19.近ごろの魔法使い
どうも、あっちいけだ。
うん、久しぶりだな。まあ俺にも色々事情があるんだ。許してくれ。
ここでプライベートなことを語るつもりはねぇから、気になる奴は活動報告でも覗いてくれ。
さて、今回はどうでもいい話は無しだ。俺が俺のために使える時間は限られている。小話はさておいて、いきなり本題に入っていこう。
そんなわけで今回踏み台を差し出してきてくれたのは『風待月』君だ。
調べてみたところ旧暦の6月にあたる意味の言葉らしく、辞書曰く読みは「かぜまちづき」らしい。
ただし『風待月』君の読みはプロフィール欄を参照したところ、上述の通り「かぜまちつき」とのこと。(小癪だな!)
そしてこの名前……何を隠そう、変換が面倒なのである。画面の前の君にも試してもらいたい。「かぜまちつき」と入力して変換できるひとは恐らくいないだろう。
ちなみに俺の場合、「かぜまちつき」と入力すると第一変換候補は「風待ち付き」となり、それ以降の候補にも「風待月」は出てこない。ちなみに正式な読みにならって「かぜまちづき」と入力しても「風待ち月」となって微妙にモヤる。
そんなわけでここでは『風待月君』とは呼ばない。変換しにくいし、小癪だし!!
そんなこんなであだ名を考えて……一瞬『風のおじさん』とかにしようかなとか思ったけどネタが古すぎるしマイナーだし君付けできないしで、やめておこうと思った。
思った……が。他に良いあだ名が思いつかなかった。なのでここで君を呼ぶときは『風のおじさん』にしようと思う。
そんなわけで風待月君、俺より年上かどうかとか性別がどうとか関係なく決めたあだ名である。異議申し立てがあれば感想欄やメッセージにて存分に暴れまわってくれて構わない。もしかしたら『風のおじ君』くらいにはなるかもしれない。
さて、そんなFFネタは放っておいて。
『風のおじさん』より差し出されたソイル―――ではなく踏み台について、いつも通りまずは募集要項から引用してこよう。
以下、引用だ。
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【作品名】
近ごろの魔法使い
https://ncode.syosetu.com/n7919bd/
その中の『現代社会の《魔法使い》編』のみ
(最大で記号・フリガナを含めて約18万文字)
010_0001 深夜の交通違反取締 ~ 010_2600 そして事は終わらない
https://ncode.syosetu.com/n7919bd/1/ ~ https://ncode.syosetu.com/n7919bd/27/
【簡易的なあらすじ】
(作品全体)
21世紀、神戸。
超最先端科学技術《魔法》を操る人間兵器《魔法使い》たちが、しゃべるバイクに跨り、消火器とバッテリー式の《杖》を手に、普通の学生生活を送るために戦争する学園SF。
(該当部分のみ)
神戸の学校に転入した主人公は、一応は平穏な学生生活を送っていたが、ある日、部活仲間を救うため、仕方なくシージャック犯と戦うことになる。
【セールスポイント】(想定読者)
・中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーに思うところある人
・ダンジョンと異世界帰還者ばかりなローファンタジーに飽きた人
・一週回って1990~2000年代の現代異能モノが新鮮な人
・つい逆張りしてしまう人
・海外ドラマの雰囲気とか好きな人
・リアリティ重視というかエセ科学論者
・兵庫県民
・消火器フェチ
【フックポイントの話数】
一話目(010_0001)。
最初で掴むことができないなら、違う読者層と判断。
次話にブラウザフォワードしてくれる人が半分いたら御の字。
【本気で書いているかどうか】+『悩み』+志望動機
「読んで! ポイント欲しい! 書籍化したい!」みたいな外向きの熱意は、正直ありません。
あるとすれば、内向き・静的なもの。
この作品は、創作活動を続ける上で、カタをつけないと前に進めないモヤモヤした予感を抱えたため、作り始めた企画です。
自分の中では、誰かに読まれることを目標とせず、理想に近づくため――結果多くの人に読んでもらえたら、といったおもむきが強いです。
要は自己満足のためですが、最初の編に限っては、それとも異なります。
やりたいことをするための下準備、プレリリース版や体験版といった『慣らし』に近いです。
「最初から全力で挑むべき」と言われれば否定できない作品の欠点ですが、非現実的なベストを目指した結果カオスなものを生み出すよりは、非難されようと身の丈にあったモアベターで行くべきと判断し、分離した現状があります。
なので最初の編だけでの総評は、50~60点、『並』から『良』くらいの想定です。
好みが合致した読者さんがいたとしても、あまり高得点では自分にとって好ましくありません。試供品で満足して商品を買ってくれないみたいな形になるので。
しかし連載もそれなりに長期化し、なんやかんやで200万文字越えてしまったので、局所的な意見を聞ける機会がありません。
オブラートに包んでいないガチ本音ともなれば尚更に。
それで意見を伺いたく、応募した次第です。
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引用ここまで。
さて、まず一言言わせてもらおう。要項なげぇっ!!
