22.ひな鳥探偵は謎を解かない
どうも、あっちいけだ。
さてさて、今回で差し出された踏み台は最後だ。ここまで読み進めてきた酔狂な奴ら、ありがとう。
そして踏み台を差し出してきた同志達よ、感謝する。お前らの作品は俺の経験と血肉になった。
まあ諸々の総括については最後の踏み台を踏み終えてからするとしよう。そんなわけで———
さて、今回も始めよう。今回踏み台を差し出してきてくれたのは「田面類/海鮮焼きそば」君だ。
よ、読めねぇ……海鮮焼きそばの方はともかく、前の方は何て読むんだ…? 「ためんるい」?
と思っていたら某所で正解を見ることが出来た。「たづらるい」らしい。ん、んん、元ネタ的なものや、もじり的なものが想像つかないな。
というわけでここでは彼のことを捻りなく「海鮮焼きそば」君にしようと思う。
そんなわけで、そんな海鮮焼きそば君が差し出してきた踏み台について、以下募集要項から引用する。
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【作品名】:ひな鳥探偵は謎を解かない
https://ncode.syosetu.com/n9359em/
【簡易的なあらすじ】:『私が関わったとされている事件の中に、1つだけ冤罪がある』連続毒殺犯からの極秘依頼。若き探偵と知人の少女が真相に――迫るようであまり迫らないけど、調査の過程で目を背けていた自分と向き合い直していく話。
【セールスポイント】
○楽しんでほしい人
・いわゆるおにロリの中でも、恋愛関係に発展しないものが好きな人
・事情や背景のある悲しき悪が好きな人
・重たい話を楽しめるだけの精神的余裕がある人
○楽しんでほしいところ
・お互いに暗い背景を抱えている主人公とヒロイン(?)の少女の、似たものを感じるがゆえの疑似親子的な親愛
・前半で随所にほのめかされた後ろ暗い部分を、中盤以降でそれらを一気に回収するときの納得感
・さんざん悩んで迷って、どうすればいいのかわからなくなっていた二人が、一歩前に進むきっかけを得るまでの過程
【フックポイントの話数】
10話~11話。主人公と少女の背景に関する伏線や叙述トリック的な部分を一気に回収する話であり、二人が一回突き落とされる話。
『ひな鳥探偵は謎を解かない』という物語はここから立ち直るための話なので、ある意味ここがスタートのようなものだったりします。そのため特に力を入れて書きましたが……いまいち出来には満足できていません。『悩み』に続きます。
『悩み』
・ここで引きずり込むために書いた物語と言っても過言ではないのに、10~11話を主とした伏線回収と背景を明かすターンが、パワーと説得力に欠ける気がします。
それに関してひとつ悩んでいるのが、主人公たち二人に自分のことから目をそらしてきた事実を突きつけることを役割のひとつとして持った、10話で初登場するキャラクターについてです。彼をその役割を遂行できるだけのキャラクターにできていない実感がひしひしとしています。
・文章とストーリーがずっと一定の重暗さのまま進んでおり、またエンタメ成分に欠けてひたすら地味なこと。読み進めてもらう上で障害になっている気がしてならないですが、今の雰囲気をあまり崩さずにそれを解決する方法が思い浮かばず詰まっています。
・このお話のキャラクターはかなり自分で動いてはくれるのですが、その割にはキャラクターがストーリーのための駒になっている気がします。
・純文学でも文芸でもライト文芸でもライトノベルでもない気がして、それらの読者層(雑な括りで申し訳ありません)のどこにもアプローチできていないように思えること。ストーリーと文体の重さ・硬さに対して、キャラクター造形と一部のコメディチックな掛け合いがライトノベル的で浮いている気がします。正直なところ、「私は大好きだけど、これどういう人が読むんだろう」と思いながら書いています。セールスポイントもほとんど無理やり引っ張り出しました。
【本気で書いているかどうか】
私は今まで長編(10万字以上)に三度挑戦し、その三度とも数万字ほどで挫折しました。いずれの場合も、クオリティにどうしても納得いかなかったこと、書いていてこの話好き!楽しい!と思えなかったことの二つがその理由です。
だから私は、今度こそはまとまった分量を書き上げてやるという強い思いでこのお話を書き始めました。書いていて楽しくて、自分で納得いくだけのクオリティを持った物語にできないと完結までたどり着ける気がしないので、本気の本気で書いています。
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おっと、こいつは、まさかまさかのミステリーものか!?
