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お釜大戦  作者: @FRON
第四章 怪奇!月夜の廃屋にリトルグレイの姿を見た!?
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∥004-E ねことおでかけ(下)

#前回のあらすじ:全裸(ヘンタイ)と農作業した。



[マル視点]



「わぁ・・・!!」



眼前に広がる絶景に、思わず感嘆の声が漏れ出ていた。


視界を埋め尽くすのは湖面の青。

陽光を照り返しきらきらと輝くそれは、圧倒的な水量を湛えながらも遥か彼方、かろうじて霞んで見える対岸の存在により海ではないことが見て取れる。


事前に受けた説明のとおり、微かに見える対岸からこちらに至るまで、波打ち際がなだらかなカーブを描いている。

現在の位置からだと丁度、横長の超巨大な楕円形にすっぽりと、そこだけが切り取られたように深い青みをたたえた水で満たされていた。


穏やかな湖面には大小様々な船が行き交っており、中には漁をしているのか網を投げ入れている小舟や、水揚げされた魚介を満載にして岸へ向かう漁船も見受けられる。

そのほとんどが3~4人乗り程度の小型船(ボート)ばかりで、外洋航行にも耐えられるような大型船(ガレオン)は数える程しか見かけられない。


―――外洋に面した海ではなく、風の穏やかな湖だからなのだろうか。


そんな事を考えていると、湖面を渡ってきた一際強い風が周囲を吹き抜け、思わず目を瞑る。

その中に嗅ぎなれた、つんと鼻の奥を刺激する臭いを感じとり、ぼくは大きく目を開くと声を上げていた。



「磯の香りだ・・・!」


「なうー・・・?」


「りん、行こう!」



足元から不思議そうな視線を送るりんにぱちりとウインクを返すと、ぼくは波打ち際へ向け駆け出すのであった―――




  ・  ◇  □  ◆  ・




―――『果ての海』(オケアノス)


