表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
136/343

∥005-14 謎の施設内部へ

#前回のあらすじ:予想してたより破壊跡がヤバい



[マル視点]



ガラス板で仕切られた受付の前で、女性職員と話し込んでいた真調(ましら)がくるりとこちらを振り返る。

かつかつと歩み寄り手渡されたのは、手のひら大程の塩ビ製ケースに収められた、一枚のカードであった。


『ゲスト用』と書かれたそれを言われるままに首に下げると、ぼくは改めてロビーの内部を見回す。

―――現在ぼくが居るのは、例の施設内に立ち並んでいた四角い建物の一つ、その玄関から入ってすぐの所だ。


ロビー奥には部外者の侵入を阻むゲートが設けられており、そこを通るための入館手続きを、真調が進めていたという訳だ。


観察を続ける。

クリーム色を基調とした室内は清潔感があり、つるりとした材質の床にはチリ一つ見当たらない。


飾り気のない室内には壁際に置かれた観葉植物を除き、ほとんど装飾めいた物が見当たらないようだ。

そして眼前には、鉄道駅の自動改札を連想させるゲートが、鉄壁の城壁よろしくどっしりと立ちはだかっている。


たった今渡された入館証(ゲストカード)が無ければ、こっそり忍び込もうとしたところで、けたたましいブザーと共にたちまち追い出されてしまうはずだ。


そんな胡乱な想像にふけるぼくを尻目に、すたすたとそこへ歩み寄った真調はおもむろに入館証を掲げる。

そしてゲート手前に設置された、青色のLEDが灯るプレートにそっと押し当てると、ポン、と軽い音と共に、ぴたりと閉じられていたゲートの仕切り板が開くのだった。



「おぉ・・・ハイテクだ」



映画くらいでしか見たことのないその光景に、思わずぼくは目を輝かせる。

非接触型ICカードでも埋め込まれているのだろうか、目の前の入館証をしげしげと見つめると、彼等にならってぼくもまた、ゲートに向けて入館証をかざすのだった。




  ・  ◇  □  ◆  ・




飾り気のない廊下を、3人で進む。

施設内に足を踏み入れたからか、ロビーでは見かけなかった職員らしき人々を、そこいらでちらほらと見かけるようになっていた。


彼等を大まかに分けると―――


背広に身を包んだ、事務員らしき連中。

そして、外でも見かけた、全身をすっぽり覆うツナギ姿の作業員達。


この二種類に大別される。


このうち、作業員達のマスク越しに見える素顔は、気のせいかも知れないが―――

来る途中に見かけた農夫のような、特徴的なヒラメ顔に見えた。


その一方、事務員達の顔はそんな事は無いようだ。


()()』顔立ちが、この地域一帯に共通する身体的特徴という予想が正しいとするならば。

作業員達は専ら、現地採用で賄っているということかも知れない。


―――まあ、ただの気のせいかもしれないのだが。


しかし、よしんばその予想が当たっていたとして。

一体なぜ、そんな事をするのかがわからない。


ぼくは、頭の片隅にしこりのようなものを感じつつ、先導する真調に続いて廊下を歩いてゆく。


そうこうするうちに、とうとう一行は廊下の突き当りまでたどり着いた。

すると真調は壁を前にして、何かを探すようにして首を巡らせ始める。


やがて壁の一角にぽつんと灯る、青色のLEDの所まで来ると、ようやく生田目はその視線を止めた。

彼はおもむろに入館証を取り出すと、LEDのある辺りへと押し付ける。


その行動にぼくが首を傾げていると、突然、右手側の壁が音を立てて開き始めた。



「隠し通路―――!?」



突然の出来事に、思わず固まったまま眼をぱちくりさせる。

その前を横切ると、真調は何事もなかったかのように、すたすたと通路の中へ入ってゆく。


小さな背中がドア枠を跨いで進む―――かと思いきや、ふいにこちらを振り向くと、彼はぽつりとこう呟くのだった。