何を隠そう、あっちいけなる読者はミステリー小説をほぼ読んだことがないっ! 大昔に母が図書館から借りてきた赤川〇郎の何かしらのシリーズ作品を何冊か読んだくらいしか記憶にない。今記憶を頼りに調べてみたが…多分三姉妹〇偵団シリーズな気がする。三毛猫ホー◯ズではなかったと思う。まあ、全く内容は覚えていないわけだがな!
よって、あっちいけという読者はほぼミステリー小説初心者といっても過言ではない。
それでも好き勝手しゃべらせてもらおう。ミステリー小説の作法とかは全然知らねぇから、頓珍漢なこと言ってたらはった倒してくれ。
そんなわけで『ひな鳥探偵は謎を解かない」(以下、ひな鳥)について、読んでねぇ奴らのための概要説明から入る。
主人公である白鳥 英樹は探偵である。
ただ、まだ駆け出しの探偵であるし、トリックや謎を解決しないし、する気もない。彼が行うのは情報収集と説得だけ。
彼の探偵事務所には度々かわいらしいお客さんがやってくる。元依頼人であり、今は遊び相手にもなってあげている片桐 美穂だ。
そんな彼女が今日も探偵事務所に遊びに来た。しかし事務所の郵便受けに入っていた茶封筒を彼女が持ってきて、英樹に見せるところから物語は動き出す。
『私は、世間を騒がせている連続毒殺事件の犯人です』―――封筒に入っていた手紙は、そんな一文から始まった。
『世間で自分が起こしたとされている毒殺事件の中に、1つだけ自分が起こしていないものがある。自作自演で被害者を騙っている奴を私は許さない。お前に依頼するのは真相を暴き、世間にそれを知らしめること。ただし手紙の内容は決して誰にも口外せず、警察に頼ることも許さない。できなければ、お前の命の保証はないと思いなさい』
これは全く謎を解決する気のない探偵英樹と、脅迫文をたまたま見てしまった少女美穂が、一方的に連続毒殺事件の謎に巻き込まれ、渦中で互いの心の弱さを克服していく話である。
ぐへぇ、いつも以上に適当なあらすじになっちまった。
海鮮焼きそば君が書かんとしていることと若干ずれているor書かれている実態と若干ずれている気がしないでもないが、まあ許せ。文句があれば感想欄で大いに暴れたまえ。
さてさて、それでは早速本作の感想に移って行こう。
今回も捻りなく、本作の良いところから!
特になし、以上。
さて。
まずは先に言っておこう。本作『ひな鳥』については面白くできそうな要素がたくさんある。
主人公である探偵が謎を解かないと豪語する、ミステリー小説界隈では恐らく稀有であろう、反骨心溢れたその設定。(前述の通り、俺がミステリーものを全くといっていいほど読まないから知らないだけで、もしかしたらたまに見かける設定だったりするかもしれないが)
普通であることにあこがれる主人公とロリキャラの、恋愛感情に行きつかないまでも互いを必要とし始めるまでの経過であったり。
描き方もミステリー小説っぽい「読者側に窓が用意されていて、その枠以上の情報は決して与えようとしない」姿勢だったり。(前述の通り、以下略)
海鮮焼きそば君に怒られるかもしれないが、「らしい書き方、らしい設定、らしい起承転結」は用意されているのである。
だが、それらは全て作中で飽和、あるいは溶解している。書き方自体は多少慣れている、地力が多少ある、といった感じで受け取っている。しかしより一歩進んだところにある描き方、伝え方、演出力、構成力が足りないと俺は感じた。
だから今からそれら俺が不足していると思ったところ、俺がおかしいと感じたところ、全てをぶちまけていく。
