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お釜大戦  作者: @FRON
第一章 恐怖!町内巡回バスUFO襲撃事件!!
13/319

∥001-13 首相(あだ名)の思案

#前回のあらすじ:要救助者1名発見!



[犬養(いぬかい)視点]



犬養剛史(いぬかいつよし)、十九歳。


マルと同じく日本人であり、戦前は首相経験者も排出したこともある、()()政治家一家の出である。

文明開化の熱も冷めやらぬ大正時代、民主主義(デモクラシー)の理想へと邁進するも暴走する軍部の凶弾(五・一五事件)に倒れた、彼の祖先。


その遺志に共感し、青年もまた政治の道を志そうとしていた。

―――そんな彼に【神候補】としての素質が宿ったのは、如何なる神の御手が働いた結果であろうか。


日常の裏側で展開する、【彼方より(シング フロム )のもの】(ザ ビヨンド)と【神候補】達の戦い。


犬養青年にとって、それは無辜の人々を守る崇高なる戦いであり、己が果たすべき使命そのものであった。

力に覚醒した青年は、共に戦う仲間達を集い、【神候補】による組織である『()()()』を結成する。


祖先に倣い、【立犬政友会】(りっけんせいゆうかい)と名付けられたクランは少人数ながら、実力者を擁する武闘派として名を知られていた。


上空にて、3人の令嬢達が【霧の巨人】(フォーモル)と激戦を繰り広げる、その一方。

彼はどうしていたかと言うと―――



「・・・えーっと、書けましたけど。()()()()()()?」


「えぇ、()()()()()()()()



()()()とこちらへ視線を送り、()()と一枚の紙片を手渡した小柄な少年。

その小さな手から丁重に紙片を受け取ると、私はそれを四つ折りに畳み、目の前の()()()()へ差し込みました。


大人の膝程の高さの、小ぶりなジェラルミン製の箱。

その中へ()()()、と微かな音を立てて、紙片はあっという間に飲み込まれて行きました。


それを眺め満足そうに頷く私に、マル少年は小首を傾げ疑問の声を上げます。



「協力しといてナンですけど。何で、こんな場所にその・・・()()()が?」


「ふむ、いい質問ですね」



―――()()()()()()()()()()()()()()


二人の眼前、バスの床の上には、ある意味この場に最も似つかわしくない物体が鎮座しています。

縦長の長方形、重厚な質感、陽光を反射しメタリックに輝くボディ。


どこからどう見ても投票箱以外の何物でもありませんが、投票所でも無く、こんな場所にある事自体が意味不明です。


それが何故かと言うのならば。

()()()()()()()、というのが正直な所でした。



「―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「・・・()()?」


「民主主義の原則とは、それ即ち()()。社会における権利と責任を、合意に基づき他者へ()()し、()()する。その象徴となるのが先程の投票用紙であり、この箱なのです」


「なるほど・・・()()()()?」



()()、と投票箱を叩き、語って見せる私の前で少年は更に首を横に倒します。

言葉とは裏腹に、その頭上では「?」マークが点滅していました。


回りくどかったでしょうか。

ですが、ここはどうしても話しておかねばなりません。


私の力、それ即ち合意の力。

一人よりは二人、二人よりは多数の合意を束ね、増幅し、それは果てに()()()()()()を為すのですから。



「まずは、論よりは証拠。どの様な事が可能か、それを今からお見せしましょう。―――犬養剛史(いぬかいつよし)の名において、今!ここに!()()()()()()()()()()()!!」


「・・・!?」



懐中の銀時計を握りしめると、私の掌の上には魔法のように小ぶりな木槌が現れました。


【秩序の小槌】(ギャベル)―――我が能力の発動キーとなる、神秘の力を秘めたアイテムです。

突然の出来事に思わず息を飲むマル少年、その前で私は高らかに宣言しつつ、右手を高く振り上げます。


そしてジェラルミン箱の天辺へと振り下ろすと、甲高い音と共に周囲へ光の輪が迸りました。


瞬く間に、目を開けていられない程に白い光は強まり―――

次の瞬間には、嘘のように消え去っていました。


正面に目を向ければ、箱があった筈の場所には腰ほどの高さの、木製のデスクが鎮座しています。

そして黒光りする重厚な机の上には、フェルト地の叩き台が中央に据えられていました。


私はそこへ掌中の小槌を収め―――そして、再び周囲は光に包まれました。



「これは・・・?」


「私の力を円滑に発揮する為、場を整えさせて貰いました。今、これよりこの場は、此度の戦いにおける本拠地。作戦本部として機能します。―――ご覧ください」


()()()()()()()()―――!?」



先程とは違い、淡く暖かな光。

周囲がぼんやりと照らされる中、自らの胸中から小さな光玉が飛び出し、目を白黒させるマル少年


彼の前で()()()()()姿()()()()()()()

