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6.Thousand Sense

 




 どうも、あっちいけだ。


 ああ、色々とゴタゴタがあって、心配かけちまってすまなかったな。とりあえず、もう大丈夫だから安心してくれ。


 ……あ? いきなり何のことだって? ったく、情報感度の悪ぃ奴もいたもんだ。


 まあ、なんだ。俺が運営様から1個×を貰っちまったって話だ。詳しい話はここでは割愛するぜ―――と言いてぇところだが。


 今後のこの日誌の運営方法にも関わる重要な話だ。事の顛末や今後の募集方法含めて、あとがきの方に書いておく。


 もしそれを読まずに感想欄に募集してきた奴がいたら即座に消す。いいな?


 ―――よし、それじゃあ今日もやっていくぞー。








 さて、まずは本当にどーでもいい話からしてやろう。


 俺が今まで殴ってきた奴は5人いるな? そん中には元々絡みがあった奴らもいるだろうが、そいつらの活動報告を見ていて1つ気になることがあった。


 あのさ……お前らの中でなんか、殴られた者同士みたいな友情が芽生えてねぇか?


 ああ、いや、俺を中心とする内輪的な仲になってねぇのは有難い。めでてぇことだ。


 だがな、俺の扱いが魔王みたいになってねぇか? 強敵に挑んで『ああ、俺たち頑張ったよな!』みたいな青春真っ盛りみたいな握手シーンを見せられると、うん、ちぃとばかし言いてぇことがある。


 言っておくが、俺もそっち側だからな!? 俺も成長途中の同志だからな!?


 どういうことかと言うとだな。この日誌を書き始めて以降、俺が本気で書いている『最強の吸血鬼はひとの血を飲まない!!』に対し、ありがてぇことに非常に多くの感想を貰っている。


 その中身はと言うとだな……ぼろっくそだよ! ああ、ちなみに感想欄に書かれているのはまだ優しい部類だ。中には気を遣ってメッセージで感想頂くこともあってな、そこでも殴られまくりだよ!


 1万文字使って『気になる点』だけを送りつけてきた暴れ馬みてぇな奴もいた。ああ、本気も本気。本気でぶん殴られたよ。


 さて、そんなわけで俺も殴られ仲間だ。むしろ長くてもたった1.6万文字分×1人分しか殴られてねぇお前らよりも盛大に殴られている。


 それでも俺は前を向くことにした。改稿することも考えたが、それは完結させた後でいいだろう。とにかく、俺は走り続けることを決めた。


 書き進め、描きたい世界を表現し続けることを心に決めた。同時に、貰った指摘をこれから書くところで自分の力へと昇華させていきたいと思っている。それが、俺なりの切磋琢磨だ。


 そして並列で日誌も書き続ける。これを書き続ける限り、俺の感覚は研ぎ澄まされてくし、自分の作品に活用できる知識と技が増えていく。


 だから俺に殴られた同志よ。書き続けろ。走り続けろ。今の自分が書ける最大のパフォーマンスでもって、自分の書きたい世界を表現し続けろ。


 そしてまだ殴られていない同志よ、名乗りを上げろ。俺はお偉い評論家でも、高名な編集者でもねぇ。俺に出来ることは俺が思った正直を『本気』で言うことだけだが、その正直が欲しいなら言ってきな。


 俺は全力でもって、応えにいく。








 閑話休題。











 さて。それじゃあ今日も感想、言っていくぞ。


 今回、豆腐メンタルを自称しながらもおずおずと踏み台を差し出してきたのは『きしかわ せひろ』君だ。


 特に突っ込みどころのない名前ではあるが長い名前だからな、ここでは『せひろ君』と呼ばせてもらう。


 さて、せひろ君がエントリーしてきた作品については以下、募集要項からの引用だ。先に目を通してくれ。


 ――――――――――――――――――――――――



【作品名】

 Thousand Sense

(https://ncode.syosetu.com/n2374er/)


【簡易的なあらすじ】

 聖職者が生活の中心になっている世界。サウザンドセンスという希少な人種、悪魔と人間の関係や戦いなどを書いた話。


【セールスポイント】

 勧善懲悪にならない、味方も敵も他人に譲れない理由がある。聖職者でも人間だし、悪魔でも完全悪ではない。


【フックポイント】

 一章からと言いたいところですが、本格始動してからの二章から。個人的には四章は楽しく書いていました。

 残酷表現もありますが、少年漫画読める世代から上にも幅広く読める話にしようと思う。


『悩み』 ちゃんと分かりやすく書けてるかどうか。自分では頭の中にビジョンができているけど、文章にしたとき読者に「ここって、何言ってんの?」と伝わってないかもしれない。語彙力の問題もあるが他にも直せるなら直したい。


【本気で書いてるかどうか】

 本気です。本気じゃなければ、素人のくせにこんな長編を書こうとは思わない。熱いかどうかは自信は無いけれど、下手は下手なりの本気具合いで作っている。創作ができるという必死さで書いている。