海鮮焼きそば君。お前の作品、面白くできそうな要素は大量にあるのに調理の仕方でもったいない仕上がりになっている。しかも多少書き方に慣れがあるせいか全く読めないものではなく、『読めるんだけど何言ってんのか本質のところが訳分かんねぇな』的な感じになっており、非常に、非常にもったいない、と俺は感じた。
納得いかない部分もあるかもしれない。だがそれは俺が感じた正直な心だ。
そう思った読者もいる。そんな風に受け取ってくれると嬉しい。
さて、丁重に前置きを置いておいたからここからは好き勝手にしゃべらせてもらおう。
最初に結論を語っておく。本作はエンタメ性が全く無く、小説という形を取った観察日誌的な何かだと俺は感じた。
そう感じ取った理由について、『主人公の謎を解かないという設定の勿体なさ』、『心に闇を抱えたキャラクターの描写の作法』、『クライマックスにおける主人公たちの心の成長の経緯描写不足』といった3点をメインとして語っていきたい。ちなみにネタバレ注意だ。(今更〜)
ちなみに、今回は一応感情グラフ作っているがそれに則らず語るつもりだし、最後まで感想読んだうえで「あぁ、ここの話数がやっぱりあっちいけ的に引っ掛かってるのね」と補完&確認するくらいしか意味がないため、最後に載せておく。
さて、では本題だ。
まずは『主人公の謎を解かないという設定の勿体なさ』。これは読んで字のごとく、かなり面白くできそうな設定なのに実質形骸化してしまっていて、「ひな鳥探偵は謎を解かない」というタイトルで惹かれてきた読者が肩透かしにあう要因になっていると俺は感じている。
どういうことか。まず主人公である英樹は探偵をやっていて、唐突に連続毒殺事件に巻き込まれてしまう。第3話時点でタイトルにもあるように「俺はトリックも謎もとかない。できるのは情報収集と説得だけ」と彼自身も発言し、そこまではタイトル通りなのである。
だが、その後謎っぽい謎が出てこない。最終盤で追い詰められた犯人が「これをしたのはどうしてだと思います?」と主人公に聞いてきて、謎解きできない主人公が見当はずれな答えを返して犯人に小馬鹿にされるところとかはタイトル通りなんだと思うが、そもそものストーリー全体にかかってくる事件に謎がない。
連続毒殺犯から送られてきた手紙に『自作自演したのは群馬県の誰それという少年だ』という指定というか答えが書いてあって、少年の身辺や少年自身に聞き込みを行っていくがそこで開示されていく情報のほとんどが『少年がどういった人間性であるのか、どういった風に思われているか』というものであって、その次に『主人公や美穂の歪さが露呈するイベント』が挟まっていて。
その合間にかすかに少年のアリバイを崩すヒントになるような情報がちらと入っているが正直答えを聞いても『そういうことかっ!!』と思えるほどのトリックでもなく、本当に本作には『謎』が無いのである。
そして、先ほどいったアリバイトリックめいたものはあるにはあるのだが、なんと『少年にはアリバイがある』という情報が読者に提示されるのがまさかの最終盤である。本来、ミステリーものであれば『俺にはアリバイがある!』っていうのは事件発生して直後、探偵である主人公が疑い始める頃合いに出すべき情報じゃないのか?
例えば今回でいえば10話前後で少年の母親、あるいは少年自身に聞き込みしている時に『健一(少年の名前)にはアリバイがありますからね!』的なことを言わせておけば、『ほう、そういうアリバイ(謎)があるのか』って読者も意識できるじゃない?
