!」
「やってます、けど・・・!あのオーラに攻撃が弾かれて―――」
放射状に広がる光のカーテンは、殺到する攻撃を捻じ曲げ、弾き、銀色のボディに到達することを阻んでいた。
仲間達による懸命の抵抗を嘲笑うかの如く、巨人は一直線に落下を続ける。
目指す先は―――バスの車体中央。
あと十数Mの所にまで迫り、その場の誰もが息を呑んだその瞬間。
何処からともなく飛来した褐色の彗星が、菫色のオーラを引き裂き、巨人の胴体へと突き刺さった。
「あ、あれは・・・!?」
「高杉どん!!」
「アチョーっ!ムエタイ奥義・・・真○飛び膝蹴りネ!!!」
間一髪の状況下で現れた救い主。
それは逞しい肉体を惜しげも無く晒したムエタイ戦士であった。
インパクトの衝撃で少し浮いた巨人の身体を、更に追い打ちのハイキックで逆に上空へとかち上げる。
ほんの一瞬だが、その巨体は完全に無防備となっていた。
千載一遇の好機に、マルヤムから鋭く指示が飛ぶ。
「【ネフェルティティ】、皆を導いて―――!!」
『(にゃおーん)』
「恩に着ますわ、マルヤム!抄子、合わせますわよ!【Flexible ――」
「合点承知でございます!【墨狼――」
「――Crimson...Whip】!!」「――招来】!!」
浅黄色の少女が命じ、巨人の許目掛け壁画の小猫が一直線に駆け上る。
その足跡は瞬く間に【石灰岩の回廊】へと変じ、敵の喉元へと通じる直通路が開通した。
天の階を駆けのぼりつつ、真紅の令嬢は掌中の愛鞭へ【神力】を集中させる。
幾筋にも分かれ、陽炎を纏い、変則的な軌道を描き放たれる必殺の鞭打。
その周囲を、苅安色の令嬢が描いた漆黒の狼群が駆け抜けてゆく。
ダウン状態の銀の巨人は、防御態勢を取る暇も無く令嬢達の集中攻撃を受けるハメとなった。
【髭鞭サイクラノーシュ】が巨人の全身に巻き付き、締め上げつつ各部をその熱量にて炎上させる。
更には微動だにできなくなった巨体を駆け上がりつつ、墨絵の狼達がその身体を引き裂き、喰らい付き、全身を激しく震わせ食い千切ってゆく。
―――周囲に、笛の音のような巨人の悲鳴が木霊した。
「―――好機!!不動明王ば加護ぞあれ・・・【紅蓮棒手裏犬】----っっっ!!!」
「わおおーーんんっ!!」
今まで攪乱に徹していた西郷とツンも、令嬢達に続く。
巨漢の少年より放たれるは、数条の赤光。
【神使】であるツンもそれに倣い、全身のバネを使い口に咥えた棒手裏剣――いわゆる『苦無』――を投げ放つ。
【霧の巨人】の全身にたかる狼達を避けるように突き立ったそれは、またたく間に柄の先から火柱を放ち、ギュルギュルと回転しながら巨人の体内へともぐり込んでゆく。
霧状の物質で構成されたボディが周囲へと飛び散り、再び巨人の苦悶が鳴り響いた。
その様子に口角を上げた西郷が印を組むと、苦無がもぐり込んだ箇所が爆発的に膨張を始める。
「不動明王爆呪―――爆ぜろ!!」
直後、赤熱した膨張箇所はくぐもった轟音を上げ弾け飛び、それと同時に巨人が上げる絶叫が、再び周囲に響き渡るのであった―――
※2023/10/30 文章改定