古代、世界の果ては無限に広がる大海であると信じられていたという。

その『世界の果て』(オケアノス)と同じ名を付けられた湖が、【イデア学園】の中心部には存在する。


巨大湖(オケアノス)の岸辺は周囲の草原から一段低くなっており、そこにはきめの細かい白砂が湖面を取り囲むように堆積していた。

ぼくはその上をざくざくと足跡を付けつつ進み、その後をきょろきょろと見回しながらりんが付いて行く。


そうやって波打ち際まで来ると、ざぁ…ざざぁ…と耳を打つ潮騒の調べがはっきりと聞こえてきた。

穏やかな湖ながら、ちゃんと波はあるらしい。


寄せては引く白波を初めて目にするのか、おっかなびっくりな様子で姿勢を低くしたりんがその手前で固まっている。

その様子にくすりと苦笑すると、ぼくはかがんで波打ち際の砂の上へ静かに掌を下ろした。


引き波につられて、掌の下を流れる砂の感触がくすぐったい。

水温はちょっと冷たさを感じる程度だろうか。


ぼくは立ち上がると、指先についた雫をぺろりと舌で舐めた。



「しょっぱくない・・・?」


「ニッシシ、そのへんの水はほとんど真水だからねぇ」


「「・・・!?」」



突然、掛けられた言葉にぼくらは弾かれたように顔を上げる。

声のした方向を見ると、そこには桟橋の上で釣り糸を垂れる少年(?)がにこにこと楽しそうな表情でこちらを見つめていた。


よく日に焼けた、活発そうな子だ。

サスペンダー付きのパンツに包まれた足をぶらぶらさせながら、彼はコミカルな動きでこてんと首を横に倒した。



「見かけない顔だけれど、『果ての海』(オケアノス)を見るのは初めてー?」


「あ・・・うん。こっちに来てまだ日が浅いから、色々見て回ってるところなんだ。―――この子と一緒に」


「ふーん・・・?まぁ、立ち話もナンだしこっちおいでよ。さぁさぁ」



首を傾げた際にずれかけた麦わら帽子を片手で直すと、ちょっとの間考えるように目を瞑った少年はすぐに人懐っこい笑顔を浮かべる。

おいでおいで、と手招きする彼にぼくらは顔を見合わせると、桟橋へ向けて歩き始めるのであった―――




  ・  ◆  ■  ◇  ・




砂浜を横切って歩いてゆくと、白砂が途切れ平らに並べられた板張りの床が広がる一角に出る。

そこには倉庫とおぼしき木造の建造物が軒を連ねており、更に奥には湖に面して建てられた巨大なドックと、その中にちらりと覗く大型船(ガレオン)の姿も見える。


右手を向けば、板張りの床はそのまま沖へと向けて伸びる桟橋へ繋がっており、こちらは小型船(ボート)向けの停泊所として使われているらしかった。

帆を畳んで湖面に浮かぶ漁船の間に、こちらへ向けて元気に手を振る姿が見える。


軽く手を振り返すと、ぼく達はそちらへ向けて再び歩き始めた。

足を踏み入れると、木製の桟橋はぎしりとやや不気味な軋みを上げる。


1m程とやや狭く、頼りない桟橋の踏み心地に大丈夫かしら、と内心不安になりつつ歩みを進める。

そろそろと忍び足で近寄るぼくらを認めると、麦わら帽子の彼はやあ、とやや気の抜ける声を上げた。



「やぁやぁようこそ。おいらは瀬名(せな)、セナっちでもセナぽんでも好きなように呼んでよ」


「あ、こりゃどうもご丁寧に。ぼくはマル、〇×の丸に海の人と書いてマルカイトです。そんでもってこちらは式神のおりんちゃん」


「・・・(ジー)」



脚の後ろから顔を半分だけ出して、警戒心たっぷりに覗き込むりんの姿にからりと笑うと、瀬名(せな)と名乗った少年は隣に座るよう促した。

ひとつ頷いて桟橋の上に腰を下ろすと、続いて差し出されたよく日に焼けた手には一本の釣り竿が握られていた。



「はいどーぞ、釣りは初めてかい?」


「地元が海の近くなんで、そこそこ・・・。んじゃ、お借りします」



2m程の、簡素なつくりの竹竿だった。

糸とウキ、針も最初から揃っており、あとは餌を付けて仕掛けを落とすだけで釣りを始められる状態だ。


太平洋岸の半島という立地からか、マルには幸いそれなりに釣りの経験がある。

とは言っても海釣り限定なのだが、いちいち口に出すのは野暮なのでぼくは彼のお誘いに乗ることにした。


ちらりと隣を見ると、湖面に浮かぶウキを眺めながらふんふんと楽し気に鼻歌を口ずさむ少年(セナ)がリズムに乗ってサンダルを揺らしていた。

その視線に気づいたのか、彼は傍らに置いた小ぶりな木箱の蓋を開けるとずい、と前に滑らせる。


中には、うねうねと赤褐色の胴体をのたくらせる無数のミミズが詰まっていた。

横合いから興味津々に中を覗き込んだりんがびくり、と一歩後ずさる。



「エサはこれ使ってねー。・・・あ、ひょっとして虫餌は駄目な人だった?」


「虫は大丈夫な人なので問題ないのです。という訳でちょいと使わせて貰いますね、っと」



