21.白き鎧 黒き鎧
そろそろ日誌も終わりが見えてきた頃合い。
どうも、あっちいけだ。
今回はどうでもいい話は無しだ。早速日誌の本題に入っていこう。
さて、今回踏み台を差し出してきてくれたのは「つづれ しういち」君だ。
もう、これはあれだな? 名前の由来は「綴れ週一」ってことで毎週投稿するぜって意気込みにかけているってことでいいんだよな?
って思ってプロフィール欄見に行ったら毎日更新中とのこと…す、すげぇな! 1年半近く何も更新しなかったどこかの誰かさんとは大違いだぜ!(白目
そして差し出してきた踏み台作品のあとがきにも書いてあるんだが、65万文字作品をわずか5か月で描き切っておられる。
そのスピードはマジで遅筆な俺じゃ無理だ…すげぇ、速筆なひとはそれだけで尊敬に値する。マジで、すげぇです。
ってなわけで、執筆速度についてはそれくらいにしておいて、ここでは彼のことをどう呼ぶか、「しういち君」だと平仮名が多くて文章の中に埋もれがちなので勝手ながら「週一君」とさせてもらうことにする。
さて、そんなわけでそんな週一君が差し出してきた作品について、まずは以下で募集要項を引用する。
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【作品名】:「白き鎧 黒き鎧」
(https://ncode.syosetu.com/n7314cw/)
65万字弱。完結済みです。
【簡易的なあらすじ】:
高校生の内藤は、異世界に突然攫われる。友人・佐竹は彼を追うが、あちらではすでに七年の歳月が流れていた。言葉も分からぬ世界で内藤を探す佐竹。やがて彼そっくりの国王に巡り合うが、王に内藤としての記憶はなく……。
【セールスポイント】:
同じ異世界転移でも、チートやハーレムとは無縁の、シリアスな物語が読みたい人向け(コメディ部分もありますが)。魔法はなし。真摯で生真面目すぎ、とても高校生とは思えない主人公・佐竹が、剣道などのもてる能力を駆使して人々と心の交流を果たし、協力者を得て最後には友達を取り戻し、もとの世界に戻ろうとあがく。その姿を見て欲しいです。
本作では一応「友情」として書ききってはいるものの、もともと作者がBL好きのため、相当に「貴腐人」な方々の好みに合いそうだとは思います。事実「これでそちらの沼にはまった」とおっしゃる読み手さんも複数おられます。
キャラクター先行型の書き手のため、人物の魅力によって読み手様に親近感を覚えていただき、話中のだれかのファンになって一緒に楽しんでもらえたら望外の喜びです。
【フックポイントの話数】:
プロローグ及び、第1部第1章「転落」が最初のフックポイントかと。
次は異世界の少女、マールの内面である第2章「6 マール」。
十万字までということですと、大体第1部第3章「武術会」ぐらいまでをお読みいただく感じになろうかと思われます。
『悩み』:
実はすでに、主人公が異世界の状況を把握するため、様々な理科的実験をしてみたり考察をする下り(第二章「5 赤い太陽」あたり)が読みづらいとのご指摘をいただいております。
周囲にいる村人や子供たちには説明できない内容であり、会話文をはさんだりの工夫が難しく、いまだ試行錯誤中です。何かよいアドバイスがありましたらお願いします。
また、冒頭のこちら世界での日常部分(スーパーに行くなど)はもっとタイトにすべきかどうか。あるいは構成を少し変えて、そのあたりを思い出として後々語らせるか、思案中です。
【本気で書いているかどうか】:
こちらで見て頂こうと思う以上、もちろん本気で執筆した作品をお出ししています。