 ――――――――――――――――――――――――


 引用ここまで。




 ああ、あれだな。こうして作者名にも作品にも突っ込みどころがないっていうのはマジで珍しいな。素直で宜しい。好感が持てる。


 さて、そのエントリーしてきた作品『Thousand Sense』(以下、サウセン)の内容についてだが、いつもの如く。まずは読んでねぇ奴らの為に以下概要だ。


 ……と、その前に1つ注意だ。今回の感想には大いに【ネタバレ要素】が含まれている。なぜなら、そのネタバレ要素を語らずに感想を書くことが不可能だからだ。


 『畢罪』の時はぼかすことが出来たが、あれは話の後半にネタバレされるとつまらなくなる要素があったからまだ語らずにいられた。


 だが今回の『サウセン』は開始9話目でその要素があり、その後の展開全てがその要素に紐づいてくる。そこを語らずに感想を書くのは不可能だ。よって、書くぞ、せひろ君。





 主人公の名前はルーシャ。魔王殺し(サタンブレイカー)の二つ名で呼ばれる彼は、聖職者連盟の退治課に所属する凄腕の退治員だった。


 『だった』とは―――彼は5年前、子を身籠っていた最愛の妻を亡くしてしまい、悲嘆の末、退治課を引退してしまっていたのだ。


 そんな悲劇より5年が経ち、未だ妻を亡くした悲しみを引きずったままの彼のもとに1人の少年が訪ねてくる。


「どうか、僕のパートナーになってください!」


 そう、願いを口にした彼の名をリィケ。最近退治課に配属されたばかりの新米退治員である。彼は何人なんぴとも寄せ付けようとしないルーシャへ、必死に頼み込む。


「断る。帰れ」


 しかし未だ妻を亡くした悲しみに暮れていたルーシャはその頼みを断る。何かを言い募ろうとするリィケに対し、拒絶の言葉を被せるように言い放つ。


「分かりました。明日もまた来ます」


 拒絶されるもののリィケは挫けない。どれだけ断られようが通い続ける。


 そうして月日は経ち1カ月。ちょっとした事件からリィケが人工生命体『生ける傀儡(リビングドール)』であることが判明し、その身体に収められている魂が亡くした妻のお腹にいた子―――つまり、実の息子のものであることがルーシャに伝えられる。


 ―――この話は亡くしたと思っていた子と出会い、親としての自分に少しずつ向き合っていこうとする、若き父の成長物語である。






 さあ、いつも通りの俺的レビューだ。


 そしてせひろ君、すまねぇ。今後の感想を語っていくにあたってどうしても『リィケ=ルーシャの子供』であることを言わなければならなかった。


 というわけで、文句があれば感想欄で大いに暴れてくれて構わない。








 さて、流れでこの作品の良いところから語っていこう。


 まず、世界観が面白い。


 この世界(というか国)では生活に宗教が深く根付いていて、冠婚葬祭から自警団、病院や学校など町の運営の基盤を教会が担っている。町の中心に教会があるどころじゃねぇ。教会が完全に町の機能を牛耳っている形だ。


 何故そこまで教会に力が集中しているかの理由付けについてもきちんとされている。ああ、他にも魔女の墓標だったり聖油だったり、独特な道具や地名の由来でもって、広くて奥深い世界観を演出してくれる。これは素晴らしかった。面白かったよ。


 そしてルーシャとリィケの関係性。これがまた面白い。


 ルーシャは妊娠した妻を悪魔に殺され、ずっと悲しみに暮れていたんだが、そこに突然生まれてくるはずだった息子のリィケが『生ける傀儡(リビングドール)』として現れる。


 そうして彼らは生活を共にすることになり、また退治員としてもパートナー関係を組むことにもなるんだが、ルーシャが度々リィケの心情を勘違いしてる描写が出てくる。


 例えばリィケが自分が仕事の足を引っ張ってしまうんじゃないかって悩んでいるところを見て、ルーシャが『ああ、こいつ疲れてるんだな』とか考えているところを見ると、『おいおいそりゃないぜファザー!』って突っ込みたくなる。


 こういうすれ違い描写は良いなと思った。親は生んだら問答無用に親になるのではなく、子と向き合って初めて親になるみたいなな。


 ちなみにこのすれ違いのシーンはなんてことない普通のシーンなんだが、この描写があったからこそ俺は『ああ、この作品はルーシャの親としての成長物語でもあるんだな』って思った。


 そして、読んでいた中で一番面白いと思ったポイントが独特な宗教観だ。


 この世界において、悪魔は人間に害をなす存在となっている。意思を持ち、人間とそれなりの距離を置いている悪魔もいるが、多くの悪魔は人間にとって完全悪な存在だ。


 それら悪魔を退治するのが主人公たち退治課の仕事なんだが、面白いことに彼らが信仰する宗教に次の文がある。


『神は自らの命から全てを創造した。

 それは生物であり 植物であり 善悪である。

 神は言った 光の子らも闇の子らも皆 同等だと

 (中略)

 何人も己の憎悪を他に向けること赦さず』


 つまりは神にとっては人間も悪魔も等しい存在であり、憎しみによってのみ他者を裁くことを許していない。例え相手が悪魔であろうと正当な理由なく殺すことを禁じている。極論、憎しみにとらわれ悪魔を殺すことを最も禁忌としている節すらある。


 悪い事をしない限りは悪魔ですら神の庇護下にある設定はなかなか面白く、主人公が持っている『妻を悪魔に殺された』という恨みとのアンマッチさから、どんな話が展開されるのだろうかと期待が持てるポイントだった。






 ―――さて。








 ここまでそれなりに褒めてきたけど、お前ら。もうそろそろ分かってるだろ? 右のスクロールバーを見りゃ、残りどれくらいの文量があるかは大体分かるよな?


 その通り、ここからは『本気』のゾーンだ。


 俺は素晴らしいところは褒める、気に食わんところはぶん殴っていく。


 今日も俺は平常運転だ。せひろ君、ここからどんどんぶった切っていくから、覚悟しろよ?








 さて、まずこの作品。良いところは上で語ってきたが一言でまとめるなら『設定が素晴らしい』に尽きる。そしてそれを読者に伝える書き方も癖がなく、うまいわけではないが読みにくいという印象はない。


 ただし、それら『世界観』というスパイスがまぶされている『ストーリー性』の部分が、俺的に、う~ん…となってしまっている。


 世界観の作り込み、人間関係の面白さ、独特な宗教観。それら最上の調味料を使って平凡な味を生み出してしまったこの『サウセン』について、俺はこんな感じで読んでいた。



【PC版】


挿絵(By みてみん)



【スマホ版】(レイアウト崩れ注意)


挿絵(By みてみん)




 さて、感情グラフを出したところで話は変わるが、前に俺は言っていたよな? 50点は平凡な時につける点数だと。


 このグラフ上、50点というのがどういう意味を持っているかというと、『ストレス』は上がらず『モチベ』だけが微妙に(1.25ポイント)下がるという性質を持っている。読むのに苦痛はないが特に目新しいものがないなぁという感覚の時につけられるのがこの50点だ。


 理論上、80話分この50点をたたき出せば『ノーストレスによるモチベ陥落』が可能となるんだが……そんな話、俺は読みたくねぇ。


 おっと話が逸れたな。すまねぇ、話を戻すとつまりだ。せひろ君、言ってしまうぞ?