いや、それだけ思いが込められている作品ってことだろう。良いことだ、うん。(しかし最初に募集要項読んだ時に『ふむふむ……ん? いつまでこれは続くんだ?』とガチで思った)
ともあれ、今回の作品はなんと踏み台作品としては初となるSFカテゴリからの殴り込みだ。ちなみにあっちいけという読者はSFというカテゴリに属する小説をリアル・なろう問わずあんまり読んだことがない!!
……あ、待てよ? 嘘だわ、『枢機卿』がSF作品だった。完全に失念してたわテヘペロ。(俺の中であれはローファンタジーものなイメージだったわ、失礼した)
さて、そんなお茶目は置いといて。そんな感じで俺にとってSF小説は普段の食指の範囲外である。しかも概要やあらすじを見るにローファンタジーものと見誤ってしまう『枢機卿』とは違って、それなりに近未来SF感あふれる感じだ。
そんな『近ごろの魔法使い』(以下―――略せねぇっ!! 以下も変わらず『近ごろの魔法使い』で!)のあらすじについて、以下俺的概要説明だ。
21世紀、地球。そこには杖を使ってマナを消費し、魔法を使う《魔法使い》が存在した。
ただし御伽噺のようなメルヘンでファンタジックな存在ではない。彼らが振るう杖はメカメカしさ満載の超科学技術の結晶であり、マナを使用するには超大量の電力を消費する必要がある。スピード違反の車を止めるために大量の電力を消費して雷を落として、二次災害的に大規模停電を起こしてしまうハタ迷惑な存在が彼ら彼女ら《魔法使い》である。
さて、そんな《魔法使い》がこの世に発生し始めて30年経ったこの21世紀において、未だ《魔法使い》とはとっても稀有な存在である。
魔法を使える者は数千万分の一という低い割合でしか生まれない。そして彼ら《魔法使い》は扱う魔法を間違えれば大変ハタ迷惑な存在になり下がるが、マトモな訓練を受ければその価値は軍事的・政治的にも見過ごせないものになる。
単独の《魔法使い》が最新鋭のミサイルや戦闘機を落としたり、何食わぬ顔で入国して要人を暗殺したり、はたまた才能いかんによっては国を亡ぼすことだったりも出来てしまう。そんな存在である。
よって昨今の21世紀。各国は貴重な人的資源である《魔法使い》を囲って独自に訓練を施し、あるいは研究を行って戦略的価値を高めていき、それでもって互いを牽制しあうのであった―――
ところで。
兵庫県淡路島にはそんな超貴重な《魔法使い》が何故か複数人在籍している普通の学校がある。その名前を修交館学院という。
そこに此度転校してきた堤十路という彼が本作の主人公である。まあ、主人公であるからして御多分に漏れず彼も貴重な《魔法使い》である。
彼がこの学校に転校してきた目的はただ1つ、『普通の学生生活を送りたい』とのことである。《魔法使い》である彼がこの学校への転校を認められるには様々な条件があってのことであるが、彼にとってそれら条件とは些細なものである。彼は日がな一日気だるげに『普通の学生っぽい生活』をこなそうとする。
たとえ無理やり所属させられた部活が訳アリ《魔法使い》だらけの部であったとしても。
たとえ道端で拉致られそうな子供がいて、それを乱闘騒ぎの末救い出して更に面倒に巻き込まれそうになったとしても。
たとえ部員がシージャックに巻き込まれてそれを単身救いにいかなければならない状況になったとしても。
たとえ彼が魔法を使えない《出来損ないな魔法使い》であったとしても。
彼は普通の学生に憧れて、しかし自身に安寧の地はないと悟って諦観混じりに呟くのである。
「―――こういう場合、普通の高校生なら、どうするんだろうな?」
魔法が使えなくてもかなり強い、史上最強の単独兵器。
彼の学生生活を彩るのは望まぬ戦闘、他人の策略、各国の思惑、エトセトラ……彼が普通の学生らしい生活を送れるのはいったいいつなのか?
魅力的なヒロインは各種取り揃え! 裏表のギャップが激しいヤンキー王女様、スキンシップ過多なグラマラス留学生、隙の多いわんこ系後輩女子、合法ロリ、引きこもり系女子などなど盛りだくさん! もちろん悪友ポジも抑えているよ!そんなギャルゲー風なヒューマンドラマSF作品!
