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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
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∥005-25 片洲漁港を覆う影(上)

#前回のあらすじ:ででーん、生田目(なまため)君アウト!!



[マル視点]



「何、あれ・・・」


「・・・半魚人だ!!」



僅かに開いた窓の隙間から、()()と外の様子を覗き込む。

強風が吹き荒れる荒天の下、漆黒の闇の中を点々と動き回る、いくつものオレンジ色の光点。


それは松明を手に徘徊する、町の住人達だった。


闇夜を煌々と照らす原初の光は、彼等の異様な姿を映し出す。

―――それはまるで、底生魚(オコゼ)とヒトを足して、二で割ったかのような。


荒い岩肌のように、()()()()と細かく隆起のある皮膚。

つぶれた頭頂部。

マズルのように前へ突き出した鼻面。


顔の両端へ移動した巨大な両目は半ば外へ飛び出し、()()()()と光る脂瞼によって覆われている。


まるでおどろおどろしい童話の世界から飛び出したかのような、半人半魚の怪人たち。

何処からともなく現れた異形の群れは、今や町を行き交う細い路地をびっしりと埋め尽くしていた。


その様子をひきつった表情で眺めるぼくと、その隣で好奇心にキラキラと瞳を輝かせる(あずさ)

対照的な反応を示す両名は、食い入るようにして外の光景に見入っている。


そんな彼等を眺めつつ、類人猿(チンパンジー)めいた男は()()()()とくぐもった笑い声を上げるのだった。



「キヒヒヒヒ!チミもご存じの筈ですよぉ?彼等は海底を生息域とする、人類以外の知的生命体―――すなわち【深きもの】(ディープワン)です」


「でぃーぷ、わん?」


【敵性人類】(ホモ・イニミークス)―――!!」



真調が発した言葉に、ぼくは思わず小さく叫び声を上げていた。


ホモ・イニミークス。

この日本において【敵性人類】の名称で呼ばれる彼等は、まごう事なき人類の敵対者である。


今更言うまでもないが―――地球上には、我々人類(ホモ・サピエンス)以外の知的生命体が存在する。


一例を挙げるならば、大新帝国(旧満州)と貿易を行っている地球外生命体―――【ヤディス人】。

彼等は【光波被膜】と呼ばれる外宇宙航行技術を持ち、太陽系近縁に存在する彼等のコロニーから地球へと訪れる、れっきとした異星人だ。


人工臓器製造技術を始め、彼等によって数々の革新的な技術が地球へと齎されている。

現在における大新帝国の躍進も、ヤディス技術によって引き起こされたパラダイムシフトが礎となったことは今や、小学生でも知っている事実だ。


今を去る事およそ50年前、第二次世界大戦終結直後。

水面下でヤディス人とファーストコンタクトを取る大新帝国には、両者の架け橋となった一人の()()()()()()()が居たと言うが―――


それはさておき、今は話を戻そう。


人類以外の知的生命体としてヤディス人に次いで有名なのが、先程真調も口にした【深きもの】だ。

彼等もまた、地球外を起源とする知的生命体である。


ただし―――彼等が地球で活動を始めたのは、今より遥か昔のこと。

太古の地球へ彼等の神々と共に飛来した【深きもの】の先祖は、海中を己のテリトリーとして定めたという。


その後、彼等の名が公に人類史に載るのは大きく時代が飛んで20世紀、アメリカ大陸東海岸において。

かつて漁業で栄えた()()()寒村を舞台とした、奇怪な事件がきっかけとなる。


密かに彼等を招き入れた地元の名士によって、【深きもの】と現地住民との交雑が進み、大規模な遺伝子汚染を引き起こしたのだ

その地名を冠し、『()()()()()()()』と呼ばれるようになった特有の奇形は、魚類と人間を融合させたかのような実におぞましいものだった。


幼少の頃、教科書の挿絵でそれを見た時は思わず夢に見たほどだ。

それが今、この町にひしめいているという。



「あれ?でも・・・話に聞く『インスマウス面』とは、ちょっと違うように思えるんだけど」


「それはですねぇ、()()()()()です」


「「氏族??」」



引き続き窓の外の監視を続行しつつ、真調(ましら)の話に聞き耳を立てるぼく。

しかし外を徘徊する彼らの姿に小さな違和感を感じ、それをぽつりと口にする。


それを受け真調が告げた内容に、ぼくらは揃って首を傾げるのだった。



「考えてもみてください。そもそも彼等は太古の昔、それこそ人類発祥以前よりずぅっと海底を住処としてきた訳です」


「・・・みたいですね」


「それがアメリカ東海岸で起こした事件のような、侵略的で拡大志向な種族だとしたら。今頃全世界は、連中の支配下に置かれていてもおかしくはない筈なんです。―――ですが、現実としてそうなってはいない。つまり・・・」


「つ、つまり?」


「連中も()()()()()()()、という事ですねぇ」



ごくりと生唾を飲み込んで話に聞き入るぼくらに、真調は目を細めつつ驚愕の事実を告げる。

つまるところ、【深きもの】にも派閥があり、インスマウスを拠点とする過激派の他に、穏健派や人類共存派なんて連中も居るのだろうか。


そんな疑問に対する答えを、眼前の猿めいた男は続けて口にするのだった。



「大半の【深きもの】は地上に興味を持たず、海底で閉鎖的な生活を送っているのですよ。それというのも彼等は種族的に不老長寿、ほぼ寿命の無い肉体を持っています。だから元来の性質として変化を嫌い、植物のように穏やかな生活を好む訳です。今、外をうろつている『深泥(ミドロ)族』もそういった、いわゆる()()()()【深きもの】という訳ですよぉ」


「なるほど―――?」



類人猿めいた男の口から語られる衝撃の真実に、思わず深々とうなずくぼく達。

【深きもの】に寿命が無い、病気に罹ることも無い、という情報については、確かに教科書にそんな事が書いてあった記憶がある。


しかしその内容に潜む矛盾に気付き、ぼくは眉根を寄せつつその疑問を口にするのだった。



「あれ?でも穏やかな生活を好むって割に、思いっきり地上に出てきちゃってるんですけど」


「そうですねぇ、不思議なこともあるものですねぇ?ひょっとして・・・()()()()()()()()()()()()のかも知れません、ねぇ―――?キヒヒヒヒ!!」



ぼくが投げかけた問いに対し、男はそれに直接答えずニヤリと口元を歪める。


何だろう、何か大事な事を忘れている気がする。

町はずれで見つけた小さな社、深泥族、死者の魂が還るという海底の都、深泥都邑(みどろとゆう)


あの時言葉を交わした奇妙な人物も、外でひしめく異形の群れの中に今、居るのだろうか?

首筋が()()()()と痛む。


ぼくはやはり何か、大事な事を―――



「・・・先輩!」


「!?」



深く深く沈み込んだ思考の海の底で、何かに気づきかけたその時。

後輩が小さく上げた叫びに、ぼくは()()と顔を上げる。


闇の中、外では異形の住人達が両手を掲げ、何かへ祈りを捧げるようにして奇怪な叫びを上げている。

吹きすさぶ強風には時折雨粒が混じり、()()()()と震える窓をしたたかに打ち付け始めていた―――


今週はここまで。

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