∥005-17 お土産と決意
#前回のあらすじ:禁忌LV5くらい(時事ネタ)
[マル視点]
あの施設の奥にて、衝撃の事実を明かされたぼくがその後、どうなったのかと言うと―――
「ねー、先輩先輩。これとこれ、弓道部のみんなに買ってくのどっちがいいかな?」
「うん」
「氏子のみんなには羽二重餅だし、おとーさんおかーさんにはカニふりかけだし。被らないよーに、って考えると大変だよね?お土産って」
「・・・うん」
・・・小ぢんまりとした店の軒先にて、あーちゃんと二人土産物選びをしていた。
現在地は、民宿のある区画から道沿いに少し歩いた先。
あの施設から戻ったぼくらは、夕食を待つ間の暇つぶしとして、町の散策に出かけていたのだ。
水平線の上から紅い光を投げかける夕日は、もう随分低いところまで落ちてきている。
静かな漁師町には帰りを急ぐカラスの鳴き声が、遠く響き渡っていた。
真調からは、今の所何も言われていない。
生田目のように凄むわけでもなく、ただ静かにじっと、ぼくの反応を確かめるように見つめるばかりだ。
―――あいつは一体、何を考えているのだろうか?
そんな疑念にかられるぼくを尻目に、暢気なあーちゃんは戸棚に並ぶ品々を交互に見比べながら、どれを買おうかと悩んでいる。
人の気も知らないで・・・と、正直なところそう思わなくも無い。
しかし―――どんな時も、屈託なく微笑んでいるのが、ぼくのイメージにある羽生梓の姿だ。
その笑顔が曇るところは、見たくはない。
ぼくは密かにあの時、彼女が車の中で眠りこけていたことを感謝するのだった。
・・・そうこうしているうちに、土産物の候補を残り二つにまで絞り込んでいたらしい。
ご当地お菓子の箱を二つ顔の前に並べ、ぼくの後輩―――梓はこちらを覗き込んでくる。
それに対するぼくはと言えば。
あれこれと話しかけてくる彼女に対し、終始上の空といった様子で生返事を繰り返していた。
いつまで経っても正気に戻らないぼくに業を煮やしたのか、とうとう彼女は眉根を寄せて唸り声を上げる。
「もー!さっきからそればっかで先輩、つまんないー!!」
「へぶっ!?」
べちん、と両の手でぼくの顔を挟むと、目線を合わせてじろりとこちらを睨みつけた。
突然のことに眼を白黒させたまま、ぼくらは至近距離で視線を交わす。
―――彼女の瞳は、心配げに揺れていた。
その事にようやく気づかされ、ぼくははっと息をのむ。
「先輩、なんかヘンだよ・・・?あたし寝ちゃってたからよくわかんないけど、さっき出かけた時何かあったの・・・?」
「それは―――」
その問いかけに答えようとして―――ぼくはすんでの所で踏みとどまった。
果たして、彼女を巻き込んでも良いのだろうか?
脳裏に、猿顔の男の耳障りな笑い声が響く。
―――ハザードシンボルが入れられた容器で埋め尽くされた、あの部屋にて。
シャレにならない事実をぶち撒けた真調は、狼狽するぼくの様子に満足そうに微笑むと―――拍子抜けするほどあっさり、ぼくを解放していたのだ。
どんな無理難題を言われるのか身構えていたぼくは、正直拍子抜けしてしまった。
そうして混乱するぼくを引きずり、管理事務所まで戻ると挨拶も早々に、あの施設から引き上げてしまったのだ。
一旦戻ります、と告げるチンパンジーめいた顔に、訝し気な視線を向ける施設長の表情が色濃く記憶に残っている。
あの男は一体、何がしたいのだろうか?
『大日本帝国は密かに、原発から出る核のゴミを適正に処理せず、日本海に投棄している』。
奴の話を要約すれば、こういう事になるのだろう。
驚愕の事実だ、とても信じられない。
だが―――自分の目で見たものを思い返してみると、どうにもそれが事実のように思えてならないのだ。
少なくとも、あの施設で核廃棄物の処理・貯蔵が行われている所までは、確かなことに思える。
根拠は、関わっている人間の多さだ。
件の施設で見かけた職員、作業員達はざっと数えた限り、少なくとも数百人は存在した。
施設の規模にしろ、人数にしろ、とてもじゃないが一個人が用意できるレベルじゃない。
国が背後に居るかどうかまではわからないが、相当の規模を持つ組織がこの一件に噛んでいると見るべきだろう。
仮に、これまでの全部がぼくを引っ掛けるための悪質なドッキリとしても・・・どうにも、大がかりすぎる。
出来る限り、慎重に動くべきだろう。
人の口に戸は立てられない、秘密を知る人間は出来る限り少なくするべきだ。
「あーちゃん、思った事全部口に出しちゃうしね・・・」
「先輩、今何か言った?」
「・・・ううん、何でもない」
ぽつりと呟いた一言が聞こえたのか、大きな瞳をぱちくりさせてあーちゃんが小首を傾げる。
ぼくはそれに首を振って答えると、目の前の愛らしい後輩を守るため、この秘密を隠し通すことを決意した。
余計な心労を背負い込むのは、ぼく一人でいい。
改めてそう決意を固めると、彼女の瞳を見つめ返しぼくは口を開いた。
「実はね―――」
「うんうん」
「・・・まだ、秘密。ちょっとした出来事があったんだけれどさ、ぼくの方で解決したいから、あーちゃんに手伝って貰うのはもっと、後になるかな?」
「えぇ~~~?」
はぐらかされたことに不満げな声を上げる彼女に、申し訳ない気持ちを押し隠して微笑む。
そして話題転換とばかりにぱちんと手を叩くと、彼女が両手に持っていたお菓子の箱をひょいと取り上げるのだった。
「・・・ああもう。力入れたりするからこれ、凹んじゃってるよ?」
「えっ?・・・あー!ほんとだ・・・。どうしよ、先輩?」
「しょうがないなぁ」
紙容器の角についた凹みを指差すと、彼女は素っ頓狂な声を上げる。
眉を八の字にしたまま、困った顔でこちらを見つめてくる彼女に、ぼくはくすりと微笑んだ。
「隠し事のお詫びに、これはぼくが払うよ。・・・すいませーん!」
傷物になってしまった商品を買い取るべく、ぼくは店の奥に向けて声を張り上げるのだった―――
今週はここまで。