 お前の作品、度々モチベをガタ落ちさせる要因はあったが今回に限って言えば問題の本質はそこじゃねぇ。


 多くの話が50点前後であり、緩やかにモチベを蝕んでいったお前の作品は単純に『面白味に欠ける』。それが最大の弱点だ。









 小説を書くにあたって作者は普通、誰かに楽しんでもらおう、面白いと思ってもらいたいと思うだろ?


 それなのに『面白味に欠ける』なんて言っちゃあ酷いと思う。だが、今回も俺は正直に言っていくぞ。


 せひろ君、何故『サウセン』が面白味に欠けるなんて思ったか。その理由は大きくわけて3つある。


・話が薄味

・人物が浅い

・山場における話の破綻


 この3つの要素が、お前の作品を凡作たらしめている。こっからはそれぞれの項目に沿って語っていくぞ?






 まず1つ目、『話が薄味』。


 このサウセン。1章から4章までの約17万文字くらいを読んだんだがいつまで経っても世界観説明以上のところに行かない。物語が始まらないのだ。


 1章では、リィケがルーシャの子供でした! 親子でこれから頑張って行きましょう! ちゃんちゃん。


 2章では、なんか魔王っぽいのが現れてリィケにちょっかいかけました。今後何か始まりそうだぞ? ちゃんちゃん。


 3章では、王女様が来て、ついでにルーシャの義理の弟が来て喧嘩の末に仲直り出来ました。『聖者の灰』っていうのがなんか重要そうです! ちゃんちゃん。


 4章では、町の周囲で起きている怪事件を追っていったぞ! やや、怪しい奴がマリオネット作っているな! 倒そう! よし、倒した! ところでなんか怪しい箱を手に入れたけどこれからどうしよう? ちゃんちゃん。


 見る奴によって違うだろうが、俺の目だと一向に何も始まっていないように見える。


 裏で何か暗躍している奴らがいるのは分かるよ。度々第三者視点でそれらしーいこと言ってる奴ら、いるよな? せひろ君、あれで物語が動かせていると思ったら大間違いだぜ。


 あくまで主人公視点で考えてほしい。何か物語が始まってから動いたか?


 リィケとルーシャ、ああ、親子関係が結ばれたな。


 ルーシャとライズ、仲直りできたな。


 リィケとボロボロの人、接触できたな。


 それだけだ。後はなんら進展していねぇ。場所も、人も、状況も、何も動いちゃいねぇ。


 俺からするとな、全編通して日常パートみてぇなものに見えたんだ。ちょっと変わったことがあったけど何もない一日でした、まる。みたいなな。


 そりゃもう50点の連打よ。面白くもなけりゃ特に眉がぴくりと動いちまうような欠点もない。世界観の説明をだらだらだらだら語られて、ほう、世界観は面白い! それでいつになったら魔王は攻めてくるんだい? みたいな感じになっちまうわけよ。


 目的に向かって話が進んでいる感じが一切しねぇ。ルーシャとリィケが目指す目標っていうのは『リィケの身体を取り戻す』ことと『妻を殺した悪魔を探す』ってことだろ? 少なくとも1章を読み終えた時点での俺はそう思っていたよ。


 それがなんで次の章にいったら隣町のお祭りの護衛に行くんだ? ああ、分かるよ。そういう世界観の説明だってな。


 それにあれだろ? 新米リィケ視点で『聖職者連盟』っていうのがどういう仕事をしているのか読者に紹介したかったんだろ? ああ、それもまた世界観説明だよ。


 ちなみにな。俺はその問題の2章を読んでいる時は、さすがにまだ『また世界観設定かよ』なんて思っていなかった。むしろ『へぇ、なるほど。すごい世界観作り込んでるなぁ』くらいにしか思わなかった。


 何故なら、その世界観説明の末に、何か面白いイベントが起きると信じていたからだ。


 ああ、起きたよ。起きたな? 魔王がちょっかいかけてくるイベントが。


 それを読んでいた時の俺の本音を言ってやろうか?


 タイトルでオチてんだよっ!!!!


 お前な、2章の山場というか唯一の盛り上がりポイントである『教会に佇む少年の正体―――彼はなんと、魔王でした!!』っていうオチをな。


 なんで2章のタイトルにつけてんだよ!!?


 『第2章 教会の魔王』なんて言われたら、リィケが出会った教会にいる不思議な少年のことを、読者が一発で『あ、こいつ魔王だ』って見抜いちまうだろうが!!


 いや、最終的にはロアンは魔王じゃないのかもしれないけどな。それでも読者はロアンのことをはなっから『こいつ悪魔側の奴なんだろうな』って思って読んぢまうだろうが。


 その時点でこの章の話はオチがついちまってんだよ。読み進めるのになんのモチベも上りはしなかったわ!!


 まあ、いいよ。これについてはタイトル直せばいいんだから。


 そんでもって問題は第3章だ。


 第2章で魔王が主人公側に接触してきたよな? 読者はここで次はどんな展開になるんだろうと期待して読み進める。


 どうして第3章で何も起きないんだよ! マジで!!


 この章のプロットをまとめると

 ・王女様来る

 ・ルーシャとライズ仲直りする

 以上だろ!?


 魔王サイドどこいった!? いや、さっきも言ったが暗躍してるっぽい奴らがいる描写はあったな。


 接触まだ?!