―――そんな訳でイキのいいのを一匹取り出し、ささっと針に刺してしまう。

竹竿を軽く振ると、ぱしゃんと小さく音を立ててミミズの姿は湖面の下へ沈んでいった。


そのまましばし、無言のまま時が流れる。



「―――それで、岸らへんが真水の理由なんだけどねー」


「・・・また唐突ですね!?えっと・・・はい、続きお願いします」


「エッヘヘ、友達にもそれよく言われるや。そんでねー、『果ての海』(オケアノス)が汽水湖だって話は知ってるんだっけ?」


「農場の全裸なおにーさんから聞きました」


「アルナブさんねー、あの人相変わらず服着てないんだぁ。えーとそれで・・・ああ、あの辺なんか分かりやすいかな?」



そう言って彼が指さした先へ視線を向けると、湖面の一角にさざ波が立っている様子が目に入る。

湖底から何かが吹き上げているのか、十数mに及ぶ範囲に水流が作り出す細かな水紋が陽炎のようにゆらゆらと揺らめいていた。


小魚の群れか、水中には時折キラキラと光るものが走り、その周囲でぱしゃり、ぱしゃりと水面に飛沫が上がっている。

海面で目にすることのある、ナブラとよく似た光景であった。



『果ての海』(オケアノス)の内部には幾つか潮流があってねー、一番浅いところだけは真水の層なんだけど、所々ああして中層や低層の潮流が上に上がってくるんだ。そーゆー時はこうして・・・よッ、と!」



言うが早いか、仕掛けを引き上げた少年は素早くエサを付けなおすと、竿を振ってさざ波が立っているあたりに投げ込む。

するとあっという間にウキが水中へと消し込み、隣から喝さいの声が上がった。



フィーーーッシュ(釣れた)!・・・うん、いい型だねー。こんな感じにチャンスタイム到来になるからどんどん釣るといいよー」


「すご・・・。じ、じゃあお言葉に甘えて―――」



引き上げた仕掛けの先には、20cm弱の青白い綺麗な魚体がぶら下がっていた。

見よう見まねで竹竿を振るうと、あっという間にウキが見えなくなる。


―――それから先はしばらくの間、仕掛けを投げては即釣れるという流れをずっと繰り返していた。


数時間後。

空の端が赤み始めた頃には獲物を入れるびくがはちきれんばかりに満杯になっていた。



「うんうん、今日は大漁だねー。餌も無くなっちゃったし、今日はこのへんでお終いかなー」


「大漁なのはいいとして・・・こ、こんなに貰っちゃて良かったんですか!?」



ほくほく顔で竿を担ぐ瀬名さんに、手桶を抱えたまま途方に暮れたような表情を浮かべるぼく。

その中には、本日の収穫である魚たちが所せましと詰め込まれていた。


水気をたっぷり含んでいるせいもあってか、手桶はずっしりと重い。

中身が気になるのか、先程から後ろ脚立ちになったりんが手桶の端をカリカリと引っ掻いている。



「いいのいいの。こんだけ岸に近いとこで潮流が上がって来ることなんて滅多にないしね。おすそ分けってことでヨロシクぅ」


「な、なるほど・・・そーゆーコトならお言葉に甘えて。でも、これだけ量があると扱いに困っちゃいますね・・・」


「うーん。おいらなら、余った分はマーケットに流しちゃうかな?」


「マーケットって・・・?」



ぼくの疑問に、彼は倉庫群の奥を指さす。


そちらへ目を向けると、岸から無数に伸びた桟橋の先には、巨大なイカダを連結した人造の浮島とでも呼ぶべき代物が広がっていた。

その上には色とりどりのテントが張られ、その間を数えきれない程の人々が行き交っている様子が見える。


釣りをしていた間の向きとは逆方向となるので気づかなかったが、相当の規模の水上バザーが開かれているようだ。

遠目ながら、ざっと百を下らない数の露店があの場所にひしめているのが見える。


その様子に目を見開くぼくに、瀬名さんはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。



「びっくりしたでしょー?まあ今日は遅いし、また今度行ってみるといいよ」


「びっくりしました・・・!!あれ、凄いですね・・・ここまで熱気が伝わってくるみたい。お言葉に甘えて、次のお散歩で寄ってみることにします」


「そうするといいよ。・・・さてさて、そろそろ風も冷たくなってくる頃だし、おいらは引き上げることにするよー」


「はい!今日はお世話になりました、また来ますね・・・!!」



桟橋の入口まで歩くと、ぼくはぺこりと頭を下げた。

それに手を軽く振って応じると、麦わら帽子の少年はくるりと振り返り、先程目にしたマーケットがある方向へ去ってゆく。


ぼくたちはそれを見送ると、農道をたどって帰路に就くのであった―――


今週はここまで。

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