∥004-Q 針が指し示す先
#前回のあらすじ:YouラブしちゃいなYO
[マル視点]
「吾輩の方が華麗に倒したのである!!」
「某の方がカッコよく討伐したのですぞ!!」
「・・・なにこれ」
人気のない、深夜の旧検疫所。
二本の通路が交差する広めのホールにて、バケツ型ヘルムと鴉の嘴型ヘルムが至近距離でにらみ合っている。
その後ろには、呆れかえった様子でため息を付くスレンダーな金髪少女と、その傍らで苦笑いを浮かべる小柄な東洋人の少年――マルが居た。
諍いのきっかけは、アンジーとの会話が一区切り付いた後。
現在がるると唸りを上げにらみ合っている両名が戻ってきた時のことだった。
先行して敵を蹴散らしていた二名が、手柄の数を互いに自慢し始めたのだ。
そこで終われば良かったのだが―――奇しくも討伐数は互いに同数。
じゃあどちらが上か?そうやって言い争いを始めた結果、内容の優劣へ話の火種が移ったのである。
「吾輩は・・・こう!勇猛果敢たる突進にて3体の敵を同時に撃滅せしめたのである!ふんっ!!(チラッ)」
「それを言うなら某は・・・とりゃっ!はあっ!この通り!華麗なる剣捌きで居並ぶ悪鬼どもをざんざんばらりと膾にして見せたのですぞ!!(チラチラ)」
突撃槍を天高く突き上げ、己の肉体を誇示して見せる馬上の騎士。
それに対抗して鈍く輝く長剣を構えると、素振りを始めるバシネット男。
対抗心を互いに剥き出しにしつつも、合間合間にチラチラと視線を送る先は同じ―――アンジー嬢のすらりとした立ち居姿である。
男が思っている数倍女性は視線に敏感―――
そんな言葉が示す通り、ちくちくと顔やらおヘソやらに無遠慮な視線が刺さるのを感じ、アンジーは居心地悪げに一歩後ずさった。
これまでなら、理由のわからない視線に当惑やら嫌悪感が先に立って身震いするところであるが、先ほど聞かされた話が真実であるなら視線に込められているのは『恋』である。
これまで全くそういうものに縁が無いせいか、どうしたらよいのか判らず、アンジーは肩を落とし二度目のため息を吐くのだった。
「うぬぬ、かくなる上は残る敵を全て平らげ吾輩の筋肉をアッピールするのである!」
「ぐぬぬ、脳筋の戯言なぞ普段なら聞き流す所ですが、ここはあえて雌雄を決してやるのですぞ!・・・という訳でマル、次の敵を探すのですぞー!!」
「あははー、はいはいっと。んじゃーちょっと待っててくださいねー・・・・・・おや?」
「「 ? 」」
少女の葛藤には気づかず、兜を突き合わせひとしきり唸った後一斉にマルへ詰め寄る二名。
至近距離にまで迫る兜野郎共の形相に若干ひきつった笑みを浮かべると、ぼくは見鬼盤へ視線を落とした。
できるだけ水平になるように注意しつつ、細かく揺れる針を注視すること数秒。
一向に動きを見せないその様子に首を傾げると、しばし考え込んだ末にぽんと手を叩くのだった。
「―――どうやら、敵は全て倒しちゃったみたいですね?打ち止めです」
「なんと!?」
「そ、それでは勝負が付かないのですぞ!?」
どれだけ待っても、見鬼盤の針は敵を示さなかった。
つまり、ここにはもう敵が居ないか、何らかの手段で感知を免れているという訳である。
前者はともかく、後者をどうにかする手段はぼくには無いので、全滅したと判断する他無い。
そんな訳で、揃ってリノリウム床に倒れ伏し行き場の無い憤りにかられ悶える二名をなだめにかかるぼく。
そんな光景を、少し離れた位置から若干安堵の交じった視線を送るアンジーであった。
「・・・全く。もうやることも無いんだし、こんな所で駄弁ってないでとっとと帰りましょ?」
『だめ』
「―――えっ?」
「・・・誰であるか、その子」
一行に対し帰還を促したアンジーだが、ふいに手を引かれる感触に何気なく視線を下ろす。
―――その先に居たのは、7~8歳くらいの少女であった。
真夜中である。
しかもここは現在使われていない施設の中だ。
なんの前触れもなく、唐突にこの場へ滑り込んでいた闖入者。
その存在に、脳が事実を処理し切れずアンジーは数舜の間フリーズを起こしていた。
その場に居た、他の者たちもまた同様であった。
ぼくは阿呆のようにぽかんと口を開けたまま、アンジーを見上げる少女を観察する。
人種は白人、若干くせのある金髪を肩の下まで伸ばしている。
あどけない表情に青い瞳、それこそ、アンティークドールのような可愛らしい少女である。
外見だけ見れば、洋画のワンシーンのような絵になる光景であった。
―――ここが無人の旧検疫所でなければ。
そもそも、【彼方よりのもの】の影響下にあるこの空間では時間が動いていない。
よって、余程の例外でもない限り、普通の生命体ならば活動する事すら不可能である。
靄がかかったような思考に警告灯が灯り、ぼくは弾かれたように手元の盤面を見た。
「新手―――!?」
針は動いていない。
―――つまりあれは【彼方よりのもの】ではなく、覚醒者、あるいは人肉屋敷で目にしたような幽霊という事になる。
再び視線を上げる。
アンジーの側に居た筈の少女は、フィルムをコマ送りしたように掻き消えていた。
慌てて周囲を見渡すと、数m先の通路入口にぼんやりとほの白い少女の人影が佇んでいる。
一度こちらを振り返ると、無言のままきびすを返し廊下の先へ駈けていった。
「ま、待ちなさ―――ちょっと!放しなさいよ!?」
「そ、そうは言いましても―――オテテスベスベ」
「あ、明らかに雰囲気がおかしいのですぞ!?アッタカイ」
反射的に、少女を追おうと飛び出すするアンジー。
しかしその両手を進路上に居た二名が引っ掴み、あわやという所で引き留めることに成功していた。
内心で二人へグッジョブを送りつつ、何やら締まりのない顔でぶつぶつ呟き出した彼等の様子に小首を傾げるぼく。
―――とりあえず、今は謎の少女の行き先だ。
気を取り直し薄闇の向こうに目を凝らすと、通路の突き当りを右手に曲がる白い衣を辛うじて捉えることができた。
「いい加減にしなよ!こんな危険な場所にあんな子を放置したら何が起きるか―――」
「で、ですが!そもそも幼女が真夜中に一人で歩き回ってる事自体、おかしいのでありますぞ・・・!」
「そ、それに・・・今のょぅι゛ょ、着てた服がまるで病院着、みたい、な・・・」
一方、未だ揉みあいを続けているバカ二人とアンジー。
少女を追おうとするアンジーを何とかなだめようとする二名であるが、何気なく発した一言をきっかけにとある疑念が鎌首をもたげ、3人そろってしんと押し黙ってしまった。
「―――そういえば。あの子あれだけ走ってたのに聞こえなかったよね?足音」
そこへ止めとなる一言を口にした結果、いよいよもって疑念が確信へ変わる。
若干青ざめたまま互いに顔を見合わせるぼくたちであったが、その時手元にかずかな震えを感じ取り視線を落とす。
―――見鬼盤の針が、ほのかな菫色の光をたたえグルグルと激しく回転していた。
息をのみ様子を見守るぼくの目の前で、やがてぴたりと見鬼盤は沈黙する。
白々とした光を放つ針は、少女が消えた廊下の奥を真っすぐに指していた―――
今週はここまで。