 2章であれだけ魔王の存在を読者に突き付けておいて、3章で完全にフェードアウトするってなかなか緩急極めてるよな。


 まあ、いいよ。これについてはそういう章があってもいいと思う。


 第4章、色々あったよな? 街道の結界を張りなおそう、なんか悪魔の数が多いな、黒い人が出現、ボロボロの人が助けに来る、怪しい箱を手に入れる。うん、色々イベントはあった。


 でも、あれ? これって別にルーシャやリィケの目的に対しては何も近づいていないし、魔王も出てこないし、相変わらず裏で暗躍していますよっていうことを怪しい箱で臭わせて終わっただけだよな?


 臭わせてるだけで話が進んでねぇよ!!


 結果、悪魔っていうのがどういう生態をしていてとか、法術師はこんな風に法術を使うだとか、そういう設定の深堀りは出来たけど話の進み具合からいうと第2章から未だ一歩も動いてねぇよな? RPGゲームでいうところのおつかいイベントをいくつか終わらせただけだ。


 魔王まだー? ってなわけだ。一読者の俺からすると、文字数のわりにまったく進展のない話を読んで、『ああ、読みやすい設定資料集だな』ぐらいの感想しか抱けなかった。









 さて、次だ。


 上で言ってきたことに対して、とはいえお前にも反論したいことがあるはずだ。内容でぼろくそに言ってきた第3章や第4章。そこでの主軸は内面であり、話の展開には重きを置いていないんだと言ってくる可能性も考えている。


 第3章ではルーシャとライズが仲直りするよな?

 第4章ではリィケがルーシャの過去を実感を伴って垣間見るよな?


 うん、RPGゲームでいうところの、ゲーム性を楽しむところではなく泣きイベント的な展開だ。別に俺はその存在を否定しないし、むしろ俺はそっち側をメインで見たいと思っている読者でもある。


 ただな、お前が書いたそれらヒューマンドラマ要素についても俺は駄目だしするぞ。


 『お前が描く人間は浅い』。これが面白味に欠けると思った2つ目の理由だ。


 そう思ってしまった一番の理由は、ルーシャとリィケの関係性だ。


 まずそもそも、ルーシャは序盤結構闇を抱えた感じで登場してくるよな? そりゃそうだ。自分が不在にしている間に嫁とまだ見ぬ子ども、ついでに嫁の両親もまとめて殺されたんだ。茫然自失として誰とも関わりたくないってなるのも分かる。むしろそこは非常に共感出来て感情移入しやすいポイントだった。


 ところがだ。リィケが息子の魂が入った生ける傀儡(リビングドール)であると知るやいなや、ルーシャはあっさりとリィケを受け入れる。


 あらかじめ言っておくがここは個人でかなり感想が分かれるポイントだろうが、俺的にはここでぷっつんポイント1だ。


 あのなぁ、ルーシャは5年も悲しみと付き合ってきたんだろ? 家族を失った痛みに一人で向き合ってきたんだろ? それが『息子が実は生きていました。この人形がその息子です』なんて言われれば相当葛藤すると思うぜ?


 しかも長年連れ添った子じゃねぇ。生まれる前に死んだ(本当は違うがここではこう言っておく)息子で、成長して連れてこられればもう魂は息子なのかもしれんが第一印象としては赤の他人も同然じゃねぇか?


 そんなのに親としてはなっから違和感なく接するなんて、よっぽどだぜ? 少なくとも俺には無理だ。


 こいつは本当に俺の子の魂なのか?

 5年間も放っておいて、俺はこいつときちんと向き合っていけるんだろうか?

 どうやって子供を育てればいい? どうやって話せばいい?

 子供は助かったのに嫁はどうして助けられなかったんだ?

 どうして5年間、誰も子供の魂が生きているって言ってくれなかったんだ?


 ちょっと考えるだけでこれくらい思い悩む。特に最後の1個は致命的だ。子供に対しての不信感だけじゃなく、ラナや聖職者連盟に対しての絶対的不信感になるだろ。お前らは、俺が悲しんでいるのを陰から笑って見てやがったのかってな。


 そう考えると、俺はこのルーシャに感情移入できなくなった。妻を亡くして悲しみに暮れる繊細な心を持ちつつ、子の生還を何の違和感なしに一発で受け入れる豪胆な奴。


 理解不能だ。俺は彼を理解することを諦めた。


 そうして一回鼻についてしまうと、いたる所でルーシャの行動に嫌悪感を覚え始める。


 例えば礼拝堂で泥人形にリィケが捕まったシーン。悪魔に捕らえられている我が子がいるのに泥人形を見て『うーん、こんな所で見ると違和感すごいなぁ……』と非常に悠長なことを言っている。


 彼にとって泥人形がよっぽどの雑魚であるならその余裕も理解できるし、実際彼は短期間で泥人形の群れを倒した。でも実の子供が人質に取られているんだったらもっと焦らねぇか? 『親ならな』。


 それにそもそも危険がつきものな退治課の仕事に、新米であるリィケを連れ歩くのは楽しい気持ちもありつつ、守れるだろうか?とか怪我させないように気を付けようとか不安だったり緊張だったりするもんじゃねぇのか? 『親ならな』。


 まあ、もしかしたら『生ける傀儡(リビングドール)』というのは不死身なのかもしれない。だったら俺が考えている心配事っていうのは見当はずれなものになるわけだが、残念なことにそのことについての説明は作中(俺が読んだ中では少なくとも)書いていなかった。


