∥004-N 神聖モテカワ王国
#前回のあらすじ:非モテ系覚醒者の日常
[マル視点]
「敵、通路の奥右手側に・・・ちょっと多いですね、数5!」
「むむっ、面倒であるな。どうするべきか・・・」
「うーん、そうですねえ―――」
菫色のほのかな灯りが照らす廊下に、連れ立って靴音を響かせる人影が4つ。
その先頭となる、一際小柄な影が手に持った板をしばし睨むと、振り返って口を開いた。
言うまでもなく、この物語の主人公―――マルこと丸海人その人である。
その発言に相槌を打つと、白毛の騎馬に跨った男―――Danielが分厚い金属兜の下から唸り声を上げる。
ぼくはしばし眉根を寄せ考え込むと、中空にメルを喚び出しつつ思いついた内容を口にした。
「以前使った手で行こうと思います。ぼくがまず敵を左右に分断するんで、Danielさんが右、Jamesさんとアンジーさんは左をお願いしますね。・・・メル!」
『・・・!!』
ぼくは手に持った見鬼盤を仕舞うと、右手を空にかざし【神力】をメルに集中させる。
コバルトブルーの輝きを纏った水塊は空中で肥大化し、みるみるうちに直径2m弱の巨大なシャボン玉と化した。
ずしんと重たげな音を上げ着地したメルの姿に、目を丸くして立ちすくむ一同。
でんとリノリウム床の上に鎮座した巨体を前にぼくは満足げに頷くと、ぴょんと飛び上がりつるりとしたその表面に頭から突っ込んだ。
ほとんど抵抗なく、全身がすっぽりと巨大なシャボン玉の中へと包まれる。
ぼくは二・三度飛び上がり、足先が泡の外側へ突き破ったりしないか確かめると、振り返ってにこりと微笑んだ。
「それじゃ、皆さんは後から付いてきて下さいね?」
「「「 えっ? 」」」
言うが早いか、せーのと勢いをつけて走り出す。
内側を蹴る脚の動きに合わせ回し車のように巨大シャボンが回転し、ごろごろと大きな音を立てて廊下をコバルトブルーの巨体が突き進んでゆく。
その光景を呆気に取られ眺める三人だったが、置いて行かれた事実に気づくと慌てて駆け出すのであった。
廊下の先に突き当りの壁が見えると、ぼくは思い切り上体をひねって右側の分岐路に向け方向転換する。
角を曲がり、腰に下げたランタンの光が廊下の先にわだかまる宇宙人型シングの矮躯をぼんやりと浮かび上がらせた。
<< What's up!? >>
廊下の向こうから徐々に近づいて来る異音に、驚きざわめく宇宙人型達。
その黒目だけのつるりとした瞳は、闇の奥から飛び出してきたコバルトブルーに煌めく巨大な球体を目の当たりにし、驚愕に大きく見開かれた。
蜘蛛の子を散らすがごとく逃げ出すが時すでに遅し、球体は既に間近にまで迫っていた―――!
「W3アタック、いっけぇーーー!!」
<< Ahhhh!!? >>
掛け声一閃、群れのうち一体を下敷きにしたまま轟音を上げて廊下を通り抜ける球体。
ぼくは振り返ると、曲がり角から遅れて現れた仲間達の姿に向け大きく声を張り上げた。
「敵は浮足立ってます、追撃を!」
「わ・・・わかったのである!フィアナ騎士団万歳!!」
「某にも見せ場が欲しいのですぞ・・・フィアナ騎士団万歳っ!」
「あぁもう・・・どうなってるのよこれ!?」
口々に叫びを上げながら突撃を敢行する騎士達に、悪態をつきつつ援護射撃を放つアンジー。
新たに現れた敵に応戦しようと向き直る宇宙人型達だったが、最初に戦線をかき回されていたせいか数分と立たず全滅し、菫色の粒子となって消えていくのであった。
メルの巨大化を解除すると、ぼくは戦いを終え一息つく仲間達の元へ駆け寄った。
「お疲れ様!皆さん見事なお手際でしたよ」
「むむっ、そうであるか?・・・それほどでもあるな!わっはははは!」
「某の手に掛かればこの程度、赤子の手を捻るがごとくですぞ!フハハハハ!」
「「・・・フィアナ騎士団万歳ッ!!」」
「・・・」
ねぎらいの言葉を受け、盛大に高笑いをしてからキメポーズを見せる二人に、少し離れた所からジト目で呆れたように視線を送るアンジー。
男性陣二人のアプローチを手伝うつもりでここまで進んできた訳だが、その目論見はいまいち捗っているとは言い難いようだ。
手に持った獲物を掲げ勝鬨を上げる二人を前に内心でそっとため息を付きつつ、それを気取られないようにぼくは努めて明るい表情で掌を叩くと、一同に先を促すのだった。
「―――さて!目の前の敵は対処できましたがまだまだ先は長そうです。敵の反応も残ってますし、気を引き締めて行きましょう!」
「了解である、今宵の吾輩は絶好調なのである!これはもう、残る敵は全て吾輩の槍の錆になってもおかしくないのでは・・・?(チラッ)」
「了解ですぞ、某の辞書に油断の二文字は無いのですぞ!どこぞの騾馬に跨ったバケツ男になぞこれ以上見せ場はくれてやらんのですぞ・・・!(チラッ)」
「うぬぬぬぬぬぬ」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
「あはははは・・・はぁ」
交わす視線に火花を散らしつつ、ちらちらと最後尾を歩くアンジーの姿を盗み見る野郎二名。
ここから先は競争だ!と言わんばかりに廊下の先の薄闇へ向けて駆け出す後ろ姿を、ぼくは若干ひきつった笑顔で見送った。
がしゃがしゃと騒々しい音が遠ざかっていく中、二人に遅れまいと駆け足の体勢に入ったぼくの肩を何者かが叩く。
振り返った先には、不機嫌なオーラを背負ったアンジーが静かに微笑んでいた。
「・・・ちょっと」
「うぇっ!?え、えっと・・・アンジーさん?な、何か御用ですか・・・?」
「あんた、何か隠し事してるでしょ」
ぎくり。
―――あるかと問われれば、アタックされる当人の許可も取らず恋の手伝いなぞしている身として、心当たりありまくりな訳だが。
正直にはいそうですと頷く訳にも行かないので、ぼくは微妙に視線を逸らしつつ当たり障りのない回答を試みるのであった。
「き、気のせいじゃないのかな~?そ、それよりあんまり遅れるとアレだし、僕らもそろそろ出発した方が良いんじゃない・・・かな~?」
「・・・・・・ふうん?」
すっと両目を細め、腕組みの姿勢でじろりと睨むアンジー。
その静かな迫力に押されつつ、ぼくは冷や汗を流しながら笑顔を張り付け彼女の顔を見上げた。
しばしの間、無言のまま視線を交わす二人。
やがて、アンジーは小さくため息をつく。
腕組みを解き、片目を瞑ったまま彼女はぽつりと口を開いた。
「―――ま、いいさ。そんな事よりも、今からちょっと時間もらえる?」
「えっと・・・あんま遅くならない範囲なら」
「ありがと。それじゃあ―――あんたに聞きたいこと、あるんだけれど」
いいかしら?と無表情で続けるアンジー。
ぼくは無言のまま頷くと、どうやって二人組との協力体制を誤魔化そうかと脳ミソをフル回転させるのであった―――
今週はここまで。