それが無い状態で話を進められていっても、読者には本作に『謎』があるように見えないのだ。
つまり、せっかく主人公が謎を解かないという異色極まる設定を持っているのに作中にそもそも謎がなければその設定も死ぬということだ。せめてミステリー作品性を持たせるのであれば、読者に謎を提示してあげることから始めたらどうだろうか。
そして、ミステリー面でエンタメ性を持たせるのであればアリバイだけではなくもっともっと多くの謎要素を入れ込んだ方が良いと俺は思った。
例えば、連続毒殺犯から送られてくる手紙にも誰が自作自演か書いておらず、あくまで依頼状的な感じではなく挑戦状的な感じにして。
それで行き着いた先で少年に出会うんだが彼にはアリバイがあって、情報収集と説得によってボロを出させる、みたいな。
そしてその際、主人公は決して謎を解こうとしない。情報収集だけして『ん~、分からんね~』みたいにお気楽に構えていると動向を監視しているらしい連続毒殺犯から『お前はせっかく情報に行きついたのに見過ごしているな。仕方がないから教えてやるが』的に(ツンデレ!!)毒殺犯の方が勝手に推理してくれて読者へ謎の回答を提示。話が進んでいく的な展開であれば主人公が謎を解かない設定が活きて来るんじゃないかと思った。
そして次、『心に闇を抱えたキャラクターの描写の作法』について。
ちなみにこれが本作において最も致命的に俺と合わなかった、及び俺が受け付けられなかった部分になる。
どういうことか。本作では主人公である英樹及びヒロインである美穂の2人はそれぞれ心に病を抱えている。
主人公は『流行りものにとにかく手を出しまくり、周りのひとと同じ物を持っている事実によって自分は普通であると認識したい』という強迫観念めいたものに心を侵されている。
流行りものには何でも手を出すのだが『持っている』ことに意味があるため、例えば流行りの服、ゲーム機、人形など何でも買うが、買ったが最後それを押し入れにしまい込んで満足する感じだ。
一方で美穂。彼女は幼少期に両親から受けたネグレクトによって精神年齢が実年齢と比較して幼い。症状としては2~3歳幼いといったもの。
養護施設の運営が資金難で追いついていないのもあり、精神年齢と実年齢にギャップがある彼女の教育がままなっていない。それでいて市からは『ネグレクトにあった少女が養護施設での教育の結果、普通の学校に通うまで回復することが出来た』という福祉貢献の成果アピールの為、養護学校ではなく普通の中学校に通わされている。だが実際には周りの子たちとの差が明確であり、いじめらしきものも受けている。
さて、そんな彼ら彼女らである。本作『ひな鳥』ではどのような描き方をされているか?
まず、序盤には上記のような彼らの事情は一切描かれない。それは良い。こういった情報は温めておいて、いざという時に披露して読者を驚かせるものだ。
だが。
上記のような事情は一切描かれない代わりに海鮮焼きそば君は逐一彼らが抱えている闇っぽい部分をぼんやり描写してきて、事情を知らされていないこちらとして鬱陶しいことこの上ないのである。
どういうことか、以下に最序盤である1話の描写を引用する。
場面としては英樹が経営する探偵事務所に美穂がやってきて、事務員である西沢さんが不在であることに美穂が気づくシーンだ。
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「そういえば西沢さんいないねー。どこ行ったの?」
「お客様に出す紅茶がなくなりそうだったからそれを買いに行くのと、調査に協力してくれた人のところにお礼の品を持っていってもらってる。もうじき戻ってこられるんじゃないか」
「じゃあ、早く帰ってきてーってお祈りしようと思うの」
手提げを応接机に置いて革製のソファに座った美穂は、目をつむって合掌のポーズをとる。
「ほんとよくなついてるよな」
「わたしがなでなでしてほしかったりお話したかったりするときね、言ったらだいたいしてくれるんだもん」
ほわほわと笑う美穂の丸顔がほんの少しだけ陰ったことに、果たして英樹は気づけたのか。
「相手の手が空いてないときだったとしても、無視されたりすると悲しくなるのはわかるな」
「うん……でもしょちょーさんも私に優しくしてくれるから、本当のおとーさんみたい!」
そう言うなり、美穂はそばに立っている英樹の左腕を引っ張って隣に座らせ、そのまま腕にきゅっと抱きついた。えへ、ふえ、などと言葉未満の声を出して甘える姿は、なるほど親子のようである。
「ちょっやめ、今人が来たらどうするんだ」
慌てて少女を振りほどく。
「あっ……ごめんなさいっ」
「すまない、言いすぎた。お父さん代わりにはなれないが、来てくれればいつも通り相手する」
「ありがと……」
なにか言いたげな様子だが、美穂の口から出たのは感謝の四文字だけだった。しかし、その真意を感じ取った英樹は申し訳なそうに軽く頭を下げる。
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引用ここまで。
さて、ここを読んでいる段階では読者たる俺はまだ彼らに対して『探偵をやっているらしい英樹なる人物』と『ほわほわのんびりしていそうな美穂という少女』というくらいしかキャラを把握していない。
それなのに早速溢れ出てくる心の闇。鬱陶しいことこの上ない。
作者が『この人たちかわいそうな人なんですよ~、あ、でもまだその事情とか詳しいところは説明できないんですけどね?』とか訳知り顔で言ってきているような気がして、ぶん殴りたくなる。
そして、こういった心の闇演出はちょくちょく物語の合間に挟まってきて、その度に舌打ちが止まらない。
こういったものはさ、もっと隠しておくべきなんじゃねぇの? いや、心の闇を最初から全開で読者に開示していった方が良いパターンもあるだろうよ。でもさ、こいつらって『普通になろうとして普通になり切れていない心の病気持ちの人たち』じゃん?
