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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
152/344

∥005-30 魔宴

#前回のあらすじ:でっっっっか!!



[マル視点]



―――悪夢のような光景だった。


天には渦巻く鈍色の雲。

群れ成し泳ぐ魚群が見せる腹のように、複雑な模様を見せながらあっという間に変化し、東の空へ向かって流れてゆく。


天からは滝のような大雨。

間断なく降り注ぐ降雨は時折強風に煽られ、白く波しぶきのように塊となって、繰り返し打ち寄せてくる。


厚い雨のカーテンによって遮られ、視界に映る景色は濃霧の中のように()()()()と、全てが不確かなままだ。

眼を細めて空を仰げば、そこにはまん丸い()が二つ、冷たい光を湛えてぼくらを見下ろしていた。


―――否。


()()()()()()()()()()()()()

本物の月は、天を埋め尽くす暗雲の向こう、遥か空の彼方だ。


故に、断じて月などではない。


それは―――

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


路面に降ろされた片手から、頭上に位置する眼の高さまで。

目算で少なくとも、3階~4階建てのビルと同程度はあるように見える。


しかし、折からの視界の悪さもあり、巨大生物の全容は杳として知れないままだ。


流れる雲を背景として、稜線のように黒く伸びる怪物の輪郭。

それこそ全身を含めれば、途方もないサイズがありそうだった。


地球最大の動物とされるシロナガスクジラで、平均して全長22Mほど。

古代の地球にまで範囲を広げれば、60M(推定)もの巨体を持つ恐竜が、この世には実在していたとされる。


しかし―――

目の前のこいつは、その()()()()()()()


指の間に()()()()()()()、閉じることのない瞳、ごつごつと突起物に覆われた岩のような皮膚。

闇に閉ざされた視界の中、辛うじて見える情報を拾い集めただけでも、そのフォルムには間違いなく見覚えがあった。


この町の住人、【深きもの】(ディープワン)と同じ。

つまり―――()()()だ。



泥艮(デイゴン)ヨ! 泥艮(デイゴン)ヨ! 泥艮(デイゴン)ヨ!!』



周囲でそろって天を仰ぎ、奇妙な合唱を続ける【深きもの】達。

それに呼応するかのように、巨大生物の―――


否、()()のシルエットが闇の中動きを見せた。


一旦、力を溜めるようにして全身を低く沈み込ませる。

次の瞬間、バネのように空中へ飛び上がると―――アスファルトの上へ途方もない()()が降ってきた。



「きゃああああ!!」


「うわーーーーっ!!?」



轟音。


先程とは比べ物にならぬほどの衝撃、巻き起こる突風。

着地点を中心として、路面はクレーター状に深く陥没し、それに留まらず周囲へ向かって幾筋も深い亀裂が刻まれていた。


悲鳴を上げる梓を離さぬよう、ほっそりとした指先をしっかりと握りしめたまま、ぼくらは爆風に煽られそろって路面の上に尻もちをつく。

()()()()と立ち昇る土煙は雨によって次第にかき消され、一旦ゼロになった視界はすぐに元通りになった。


ぼくは()()()と濡れたアスファルトの上にへたり込んだまま、空を見上げる。

雷鳴のような爆音が止み、雨音のみが周囲を満たす中―――『()』が、そこに居た。


手を伸ばせば届きそうな距離から、1M程はあろうかという、巨大なガラス玉めいた瞳が覗き込んでいる。


大型トラックだろうと、一吞みにしてしまいそうな大顎。

それは岩肌のような、荒くごつごつとした突起によってびっしりと覆われており、隙間からは建築用の杭と見まごうばかりの、極太の乱杭歯が僅かに見えていた。


洞穴のような鼻孔からは、隙間風のように呼気が吹き出し、顔に当たって前髪を噴き散らす。

僅かに生暖かい。


―――こんな状況ではあるが、目の前の怪物にも温もりがあるのだと、血が通っているのだ、と。

そんな奇妙な感動が、急に胸の内から沸き上がってきた。


今、ぼくの目の前に居るのは正しく、人類が文明の英知を手にするより遥かに昔。

黎明の時代に地上を闊歩していたと言われる、大いなる旧き世の支配者そのものであった。


巌のような口元がわずかに動き、周囲におごそかな低音が響き渡る。



≪ () () () ≫



今、こども―――と、怪物はそう言ったように聞こえた。

ぼくは()()()と頭上を見上げたまま、怪物が呟いたとおぼしき言葉を繰り返す。


今のが聞き違いでなければ、眼前の存在は明確に対象を認識し、それを表す言葉を発したという事になる。



「知性が、ある?ぼくの事が、わかるの―――?」


≪ ・ ・ ・ ≫



ぼくのつぶやきに、怪物は沈黙を以て答える。

周囲を満たす静けさの中、降りしきる雨音に、突如として()()()()と小さなつぶやきが混じった。


音の発生源を探すべく、ぼくは素早く周囲に視線を巡らせる。



「・・・ナマズのおっちゃん?」


「えっ?」



―――と、その時。


つぶやきの発生源を見つけられずに居たぼくの耳に、後輩が()()()と漏らした言葉が届いた。

疑問の声と共に隣を見ると、彼女は真っすぐに前を指差している。



「あそこ。()()()()()の右手のとこに―――」



彼女が指差す先につられ、視線を滑らせる。

怪物が胸の前で大切そうに抱えた掌の上に、コートを纏った()()が一瞬、見えたような気がした。


「あれは・・・?」



その正体を確かめようと、目を凝らしたその時。

急に何かに気づいたように顔を上げると、怪物がその巨体をゆっくりと起こす。


そして、天に向かって巌のようなおとがいを向けると、大気を震わせるような咆哮を放つのだった。



≪ オ オ オ オ オ オ オ ! ! ≫


『父祖ノ御霊ハ君臨セリ! 父祖ノ御霊ハ君臨セリ!


   オオ オオ オオオ!!』


天地をつんざくような大音響に呼応するようにして、【深きもの】達が一斉に動き始める。

小山のような巨神の下へ、そして足元を通り抜け、その先へ。


海側の防風林からは、途切れることなく【深きもの】の列が溢れ出し続ける。

県道の上は赤褐色の身体で埋め尽くされ―――


今週はここまで。

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