 よって非常にモヤモヤした気持ちのまま読み続け、結果モヤモヤが解消されず、俺はルーシャと別れを告げた。こいつは親の風上にも置けねぇ奴だって烙印を捺してな。


 そのくせ何でもないところで親面おやづらしやがるから腹が立つ。この作品の中で一番嫌いな奴を挙げろって言われたら俺は間違いなくルーシャを指さす。





 っていうかそもそもこのルーシャな、内面が異常に幼くてびびったぞ。


 まずは読者にとって、ルーシャのファーストインプレッションにあたる2話から引用するぞ。



 ――――――――――――――――――――――――


 彼は窓のところに立っていた。

 銀色の髪の毛が窓からの風にゆれている。背は高く細身に見えるが、筋肉質だということが質素な服装のためによくわかった。


 あ……この部屋から庭のお墓が見えるんだ……。

 リィケが覗くと彼の肩越しに外の様子が見えた。


「あの……」

「ラナロアと一緒に来たのか?」

 話しかけようとしたとたん、相手の方が話し始めた。


「トーラストで一番の退治員が来るなんて、随分お前たちは暇なんだな」

 窓の方を見ながら淡々とした声が部屋に響いた。

 彼は此処からリィケが家に来たのを最初から見ていたようだった。

「暇ならそんなに人手は要らないだろう。聖職者連盟が五年も前に退職した奴に何の用だ? もし、また……」

「……」

「退治員に戻るように言いに来たのならお断りだ」

 一度もリィケの方を振り向かない。

「あの名前はとっくに返上した」


 あの名前……。

 五年前まで彼は聖職者連盟トーラスト支部の退治課に所属していた。それもかなりの実力者だった。


【魔王殺しサタンブレイカー】


 それが彼を表す二つ名であり、他の支部はもちろん、本部にもその名は知れ渡っている。


 五年前、彼は仕事で家を空けていた。そしてあの事件は起こり、それ以来、彼は神父の仕事も悪魔退治の仕事もやめてしまった。


「帰れ」

 やはり一度もリィケを見ないで、彼ははっきりと言う。


 ――――――――――――――――――――――――


 引用ここまで。



 ああ、ここは非常に良い。窓辺からいつも墓を見ていて、後悔と悲しみで家から出ていけない。泣くことすら忘れ、ただその日々を生きることしかできず、他者が近づいてくることすら疎んじる。悲しい芯が見える主人公像だ。


 ちなみにこの後3話目で、ルーシャが20代半ばであることが説明される。ああ、当初思い描いていた主人公像からずれてねぇ。ふむふむと頷きながら読み進めていたよ。


 ところがどっこい、10話目にあたる番外編。今までは三人称視点で描かれていたのが突然一人称となり、ルーシャの内面が読者へと暴露される。




 ――――――――――――――――――――――――


 オレの名前はルーシアルド・D・ケッセル。

 愛称はルーシャ。

 五年前まで、聖職者連盟トーラスト支部 退治課で退治員をやっていた。【魔王殺し(サタンブレイカー)】という二つ名もある。

 家族を殺され、退治員を辞めて一人で今まで暮らしてきた。


 正直に言うとオレは少し人見知りで、初対面の人間とはなかなか打ち解けられず、失礼の無い程度にしか会話ができなかった。

 さらに自分の実家はそれなりの名家だったため、神学校時代の同級生たちはなんとなくこちらを遠巻きに見ていて、友達らしい友達は一人もいなかった。


 そのせいでクールな性格と思われ、孤高の一匹狼と思われ、「さすが魔王殺し(サタンブレイカー)」などと、よく分からない言われ方をされた。


 こちらとしては、誉めてんの? 貶してんの? という気持ちだ。少なくとも誉められている気はしない。


 ――――――――――――――――――――――――


 引用ここまで。



 あのなぁ…色々と突っ込みたいところはある。


 一人称視点でよくやる『謎自己紹介』はもうこの際放っておくとして、『家族を殺され』って淡々と言ってるところとかもう笑いどころかと思っちまったじゃねぇか。


 まあいい。そんなことよりここでは20代半ばを25歳と仮定して、こんな自己紹介をするか?って話だ。


 若い。圧倒的に、若すぎる。この話し方がルーシャの内面をそのまま表しているとすると良くて高校生だ。悪くて中二って感じだな。


 5年間、悲しみに暮れて人と接していなかったから精神的成長が止まっているとしても若すぎる。(そもそも5年間悲しみに暮れて成長止まるくらいならもっと根が陰気な感じになってねぇとおかしいがな)


 ここでの内面の描写から、少なくとも5年間妻の死に嘆き悲しんでいた節は全く!! 見られなかった。よって、俺の中でこいつは5年間、ただぼんやりと墓を眺めていただけのニート野郎という印象に変貌を遂げた。


 ってなわけで、この番外編に至るまでですっかり俺の中で、この主人公ないわー状態に陥ってしまった。必然的にその後の全ての話でルーシャに対して感情移入ができなかった。


 そうして主人公がないわー状態になると、そこにつるんでくる他の主要キャラも軒並み印象が悪くなっていく。第4章まで読み込んだ中でギリギリ感情移入ができるのはリィケだけだった。


 他にはライズも共感できるいいキャラだったんだが……まあ、この話については最後に語ろう。





 さて、2発連続で重めのを入れちまったから、ここらで小休憩としてジャブを挟んでおこう。


 細かいところだが、人物の名前についてだ。


 まずは俺が読んだところまでで登場している人物について、名前をあいうえお順で並べていくぞ。


 ・マルコシアス

 ・ミルズナ

 ・ライズ

 ・ラナ

 ・リィケ

 ・リリア

 ・リーヨォ

 ・ルーシャ

 ・レアリア

 ・レイニール

 ・レイラ

 ・レヴェント

 ・レバン

 ・ロアン

 ・ローディス


 ラ行変格活用か!!!


 お前な、もうちょっと頭文字の行くらい散らせんのか! リだかレだかが多すぎて誰が誰だか分かんなくなるんだよ!!


 しかもミルズナ王女が来た時にはな、会話文でリィケをリィリアルドとかって本名で呼ぶもんだからますますわけが分からなくなるわ!


