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お釜大戦  作者: @FRON
第五章 ダゴン・マル・アズサ 北海の大決闘!!
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∥005-02 いつかやると思ってました(同級生の証言)

#前回のあらすじ:任意同行はどこ行った!



[(あずさ)視点]



「あれー・・・?」



授業開始前。


紺の冬服に身を包んだ生徒たちが慌ただしく挨拶を交わし、昨日のTVドラマや三限目の数学小テストについて語り合う教室。

その入口を前にして、顔の前へ手で()()()を作り中を覗き込む女生徒が一人、きょろきょろと教室内を見渡した後に身体全体を横に傾げ疑問の声を上げた。


右に傾く上体につられ、(ポニー)の尻尾のように垂れた長い後ろ髪もまた、同じ方向へと揺れる。

すっきりした目鼻立ちの、美少女と呼ぶにふさわしい可憐な少女である。


言わずと知れたマルこと、丸海人(マルカイト)の後輩―――羽生梓(はにゅうあずさ)その人だった。

その姿に気づいた教室内の生徒は、一瞬おや、と少女の様子に注視するも、その顔が見慣れたものである事を悟ると再び視線を外す。


―――そうこうしているうちに、何時までも入口で右往左往している梓を見かねたのか、教室より生徒の一人が百面相している後輩の所へ歩み寄った。



あーちゃん()、どっかしたん?」


「あ、穂浪(ほなみ)パイセンオハヨーゴザイマス!・・・えっとね、先輩知らないかな?」


「はよ。・・・にしてもやっぱりか。マルちゃんなら今日来てないよ」


「えぇ~~~?」



声を掛けてきたのは、ワンレンの茶髪をヘアピンで留めた女生徒だった。

弓道部で見慣れた顔だったこともあり、あたしは勢いよく頭を下げて挨拶する。


穂浪と呼ばれた女生徒はそれに片手を上げて応じると、後ろ頭を掻きつつ目当ての人物の不在を告げた。

あたしはがっくりと肩を落とし、ついでに手に持っていた荷物を床へと降ろす。


百貨店のロゴの入った紙袋が板張りの廊下へ自重を預けると同時に、()()()と床板が悲鳴を上げる。

その、手荷物らしからぬ重量感たっぷりの音に表情をひきつらせると、穂浪はためらいがちに声を上げた。



「・・・一応聞くけど、あいつになんか用でもあった?」


「うんとねえ、借りてたマンガが溜まってきちゃったから返そうと思ったの。ほら」


「―――多っ!?あんたどんだけ借りてんのよ!?」


「えへへー。先輩んち行った時とか、ちょくちょく借りてるうちに返しそびれちゃって・・・」



―――紙袋の中身は、タイトルから巻数までがごちゃまぜになった漫画本の山だった。

綺麗にタイトルや巻数を揃えず適当に放り込んでるあたり、中身を詰めた人物の性格が表れているとも取れる。


二人のやりとりを見に出て来た野次馬達と一緒に袋の中身を覗き込むと、少女達はそろって天を仰ぐ。

若干恥ずかしそうに照れ笑いする後輩を前に、さてどうしたものかと穂浪は頭を抱えた。



「―――なになに、あいつ今日休み?」


「そういや、マルに英語の参考書借りたままだったなー」


「俺は数学」


「参考書は借りてないけど、私前に苦手科目見てもらった事あるよ」


「それ僕も。マルちゃん印の勉強会には毎度お世話になってます・・・」


「でも大抵、途中で脱線して雑談大会になるんだよねー」


「あるある」



続いて他の生徒たちも教室から出てきて、何時の間にやら二人の周囲には人だかりが出来上がっていた。

そのまま話題の人物(マル)についての雑談が始まると、クラスメイト達の口からは次々にひょうきんな級友のエピソードが飛び出してくる。


あたしは普段見たことのない先輩の一面を見れた気がして、なんだか胸が熱くなってしまった。

そのままにこにこしながら雑談に耳を傾けていると、級友の一人が口にした内容がふと耳に留まる。



「―――丸ならさっき、通学路ですれ違ったぞ」


「本当!?それいつ、どこで!?」


「・・・うお!?」



話題が明後日の方向へ向かおうとする中、ついに現れたかの人物の消息にまつわる証言。

一斉に周囲の視線が発言者へと集まる。


空手部所属の日に焼けた少年はその勢いに一瞬たじろぐと、こほんと咳払いをしてから今朝の出来事を語り始めた。



「・・・20分くらい前だよ。確か―――交差点前のバス停ん所で、なんか二人組のオッサンと話してた」


「誰?知ってる人・・・?」


「見たこと無い。少なくとも俺は知らん奴」


「うぅん、どういう事だろ・・・?」



てっきり病欠か遅刻だとばかり思っていたところに、思わぬ目撃証言が飛び出し級友たちは一斉に首を傾げる。

それまで珍しく沈黙を保っていた梓は意を決したように顔を上げると、床に置いたままの紙袋を取り上げた。



「―――あたし、行ってくる!」


「え。・・・ちょっ、そろそろ始業のチャイムなんだけど!?」


「お願い!先生にはパイセンから言っておいて!」


「私、三年生なんですけど―――!!?」



開口一番、紙袋を抱えたまま走り出した後輩を呼び止めるも―――時すでに遅し。

見る見るうちに廊下の彼方へと消える少女の後姿に、取り残されたクラスメイト達は途方に暮れる。


マルに続き、その後輩までが学校から姿を消したこの事態を、はたして教師にどう説明するべきか。

穂浪は痛む頭を抱えると、後輩の消えた廊下に向けて困惑混じりの悲鳴を上げるのであった―――



今週はここまで。

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