主人公の武器が消火器ってどうなのさ?と突っ込まざるを得ない。とにかく要素盛りだくさんなこの作品―――概要だけでは語り切れない! ここから先は君の目で確かめてくれ!
さて、また適当なあらすじを書いちまった。まあいつものことだから許してくれ。今回に至っては時間がねぇしな。
そんなわけだ。もし異議申し立てしたいところがあれば風のおじさん、感想欄で暴れてくれて構わない。
さてはて、そんなわけで。
早速感想の方に移っていこうか。そして今回も捻りなく、まずは素直に良いところから語っていこうと思っている。
まずは文体。癖の少ない三人称視点であり、書き慣れた者が書いているだろう安心感が漂ってくる。
無意味に語り部の視点が移動することもなく、描写やキャラの感情が中抜けすることもない。トゲもなければ躓く石もない、素直に読み進められる文体であった。
『木次』や『南十星』といった馴染みの薄いキャラの名前や専門用語については初回だけではなく、各話初出のタイミングで逐次ルビをふってくれる為、「このキャラの名前(あるいは専門用語)なんて読むんだっけ…?」とモヤることもない。読者への気配りもできる作者であると俺的には高評価である。
そして『キャラクター性』、これも素晴らしい。
キャラに対してある程度付与されている記号化、読者へ印象づけさせるように繰り返される「貴方のこと嫌いです」や「ややややや」などのキャラの口癖。
それら基本ステータスに加えて精神面での深さ&リアルさ。悩みや喜怒哀楽に対してのそのキャラらしい素の反応と対外的に表へ出す反応のギャップ。よくありがちな『キャラの設定を小出しに出していってキャラクター性を広げていく』という感じではなく、通常の会話からもうすでにそのキャラらしさがにじみ出ており、『設定』ではなくあくまで日常からそのキャラの造形の奥深さを感じさせつつ、設定で厚みも増していくスタイル。
これはまさしく「キャラが生きている」と評せるだろう。この『近ごろの魔法使い』のキャラは生きている。うむ、素晴らしい出来である。
それと『設定の作りこみ』、これも素晴らしい。
俺たちが生きる現実世界の30年前に魔法が現れたという設定。ただしその魔法というのがファンタジーやメルヘンなものでは全然なく、脳科学や物理学やそのほか諸々いろんな空想科学(エセ科学ともいう)のうえで成り立っているってんだから面白い。
魔法を使うのに必要なのはMPじゃなくて馬鹿みたいに電気代がかかる電力だってところとか、主人公たちが魔法使ったらその魔法を使った経緯やら起こった現象やらをレポート提出しなくちゃならないとか、色々とリアルなしがらみを感じられ『想像しやすさ』と『妄想しやすさ』が両立されている。
それに本作は日本の兵庫県淡路島を舞台とした話で、そこを渦中に各国いろんな人の思惑が渦巻いて、いろんな事件が勃発していくんだが。
どうして淡路島でそのようなことが起こって、どうして淡路島でしかそんな事件が起こらないのかみたいな設定も明確にされており、主人公をはじめとした各キャラクターが何故そこにいるのかという『キャラクター配置の必然性』やストーリー上の敵の配置や登場タイミングなどの『イベント発生の運命性』等、きちんとした設定のうえに成り立っているので一貫した納得感が生まれている。
よく練られた設定であり、且つそれを料理する作者の腕も申し分ない。読めば読むほどにそんな印象を受ける作品であった。
そして最後にストーリ―性とキャラクター性の重要性比重。これが今回最も言いたかった部分である。
読むひとによって受ける印象は違うだろうが、俺は『近ごろの魔法使い』を読んでストーリー性:キャラクター性の比重は4:6くらいだろうと受け取った。これは俺個人的な黄金比である。
キャラクター性を餌にして読者をどっぷりストーリーへ浸からせる。この4:6の比重を俺は『往年のサウンドノベルゲームバランス』と呼ぶことにした。(←今考えた)
この比重の何がいいか? 最も俺が感情移入しやすいく、尚且つ没入感も高められる配分なのである(←超個人的意見)
取っつきやすいキャラクター性で読者へフックをかけ、キャラクター性と連動感がある骨太なストーリー性も最初から披露していく。他の日誌作品で言えば『チャリチャン』や『まにてん』、『なまどり』なんかがこの配分に当たると俺個人的には思っている。