 ……ああ、俺もこうやってラ行ばっかりの名前つけていた時期があるよ。中二病を患っていた時だがな。


 そんな古傷を抉ってきた君に、晴れて中二病の称号を与えようと思う。


 おめでとう、せひろ君。別に捨ててくれたって構わねぇがな。







 閑話休題。






 軽いところで続けて行くぞ。


 泥人形戦でのルーシャの行動についてなんだがな。引用するぞ。



 ――――――――――――――――――――――――


 ルーシャがひとり前に立ちはだかった途端、泥人形マッドマンたちは先程までとは違う軽やかな動きでルーシャに飛びかかってきた。よく見ると彼らの両腕はカマキリのように平たい半月刀になっている。


 この教会の礼拝堂はあまり広くはない。しかも長机や長椅子が有り、扉の前にいるルーシャたちまでは、真ん中の通路を通って来なければならない。

 ルーシャは口の端を少し上げ、真正面に来る集団を待った。


「所詮は泥の塊だな……」

『レイシア』を両手で握り横に構える。刀身を顔の前に置き、祈るように言の葉を呟く。


 汝、我の力の道標なり

 悪しき暗闇より道を探し


 方術の聖言語を唱えながら、ルーシャは剣を大きく振りかぶった。刀身が薄く光を帯びる。


 汝が咆哮 愚者を祓い

 光の道を指し示せ


「祓え! 『レイシア』!」


 剣が振り下ろされた瞬間に、先陣を切って向かってきた個体が数体粉々になって崩れ落ちた。もうもうと土煙が上がる。


 ――――――――――――――――――――――――


 引用ここまで。




 詠唱長くね!?


 泥人形たちは既に飛びかかってきてるんだろ? それなのにこの4行の詠唱+決め台詞はどんだけ早口で言っても5~6秒くらいはかかるだろ。


 泥人形たちの謎の滞空時間はなんなんだよ!? それともあれか? 飛びかかってきたってのは方便でぴょんぴょん飛び跳ねて間合いを詰めているところだったのか?


 スキップかよ!


 ってわけでだな、せひろ君。あまりにこの詠唱は長すぎるというか、これを唱えている時間を考えるとリアリティがなさすぎるというか。


 つまりはもうちょい、辻褄合わせる努力はしようって話だ。








 閑話休題。








 さて、細かい指摘は終わりだ。そろそろ最後の仕上げに入るぞ。


 最初に指摘した『話が全然進んでない』ということにも関係してくるんだが。


 第1章はルーシャとリィケが親子の契りを結んだ。進展があったよな?

 第2章はまあ、進んだ方だよな? 魔王との接触があったし。

 第4章もまあ、進んだといえるよな? リィケが出会ったボロボロの人はあの人っぽいし(ミスリードかもしれんが)、怪しげな箱を手に入れたし。


 うん、まあ遅々としてだが進んでいる。そんな感じだ。


 だが3章は? 3章はマジで何も物事が進んでいない。王女様が来て、ルーシャとライズが仲直りしただけだ。


 ―――さて、せひろ君に言わせるとこの3章。このルーシャとライズが仲直りするシーンこそ山場だと言いたいんだろうが。


 俺に言わせれば胸糞悪い話だった。特にルーシャがライズを説教しているシーンなんて最悪だった。


 何故か? ―――それは『話がかみ合っていない』からだ。


 ここで読んでねぇ奴らの為に説明しておく。


 ルーシャ:今作の主人公。5年前に妻レイラを亡くして自暴自棄になった過去がある。悲しみに暮れるあまり、退治課を引退し5年間を棒に振る。


 ライズ;レイラの弟。ルーシャにとって義理の弟にあたる。5年前に姉を亡くし、そのショックで主人公を殺してその後自殺しようと図るがギリギリのところで止められる。そうして姉が死んだという事実から目を背ける為に町を去り、首都にて仕事に忙殺される日々を送る。その結果、王女を守る上級護衛兵という偉い役職にまで上り詰めた。ただし本人は姉から引き継いだ『聖弾の射手(シルバーブレッド)』という二つ名のおかげで昇進できたと思っている。


 さて、ここではルーシャとライズ、どちらが魅力的かを語るつもりはない。


 第3章の山場となるシーンはこのライズがルーシャに対し、『姉の死と向き合えず逃げてしまった自分を、ルーシャはなぜ怒ってくれないのか』と詰め寄る場面である。


 ライズの気持ちは非常に共感できる。


 ・姉が死んでしまったショックから錯乱してルーシャを殺そうとしてしまったこと

 ・姉や両親の死による悲しみに向き合えず、町を飛び出していってしまったこと

 ・本来なら悲しみをともに分かり合い、慰め合うべきだったルーシャを置いて行ってしまったこと

 ・ルーシャは姉たちの死に向き合った結果自暴自棄になって仕事を辞めてしまったが、一方自分は死に向き合わず仕事を続け、姉から引き継いだ二つ名によって上級護衛兵という過分な身分にまで上り詰めてしまったこと


 ライズにとって『姉の死と向き合わなかった象徴=仕事、身分』であり、ルーシャの『姉の死に向き合った象徴=仕事を辞めた、5年間を棒に振った』という現実に負い目を感じているんだろ?


 そんな負い目があって、ライズはルーシャへ罰を、あるいは赦しを乞うためにわざわざ会いに来たんだろ?


 どうにも、ままならない問題だ。果たしてルーシャはライズの懺悔をどう受け取り、どう返すのか?


 期待の瞬間だ。そうして奴が答えた内容を、以下引用するぞ。



 ――――――――――――――――――――――――


「ライズ! お前は今の自分の立場を何だと思っているんだ!!」


 ルーシャは明らかに怒りをライズに向けている。ライズは目を見開いたままルーシャを見上げて固まっていた。


(中略)


「正直言って、お前に出て行かれた時は少し悲しかった。急に血の繋がった家族を亡くしたんだ、ひとりで大丈夫かと心配した。でもお前が自由にしていてくれればそれでいいと思った。それなのに……」


 ルーシャは深く息を吸うと、再び呆然と見上げているライズの顔を真っ直ぐに見た。


「要するに、お前は五年もの間、オレに引け目ばかり感じて、他人の意見に流されて、自分の意思も努力も何も無いと思っていたんだな!」

「…………」

「ふざけるな! お前は頭いいくせにそういうところは馬鹿なんだよ!! 『何もできない』って、退治や現場の指揮、王女の側近もお前の意思や判断力が無ければ出来ないだろう!? お前を選んだ周りの人間はそこだってきっと評価している。オレのことはともかく、その人達の目を疑うな!!」


