∥004-T ああ!窓に(以下略
#前回のあらすじ:JAPANESE HENTAI SYOKUSYU
[マル視点]
「それはきっと『スレンダーマン型シング』ですね!」
「スレンダーマン型・・・」
「シング?」
ふよふよと宙に浮かんだまま、にっこりと天使のように微笑む褐色少女を前にして、野郎3人が怪訝な表情でその話に聞き入っている。
現在地は旧検疫所の廊下―――シャワールームを出てすぐの場所だ。
天井からの襲撃を逃げ延び、出入り口を封鎖してとりあえずの安全を確保したぼく達は、時を移さずヘレンちゃんを呼び出していた。
シャワールームで遭遇した、あの怪人の正体を聞く為だ。
「ネット上で広まった都市伝説を原型としたタイプですねー、長身でのっぺらぼう、腰のあたりからは無数の触手。出会ったら気が狂うとかょぅι゛ょが大好物とか、まあ所説ありますが・・・お聞きした特徴からして、まず間違いないかとー」
「そ・・・そう。それで?そのスレンダーマンとかはこんな場所で、普通に出くわすようなモノなの?」
「それは無いですねー。この旧検疫所は宇宙人型ばっかしの初心者向け狩場ですから。―――ですが最近、他の任務参加者から怪しげな影を見たという報告が入ってましたので、どうやら何時の間にやら居付いちゃってたみたいですねー」
オウム返しに聞き返す男性陣の後方より、質問を放ったアンジーの言葉に小首を傾げると、ヘレンは口元に指を当てたままそんなことを答える。
どうやらあの怪人の出現は、ヘレンにとっても予想外のモノであったらしい。
「なんか最近、そんな話ばっかりのような気が・・・」
「人肉屋敷の時程の異常事態じゃ無いですケドね?ちなみにスレンダーマン型を含む危険度等級はこんなカンジになりますよー・・・っと。はいどーん!」
======<危険度等級一覧表>======
A:未確認
B:フライングヒューマノイド型(霧巨人)
C:10フィート型
D:スレンダーマン型
E:葉巻型UFO
F:宇宙人型・スカイフィッシュ型・小型UFO
危険度:A(高)~ F(低)
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気の抜ける掛け声と共に、輝く半透明のボードが中空に出現する。
学園でも何度か目にした、ヘレン謹製のメッセージパネルだ。
そこには、これまで目にしてきた【彼方よりのもの】達の名前が『A~F』のアルファベット順に並べられていた。
何処からともなく取り出した教鞭(学校の先生が手に持っているアレ)を片手に、ドヤ顔のヘレンちゃんによる解説が始まる。
「危険度等級とゆーのはですね、ざっくりと【彼方よりのもの】の強さを格付けしたものなんです。強い順にAからBという順に弱くなっていって、最低がF。件のスレンダーマン型は危険度Dですねー」
「ふむふむ」
その言葉に、幾度も頷きながらぼくはメッセージパネルをじっくりと眺める。
交戦した経験のある相手から考えると、件の怪人は葉巻型UFO以上、10フィート型以下といった強さのようだ。
教鞭を後ろ手にしまい込むと、くるりと振り返ったヘレンはぱちりとウインクをして見せる。
「まあ、厄介な能力を持ってたりで等級が低い相手にも油断は禁物なんですけどねー。・・・なにはともあれ、本来の討伐目標である宇宙人型は皆さんの努力の甲斐あって一掃されてますし、このまま帰還しちゃっていいと思いますよー?」
「・・・その場合、あの怪物はどうなるのよ」
「別途希望者を募って再討伐ですかねー?場違いなだけで普通に討伐実績もある、言っちゃなんですがありふれた存在な訳ですし」
「つまり―――アタイが倒しても問題は無いって訳だ」
ヘレンの答えに不敵に微笑み、アンジーが低くつぶやく。
その様子に不穏なものを感じた兜野郎達は若干引きつつも、恐る恐るといった感じに話しかけた。
「ア、アンジー・・・さん?」
「ちょちょちょっ、止しといた方が良いですぞ!?」
「ふん・・・」
「・・・それで実際のとこ、どうなんですか?ぼく達でも倒せそうな相手なら、そういう選択肢もアリだと思うんですけど」
引き留めにかかる二人に対し、あからさまに不機嫌な表情で舌打ちするアンジー。
そんな様子を横目で眺めつつ、ぼくは褐色少女に勝算の程を尋ねた。
彼女はうーん、と右に首を傾げると、そのままくるりと空中で一回転した後にからりと笑ってみせた。
「んんー。相手は物理攻撃主体ですしー、・・・お兄さんが上手く盾になりつつ、チクチク攻めてけば十分イケるのではないかとー?」
「ふむーん」
「―――何にしろ、決断するのなら早くすることをオススメしますよー?」
「・・・へっ?」
そこで言葉を切ると、ヘレンはシャワールームの反対側、明かり取りの窓が並ぶ壁のほうへちらりと意味ありげに視線を投げかける。
つられてそちらを向くと―――ガラス窓の外に、べったりとのっぺらぼうの怪人が張り付いている光景を目にしてしまった。
「なっ・・・外壁を回り込んできたの!?」
「ダン、あ、あれ!!」
「―――ああ!窓に!窓に!」
窓の外に広がる異様な光景に、思わず驚きすくみ上る男性陣。
それに対し、いち早く動きを見せたのは紅一点たるアンジーであった。
素早く右手の小型クロスボウを引きしぼると、すぅ、とおおきく息を吸い込む。
「―――『電』『躍』・・・撃っ!!」
力あることばが形をとり、クロスボウのレールに光り輝く一本の杭が姿を現す。
そのまま窓枠から覗き込む怪人に狙いを定め―――鋭い叫びと共に一筋の光束が放たれた!
怪人へ向けてまっすぐに突き進む光の矢は―――しかし、その前に立ちはだかる窓ガラスに衝突するかに見えた。
だが、窓ガラスに触れるほんのわずか手前、数㎝の隙間を残し唐突に、光の矢は消失してしまう。
―――かと思えば、次の瞬間には窓ガラスを飛び越え、怪人の眉間に光の矢は突き立っていた!
「なんと・・・!?」
「っし!どんなもんだい!!」
―――突き刺さるだけでなく、眩く稲光を放ち放電を始めるアンジーの矢。
がくがくと全身を痙攣させると、ヤモリのように窓に張り付いていた怪人はそのまま落下し、ずしんと重く地響きを上げる。
それを確認もせず隣の窓を開け放つと、アンジーは窓枠に片足をかけてさっそうと夜空に向けて踊り出した。
落下した怪人と、庭へ我先に飛び出していった少女を呆気に取られて交互に眺める男性陣。
数舜の間を置き、ようやく我に返ったぼくたちはよたよたと窓枠をよじ登り、彼女に遅れて建物の外へと飛び出してゆく。
なし崩し的に、無貌の怪人との第二ラウンドはこうして幕を開けたのであった―――
ああ!
・・・今週はここまで。