その他、5:5の配分で例を出すと『サウセン』、6:4は『枢機卿』、7:3は『畢材』なんかになるかなぁと思っている。逆にいくと3:7は『いたもん』とか『オーバーピース』、2:8は『蜥蜴の尻尾』や『まほろば』なんかになる。まあ、かなり適当に例を出している。
そんなわけで、こうして改めて見てみるとストーリー性:キャラクター性の比重が4:6くらいだとわりと俺が好評していた作品が集まっている気がしないか? なぜなら―――そこが俺の好みだからだ!!(それ以上でもそれ以下でもない。何故ならこれは俺の超個人的な感想でしかないからだ)
まあ、そういうわけで。ここで言いたかったことっていうのは『この作品は俺の好みのスタイルに合致していた』って、ただそれだけだ。
以上。
さて。
それじゃあ本気の感想に移っていこう。
いつものように歯に衣着せぬ感じで、思ったように好き勝手語っていく。
と、脅し文句的な文言を入れたわけだが。
残念ながら今回、俺は言葉を荒げるつもりはない。本作に致命的な欠点はないし、作品の良さを貶めるような蛮行もない。
ただ、気になった点は少しばかりある。最初に言っておくと今回俺がこの『近ごろの魔法使い』につけようとしている点数は6点である。
大いに楽しめる部分は確かにあった。その気持ちを冷やかされるような欠点もなかった。
だが魂が燃え上がらなかった。熱は炎に昇華されなかったのだ。それというのは以下の原因があるからだと俺は思っている。
『展開が遅い』―――集約しちまえばこの一言に収まっちまうが、本当にこの一点のみで俺はこの作品のファンになれなかった。
以下、詳細を語っていく。
さて、まずはいつも通り。ここでひとまず感情グラフを置いておこう。
【PC版】
【スマホ版】
さあ、ざっとグラフを見たところで、どう感じた?
まあ見た通りだな。前半面白く後半失速気味という感じだ。ちなみに上記グラフで言うところの右端(第27話)部分は第1章の終わりにあたる。
ちなみに俺が読んだところはその後の第2章の終わりまでであるが、もしそのグラフを作ろうとした場合は第1章と同じ形をしていると思ってくれて構わない。
そんな感じである。まあ、これ以上グラフに基づいて語るのは無しにしよう。グラフに表れている感情の機微について、より詳細を以下に記していくつもりだ。
それじゃまあ、やっていくぞ~。
さて、まず上記した『展開が遅い』という感想がなぜ生まれたか、それは以下3つの要素が絡み合った結果の複合要因であると俺は感じている。
1つ、話が進まない。
2つ、伏線はり過ぎててモヤる。
3つ、ここぞのシーンでテンポが悪い。
それぞれどういうことか、細かいことを順に語っていく。
まず『話が進まない』について。
本作を読み始めて早々の第1話から数話。そこで風のおじさんは能力者をドンパチさせつつ世界観の奥深さも短い話数で綺麗にまとめ、その後キャラクターの魅力をふんだんにアピールする小話を続々と投入してきてくれる。それは実にスマートな流れであり、ここに至るまではなんら欠点はない。
ただ、読んでしばらくしても『ストーリー性方向でのイベント』が何も起こらないのである。ちなみにここでいう『ストーリー性方向』とは前述した「ストーリー性:キャラクター性=4:6」で出てきた「ストーリー性」の話である。
どういうことか。俺が感じたことをそのまま書いてしまうと、まず12話部分までは世界観説明及びそのキャラがどういった人物なのかを掘るキャラクター性方向でのイベントしかなく、ストーリー性方向でのイベントが全くないのである。ちなみに本作は1話あたり均しで5,000文字なので12話部分までいくと6万文字くらいに到達する計算になる。
その6万文字の間に色々と面白いイベントはあるのだ。俺個人的に言えばジュリが主人公トージに裸を見られてしまったことを起因とした2人のヤキモキは非常に面映ゆく見ごたえがあった。微妙な距離感と気になる相手の反応、そこから滲み出る微妙な雰囲気が非常にうまく表現されている。素晴らしいものだった。
ただ、それだけでは俺は読者になり切れない。確かに面白い、面白いんだが―――本作の面白いところはそこだけじゃないんでしょ?と思ってしまったのだ。
初っ端、第1話から感じられる『この作品はストーリー面でも魅せてくれそうだぞ感』。それは期待であり、その後どんどんと広げられていく風呂敷やキャラクター造形の素晴らしさという熱を与えられ、どんどんと大きく膨らんでいく。