愛とは何か、友情とはなにか。本気で相手を大事に思うとき、その差は一体どこにあるのか。肉親を殺されるなどした恨みや憎しみの果て、敵対していた人々の間にも、誤解や勝手な想像に裏打ちされた憎しみを越えて、いずれ光明はみえるのか。
さらにはそれを通じての佐竹の成長の在り方。そんなことを描きたかったのです。
どうぞよろしくお願いします。
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さて、今回は転生ではなく、異世界転移ものだな。しかもどうやら異世界に行くにあたって特殊能力や特典なんかを持っていくタイプではなく、ありのままのガチ殴り込みタイプのようだ。
今までの日誌作品において異世界転移にカテゴライズできるものはいくつかあったと思う。オーバーピース、いたもん、異世界スナックあたりがそれに類するだろうか。
オーバーピースといたもんについては『主人公が転移するにあたって何かしら特殊能力を付与されている』という点で単純な転移ものではない。異世界スナックについては異世界転移するもののファンタジー路線ではない。『着の身着のまま、ありのままで転移してファンタジーする異世界もの』というのは日誌内で本作が初になるかと俺は考えている。
その条件での転移ものは硬派な部類に入るだろう。どう面白くするか、どう主人公を目立たせるか、作者の力量が問われやすいカテゴリーである、と俺は勝手に考えている。
また募集要項の中で出てきた『BL好き』、『貴腐人』などという言葉から、そういう作風とキャラ属性なのだろうと推測することが出来る。
この日誌を読んでいるほとんどの奴が推測できるかと思うが、俺はBLやブロマンス系に対しての生粋のお客様足りえないと自覚している。そんな俺がこの作品をどう読んだのか、どう感じたのか。
語るにあたり早速『白き鎧 黒き鎧』(以下、鎧)の概要説明から入る。
主人公の名前は佐竹煌之、ステータスでいえば昔剣道をたしなんでいた現代日本の高校生。武人っぽい身のこなし、清廉潔白さを兼ね備えた朴念仁(恋愛沙汰には興味なし)。
そんな彼には内藤祐哉というクラスメートがいる。彼らは別段仲が良かったわけではないが、内藤が母を交通事故で亡くしたことをきっかけに、佐竹が内藤及び弟の洋介の世話を焼くことになる。
そんなこんなで縁が生まれた彼らであったが、唐突に内藤が異世界に拉致されてしまう。その現場を目の前で見てしまった佐竹は咄嗟に追いかけ、自身も異世界入りをしてしまう。
佐竹が迷い込んだのは北と南で国が二分されている世界。その極北の地に、高校帰りの制服姿のまま召喚された佐竹は空を眺め、そこに月ではなく巨大な惑星が浮かんでいるのを見て地球外に来てしまったことを悟る。
そして人里を探して迷い歩く。ようやく出会った現地人に村へ連れていかれ介抱してもらうものの言葉が通じない。何とか簡単なものから言語を習得していき、多くの障害を乗り越えながら佐竹はこの世界に連れ去られた内藤を探す旅に出る。
そうしてたどり着いたとある町。佐竹は偶然にもお忍びで町に遊びに来ていた北の国フロイタールの国王と顔を合わせた。
国王の名前は『ナイト王』。彼の顔は、拉致された内藤とそっくりであった。
これは友人を一方的に連れ去られ、それを取り戻そうとする佐竹少年の奮闘劇。
あるいは。
言葉や文化、国や立場。それら全ての壁を乗り越えて、垣根をなくそうとする少年少女、青年たちの群像劇。
全てのカギは、北と南にそれぞれ祀られている2領の鎧が握っている。
さて、そんなこんなで俺的概要説明を挟んだことだし、これから感想に入っていこう。ちなみに以下、ネタバレ注意だ。
今回も奇をてらわず、本作の良いところから!