 一気に言い放って少し息切れしたらしく、ルーシャは少し咳払いをした後、深呼吸をしていた。次にライズに向いた時の顔には冷静さだけが残っている。


「一応……言っておくが、オレはここでレイラのことを悼んではいたが、墓守ばかりしていたつもりはない。実家に戻らないのはオレの気持ちの整理がつかなかっただけだ……そこはオレの勝手だから」

「じゃあ……何で退治を辞めたんだ……お前なら俺がいなくても退治はできただろ?」

 ライズが掠れた声で聞いた。その質問にルーシャは軽くこめかみを押さえて悩んだ。


「それな……実は……その、オレは辞めたんじゃなく、事実上辞めさせられたからだ」

 当時、ルーシャは事件の二日後には退治課に戻った。


「……あまり詳しくは話せないが、オレは悪魔に対して復讐に走ったんだよ。それも……無差別にな……」

 ため息をついてまた悩んでいる。ルーシャは話す言葉を選んでいた。

「…………それを支部長に……というか、じいさんとラナロアに止められて…………ちょっと、その……静養していたというか……半年動けなかったというか…………」

 先程とは打って変わってしどろもどろになる。ルーシャの顔には汗が滲み、目は横に逸らしている。

 何かあったらしいが、ライズは聞かずに黙っていることにした。


「……話が逸れたな……とにかく、お前の周りの人間は良かれと思って、推薦してくれたり提案してくれた筈だ。お前はちゃんと期待に応えていたんだから、お前はやっぱり努力家で優秀なんだよ」


 両親と姉を急に亡くし、立ち止まっていたら動けなくなりそうだった。そんなライズを動かしていていたのは、彼の周りの者達だったのだ。


上級護衛兵インペリアルガードだってなろうと思っても簡単になれるもんじゃないだろ? そりゃあ、聖弾の射手(シルバーバレット)の名は判断材料になるだろうが……結局は実力が無ければ更に上に立つことは出来ない」

「…………それは……」


 下を向いているライズの頭にポン、と優しく手が置かれた。

 ルーシャはライズの前に座り、顔の位置を同じにしていた。その顔は少し苦笑いしている。


「本当は無理して名前を背負うことはしなくてもよかったんだぞ。レイラなんて殆ど名前なんて忘れていたし……」

 彼女は肩書きなど気にしない。仕事が出来ればいい、としか考えてなかった。

 真面目な弟はそれを無責任に感じていた。しかし姉は名前を軽んじていた訳ではなく、自分のやるべき事をきちんと見ていたからだった。


「ライズは偉いな。お前は自分が思っている以上に、聖弾の射手(シルバーバレット)の名に誇りを持っているのだろう」

 ルーシャはそう言ってワシワシとライズの頭を撫でていた。これは昔からルーシャがよくライズにやって、煙たがられていたことだったが、何故かライズはその手を避けようとしない。


 ――――――――――――――――――――――――


 引用ここまで。



 はぁ? 話がかみ合わなさ過ぎてやべぇだろ。


 もう一回言っとくぞ。ライズはルーシャに対して負い目を感じている。それは『姉の死と向き合わなかったこと』や『ルーシャを置いて行ってしまったこと』から来る『逃げの負い目』だ。確かに、『自分の今の役職が過分だ』という負い目もわずかなりともあるだろう。だがそれは前述した『逃げの負い目』から派生した小さな負い目だ。だよな?


 だが、ルーシャはこの小さな負い目に対してしか言及してねぇよな?


 奴の説教を要約すると『お前が仕事を頑張ったから今の地位があるんだろ? 周りが二つ名だけを見てお前にその役職を推薦したと思ってるなら大間違いだからな! もっと自分の頑張りを認めてあげようぜ!』ってなことしか言ってねぇよな?


 これでライズの罪悪感が晴れるとでも思ってんのか? 晴れるわけねぇだろ。


 なのにこの話の後、すっかり仲直り。憑き物が取れたかのように昔通りに仲良しになるライズとルーシャに戦慄したね。うわ、こいつら作者の操り人形になってやがるって。


 罪から逃れるために全力で仕事に取り組んで現実逃避していたら、頑張りが認められて過分な身分になってしまった。一方のルーシャは仕事を失った。ライズの罪の意識は『現実に向き合わなかったこと』に集約されないといけない。


 それが分かっていないルーシャは『逃げた先での頑張り』しか認めていない。とんだ嫌味だよ。それでお涙頂戴展開ってか。はぁ? 笑うところか、ここ?


 もっと人間の感情について辻褄合わせてくれよ。せっかくライズはそこまでしっかりとしていたキャラだったのに、ルーシャに関わったせいで理解不能なキャラになっちまったよ。って俺はげんなりした。


 『山場における話の破綻』。これがあったからこそ、第3章は致命的に面白くなかった。作者が満を持して出してきた山場が糞の山だったなんて、向き合った俺はどんな顔をすればよかったんだ?


 せひろ君。ここでルーシャがとるべきだった行動は1つだ。彼が言いよどんたところにこそ答えがある。


 言いよどんで濁した部分、それは4章で語られる部分の、ルーシャが実は悲しみに向き合えていなかったことだよな?