それは全く悪くない。それ自体は全く悪くない構成なのだ。しばらくキャラクター面を掘っていって、ドカンと大きな山場で大いに盛り上がってくれるなら何ら問題なかったのだ。
しかし、そうはならなかった。第13話部分から動き始めた『ストーリー性方向でのイベント』っぽい何かが、日常の延長線から抜け出していない(と俺個人は感じてしまった)のだ。
もちろん着々と『何かが起こっている感』はあるし、クライマックスらしいドンパチもある。だが何というか、イベントが主人公たちの日常の中に溶け込んでしまっている印象があったのだ。
どういうことか。そもそもが設定からして主人公達の日常が俺たち一般ピーポーにとっての非日常に侵食されており、トージやジュリにとってみれば『裸見られたイベント』だったり『一緒に寮へ帰ろうと思ったらデートスポットに紛れ込んでしまった』というのは明確に彼らにとっての非日常イベントたりえるのだが、レオを助けたりシージャック巻き込まれたりそれを解決したりなんだったりについて、主人公たるトージはやれやれ感を露わにしつつ、いろんなリスクを考えて自分にできる最善の行動を取ろうとして結果すべてうまく行ってしまい、なんだか彼の日常業務の話をされている感があったのだ。
つまりは、レオを助けてからシージャックを解決するまでのイベントは『ストーリー性方向でのイベント』感が薄く、どちらかというと『トージという主人公のキャラクター性を紹介するイベント』的な感じに俺は感じてしまったのだ。
俺が本作を読み始めて思ったのが、『魔法使いが持つ無情観と、それにある程度の諦観を抱いている主人公達。しかしそのどうにもならなさを主人公達が最終的にどうにかしていくのが本作のストーリー面での趣旨ではないか』というものだった。そしてそれは第2章まで読んでおおよそ間違っていない認識なのだろうと思っている。
それからすると第1章のシージャック解決のくだりはそれら無常観にほぼ触れておらず(触れてはいるものの、それまで匂わせるだけだった無常観の本質をほんの若干表層化させたくらい?)で、この作品の本質=『見せたいもの』にガッと踏み込んでいる話ではないと感じてしまったのだ。
ぶっちゃけ、第1話でやっていた能力とキャラの簡易紹介めいたものを第1章のクライマックスで厚み増してやっているだけなようにも俺には見えたのだ。
そうなると第1章ではほぼストーリー性方向での進展がなく、『話進まねぇなぁ』という感情をチラと俺は抱いてしまったのである。
次、『伏線はり過ぎててモヤる』について。
これは読んで字のごとくである。多く語らなくてもいいかもしれないが、おしゃべり好きな俺は文字数かさむのも気にせず好き勝手に語る。
この『伏線はり過ぎててモヤる』というのを凄い感じたのは第1章のシージャック事件の際だ。ジュリだったりトージだったり、彼らは読者に対して多くの秘密を抱きながら戦闘を行う。
別に伏線はること自体は悪いことじゃねぇが、あまりにもはり過ぎだ、と俺は思った。もはや伏線があり過ぎて『お、これはどこかで回収されるのかな?』とかではなくて『あぁ、そういった設定なわけね』みたいな感じになってしまって、なんていうのかな……『伏線』ではなく『そういったもの』として認識してしまったんだよなぁ。
ここで俺が使った『そういったもの』というのは非常に悪い意味で使っている。『お約束』だったり『あえて突っ込むべきでないもの』に相当する。例えばだが、「アンパ○マンは何故首から上を付け替えられても同じ意識を保っていられるのか?」とか、「サ○シはなぜピカ○ュウの電気を食らっても生きていられるのか?」とかいう疑問を抱いたとして、それは伏線ではなく『お約束』であり、それ以上でもそれ以下でもないものである。
つまりは、あまりにわざとらしい伏線が多すぎて、トージが魔法を使えなかったり使えないくせにめちゃくちゃ強いのも『お約束』、ジュリが突然暴れだしたり杖なしでもすごい強かったりするのも『お約束』みたいになってしまって、『伏線』でなくてなってしまったのが、俺だ。
分かるよ。風のおじさんにとってこの作品の第1章は試し読みや踏み絵的なものであって本題は第2章からなんだろうなと俺は思っている。実際、募集要項でもそれらしいこと書かれてたし。