まずは文体及び描き方。素晴らしいの一言に尽きる。
読んでいて度々思わされたのは『これは、読める本だ!』というもの。レベルとしては『畢罪』同様、公募に出されていてもおかしくないレベルで気合と魂が込められている。
表現、作法、キャラの造形描写。それら1つ1つが素晴らしく、その一点ずつで大変な突破力があるわけではないが、総合力があるというのだろうか。描き方に慣れと自信と信念を感じる。
肩肘張っているわけでもなく、余裕ぶっているわけでもなく、読者の心をグッと引き寄せるのに長けている、という印象を俺は受けた。
例を出していって説明すると、度々例に出して申し訳ないがまず『畢罪』なんかは侍魂に似た気迫を感じる。刃を研ぎ、意識を研ぎ澄ませ、狙った瞬間に狙った読者を一刀両断する。そんな描き方。
一方で例えば『護衛官』。こっちはわりとフラットな感情で表現されていて、作者も自然体であるし読者も自然体であることを許容され、適度な緊張感で肩肘張らずに読めるという印象。例えるならば美容師と会話しているみたいな感じ。決してライトなわけでなく、対外的な顔を意識しながらもリラックスもできるという絶妙な塩梅。
そうして『鎧』。例えるならば人形師。他人を一喜一憂させるよう手元を動かしつつ、ただ常に視線は観客に集中している。観客の視線や様子を見ながら手元の人形を操っていく。その際、決して観客の言いなりになるわけではない。観客の視線や感情を誘導するのに長け、観客自体を手元で躍らせている。そんな描き方、という印象。
作者は恐らく、登場人物に対してほとんど憑依していないのだろう。憑依しきった対極の作風は『テーベ』であるとして、日誌作品だと『まにてん』が近いだろうなと感じている。降ってきたキャラクターを御する、より素晴らしい存在へ昇華させる。そんな意識でもって描いているのだろうと俺は勝手に感じている。(テーベはキャラクターをありのまま描こうとしている、みたいな感じ)
ちなみに人形師スタイルは個人的に非常に好みな描き方でもある。
次に内藤のヒロイン力、そこから発生するブロマンス没入のしやすさ。
先述した通り俺はBLやブロマンス系の客足りえないと自覚している。そんな俺でさえも今作のヒロイン枠である内藤のヒロイン力に舌を巻かざるを得ない。
彼が非常にヒロインヒロインしている性格である———というのが理由ではない。もちろん、BLやブロマンススキーな方々にしてみれば彼の性格はもしかすると垂涎ものなのかもしれない。
ただ俺がここで述べたいのはそこではない。俺のようなブロマンス興味ない系読者であっても、彼がヒロインであると納得させられる舞台設定が張り巡らされているのである。
どういうことか。まず主人公である佐竹にとって彼は連れ去られた友人である。そんな彼を助け出そうというのが本作のメインストーリーであるからして彼がヒロインポジションにいるのは読み始めてすぐに理解できる。
が、それだけではない。彼は佐竹を主人公にした時のヒロインでもあるし、もう1人(?)の主人公格(?)であるサーティークにとってもヒロイン枠なのである。(?をつけているのは本作が佐竹をメイン主人公格に置いた群像劇ではないかと思っている為)
ちなみに突然出てきたサーティークというのは、主人公佐竹が転移してきた北の国フロイタールではなく、南の国ノエリオールの国王で、北の国から狂王であったり暴君と言われる敵役だ。
で、だ。そのサーティークが内藤を手元に置こうとする理由が、もう、身につまされてしまうのだ。痛みと前進。非業の死を遂げた妻と言動がそっくりな彼を見て知らず知らず癒されてしまうサーティークを見て、『内藤…!!!』と言葉を絞り出さざるを得ない。
サーティークが抱えているえげつない過去。それを癒してくれる内藤という存在。うん、ブロマンスの導入として俺も入っていける、自然感と納得感がある。
個人的には『ひとが良い』という言葉では収まりきらないほど涙もろい内藤に対して、やや女々しいなという印象を抱いてもしまったが、なるほど。これはブロマンスにはまれる素養がある奴は漏れなくはまっていくだろうなという印象を俺は持った。
以上、何の引っ掛かりもなく絶賛できるところ終わり!