だったら外面や第一印象・第二印象くらいまでは普通のひとらしく描いてやろうぜ。その合間に読者が「おや?」と思うくらいのヒントを置いておくくらいでさ。例えば主人公については『流行りものを買ったけど使いもせずに押し入れにしまっている』という描写だけで「おや?」と思わせることが出来るじゃん。美穂についても、主人公が可哀そうな子を扱う感じすぎて「伏線・匂わせ」といったものを通り越してもはや『臭気』になってるんだよね。
一読者たる俺としては、明らかに臭気漂いまくっているそれに対して「あの~…めっちゃ臭ってるんですけど、それ…」と鼻をつまんで指さしているのに、作者から「いや~、それね。あはは、まだ語るの先なんですよ、あはは」と笑われているようで。
読んでいて正直苦痛だ。(俺的に)作法がなっちゃねぇよ。
それと美穂の方の症状な。なんかこう中途半端な気がするんだよな。精神年齢と実年齢が2歳差って、もしかすると現実的にみるとめっちゃ厳しいのかもしれんけど、「小学校5年と中学1年の差だろ? なんとかなんじゃねぇの?」感が俺の中で生まれてしまった。
例えば。
ここから語るのは海鮮焼きそば君的には納得できないことだらけかもしれないと一応前書きは置いておくが、俺だったら美穂の設定を実年齢はそのまま13歳で、精神年齢を6歳前後くらいまで下げる。実際にそれくらい下げる必要もないかもしれないが、言動をもう少し幼稚にさせる。
そして美穂は度々養護施設のトップのことを「園長さん」と呼び、中学校のトップのことを「校長先生」と呼ぶ。この「校長先生」の存在を読者に対してひた隠しにし、パラコートの注意を行うのも園長にさせて、美穂の発話で出てくるトップの名前を「園長さん」だけに固定する。また「養護施設・学校・登校」といった言葉も隠す。
そうすることで何が起こるか? 読者は美穂の発言の中で『園長さん』という人物が高頻度で出てくるため、美穂を幼稚園児だと誤認するだろう。そのわりには言動が大人びていたり聞き分けがいいなぁなんて思わせたり、主人公が『美穂を連れていることで周りに警戒されたらどうしよう…』とか心配しているのも、大人が幼稚園児連れて歩いているだけで、周りには親戚の子を預かっているだけです的に言い訳すればいいんじゃない?と思わせておく。
ところがどっこい、幼稚園児のわりに大人びていると思っていた美穂が、実は中学生で逆にその言動が年の割には幼稚だったということが分かった時に叙述トリック的にエンタメ感が出て面白いんじゃないか?と俺は思った。
最初っから養護施設に帰る、校長先生、登校、なんて言葉が出ていたら美穂の年齢や境遇がある程度悟れてしまう。そして親の愛情を受けられなかった、とか英樹との出会いが親探しだったとかいう情報が中盤に出てきてしまうと美穂の境遇はほぼ丸裸も同然である。
そうして満を持して出てきた美穂の回想回。しかし読者が悟れてしまった予想・境遇を飛び越えるような衝撃的事実はそこにはなく、ただ単純に精神年齢が2歳幼い+親からのネグレクトを受けていたという今まで言語化されてはいなかったものの作者が散々匂わせてきたものが明確にされただけの回想回。
カタルシスもエンタメ感も一切感じない。はいはい、って聞き流して終わりよ。ちなみに主人公の回想回も似たような感じだな。
心の闇を抱えている、しかし外面だけは普通のひとを演じようとしている。そんなキャラクターをより魅力的に、より衝撃的に書こうとするなら描き方と演出を変えなければならない。
今のままではせっかくのキャラクターが台無しだ。と俺は思った。
そして最後、『クライマックスにおける主人公たちの心の成長の経緯描写不足』について。
本作はめっちゃ上の概要のところで前述した通り、『心に闇を抱えた主人公及び美穂が、事件に巻き込まれたことをきっかけにして互いの心を弱さを克服していく話』である。主人公が謎を解かないと豪語している以上、本作でのメインはミステリーではなくここの人間模様、心の成長なのである。
だがしかし。
本作の肝であるはずの心の成長、闇の克服についての経緯描写がほぼ無いのである。
どういうことか。終盤、「大人として社会人らしく責任ある行動を取らなければならないという強迫観念、及び普通であることに強く執着していること」が原因で美穂と仲たがいしてしまった主人公。そんな彼を事務員たる西沢さんが慰めてくれる。
曰く。
・大人だとか社会人だとかこだわっているけど、そんなの自分だってなれているか分からない
・外側だけ大人になってるけど中身は結構適当。こうした方がいいんじゃないかってことが少しずつ分かってきてそれをやっているだけ
・あんまり大人大人って意識して肩肘張るんじゃなくて気楽にやった方がいいんじゃない?