だけどチュートリアル過ぎる弊害というかなんというか、この第1章単体で完結の読み切り小説でも文句ない感じになっちゃってるんだよね。よくあるじゃん、伏線っぽいところは『投げっぱなし』にしておいて短編で終わらせてる作品が。それと同じ。
第1章読み終わった時点でモチベーションがかなりガクッと下がったんだよね。話のクオリティとか感情グラフのモチベ数値とかとは別で、読了感というかなんというかそんなの。
例えばこれが『トージの活躍はコゼット目線で、ジュリの活躍はトージ目線で』みたいに第三者目線で歯抜け情報として提示されていたら印象が違うのかもしれない、と今思った。
例えば今だと『トージの活躍はトージ目線で。ただし色々まだ語れないところがあるから語りたくないところはわざとらしく伏線っぽい描写だったり台詞でぼかして置いておく』みたいになってるじゃない? ジュリのところも同じ感じだし。
これをさっきも言った通りコゼットを助けてくれるまでのトージの活躍はコゼット目線で書く。当然、コゼットが見ていない・聞いていない・考えていない部分は描写が割愛されるし、トージ視点だとトージの思考内でわざとらしくぼかしている部分が第三者(コゼット及び読者)視点から見ると勘のいい人にとっては伏線、そうでない人にとっては2回目読んだ際の発見みたいになって、通常の伏線として機能するのではないかなぁと思った次第だ。
ぶっちゃけた話、第1章をチュートリアルにするんだったらローデリックとの戦いすら第三者視点の歯抜け描写でも構わないんじゃないか?とすら俺は思った。
意味不明なほどわざとらしくぼかされた伏線をあちこち張り巡らされてモヤッとする戦闘シーンよりかは、何があったか細かいことは分からないけれど主人公が颯爽とやってきていつの間にか主犯格を倒したらしい、くらいスリムにされた方が読後感を与えすぎないチュートリアルにできそうだなぁ、なんて無責任なことを言ってみる。
さて、最後だ。『ここぞのシーンでテンポが悪い』について。
これがマジで非常に大きい。マジでこの1点さえなければ前述2つのマイナス評価はなかったとさえ思う。
ここぞのシーンでテンポが良くて素直に盛り上がれていれば『伏線多いなぁ、モヤるわぁ』なんて悠長なことも思ってなかっただろうし、『話の展開が遅いなぁ』なんてことにもなっていなかっただろうと思う。
つまりはどういうことか。『盛り上がりシーンで視点変更しすぎ』、この一言に尽きる。
そもそも。シージャック事件関連でこの視点切り替えが非常に横行し始めて鬱陶しいのだ。コゼットとジュリが船に乗り込んだ後にトージとイクセスの会話シーンに切り替わり、つばめとフォーの会話シーンに切り替わり、コゼットとジュリの話に戻り、トージとイクセスの話に切り替わり―――といった感じで読者としては落ち着かない。同時進行感と切迫感が表現されているとも取れるが、一読者の意見を言わせてもらえれば視点が振り回されるとその度に没入感を阻害され、ストレスでしかない。
それでもって本題。その視点変更がここぞの盛り上がりシーンでも起こってくるから腹立たしい。第1章のボス戦にあたる主人公トージVSコーデリック戦。その描写の合間にもジュリ・コゼット組の話がちょくちょく挟まる。せっかくの息をのむ暇もないほどの緊迫した戦闘シーンなのに、間に別のシーンが入ったら没入感もテンポも緊張感も何もかもなくすでしょうが。
いいんだよ、そういうのは。例えばそこの部分で言えばコーデリック倒した後にトージの視点を継続した状態でコゼットやジュリの活躍を彼女たちの台詞で何となく察してもらう形にしたりすればいいんじゃないの?
それともっとひどいのは第2章だ。コゼット救出作戦中はトージ+コゼット、ジュリ、ナージャ+和馬、クロエ+つばめの4視点が入り乱れの同時進行で、非常にまどろっこしい。
なんていうのか―――『複数視点が書ける三人称小説の呪縛に囚われている』とでもいうのか、やっぱりキャラ性も主力に置いた作品なのでそれぞれのキャラクターのピンチ・活躍シーンを漏れなく書きたいという作者あるあるというか。
まあ、分かるよ。っていうか俺でもやるよ。ってか喜々としてやってたわ(白目)。
でも読者視点で見た時に、あくまで俺個人的な意見だけど、視点変更に伴う躓きがちょっとどころではなくかなり気になったんだよな。盛り上がれるシーンのはずなんだけどノリ切れない的な?
