∥004-S アタック・ザ・スレンダーマン
複数話にまたがる誤字が判明したため、急遽訂正を実施しました。
×神使アルキメデス
〇神使メルクリウス
読者の皆様には、この場を借りてお詫びいたします。
#前回のあらすじ:上から来るぞ、気を付けろ!!
―――198X年 西アメリカ、テキサス州スターリング・シティ。
図書館の火災現場跡から見つかった一枚の写真。
そこには身の毛もよだつような、異様なものが映り込んでいた。
写真が撮影されたのは、火災が起こる1週間前。
フィルムが収めているのは、子供達が無邪気に遊ぶ穏やかな一場面である。
しかし、その背後には彼らを追いかけるようにして、異様に背の高い、ひょろりと細長い男の姿が映っていたのだ。
火災との関連を調査するべく、当局は写真に写っていた子供達に連絡を取るも、全員が音信不通。
奇しくも写真が撮影されたその当日、全ての子供達が消息を断っていたのだ。
写真の撮影者もまた行方不明となり、一連の事件は歴史の闇へと消えた。
―――現在に至るまで、未だ犯人は見つかっていない。
唯一残された手掛かりは人々の憶測を呼び、謎の人影にはその外見からとある異名が付けられた
『スレンダーマン(痩せこけた男)』と―――
・ ◇ □ ◆ ・
[マル視点]
間に合わない。
天井に張り付いた大男が攻撃態勢に入ったその瞬間、仲間のうちアンジーだけがその真下に居た。
風を切って迫りくるのは、漆黒の艶を放つ無数の触腕。
その威力は不明だが、少なく見積もって3mを超える、ムチのようにしなる腕に殴られて無事でいられるとはとても思えない。
ぼくの【神使】―――メルの防御膜なら防ぐことも可能だろうが、残念ながら今メルはぼくの手元だ。
ちりちりと焦がすような焦燥感に駆られながら、ぼくは大きく声を張り上げた。
「アンジーさん!避けて―――」
「・・・ッッ!?」
うなりを上げて迫る触腕を前に、青い瞳を驚愕に見開く少女。
彼女の耳に警告は届いていたが、先ほど至近距離から目にした触腕のショックから身体がこわばり、アンジーは回避行動を取れずにいた。
漆黒の暴力に打ち据えられる未来を想像し、思わず固く目を瞑るアンジー。
しかし、攻撃が届く直前にその前へ踊り出た二つの人影が、雄叫びとともに獲物を魔の手に向けて力の限り振り下ろしていた!
「「―――フィアナ騎士団万歳っっっ!!」」
「あ、アンタ達・・・!?」
「・・・おお、ナイスフォロー!」
黒く濁った体液をまき散らし、タイル床の上に落ちてびちびちと痙攣を繰り返す切れ端。
触腕の先を切り飛ばされ、先制攻撃をいなされた怪人は不思議そうに血潮を零す切断面を眺めている。
荒い息をつきながら刃を濡らす黒い血潮を振り散らすと、鎧兜に身を包んだ二人の騎士は鈍く光る切っ先を、天井の怪人へと突き付けるのだった。
「ヌフ・・・フハハハハ!どぉぉおおだ、我が名槍に貫けぬものなし、である!!」
「某の目が黒いうちは、キサマのようなHENTAI触手モンスターなぞにおヘソの君は指一本触れさせぬ、ですぞ!!」
「アンタ等・・・」
背後でファンファーレでも鳴り響きそうな、ちょっと絵になる光景であった。
しかし相手は痩身無貌の怪人、そんなことは知らぬとばかりにびくりと全身をよじると、再び一斉に触腕を解放した。
天井よりうなりを上げ、先程の倍以上の密度で迫る漆黒の鞭。
金属兜の下で浮かべていたドヤ顔を一瞬で引きつらせ、二人組は慌てて迎撃態勢を取るが―――流石に相手が悪い。
抵抗もやむなく、その姿は触腕の奔流に呑み込まれる―――かに、見えた。
しかしその直前、ふわりと蒼く輝く水塊が二人の眼前へと躍り出た。
「エアバッグ式緊急回避!!!」
『・・・!』
「ふぬぅ!?」「ほげっ!」「きゃああ!?」
掛け声と同時に爆発的に膨らみ、瞬時に直径2m大の巨大バルーンへと変化するメル。
その巨体で触手の乱打を受け止めると、反動を利用して身動きの取れない3人を入り口側へ押し出した。
口々に悲鳴を上げ、床の上に倒れこむ仲間達。
その身体に負傷が無いことを確かめると、ぼくはドアを開け放ち口に手を当てて大きく声を上げた。
「撤退しましょう!メルがあいつを押し込んでるうちに・・・早く!」
「こ、腰が・・・」
「某に掴まるのですぞ!」
「アンタねぇ、後で覚えてなさいよ・・・!」
「まともに攻撃喰らうよりゃマシです。そんな事より文句垂れてないで、走って!」
『・・・・・・!!』
さらに膨らみ、天井にまで届かんというサイズに巨大化するメル。
聳え立つようなコバルトブルーの巨体越しに響く、鈍い打撃音を背にほうほうの体で逃げ出す仲間達。
メルを回り込もうと狙いを付けてくる触腕を何とかいなしつつ、全員がドアを通過したことを確認したぼくは、即座に【神力】の供給をブーストさせる。
全身を蒼く輝かせ、再び爆発的な膨張を始めるメル。
二度目となる急激な膨張により、部屋の入口にまで達したメルの体は閉まりかけだった金属扉を完全に覆い隠した。
部屋内には、みっしりとコバルトブルーの巨体が詰まっている。
ぼくはガラス越しにそれを確かめると、完全に固定された扉を後に廊下へ向けて歩き出すのであった―――
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
今週はここまで。