次に、『良いんだけど…!! ちょっとここが気になるんだよなぁ!!』ってなところを語っていく。ちなみに今回の感想はこれを語って終わりの予定である。
あ、待って欲しい! それを語る前にすげーどうでもいいツッコミを1つ挟んでおこう。でないと語れる場がなくなってしまう。
ツッコミ先は第1部の第3章、佐竹が仕官のために武術会に出るシーン。
その武術会というのは、優勝した強者は王宮への出仕が認められるし、優勝者を輩出した村は年貢の免除がされるというものなんだが。
そこにゾディアスという軍人が出てくる。しかも軍の中でもめっちゃ強い奴だ。(恐らくだが、腕っぷしだけで言えば王宮軍人の中でも1,2を争うほどの腕前)
そんなやつが村の年貢免除がかかっている武術会に出ていいんかい!?と2週目読んだ俺は思わず突っ込んでいた。佐竹がいなかったら絶対ゾディアスが優勝してただろ。
もしゾディアスが優勝して出身地の年貢が免除されるなら不正に限りなく近い何かである。そんなことをそもそもゾディアス自身が許す性格ではないと思える為、恐らくは彼が優勝しても年貢免除は準優勝者に与えられるとかなんだろうなとか思ったんだけどそんな描写もないし、何かしらフォローしておいた方がいいんじゃないかね?と思った次第だ。
以上、細かいツッコミ終わり。
さて、話を戻して気になったところの話だ。
まずは異世界転移までの助走距離について語っていこう。
本作では内藤が異世界へ拉致され、佐竹がそれを追って転移するまでに大体2万文字くらいの文量がある。その間に異世界転移に伴う事件性のあるトラブルがあったりもするが、特別目を引くイベントがあるわけではなく、主に佐竹と内藤がいかに縁を結んだか、内藤が拉致されそうになる予兆があるなどがメインである。
異世界転移した後の、佐竹を主人公とした第2章からの展開は非常に面白いのである。ただ、そこに至るまでの第1章がちょっと長かったなという印象が拭えなかった。
必要経費だろうとは思う。佐竹と内藤が仲良くなる描写は必要だろう。その裏で刻一刻と日常を突き崩さんと暗躍する何者かがいる描写も必要なんだろう。そして異世界転移するまでの助走で2万文字というのは、十〇国記とかと比べるとだいぶ短いだろうとも思う。
だけど欲を言うのなら、この助走距離すら楽しませることは出来なかったかなぁ…!!と欲深にも俺は思ってしまった。
まず、忌憚なく言ってしまうがこの『鎧』においての転移までの助走区間は、なんとなくイベントのそれぞれの要素がちょっと古い気がしている。今風の要素がないというのか。遊びがないといってもいいのかもしれない。
佐竹とはどういう人物か、内藤とはどういう人物か。それを表現する最適手段を取っているようにみえるが、なんというか、鮮烈さみたいなものがないように感じた。
その後、後述もするが佐竹という人物の凄まじさが露呈するに伴い、『鎧』という作品が内包する鮮烈さ、存在感、魂みたいなものが現れてくるんだが、転移までの助走区間ではそれがない。いや、その区間であっても佐竹の特異性みたいなものは表現されているんだが、あくまで描かれているのは日常であり、佐竹自身も常識の範囲内でしか行動していない。(まあ、それは一般社会を生きているうえで当たり前のことなのだが)
そしてこういった助走距離がある作品で読者にフックをかけるためのよくある措置。つまりは事件が起こっている場面を最初に持ってきて、その後そこに至るまでを語るというやつを本作では行なっているのだが。
ちょっと訳わからなさが最初に来てしまっている感じがする。まずはズールが内藤を拉致ろうとしている場面→内藤がそれに抗っている場面という感じだが、それぞれが何をしているのか肝心な描写がない。
ズールは何か禁忌を犯そうとしている、その激情の吐露をしているだけ。内藤は何かに抗っているだけ。わざわざ時系列を入れ替えて事件を最初に持ってきているのに、「何かやべえことやってるひとがいる」のと「何かやべぇことになってる奴がいる」以上の情報と印象がほぼ無く、逆にプロローグ読まなくてもいい問題が発生してしまっている気がしている。
せっかく時系列入れ替えのプロローグを入れているのだ。もっと確信的な情報を置いておいてもいいんじゃないかとも思う。例えば『ヤベェことになっている』ことをもっと直接的に表現したり。