ぶっちゃけ、俺がSF要素というか科学的な要素がチンプンカンプンな文系人間なのでそういった科学要素部分をなんちゃって読み(またの名を流し読み)してしまうこともあり、そこで没入感マイナスを増長させてしまっていた可能性も否めない。ただこれが『科学要素が羅列されているけど一気呵成にトージの活躍だけを追っている展開』であったなら没入しきれたと思うので、やっぱり視点変更多すぎ問題が足を引っ張って、盛り上がれるはずのシーンこそ一歩引いてしまったという感じ。
歯抜けでもいいから誰か1人の視点だけ追いかけていって、それで読者も納得・理解できる筋書きにしてあげられればいいなと、俺は思った。まあ、魅せたいものが群像劇っぽいのもあるので難しいとも思うけど。
総括すると「惜しい作品」というのが本音。
キャラクター性及びその活かし方は商業化も狙えるポテンシャルがある(ただ、ちょいとだけ古いかな?と思わなくもない)と思えるが爆発力がない。物語全体を追っかけていくにふさわしいフックがなく、主人公の戦い方も言ってしまえば『魔法を使えない』という点から第1章で披露した消火器はじめ身の回りのもので戦うという点まで、奇策ではあるものの集客力はなく、1度見ればある程度満足してしまう出オチ感がある。
基本的に主人公は単独で戦う上強いという設定のうえでのバトルなので、例えば俺が絶賛していた『まにてん』のような「うぉぉ、友情と信頼の勝利だ!!」とか「なんとか勝利をもぎとった!!」感が(俺的に)ない為爽快感がなく、他にも例えば『魔法科○校の劣等生』のお兄様みたいなTUEEEEでもないので中毒性もなく、『無○転生』みたいに主人公のそれまでの努力や苦難を知った上での勝利でもない為達成感もなく、言ってしまえば「設定で勝利しました」みたいな淡白な勝利感しかないのだ。
キャラクターはいいのに、舞台や雰囲気や設定もいいのに、演出がイマイチな為盛り上がらなかった『なり損ないなギャルゲー作品』。俺がこの『近ごろの魔法使い』に感じたのはそういったものに印象が近い。
第2章まで読んで、作者の目指したい方向性というのもある程度見えた。これは各シナリオで攻略したキャラクターのフラグを半分折っていきながらグランドフィナーレを目指すタイプのギャルゲー路線だ。まだコゼット分しか読めていないが、俺個人的には今後時間をかけながら読んでいこうと思える作品であった。
ただ、正直に言う。俺がなぜこの作品を読み続けようと思っているのかというと『この作品のキャラが好きだから』というのと、『この作品の造形(往年のサウンドノベルゲームバランス)が好きだから』というものであり、『展開が気になる』というのは今のところ薄い。というかほぼない。
俺がこの作品のファンになるためには爆発が…っ! ストーリー性面での爆発が足りないっ!! それというのはつまり、物語始まった感がないことにも起因しているのだろう。
ここでその話題について多くは語るまい。いつぞや風のおじさんがこの日誌の感想欄でそのことを自覚した風なコメントを残していたと記憶している。(そのコメントがこの『近ごろの魔法使い』を指して言ったのかは不明だが)
つまりは、そういうことなのだ。
……と斜に構えて言ってみたがおしゃべり好きな俺は『多く語るまい(キリッ)』とか言っておきながら結局語りたくてうずうずしてしまったので、以下つらつらと語っていく。
まず、以前俺が挙げた『物語始まった感6つの要素』について復習しておく。
①ボーイミーツガール系
②主人公の置かれる境遇がかなり変わる系
③異世界情緒や特殊な価値観で読者をぶん殴る系
④事件が起きた系
⑤復讐を誓っている系
⑥史実系
以上6つだ。
まず本作は①ボーイミーツガール系ではない。主人公達部員は物語開始前に邂逅を済ませている為これにはあたらない。「レオと出会ってるじゃないか!」というツッコミを頂くかもしれないがあれはあくまで章単位でのイベント発生させる為の導入でしかなく、物語全体をカバーしているものではない。よってこれではない。
一個飛ばして③異世界情緒や特殊な価値観で読者をぶん殴る系でもない。面白い設定ではあるがそれだけだ。俺的に『畢罪』くらいに行けばぶん殴るくらいの威力に至ると思っているが、『近ごろの魔法使い』では手招きや握手をされているくらいの感覚でしかない。『近ごろの魔法使い』にとっての設定とは読者を呼び込み且つ読み続けさせる為の餌であり、それ単体で心を抉ってくるようなパンチを放っているわけではない。つまりこれも違う。
次、④事件が起きた系。これはレオと出会ってシージャックくだりまでは当てはまるが先述した通りこれは章単位でのイベントであり、物語全体にはかかっていない。よって違う。
また一個飛ばして⑥史実系。うん、ない。これはないので割愛。
さてはて、そうして飛ばした2項目について、つらつら語っていこう。
まずは⑤の復讐を誓っている系。これは『復讐』なんてついているが別に主人公が何かを誓っていてその確固たる意思のもとに動いていればそれにあたる。例えば今回の『近ごろの魔法使い』で言えば主人公であるトージは『普通の学生生活を送りたい』という確固たる意思をもっているので一見するとそれに当てはまりそうなのだが、その実全く違うのだ。