・あけっぴろに一回美穂と話してみなよ。あの子は頼れる大人じゃなくて安心できるひとをきっと求めているんだから
……めっちゃ良いこと言ってるよ、西沢さん…!
そうしてこれら慰めとアドバイスを受けた主人公英樹は「方法はまだ見えないがまずは会って話をしよう」と思い立ち、美穂に会いに行く。
その直後に主人公英樹の生い立ち説明というか回想が入る。どうして彼が流行りものに執着するようになったのかが描かれる。そしてその回想の始まりには「どうすればよかったんだろう」とあり、最後も「どこで何を間違えた? 知りたいんだ、教えてくれよ」や「白鳥 英樹は、今日も正解を求めている。」などといった文章で締めくくられている為、この回想をしている瞬間も彼は答えが見いだせていないことが分かる。
そうして迎えた回想開け。主人公と美穂の会話シーン、以下引用だ。
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いつものように探偵事務所で。同じソファ、隣に座る美穂へ声をかける。
「……長話になったが、疲れてないか?」
「へーきだよ? わたし、なーんにも知らなかったんだねえ。みんなに嫌われてたり、するのかな」
そんなことない、というのはたやすい。けれど、英樹はそれ以上の言葉を届けたいと願った。
現実を知り、落ち込むこともたまには必要だ。問題はその先につなげられるかどうか。彼女の未来につなげるための、最初の一歩を後押しできたら。
言葉はあとからついてくるだろう。感情のまま、とにかく口を開いた。
「心配ない、これから知っていけばいいんだ。自分はどういう人か。なにをしたいか。みんなはどんな人で、どんなこと考えてるのか。そういうことが少しでもわかったら、今よりもっと楽しく生きられるかもしれない。逆に、みんなに自分を知ってもらうのも」
「うん……でもね、こわいの」
「だよなあ。俺も怖い。もし俺が誰かに嫌われていたとして、それを知ったら1週間はへこむよ。でも、他人のことを知るのは大事だと思う。話しかけてその人のことを知れたら、ひょっとするとなかよくなれるかもしれない」
英樹は身体が熱を帯びるのを感じた。それが妙に心地よい。
「他の人の考え方が見えてきたら、自分の考え方と比べてみる。そしたら何かが見つかるかもしれない。その人の意見を取り入れることもできるし、考えが合わなくても、自分はこうしたいって気持ちが強くなったりする。そうなれたら最高だよな」
「やれたらいいなあ……! ぜったい、たのしいよ」
「ああ。だから、嫌われてるかもしれないと思っても、話してみたら違ってくるかもしれない。むずかしかったら、誰かお友達と一緒にその人に声かけてみるって方法もある。言いたかったのはそれだけだ」
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ここだよ…!!! いや、この手前なんだよ、重要なのは…っ!!!
もう一度言おう。西沢さんが主人公にかけた言葉はまとめると「大人なんて定義できないし自分でもよく分かっていないものだから、もっと気楽にやればいいじゃん」的なものだった。それは主人公英樹の心の負担を軽くするアドバイスであり、さすが46歳子持ちの乙女であると俺すら納得してそのアドバイスを聞けたんだよ。
そのアドバイスが主人公の立ち直るきっかけになることも分かる。だけど主人公がいきなり美穂に言い始めたのって『他人や自分のことをもっと知ったり知ってもらったりすれば、怖いかもしれないけれど楽しく生きられるかもしれない。他人の考えが見えたら自分の考えと比較して新しい何かを見つけられるかもしれない』ってことでしょ?
直接繋がってないんだよ!!
