∥004-U 力を合わせて
#前回のあらすじ:触手怪人は危険度D
[マル視点]
眼前に立ちはだかるのっぺらぼうの怪人を前にして、改めて思い返してみる。
危険度Eの敵―――『葉巻型UFO』ははたして、どの程度の強さだっただろうか。
実際に戦った感触からして、ぼく一人では倒すまでは出来ないものの、決して負けるような相手ではなかったように感じる。
ゆうに5mを超える巨体と、空からビームの雨を降らせてくる戦闘スタイルこそ厄介なれど、メルの防御を抜けない以上は負ける要素など無い相手だからだ。
【神力】が続く限りは相手の攻撃も無効化できる訳で、ぼくの代わりに攻撃を担当してくれる仲間さえ居ればおそらく楽勝だろう。
・・・ぼく一人だと千日手だろうけど。
一方、危険度Cの敵―――『10フィート型シング』。
奴は当たり前のようにバブルシールドを破壊してくる、当時のぼくではまともに太刀打ちすらできない強敵だった。
あの時の敗北をきっかけに、一度メルの能力や戦い方を見直している。
そのお陰でぼくも、当時より少しくらいは強くなれた筈だ。
それでも仮に今、奴へリベンジマッチを挑んだとして―――未だに勝てるビジョンが全く見えない。
そして、危険度Eと危険度C、その中間に位置するという『スレンダーマン型シング』。
その強さとははたして、如何程の物であろうか?
ヘレンの言によれば、勝ち目はあるという。
攻撃方法が物理主体という証言を信じるならば、自分とメルが矢面に立つ事で防御面は何とかなる・・・筈だ。
既に、戦闘は開始されている。
ぼくは自分に活を入れなおすと、幾分腰が引けた様子で化物と対峙している兜野郎達へと呼びかけるのだった。
「Danielさん!Jamesさん!奴の攻撃はぼくが引き受けるので、隙を見て切り込んでください!」
「し、しかし―――」
「うぅ、逃げた方が良いと思うのですぞ・・・?」
「今更ぐだぐだ言っても遅いですって!いいから腹くくってくださいよ。それから、アンジーさんは―――」
「アタイに指図―――するな!!」
怒声と共に、右手より放たれた閃光がスレンダーマン型の巨体に吸い込まれる。
血しぶきのように菫色の粒子が着弾点に舞うが、動じた様子のない怪人の姿にアンジーは小さく舌打ちする。
―――彼女の先制攻撃より開始された怪人との第二ラウンドは、今のところこちらの優勢のまま推移していた。
廊下側の窓から落下したスレンダーマン型を追って庭へ飛び出したぼく達は、旧診療所の建物とその周囲を取り囲む森の間に広がる草原にて、互いににらみ合っていた。
しなやかな脚で芝生の上を駆け回り、間断なく遠間からクロスボウによる射撃をしかけるアンジーと、それをいなしつつ触腕の一撃を放ってくる怪人。
表面上は一方的にこちらが攻め立てているように見えるが、残念ながら相手の反応が鈍く、こちらの攻撃があの巨体に有効打を与えられてはいないように感じる。
当のアンジーもそれを感じ取っているのか、次第に苛立ちを募らせつつあるようで正直、ちょっと怖い。
そんな彼女に付き従う野郎二名も、先程からチラチラと後ろを振り返るばかりで、戦闘にいまいち身が入っていない様子だ。
先程の呼びかけには応じず、相変わらず怪人へ光の矢を射かけている彼女の様子に内心ハラハラしつつ、ぼくは上空より振り下ろされた触腕の一撃を瞬時に膨張させたメルの体で受け止めるのだった。
「べつに指図するつもりは無いんですけれど・・・連携した方が戦いやすいし、守りやすいです。ここは皆で協力しましょうよ」
「・・・アタイは少なくとも、やる気のない奴とつるむつもりは無いよ」
「うっ・・・」
「ぐぬぅ・・・」
「―――まあ、気持ちはわかりますけど。それにしたってアンジーさん、何だか焦ってません・・・?」
ふん、とため息交じりに向けられた鋭い一瞥に、男二人がばつが悪そうに視線を逸らす。
辛辣ではあるが残当な一言に、同意を返しつつぼくはひとつ首を捻る。
ヘレンから帰還の選択肢を提示された際、最初に残って戦う意思を示したのは他ならぬアンジーだった。
その前、怪人の潜むシャワールームにいち早く乗り込んだのもまた彼女だ。
普段からわりとぶっきらぼうで人当りが強い方ではあるが、ここのところ彼女の行動にはわずかな焦りというか、らしくないところが見えるように感じる。
それを指摘する言葉に対し、彼女は僅かな間黙り込むと、ぽつりと小さく呟くのだった。
「・・・あの女の子」
「えっ―――?」
「シャワールームの前で見失ったきり、まだ見つけられてない・・・。こんな化物がうろついてる場所に取り残したまま、アタイだけ引き返すだなんて―――納得、できるかよ!」
旧検疫所の中で遭遇した、正体不明の病院着の幼女。
どうやらアンジーの抱える懸念事項は、あの子の安否についてだったらしい。
尤も、一人きりで真夜中の旧検疫所をうろつくような幼女がまっとうな存在とは思えないが―――
それでも、無事がわからないまま放置して帰る事に抵抗を感じる気持ちは、ぼくにだって理解できるのだ。
「なら、なおのこと力を合わせてこいつを早く倒して、あの子を探さないとですね。一人よりは二人、二人よりは四人、ですよ」
「・・・フン」
会話の合間に放たれた触腕の一突きを、サイドステップで躱してからアンジーは小さく鼻を鳴らす。
空ぶった後、なおも彼女を追おうとする触腕をメルで牽制しつつ、ぼくは一歩進むと怪人に向けて手を広げて見せた。
「悪いけど―――ここから先は通せんぼだ。ぼくの目が黒いうちは友達に手出しはさせないよ」
「初めて会った日にも思ったけど・・・あんたって全く、呆れる位のお人よしだよ」
一瞬視線を交わし、にやりと不敵に笑うぼくたち。
向き直ってメルを呼び戻すと、どこから触腕が伸びてきても弾き返せるよう待機させる。
万全の迎撃態勢を整えたぼくらを前に、黒衣の怪人はくきりと首を傾げるような動作を見せる。
深夜の旧検疫所を舞台とした怪人との第二ラウンドは、再び大きく動きを見せようとしていた―――
今週はここまで。