あとはドラマ性は難しいと思うけど、ちょっとした「おや?」感を置いておいてもいいのかなと。例えば佐竹を暴れさせるとか、「普通の高校生っぽい奴が異次元からきている何か怪しいものとめっちゃ戦って相手をビビらせている」とかだったら少しはインパクトある出だしになるんかね? 第一章内でも佐竹はわりと暴れている描写があるが、それをもっと吹っ切って、プロローグから曝け出してしまえばフックとして成り立つかも?と俺は思ったりした。
結論。その後の第2章以降のクオリティーや鮮烈さを思えば、第1章も何とか調理できたんじゃないのか…!?と俺は求めてしまったって話だ。
次に、佐竹という人物について。
とりもなおさず主人公である。彼は現代日本に生きる男子高校生であり、転移までの助走期間では常識人ぶった感じの顔をしているが、とんでもない。中身はなろう転生もの顔負けのとんでも超人である。
十日ちょっとで現地の言葉を達者にしゃべるようになり、軍人の隊長格を相手にしても善戦(?)できるほどの実力があり、王城に武官として仕えたと思えば才覚を発揮し文官としてどんどんと昇進していく。ほんの少しの情報や手がかりから色んなことを推理し、状況の見極めに失敗しない。物怖じせず、どんなことにも清廉潔白に応対し、過酷な状況の中でも他人への心配りを忘れない……いやいやいや、とんでもねぇなこいつ!ってなるよ。内藤君はすごい親近感が湧くレベルで一般人だけど、佐竹はやべぇやつだよ! チート主人公だよ、こいつ!!ってなっちゃったよ。
いや、そんなチートっぽい彼も普通に負けたりへこたれたりしてるんだけど、実は作中彼が犯した『間違い』や『失策』、『失敗』といったものが恐らく一度もないのだ。(唯一失敗と言えるとしたら、ゾディアスとの一騎打ちで剣での勝負に拘りすぎたってことくらいかね? サーティークに内藤を攫われたのはサーティークが強すぎたってだけで彼が失敗したという印象はない)
ちょいと超人すぎやしませんかね…?って思っちゃいました。いや、すごい魅力ある人物なんだけどさ、特にフロイタール面々の佐竹に対する神格化がすげぇなっていうのも思ってしまったんだ。
キャラクターとしては非常に魅力的な存在であるし、主人公であるから補正が働くのも分かる。それでも様々な方面で完璧すぎるが故に人間味が希薄になっていってしまっているのだ。その弊害として終盤に白と黒の両方ともの鎧に入るか否かのシーン。命の危険があるけど入る覚悟を決めるシーンでも『まあ佐竹ならそうするわな』と俺は至って平静と受け入れてしまった。
分かるかどうか分からないが、アニメ版のアカギみたいな感じだ。狂気の沙汰であってもアニメ版の彼は一粒の汗すら流さない、完璧超人の狂人だ。だが漫画版だと彼は普通に汗をかく、狂気やプレッシャーも飲み込んで考えられないような博打を打つ生粋のギャンブラーだ。どちらも俺にとっては魅力的なキャラクターだが、この『鎧』では後者の方がいいのではないかと俺は思った。
完璧に色んなことをこなすけど、内心の彼は自分の策や行動、考えが色んな人に影響を及ぼすことに恐れやプレッシャーを抱いている。しかしそれも飲み込み邁進する、ただ友を救わんが為に…的な感じだったら俺はもっと佐竹を好きになれたかもしれん。
いや、今のままでも好きなんだけどね。でもそれってキャラクター性が好きなのであって、佐竹自身を好きになってるわけじゃないんだ。その半歩ほどの違いは、クライマックスの感動的な場面で抱く感想・感動を大変に異ならせてくる。
超人でいいけれど、より人間味があったらいいなぁって思ったって話だ。
そして最後。これは俺として賞賛もしたいところなんだが、最ももどかしい!とも思ってしまった点。
それは、ストーリー構成。正直上で挙げてきた『転移までの助走距離』だったり『佐竹の超人化』だったりは、俺の中で比較的小さな引っ掛かりだ。減点方式でいえばそれぞれー0.3点くらいの要素だ。
ただ、ストーリー構成。これは俺の中で大きな評価ポイントであると同時に、不完全燃焼ポイントにもなっている。
まず、本作は異世界ファンタジーにSF要素が若干入った感じの世界観であり、その舞台のうえで各主要人物が動き回っているのだが、破綻なく物語が進行し、ちりばめられた伏線も(恐らく)全て回収し切り、広げた風呂敷を文句つけようのない形で畳み切っている。