―――子犬程の大きさしかない、白く光る小人。


それは床の上に()()()と飛び降りると、()()()()と歩いて私の前まで来ると立ち止まりました。

同じようにして、西郷(さいごう)君と高杉(たかすぎ)君の小人も集い、合計3名の小人達が横一列に並び、気をつけの姿勢で佇んでいます。



「皆からも同じように、小人が・・・?コレ、ひょっとして()()()()()()、ってやつ?」


「ええ。これこそが私が皆さんに信任された証―――『()()』です」


「『()()』?」


「はい。一人よりは二人、二人よりは多くの信を『シム』として譲り受ける事で、私の力は発揮されます。果たしてこれで何が出来るのか?―――それは、これよりお見せしようと思います」



()()()


叩き台に小槌を再び振り下ろすと、それまで微動だにしなかった小人達が慌ただしく動き出しました。

()()と周囲に散ったミニサイズの人型が足元を走り抜けるのを、慌てた様子で見送る少年。


一方、小人達は身軽な動きで並ぶ座席の上へ飛び乗ると、()()()()()()と軽快な動きで座席の上を飛び移り始めました。

瞬く間に車両後部の大穴から外に出ると、彼等が向かった先は路上に散乱した、()()()()()()()()()()()です。


小さな手先で器用にそれらを拾い上げると、()()()()()()と運び上げ、破損したバス最後尾へ積み上げて行きます。

3体の小人達は役割分担しつつ、早送りのような速度で破片を積み上げ、繋ぎ合わせて即席の壁を作ってしまいました。


()()、とその出来栄えに一つ頷く私の横で、一部始終を目撃したマル少年は()()()と唖然とした表情を浮かべています。

彼の横顔に()()()と視線を向けた私は、先程、投票用紙を渡した折の彼とのやり取りを思い返していました。




  ・  ◆  □  ◇  ・




「―――ぼくの名前を、()()に?」


「勿論、あくまで君が同意してくれるのならば、です。怪しいと思うのであれば、返して頂いても―――」


()()()()()


()()?」



手中の小さな紙切れに視線を落とし、次いでこちらの顔を見上げる少年。

その視線を前に、私は何時もの口上を始めようと再び口を開きました。


―――が、()()はすぐに少年の声によって打ち切られました。


力に関する詳しい説明、それを始めるより前に四の五の言わず記入を終え、紙片を差し出したマル少年。

彼の姿を前に、私は思わず疑問の声を上げるのでした。



「・・・()()、とは聞かないのですね?」


「―――そうしようかとも思ったんですけど。今って、()()()()()()()()()()ですよね?」


「まあ、そうですね」


()()()()。それに、あーちゃ―――乗客の皆を助けるのに、これも必要なこと、なんですよね?」


「―――そうです」


「なら・・・」



少年の発した疑問に、私は短く肯定を返す。

それに彼は「()()()」とあごに手を当て少し考える素振りをみせるが、すぐに()()と笑顔を浮かべ、こう言ったのです。



()()()()()()()()



()()()()()()()()

曇りの一点も無い眼、それを前にして、私は己のこれまでのふるまいを振り返ります。


私の力は信任を得て力を発揮します。

が、それは逆を言えば、()()()()()()()()()()()()()()


これまでの戦いで、幾度となく私は協力を断られ、拒絶されて来ました。

怪しい、嘘っぽい、政治ごっこをやるなら他所でやれ。


様々な理由で差し出した紙片を払われ、活躍できずにいた過去。

私はいつしか、西郷君、高杉君の2名を除く他者の助けを期待しないようになっていました。


それがどうでしょう。


利害の一致があるとは言え、目の前の少年は迷う事なく、この私に信を置くと言い放ちました。

虚を突かれたように見入っていた私でしたが、()()()、と一つ咳払いを入れると気を取り直します。


・・・有り難い事です。

私は小さく彼に感謝を述べると、差し出された紙片を受け取るのでした。




  ・  ◇  □  ◆  ・




そして、現在。


1枚目の防壁が組みあがっていく様子を眺めつつ、私は思案を続けます。

ヘレンさんが()()()()()任務(クエスト)に対し、ベテラン6名・新人1名による討伐を発行した、その()()


それは恐らく()()()()()()にあります。


彼奴の脅威を予見したからこそ、彼女は私達の協力を募りました。

―――ならば、それに応えてやらねばなりません。


一人の犠牲も出さず、この戦いを切り抜ける。

そう密かに決意を固め、私は懐中の銀時計を強く握りしめるのでした―――


※2023/10/08 文章改定

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