俺がここで言いたいのは『復讐誓っている系』は徹底して主人公がその意思を持ち続けて且つその目的に向かって着実に進んでいる感が欲しいのだ。『枢機卿』でいえば主人公は復讐を誓っていて復讐する相手に着実に近づいていっている。その一貫性が欲しいのだ。
一方でこの『近ごろの魔法使い』でいうとトージ自身は普通の学生生活を送りたいと願っているがその実その願望とは正反対にドンパチに巻き込まれている。つまり主人公は目的方向を向いているが物語はそっちを向いていないのだ。
つまり、この作品を復讐誓っている系に無理やり当てはめてしまうと前に例え話をしていた『枢機卿の主人公が復讐のためにスナック経営を始める』みたいな状況になってしまう、と俺は思っている。
もし仮にこの作品の設定のまま復讐誓ってる系にストーリーを変えようとするのであれば、普通の学生生活を歩みたいと思っている主人公と、普通の学生である周りの人達との軋轢・すれ違いを中心に描く作品となる…のか? ギャグ路線に走れば「フルメタル○ニックふもっふ」みたいな感じになるのかね。
まあそんなわけでこれでもない。
そうして最後、②主人公の置かれる境遇がかなり変わる系について。
実は本作には物語始まった感がないと言った際、「いや、主人公の置かれている境遇がかなり変わっているでしょ?!」と誰かしらから突っ込まれるかもしれないと思ったから今回ここまでつらつら語ってきたのだ。つまり上に書いてきたのは前振りで本題はここからにある。(ちなみに以下、かなりのネタバレがあるから注意だ)
さて、まず主人公トージは陸上自衛隊が管理する育成機関育ちで、海外の軍事機関にとっては畏怖対象レベルの軍事兵器だ。例えるなら上で出てきた劣等生のお兄様的な存在だと思ってくれて構わない。
そんな彼が普通の学生生活に憧れて育成機関からわりと普通の学校へ転校してくる、というのが本作の設定である。さて、明らかに主人公の置かれている境遇が変わっているように見えるが、そうではない。
その設定を物語始まった感として感じさせるためには欠ける要素がある。それは『主人公が何者であり、それまでどんな風に生きてきたかの背景が読者に提示されているか』というものだ。
読んでない奴のために言うと上記トージの来歴が詳しく(といっても多少程度で全貌は開示されないが)語られるのは第1章のクライマックス部分である。水戸黄門で言うところの大立ち振る舞い前に印籠を見せびらかせるタイミングと思ってくれて構わない。
そこに至るまで、主人公トージは色々謎多き人物として語られている。彼の一人称(に近い視点での三人称)で物語が進むシーンもあるが、前述の通り伏線っぽい何かみたいなものでぼやかされており、いまいち彼の素性にピントが合わせづらい、
つまり、彼がその時考えていることは明示されているもののその考えや感情に至るバックボーンが何もないに等しいのだ。ハリー○ッターが最初にレンガの壁を抜けてダイアゴン横丁に入った時の感動について、彼が魔法も知らない世界からやってきた一般人であると読者に開示されているかどうかでハ○ーポッターが感じた感動への共感具合・没入具合が変わってくるでしょう? つまりは、そういう情報こそが大事なのである。(少なくとも俺にとって)
そして他にも、例えばこれが世に蔓延る交通事故からの異世界転生だったら主人公のバックボーン説明などほぼ不要なのだ。読者がよく知る世界側から異世界に飛ぶのであれば読者と主人公は近しい立場と知識を共有できているという不文律のご都合がある。
(恐らくバックボーン説明が全くない作品はないと思うがな。ただ例えばニートだとか社畜だとかそういった単語ひとつでも添えてやれば大体のバックボーンを好き勝手に推し量れてしまうだろ? そう考えてみると、やっぱり異世界転生は読者に強いるコストパフォーマンスが非常にいいんだな…と改めて思った)
そうして一方で『近ごろの魔法使い』はそれらとは逆で、読者にとって向こう側からこっちへ来る人物が主人公の物語だ。彼の生い立ちや来歴を知らなければ感情移入しづらければ応援もしづらい。
例えば、上で例に挙げていた『フルメタ○パニック』であれば導入で主人公が軍属であることが開示されているし、どういう人物がどういう思いで(←任務だからして本人としては本意ではないだろうが)学校に来ているかが語られており、主人公がズレたことを言っていたりすごいことをしでかしてくれたりしてもモヤッと感なく単純に面白く感じたのだ。
つまり、つらつらと語ってきてしまったが言いたいことはただ一つ。
主人公がどんな人物であるのか明確でない限り、物語始まった感としての『主人公の置かれる境遇がかなり変わる系』要素には当てはまらないということだ。
そんなこんなで本作には物語始まった感を感じなかったということで、以上感想終わり!
今回はお悩みコーナーもなしの為、以下恒例の2つをやっておしまい!
※ここで書かれている内容は全て個人的な意見であり、真に受けるかどうかは読み手に任せる。無視するも反論するもナニクソと思うも好きにしろ。
【作品名】近ごろの魔法使い
【URL】https://ncode.syosetu.com/n7919bd/
【評価】6点
さて、次は鋼姉貴野郎の出番か。
あッ やべ。ポップミスった。