そしてストーリー全体を見通すと非常に綺麗な起承転結が描かれており、正直非の打ち所がない。ないはずなのに———俺は物足りなさを感じてしまった。
その原因は『護衛官』の時も似たような話になったが、『敵役の不在』が原因なんだろうと思う。
まず、復習として『護衛官』で俺が何に突っ込んだかおさらいしておくと、護衛官たる主人公が仕えている王子様がいる。そんな王子様を心神喪失の目に遭わせた奴がいるが、その敵役たる彼は主人公や王子様の与り知らぬところで誅されてしまう。てっきり復讐をしたりするもんだと思っていた俺はそれで肩透かしを食らってしまった、という話だ。
そして今回の『鎧』において、内藤を異世界へ拉致った奴らがいる。そいつが敵役か!? ―――と思いきや、拉致してきた側の人々にも事情があり、さらわれた内藤本人も拉致実行犯達を恨みに思うようなことはせず、更に更にさらった実行犯は最終的に主人公たる佐竹を信頼し、後悔と懺悔で身を挺して内藤(ナイト王)を守って死ぬ、そして自身の命を賭しての願いを佐竹に託すまでする。
そうなると決死の思いでフロンタール側が守ろうとした内藤(ナイト王)を更に拉致っていったサーティーク側が敵役か!? ―――と思いきや、第2部から始まるノエリオール編ではサーティークと内藤が歩み寄っていき、且つサーティークにもフロイタール側へ攻め入る理由に情状酌量の余地があり、最終的には佐竹と内藤が間を取りもち南北の国が話し合って和睦を為す。というのが大雑把なストーリーラインである。
それまでのフロンタール側のままならなさ、ノエリオール側のままならなさが最終的に話し合いで決着ついてしまうってのが、なんだかなぁ感に繋がってしまったんだよなぁ。
仕方がない部分もあるのは分かる。サーティークの身辺に起こったことを思えば過激な思考に囚われ強行的に北側を攻めるのも分かるし、古いしきたりを盲信している北側と話して解決にあたろうとは思えないのも分かる。
ただ物語のクライマックスにおける解決策が「対話」っていうのが、なぁ…
それが単純な話し合いによる解決でないことは重々承知している。そこに至るまでにはサーティークの心の回復が必要だったし、そのサーティークを癒すためには内藤の存在が必要不可欠であり、内藤がそこに至るまで精神的に落ち着けたのは佐竹が彼を追ってきてくれたからだというのは分かる。
だけど、それってギュッと話を要約すると「サーティークの心の復調を目的とした物語」ってことになるじゃない? 最悪彼が復調するのであれば佐竹も内藤も必要ではない。
なんていうかな…それまで広げてきた風呂敷が存外狭いものだったんだな感みたいなのが俺の中で生まれちゃったんだよな。
内藤と佐竹がいなければナイト王もサーティークの子供も死んだままだった。そういう意味でも彼らが異世界に来た意味はあるにはある。だけどそれは結果論であって彼らが積極的にそれを目的に動いたわけではない。物語の主軸での感動要素ではなく、どちらかというとサブ的なハッピーエンド要素の1つくらいだと俺は感じている。
第1部及び第2部の途中まで、より細かく言うと内藤が「サーティーク自身も別段北の国に恨みを持っている訳じゃないんだから話し合えばいいじゃん」的なことを言って、サーティーク達も「じゃあ考えてみるか」的な感じになる第2部4章まで、本作はままならなさで満たされていた。それがそこからは運命的な必然性というか、そういうのが薄れた感じがした。
より言語化してみよう。俺は本作のクライマックスが「どんな奇跡が起ころうとも絶対に解決不能だった問題が、佐竹と内藤がいたおかげで何とかなった感」がもっと欲しかったのだ。
例えば北と南の国で話し合ったとしても絶対にお互い譲り合えない状態で、どちらかが滅びるまで戦争を続けないといけない、とかで。
それがイレギュラーである佐竹及び内藤がいたことによりそれまで不可能と思われていた方法が実現可能になる、とか。
それがナイト王と遺伝子情報の近い内藤、サーティークと遺伝子情報が近い(と思われる)佐竹がいることにより、それぞれ1人ずつしか存在できないはず(という設定にして)の鎧の稀れ人が2人ずついることにより、新たに考え出された方法で、とか。
