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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
149/343

∥005-27 片洲漁港を覆う影(下)

#前回のあらすじ:これ以上付き合ってられるか!こんな所からはおれ一人でもおさらばしてやる!!



[マル視点]



「なにこれ、なにこれ、なにこれーーーっ!?」



雨混じりの暴風が吹き荒れる、漁師町の中。

あーちゃんこと(あずさ)が上げる素っ頓狂な声が響く。


辺りは既に夜中、所々で蛍光色の光を放つ街灯を除けば、周囲はほとんど真っ暗だ。

空は厚い雲によって覆われ、地上には月の光すら届かない。


濃紺一色に染まった、深海の底のような町には()()()()と、オレンジ色の光点が点り少しづつ動いている。


松明を手に持った、町の住人である。

しかし、揺らめく松明の光が照らし出すその姿は、水棲生物めいた特徴の現れた、世にも奇怪なものだった。


―――【深きもの】(ディープラン)

この町を密かに住処としていた彼等は、人類と敵対していると言われる、知的生命体(ホモ・イミニークス)である。


アスファルトで舗装された細い路地の四辻に、背の低い生垣の向こうに。

町の所々に彼らの姿が散見され、()()()()()()と跳ねるような動作で動き回っているのが見て取れる。


この辺りを徘徊する彼等が目下、注視する先には、街中を高速で疾走する奇妙な物体があった。


それは―――全高3mばかりの、碧く輝く水球であった。

縦に細長く、タイヤのような形状をしたそれは、まさしく走行中の車から脱輪したタイヤのごとく、()()()()()路上を猛スピードで駆けている。


うっすらとコバルトブルーの輝きを湛えたその表面からは、内部の様子がおぼろげに透けて見えていた。

そこに居るのは―――我等が主人公、丸海人(マルカイト)と、その隣で困惑する羽生梓(はにゅうあずさ)の二名であった。


【深きもの】達に踏み込まれた民宿から脱出し、マルの【神使】(ファミリア)、メルクリウスのボディをクッションに着地に成功した彼等は、そのまますかさず逃走へと移っていたのだ。


一方、水球の内部へと視点を移す。

()()()()()()と交互に足場を蹴り出す動きに連動して、ぼくの周囲を360度覆うメルの水球がその動作を何倍にも増幅していた。


それは往復するピストン運動を回転する(トルク)へと変換する、エンジンの機構のごとく。

メルの身体を用いた仕組みにより、二人は今、自動車並みのスピードで街中を移動していた。


隣では事態に付いていけていない様子の梓が、()()()()()()と視線を周囲にさ迷わせている。



「先輩先輩!どうなってるのこれ!?」


「どうなってるも何も、ぼくの【神使】(ファミリア)なんだけど・・・。現実世界(こっち)でも、【神使】(ファミリア)を召喚できるっていうヘレンちゃんのお話、ぼくと一緒にあの時、聞いてなかったっけ?」


「そうだっけ??」


「あーちゃん・・・」



そうだった、この子はそういう人だった。


がっくりと肩を落とし、大きなため息をつく。

後輩の鳥頭っぷりを失念していた自分の迂闊さを、ちょっとだけ後悔。


しかし今はとにかく、一人でも戦力が欲しい。


クヨクヨしてばかりもいられないと、気を取り直したぼくは隣へ向き直る。

改めて、現世における【神使】(ファミリア)の喚び方について、忘れがちな後輩に向けたレクチャーが開始されるのだった。



「いつも【夢世界】(ドリームランド)で使ってる力―――【神使】(ファミリア)や、覚醒によって強化された身体能力は、こっち・・・現実世界でも使えるんだ。今、移動手段に使ってるコレも、ぼくの【神使】(ファミリア)―――メルクリウスの力によって作られているんだよ?」