 それをここでルーシャが言えばいい。『実は俺もレイラの死に向き合えていなかったんだ。その時起こした事件をきっかけに俺は退治課を自主的に辞めたんだ。そして今、俺はレイラの死に向き合っているが、悲しみが癒えることはない。ライズ、レイラの死に向き合うことに遅い事なんてないんだ。兄弟で一緒にレイラの死と向き合って、その悲しみから2人で立ち上がっていこう。俺たち家族だろ?』って言えばそりゃライズさんも号泣よ。


 ライズが抱えている『逃げた』という罪が、ライズだけのものではないことを言ってあげることによって『共感性』を持たせつつ。


 これから手を取り合うことによってその罪から立ち上がることへの『正当化』もしてあげる。


 これが正しく、悩み相談ではないのか?と、俺は思う。


 今のままじゃルーシャがライズを洗脳しているようにしか見えねぇから、ああ、読んでて滅茶苦茶気持ち悪かった。






 ―――さて。




 気づけば今回も大いに語ってしまった……って、はぁ?! この時点で1.6万文字も行ってるんだが、なんだこの文量。


 前回の絢君に対しての指摘が俺史上最も長くなるんだろうなと思っていたが、まさか上回るとは予想外だったぜ…


 そんなこんなで以下、悩みに対して答えていこうのコーナーだ。(あれ、これ久しぶりな気がするな…)


 >『悩み』

 >ちゃんと分かりやすく書けてるかどうか。自分では頭の中にビジョンができているけど、文章にしたとき読者に「ここって、何言ってんの?」と伝わってないかもしれない。語彙力の問題もあるが他にも直せるなら直したい。



 日常風景の描写とかは問題なし。ただし戦闘描写に関しては難ありという感想を抱いた。


 せひろ君は文を勢いで誤魔化さないタイプだと思っている。ゆったりとした雰囲気の場面だったり、張りつめている雰囲気の場面はうまく書けている。町の雰囲気だったり、礼拝堂の描写なんかはとっても良い。情景が目に浮かぶようだった。


 ただ、テンポが求められる戦闘になると粗が目立つ。なんだろう、メリハリがない感じがする。


 例えばレイシアの一撃で倒せるシーンは違和感はないんだが、そうだな……ああ、そうだ。俺が感じた違和感の1つを教えておこう。


 黒い人とボロボロの人戦において、リィケで固唾をのんで見守っているシーンがあるな? 『くっ、これまでか、油断したな』のシーンだ。


 あそこでリィケは暢気なことに、ボロボロの人が動きをちょこちょこ止めているのを気にして『もしかすると疲弊して眠くなってきたのではないか?』って心配している描写があるよな?


 あれ自体は別にありだと思う。戦闘シーンを観戦しているリィケから見た不安の声が漏れた形だからな。


 ただその後、よりピンチな場面になるだろ? ボロボロの人が潰されそうになるシーン。


 そのシーンでこそリィケの焦りが伝えられるべきところなのに、完全に黒い人が行動を終えるまで何も反応しないのは違和感だった。


 あのシーンはリィケの視点だろ? まだまだ動き回っている時と完全にピンチが過ぎ去った後には反応があるのに、ピンチの最中に反応がないのは違和感だ。「危ないっ!」とか一言でも足しておくと臨場感が増すだろう。


 あとは戦闘シーンで「~した」っていう過去形が多用されているきらいがある。他のところではそんなに気にならないんだが、例えばスキュラ戦でレイシアを取り合っているシーン。連続している文なのにほとんどが「~した」の過去形で終わっている。それがテンポを崩している要因になっていると思う。


 まあ、描写力に限って言うと全体を通して違和感はないレベルだと思う。決してうまいというレベルでないにしろ、読者へ読ませようという努力が見えるものだった、とだけ言っておこう。







 さて、最後に恒例に2つを言って今回はおしまいだ。




 ※ここで書かれている内容は全て個人的な意見であり、真に受けるかどうかは読み手に任せる。無視するも反論するもナニクソと思うも好きにしろ。






【作品名】Thousand Sense

【URL】https://ncode.syosetu.com/n2374er/

【評価】3.5点



さて、ここいらで俺が運営様から貰った指摘について話しておこう。


事の始まりは独自ルートによる情報入手だ。


どうやら『感想欲しい奴は俺の作品の感想欄で言ってくれ』という趣旨のエッセイを挙げている奴がいたらしいんだが、そいつが運営様より×をくらった。


曰く、『なろうにおいて小説投稿とは作品を投稿するところで、宣伝や何らかの募集目的のみで使うことを禁じる』ということらしかった。


俺はその×を食らった人を詳しくは知らねぇが、どうやら本当に作品募集の為だけの投稿を短編で何回か繰り返し、『お前の投稿しているものは小説じゃない』としてBANを食らったらしい。


さて、俺はこの情報を入手して焦りはしなかった。なぜならこの日誌はきちんとした作品だからだ。


ただ単純に『感想書いてほしい奴は言ってほしい』という募集だけを目的にしているわけじゃねぇ。『感想を作品の続きに書いていくレビュースタイル』の作品だ。たまにあんだろ? 他人の作品ばっかを紹介していくエッセイが。


あれが多分、あらすじ紹介だけならBAN対象になっちまうんだろうが、そこに作者独自の紹介だったりがつけられると途端に作品になる。ああ、つまり俺の日誌と同じスタイルであり、それは規約上OKであるという判例もある。


よしよし、ならば安心だなー……と思ってはいたが、念には念をだ。俺は一応念のために運営様に問い合わせした。『こんな日誌を書いておりますが問題ないですよね?』ってな感じでな。


……翌日、運営様からこの日誌が検索除外にかけられていたよ。


なんで?! と思ったら有難くもメッセージにてその理由を運営様は教えてくれた。曰く、


『感想欄を作品の感想以外の目的で使用することはNGです』とのことだった。


つまりは作品の性質は問題ないが、募集方法がNGだったってことだ。ああ、そっちで指摘されるのは完全に予想外だったよ。


というわけで以降、残念ながら感想欄で作品募集することをやめる。そんでもってこれからの募集は俺の活動報告内で行なうこととする。


詳しくはあとがき後のバナーをクリック、もしくは以下URLをコピペして活動報告ページへ飛んでくれ。そこで募集受付をしているからよ。


(※注意:2021年4月14日現在、作品の応募は締め切った)

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2228667/






さて、次は鉄の剣野郎の出番だな。


悶絶衝撃女豹拳パトリシアパンチっす!!


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