『内藤がいたおかげでサーティークが復調して、世界を救うことが出来た』という間接的なものではなく、もっと直接的に佐竹と内藤に世界を救って欲しかったんだ。
今のままだと北と南で戦争の結果による恨みはあるけど争いそのものの必然性はなく、最悪サーティークが何かのきっかけで復調して北に謝れば、ナイト王と子供は助からないけど同じような結末を迎えることはできるだろう。(その場合ヨシュアがサーティークを許さず殺す可能性は高いが)
つまり今のままでは、俺の中で佐竹と内藤が残した功績は極論「サーティークとその子供、ナイト王の命を助けただけ」というものだけであり、第2部の途中まで広げられた風呂敷の広さ、スケールのデカさに対して見合っていないと感じてしまっているのだ。
せっかくならもっと大きなものを救って欲しかった、どうしようもなかった運命を打破してもらいたかった、と俺は読了後に思ったのだ。
(プラスして、武闘派が多い話でもあるしクライマックスで言葉と身体と魂の全てでもって登場人物達が自分の理想のために死闘を繰り広げる、みたいな少年漫画的な展開も期待していた為、それがなくて俺個人は残念と思ってしまった。ただそれは俺個人の思いであって作品に足りない要素とは思えない為、あえてここでは()付きのコメントとして残しておく)
以上、感想終わり。
正直、めちゃくちゃクオリティーの高い作品であった。ただ俺がブロマンス作品を読みなれていないからなのかもしれないが、『護衛官』の時に感じたのと同様の物足りなさを抱いてしまった。
もしかすると界隈の方々からすれば俺が上でつらつら語ってきたことの大半が余計なお世話であり、『キャラクターさえクオリティー高く描ければいいんだよ! バトルとかこれ以上の盛り上がりとか敵役とかいらねぇんだよ!』って怒られるのかなぁなんて思ったりもしている。
だが俺個人が感じたこととして、主人公からもう少し人間味を感じられるようになって、クライマックスの問題解決策を佐竹や内藤がいないとダメだった感がもっと感じられるようになって欲しいと思った。あと助走距離。
極めて、極めて惜しい…!という感じの作品。
ちなみに今回も感情グラフは作っていない。ここまで感想読んでくれたなら分かると思うがプロローグは30点、第1部の第1章までは40点前後、異世界転移してからの第1部第2幕以降は55点以上を平均的に叩き出していって、サーティーク達が「じゃあ講和考えてみっか」的な感じになる第2部第4章以降は45点くらいになる、といった感じだ。わざわざグラフにするまでもないので割愛!!
何度も言うが極めてクオリティーの高い話だった。だが、最後の最後で俺と嗜好が合わなかった為に俺的8点をつけられなかった。
そんな感じの作品だった。
以上、感想終わり。
と思ったらお悩みコーナー忘れてたわ。また投稿前にここを書き足している。
>『悩み』:
> 実はすでに、主人公が異世界の状況を把握するため、様々な理科的実験をしてみたり考察をする下り(第二章「5 赤い太陽」あたり)が読みづらいとのご指摘をいただいております。
> 周囲にいる村人や子供たちには説明できない内容であり、会話文をはさんだりの工夫が難しく、いまだ試行錯誤中です。何かよいアドバイスがありましたらお願いします。
> また、冒頭のこちら世界での日常部分(スーパーに行くなど)はもっとタイトにすべきかどうか。あるいは構成を少し変えて、そのあたりを思い出として後々語らせるか、思案中です。
まずは第二章で佐竹が様々に実験を行っているところか。いや、俺はあれはあれですげぇ読みやすかったけどな。佐竹の超人ぶりの一端が見れるし、「この作品は主人公の武力ゴリ押しだけではなく、知識面でもしっかり主人公を引き立てさせてくれそうだ」という期待感も持てた。
そこは、俺はそのままでいいと思った。
そして冒頭の日常パートへの指摘は上で散々言ってきた通りだ。お前が間に受けるかどうかは判断任す。
それじゃあ、あとはいつもの恒例の2つをやっておしまいだ。
※ここで書かれている内容は全て個人的な意見であり、真に受けるかどうかは読み手に任せる。無視するも反論するもナニクソと思うも好きにしろ。
【作品名】白き鎧 黒き鎧
【URL】https://ncode.syosetu.com/n7314cw/
【評価】7.999点
さて、次は流行りもの大好き野郎だな。
しょちょーさん、だーいすき!