「ほえー・・・そうなんだ」


「そうなんです。・・・それで、あーちゃんにもここから脱出する手伝いをしてほしいんだけど。ひとつ注意点があって―――!?」



走りながらのぼくの説明に、隣で並走しつつ()()()()と頷きながら聞き入るあーちゃん。

その反応を()()()と横目で見つつ、説明を続けようとした、その時。


()()()、と首筋に走るイヤな気配に、ぼくは思わず身構える。


次の瞬間。

水輪を形作っていたメルの身体が()()()と震え、視界を覆っていたコバルトブルーの幕に虫食いのように穴が開き始めた。


徐々に露になってゆく、外の景色。

そこには、道の両側に並んだ町の住人―――否、【深きもの】達が一斉に大口を開け、甲高い叫びを上げていた。



『ゲッ!ゲッ!ゲッ!ゲッ!』


「身体が解け崩れて・・・メル!?」


『・・・!?』


「ん~~~~~っ!!」



水を依代に、巨大なタイヤを形成していたメルは、何らかの原因によりその姿を維持できなくなりつつあった。

ぼくは慌てて呼びかけるが、メルは力なく明滅するだけで、一向に元の形に戻る事が出来ない。


辛うじて形を保てている部分に手を当て、めいっぱい【神力】(プラーナ)を送り込む。

僅かに輝きを取り戻し、メルは元の形に戻り掛けたように見えるが―――


次の瞬間には、再び何かに遮られるようにして解け崩れ始めた。


ぼくはそこで、()()、とある事に気付いて水膜の外へと視線を戻す。

一列に並び、奇怪な合唱を続ける―――【深きもの】達。


彼等からメルに向けて、明らかに何らかの()()()()が向けられていた。

それを感じ取ったぼくは再び、掌から【神力】(プラーナ)を注ぎ込む。


力はメルの身体を一旦巡り、水膜を形作ろうとするが―――

しかし、外部から放射される()()()()()()によいって邪魔され、すぐに霧散してしまった。


その事実に気付き、ぼくは思わず叫びを上げる。



「妨害されてる・・・まさか!?」


『ゲッ!ゲッ!ゲッ!ゲッ!ゲッ!』


『・・・!・・・!!』


「メル!?まずい・・・このままじゃ―――」



迂闊だった。


【神候補】。

―――文字通り神様のタマゴとしてぼくが得た力を使えば、この町から脱出するのは容易いと、正直()()をくくっていた。


しかし―――

【深きもの】もまた人知を超えた存在、神話生物の端くれである。


己が住処に属するもの―――

海と水にまつわるものに干渉し、超常の力を振るう事など()()()()()なのであった。


ぼくの脳裏に、宿の一室で猿顔の男が語った内容が蘇る。


『魑魅魍魎の跋扈する我々の世界へ足を踏み入れた以上、力なき者は食い物にされる他無いのですよ―――』


あの男、真調(ましら)は何故、この場所へ来たのか。


奴は、政府に属する【覚醒者】―――

超能力者、異形、人ならざる異能を振るうバケモノ達を監視し、影ながらに取り締まる存在。


すなわち、現代の獣狩りだ。

それが姿を現したという事は、()()()()()()()()()()がそこに居るという事。


【深きもの】もまた【覚醒者】であり、異能を操る。

そんな事、考えるまでもないじゃないか―――!



「駄目だ、崩れる―――わああぁぁっ!?」



ついに完全に崩壊し、メルはただの水塊へと戻ってしまう。

細かい水の粒子となった水のタイヤの残骸から投げ出され、空中へと飛び出すぼくとあーちゃん。


()()()、と音を立てて、真正面から風の壁がぶつかる。

その衝撃に、思わずぼくは空中でもがくように両手を振り回した。


周囲の景色が、猛スピードで後ろにカッ飛んでゆく。

我ながら、とんでもない速度で移動していたものだ。


そんな胡乱な事を考える間もなく、眼下にアスファルトの地面が迫ってくる。

このまま着地すれば、()()()()()()()()()()()()()()、もしくは()()()()だ。


死んでたまるか―――!!


意を決すると、全身の【神力】(プラーナ)を掌へ集める。

今一度己が半身の助力を得るべく、ぼくはわずかに漂う水塊の欠片に向けて、ありったけの力を注ぎ込むのだった―――


今週はここまで。

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