分かるよ、これは西沢さんに相談に乗ってもらった主人公が、もともと抱えていた『流行りものを買う=周りのひとと同じものを買うことによって帰属意識や仲間意識を手に入れようとしていた主人公が、物に頼らずきちんと人に向き合って話し合うことによって仲たがいする可能性も受け入れつつ仲良くなれる可能性を信じて前向きに生きていこう』と決意した表れであることは。
ただ間が跳びすぎ。端折りすぎ。主人公が西沢さんの言葉を咀嚼して、自分の今までの生い立ちを回想して、自分の言葉に心の中で置き換えられてから美穂に話してやれよ。その直前の回想シーンまで『どうすればよかったんだろう』とか途方に暮れていたのに、回想開けでいきなりコミュニケーションの何たるかを話し始めた主人公に対して「誰だよこいつ」って思ってしまったよ。
もう1話くらい挟めよ…もしくは回想をもっと前に持って行って、その後に西沢さんのアドバイスがあって、その後に主人公の咀嚼シーンがあって、美穂との仲直りシーンという流れの方がスムーズじゃないのか? 主人公の抱えている心の闇が何であるか(薄々は感じ取れるが)明確にされてない段階で西沢さんのアドバイスを聞かされるのと、主人公がどういった闇を抱えているかきっちり明確化されたうえで西沢さんのアドバイスを聞けるかで大分入り込み度が変わるから。
本作での一番のメインどころ(だと勝手に思っているが)なのに、いきなり悟ったように語る主人公を見て「こいつ、本当に心の底から理解できてんのか?」と疑いの目を向けちまった。
もう1話挟め。そうするのとしないのとで、本作の面白さが何十倍も変わってくるから。
さて、あらかた話したかったことは終えた。
他にも細かいところで「少年とその母親の確執めいたものがあったのにそれはどうなったのか?(90点の点数ですら破り捨てられるとかの伏線)」が回収されきれずに終わった気がするが。
俺が気にし過ぎているだけなのか(もともと作者も深堀するつもりがなかったのか)、俺の読み込み不足なのか分からないが、あえて語気を荒げて語るまでもないと判断した。
だから淡々と書くが、少年が母親にびびっている描写だったり、母親が『できる息子』に異常に執着している要素について、クライマックスの自供シーンでそれっぽく掠った発言はあったような気もするががっつり絡んできていないと俺は感じてしまった.
これって何か書く要素削った弊害か? 最後にもう一ひねりあるのかと思って、結果何もなく肩透かしを食らった気がしたのであえてここに書き残しておく。
さて、そんなわけで。
普段ならこんなことやらない方がいいと思っているんだが、上記俺的に気になったところを総括した、『俺なら本作をこう描く』というプロットを以下に書き記していく。
その前に、まず俺が『こんなことやらない方がいい』と思っているのかの説明をしておく。それは、それをしてしまうことは何よりも作者を莫迦にしてしまう行為だと俺が思っているからだ。
作者たる者、『この作品は俺が一番うまく描ける!』という信念を大なり小なり持っているはず。そうでなくても『この作品は俺のものだ!』という責任感、使命感、特別感を持っているはず。そうでなければ文字を書き起こそうとしないだろう。
それなのに『俺ならこうする』というのを一から十までぶつけてしまうのは、作者の信念を極めて損なう行為だと俺は思っている。
だが海鮮焼きそば君が送ってきた募集要項の悩みやフックポイントの話数欄で「うまくいっている自信がない」等から始まり、この物語を昇華する方法を模索し、悩んでいる雰囲気を勝手ながらにひしひしと感じた。
だからこそ、あえて書く。もし自分の作品を穢す行為だと思ったなら読まなくていいし、書いてあるのも許せなかったら感想欄で言ってくれ、すぐに消す。
そして、そもそもこんな前書きしてまで書き連ねたプロットが鼻で笑ってしまうほど面白くなさそうだったら感想欄で笑ってくれ。その場合、消しはしないが秘かに恥で悶絶するだろう。
さてはて、そんな前書きを置いたうえで、俺なら以下のようなプロットにする。
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1,主人公と美穂には暗い要素を滲み出させないようにする。多少違和感のある描き方だけに抑えておく。特に主人公は内面はともなく言動をもっとお気楽的な感じにする。
