∥004-I そうだ 野良PTと狩りに行こう
#前回のあらすじ:今後あーちゃんによるランダム襲撃イベントが発生します
[マル視点]
「―――今日は無理ってこと?」
「はい・・・ごめんなさい」
あるうららかな日。
数日ぶりに任務へ出かけようと思い立ったぼくは、旅の道連れを求め管理人室まで足を運んだのだが―――
結果は全滅だった。
商店の仕込み(明さんの仕事を手伝っているらしい)で外せないという叶くんをはじめ、寮のメンバー全員に何らかの用事があり同行を断られてしまったのだ。
申し訳なさそうに頭を下げる白髪の少年に、軽く手を振って気にしていないことを伝えると、一人取り残されたぼくは寮の玄関から呆然と青空を見上げるのだった。
―――さて、どうしようか。
ひとり小首を傾げ、これからの予定について考えた結果。
せっかくなので、新たなる出会いというヤツを探してみる事となったのである。
・ ◇ □ ◆ ・
―――と、言う訳で。
ぼくは『イデア学園』の中心、大ホールの入口に立っていた。
中世の聖堂を彷彿とさせる、巨大な半球状建築物の中に位置するこの場所は前に目にした時と同様、男女国籍問わず大勢の人々がひしめき合っていた。
ここの役割を端的に表すならば―――『任務の受注場所』である。
全世界からリアルタイムに【彼方よりのもの】の襲撃を感知し、それを迎え撃つ―――『緊急任務』。
既に存在する【彼方よりのもの】のコロニーを叩き、その勢力を削る―――『常設任務』。
この二種が常にホール中央のスクリーンへ提示されており、その内容から自分に合った任務を見つけ出し、受注することが出来るのだ。
そして、肝心の受注方法はというと―――
①大ホール中央に浮かぶスクリーンの中から目的の『任務』を見つける
②ヘレンちゃんへ受注の意思を伝える
③受注札が貰えるので、記載されている要綱を確認する
④準備が出来たらヘレンちゃんへ出発を伝える(出発しない場合、受注札は時間が過ぎると手元から消える)
以上である。
このうち、①についてはヘレンちゃんに良さげな任務が無いかと尋ねれば、「しょうがないですねー」とか言いつつちゃっちゃと探してくれる。
ヘレンちゃんに要件を伝えるにはどうすればいいのかと言うと、適当にそのへんに向かって話しかければ何時の間にか横に居て相槌を打ってるので、要件を伝えるだけだ。
冗談みたいだが、本当の話だ。
と言うか、たった今試したばかりだしね。
神出鬼没だったり、宙に浮いてたり、視界に入るだけで14・5人は分身してそこらに出現していたり。
冷静に考えると本当にわけのわからない存在なのだが、彼女が居ないと学園全体が非常に困ったことになるので、ぼくを含め【神候補】の皆はヘレンちゃんの出鱈目さについて突っ込む事を諦めていた。
そういう訳で、ぼくは適度に難易度の低そうな常設任務を見繕ってもらったのだが―――
「他に参加希望の人達がいますねー」
「・・・そういう場合、どうなるの?」
「特に不満とか出なければ全員送っちゃいます。報酬は例によって、功績その他諸々を加味して頭割りですねー」
・・・との事だった。
どうやら、同じ任務を受ける人達とバッティングしてしまったらしい。
余程の事でもなければ報酬が原因で揉めることは無さそうなのは助かるが、顔が見えない以上どんな相手が来るかわからないのはちょっとだけ怖い。
ぼくは顎に手を当てて少し考え込むと、中空にふわふわ浮いているサマードレスの少女にちらりと視線を送った。
「うーん・・・どんな人が参加を希望してるのか教えてもらうのって、大丈夫かな?」
「大丈夫ですよー。えーっと、男性二人のチームと、女性一人の二チームですねー。あちらにもお兄さんの事は伝わってますけど、今のところ特に何も言って来てないです」
「ふーむむ・・・」
「どしますかー?」
器用にくるりと空中で一回転したヘレンちゃんが、緊張感のない声で問いかけてくる。
どうしようか。
あまり待たせすぎるのは良くなさそうだし、早い所決めてしまった方がいいだろう。
「それにしても―――これって何だか、中学生の頃にやっていたネットゲームみたいだな」
「そうなんですかー?私はそーゆーのあんまりやったこと無いんですけれど」
「うん・・・見知らぬ相手と一緒に待ち合わせて、ダンジョン行ったりとか、そういう所が似てるかなって」
任務参加について悩むうちに、何となく口をついて出た言葉に頭上からきょとんとした表情の褐色少女が相槌を返す。
もう何年も前の事だが、ネット対戦やMMORPGといった類のサブカルチャーに放課後の時間を費やしていた時期があったのだ。
それからすぐゲームどころではない状況になったので、以来長らく触れていなかった訳なのだが、今でも当時のアカウントは残っている筈だ。
私生活にも余裕が出てきたし、暇なときにでも触ってみるのもいいかな―――
そんなことを頭の片隅で考えつつ、ぼくは脇道へ逸れた思考を軌道修正した。
―――なにはともあれ、今は任務だ。
「・・・じゃあ、参加でお願いするね」
「はいはーい」
さくっと決断してしまうと、それから先はすぐだった。
ヘレンちゃんへ意向を伝えた後、にこやかに微笑んだ彼女の身体が淡い燐光に包まれる。
その輝きに見入っていると、手元からも同じく溢れ出す光が視界の端に入り視線を落とす。
手に持った短冊状の受注札が僅かな燐光を帯び、周囲に細かな光の粒が舞い踊っていた。
「みなさんOKという事なんで、ちゃっちゃと送っちゃいますねー。それじゃお兄さん、良い旅を―――!」
「わっ―――!?」
突如、視界を覆いつくす白い光。
一瞬の浮遊感の後、大ホールからぼくとヘレンちゃんの姿は唐突に掻き消えているのであった―――
=== 任 務 要 綱 ===
◎旧検疫所に連中が沸いたので退治してきてください◎
場所:オーストラリア ニューサウスウェールズ州郊外
環境:建物内(入植時代の検疫所跡 荒廃度:軽)
出現敵:宇宙人型 など
備考:未確認ですが、大型個体の目撃情報があります
3名以上での遂行をお勧めします
=== がんばってくださいね♪ ===
今週はここまで。