「―――あぁ、そうそう。ちゃあんと一人づつ認証させてくださいねぇ?でないと、出るときにビー!って怒られちゃいますからねぇ。気を付けてくださいよ~?」


「え、えぇ・・・?」


「一々面倒な・・・」



―――察するに、防犯の為の仕組みだろうか。

そんな一言を言い残し通路に消えた真調に、ぼくはこてりと首を倒し疑問の声を上げる。


一方、軽く顔をしかめてふん、と鼻を鳴らした生田目(なまため)は、不承不承といった様子で首から下げた入館証を壁に押し当てる。

再び隠し扉が開き、その中へと消える生田目。


ケースに収められた入館証と壁の只中で光るLEDとを、ぼくはしばし交互に見比べる。

なんだか、妙なことになってきた。


こんな場所にわざわざ通路を作るだなんて、一体どういう事情がこの施設にあるというのだろうか。

もしかすると、先日あったという襲撃には()()()()にも何らかの()()があったのかも知れない。


―――尤も、その答えがこうして突っ立っていて得られる訳じゃない。

ぼくは一つ頷くと、彼等にならって入館証を壁に押し付ける。


ゴトン、と小さな音を立て、閉まりかけていた隠し扉が再び開く。

それを確認し、ぼくは意を決すると、薄暗い通路の中へ飛び込んでゆくのだった。




  ・  ◇  □  ◆  ・




通路を進んだ先は、一辺8m程の四角い小部屋だった。


部屋の壁際には据え付けの棚と、その下にはワゴンが並んでいる。

棚の中にはマスクや手袋といった、使い捨ての道具を収めた容器がみっしりと詰め込まれていた。


一方、その下へと視線を移すと、着用済みらしき手袋やマスクがワゴンの底の方に、乱雑に放り込まれている様子が目に入る。

先に小部屋へ入っていた真調が、ぺこりと禿げかけの頭を下げて口を開いた。



「すいませんがこれも規則みたいでしてねぇ。ここから進むには、こちらの棚にあるものを全て身につけて貰わないといかんのですなぁ」


「チッ。・・・おい!貴様!!いつまでモタモタしてやがる、センセイの言葉が聞こえなかったのか!?」


「うぇっ!?な、何でこっちに言うのさ・・・!!」



小柄な男の話を聞きつつ小部屋を見回していると、何故かイラついた様子の生田目に怒鳴られてしまった。

思わずぎくりとすくみ上るぼく。


そんな様子を眺め、白目がちな眼を細めニヤニヤしている所を見るに、今のあれは絶対にわざとだろう。


嗜虐心を満たし満足したのか、鼻歌交じりに棚の所へ向かう不良中年の後ろ姿に向けて、ぼくはこっそり舌を出す。

そして、こちらもまた別の棚へと足を向けると、中に収められた容器を一つ手に取った。


『ディスポーサブル手袋』と印刷された容器の中には、ビニール製の半透明の手袋がぎっしり詰まっている。

棚の中へ目を向けると、別の容器には更に別の種類の品が詰め込まれているようだ。


これら全てが使い捨てなのだろうか?

容器から取り出し広げたそれをしげしげと見つめると、ぼくはてきぱきと身に着け始めるのだった。



「それにしてもこれ、やけに本格的なような・・・?」



新たに手に取った不織布製のマスクは、楕円形に盛り上がった形状の密閉性の高い物だった。

ゴムを引っ張り耳の後ろに掛けると、呼気がほとんどマスクの隙間から漏れて行かない。


若干息苦しいが、激しい運動をしたりしなければ問題は無さそうだ。

続いて、薄いビニールのキャップを身に着け、同じくポンチョのようなビニール製の胴衣を頭の上からすっぽりと被る。


更に同じような材質のズポン、手袋をそろって身に着けると、外気に直接触れている箇所が身体の中でほとんど無くなってしまった。

手足を動かすと、それにつられてガサガサとビニールの擦れる音が聞こえる。


何だか不思議な感覚だ。


ここまで神経質に生身が外に露出しないようにする必要が、果たしてあるのだろうか?