2,主人公のもとに連続毒殺犯からの挑戦状が送られてくる。与えられるのは『誰か自作自演している』という謎。それを見た美穂は興味本位で首を突っ込んでくる。(連続毒殺犯からの監視はあるが、依頼達成できなければ命の保証はない的な下りはなくしてもう少し気楽さを出す)
3,新聞記事などから、毒殺犯の犯行と思われていて命が助かった件をまず抜粋。自作自演である可能性ありと警察が疑ったが証拠不十分で解放された件を抽出。該当件数は4件(←件数は適当)
4,どこから情報取集するか悩んでいた時に美穂から『せっかくなら遠出したい!』と希望を出される。該当する事件の中で最も遠い例である群馬にまずは情報収集に行くことにする
5,情報収集していく中で少年にはアリバイがあることが判明する。また疑われた少年から逆上され、『お前たち変だよ!』と指摘され主人公たちは狼狽えてしまう。(この際、少年も普通にあこがれている節を醸し出しておく)
6,帰りしな、主人公と美穂が『普通じゃない』と言われたことでぎくしゃくする。主人公及び美穂の回想をここで入れる。
7,その後、美穂が風邪をひいたり園長先生からの外出許可が下りなかったりで顔を合せられなかった。その間に主人公は他3件の情報収集も終えて『んー、誰も名乗り出てくれないな~』的な感じでお手上げする。そんな折、業を煮やした毒殺犯から『仕方がないから教えてやるが自作自演のやつは群馬の少年だ』と追加の手紙が送られてくる。そうして主人公はもう一度少年に会おうと思う(アリバイについては知ったこっちゃない感じ)
8,ただ少年から言われた『普通じゃない』という言葉が未だ胸に刺さっていてどうにも足が重たい。そんなときに西沢さんに大人とは、普通とはなんぞや。もっと気楽に生きたらいいじゃんと言われる。そうして少年もそういえば普通になりたそうだったなと思い出す。
9,主人公、流行りもの(物)に頼って他人との仲を構築しようとしていたり普通のひとを装うとしていたがそうではなく、他人と向き合うことこそが大事だと気づく。美穂及び少年と向き合おうと決意する。
10,美穂と和解。美穂を引き連れて少年宅へ再度訪問。アリバイがあると豪語する母親と少年。しかしアリバイなんてどうでもいい、ひとと向き合うことによって仲良くなれることを知った主人公が少年を説得。(事前に主人公が少年の入院した病院に情報収集をかけていて、見舞いに来た友人が0だったことを突き止めておくとかあるといいかも。描写はせず、ただ調べた結果を最終盤で暴露する感じ=アリバイを崩せない推理未満の代物だが、情報収集と説得しかしないという主人公設定を活かす)
11,少年、自分のことを考えてくれている主人公に涙。自作自演であることを自白。出頭の約束をする。
12,帰宅。主人公、美穂を将来養子に迎えようという決意を口にする。美穂、承諾。そうして探偵事務所に毒殺犯から謝礼と手紙が届いていた。『お前の働きには感謝する。まさか1つも謎を解かずに少年を追い詰められるとは思わなかった。どうだろう、もしよければ私の正体という謎にも迫ってみないかね?』
13,その手紙を読んで主人公、独りごちる。『俺は謎を解かない主義なんだ』
Fin
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すまん、めっちゃ自分好みにストーリーを変えてみようと思って書いただけだ。
これが正解というわけでもなんでもないことは承知しておいてほしい。ただ、『ひな鳥探偵は謎を解かない』というタイトルから感じた期待感及び途中までのストーリー進行からこんな感じだったら面白そうだなという予想を書き連ねただけだ。
ひとによって面白い面白くないはどうしても分かれるところだしな。
と、そんなわけで俺的感想は終わり。
最後に感情グラフと、いつもの恒例の2つをやっておしまいだ。
【PC版】
【スマホ版】(レイアウト崩れ注意)
※ここで書かれている内容は全て個人的な意見であり、真に受けるかどうかは読み手に任せる。無視するも反論するもナニクソと思うも好きにしろ。
【作品名】ひな鳥探偵は謎を解かない
【URL】https://ncode.syosetu.com/n9359em/
【評価】4点
さて、これで日誌も終わり———と思いきや?
すまねぇな。最後に最強吸血鬼野郎の出番だ。
……これで、吸血鬼として死ねる———