―――そんな事を考えているうちに、準備を終えたのか二人から声を掛けられ、ぼくはそちらの方を振り向いた。



「―――行きますよ」


「あ、はい」



言葉少なにそう告げると、部屋の奥へと向かう彼等を追いかけ、ぼくもまた歩き始める。

自動ドアをくぐった先には、もう一つ同じような小部屋が続いていた。


今度は、壁際に並ぶのは鍵付きのロッカーと、逆側には袋入りの白いスニーカーが、据付の棚の中にぎっしり収まっている。

そのうちの一つを手に取り、真調達が靴を履き替え始めたのを見て、ぼくもまた棚の中からスニーカー入りの袋を一つ手に取った。


―――靴を履き替えた後、部屋の奥にある金属製の、やけに仰々しい扉の前にぼくらは立っていた。


先頭に立つ真調が、扉の一角に据え付けられたプレートに入館証を乗せる。

すると、ブザーと共に扉のロックが外れる音が響いた。


レバーを握り、ゆっくり扉を押し開けると、途端にがちゃがちゃと騒々しい音が耳に届き始める。

すえたような磯の香りが、ぷん、とあたりに漂ったような気が―――した。


今度は言われずとも、同じようにしてプレートに入館証を押し当てて進むぼくたち。

前を行く背中に付き従って扉をくぐると、その先にはこれまでとは大分趣の異なる光景が広がっていた。


まず、道が広い。

これまで通ってきた細い通路と比べ、2倍位はありそうだ。


そして通路の先には、幾つかのパーティションに仕切られた、工場らしき空間が広がっていた。

空間の奥は人がマッチ棒並みのサイズに見える程遠く、上もまた見上げる程に高い。


構内を行き交う作業員達の頭上には、大人の身長程もある太い配管が身をくねらせながら何本も行き交い、その幾つかは眼下に流れるコンベアに向けてゴミらしき物体を吐き出している。

一方、床から1m程の高さに設置されたコンベアの両側には、ぼくらと同じようなビニール製の服に身を包んだ作業員達が、せっせと流れてくるガラクタをより分け続けていた。


一体あれは、何をしているのだろうか?


首を伸ばしてじっくりその様子を窺おうとしていたところ、視界の端を右手側に進む二人の姿が目に留まる。

置いて行かれては敵わないと、ぼくは観察を切り上げ、慌ててその後を追うのだった。


先程の区画を離れると、彼等は殺風景な廊下をスタスタと進んでゆく。

それを追いかける途中、通り過ぎたドアのガラスが目に留まり、ちらりとその中を覗き込んでみる。


―――部屋の奥に広がっていたのは、一辺50M以上はありそうな広大な空間に積み上げられた、大量のガラクタ。

それを天井に据え付けられたクレーンが掴み取り、バスケットの端から欠片を零しながら掬い上げるところだった。


ガラクタを満載にしたバスケットが向かう先は、壁の途中からスロープになっており、その奥からは煌々と赤い光が漏れ出し続けている。

その光景に、ぼくは幼いころにTVで見た、ゴミ焼却処理施設を紹介する番組の一場面を思い出していた。


ここまでの様子を見る限り、ここがゴミ処理施設だという真調の言葉は、事実だと見るべきだろう。


しかし―――先程の隠し扉といい、こんな辺鄙な郊外に広大な施設がひっそり存在する事と言い、どうにもきな臭い予感が付きまとう。

この先、彼等について進んだ場所には、その秘密の一端が隠されているのだろうか?


ぼくは扉の中から視線を切ると、二人に置いて行かれないよう、再び歩調を早めるのだった―――


今週はここまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