18.護衛官 マイノール・タイスンの誓い
どうも、あっちいけだ。
今回はどーでもいい話はなしだ。今回こそ短く済むだろうなんて思っていたのに、なぜか感想がすげぇ長くなっちまったしな。早速本題に入っていこうと思う。
さて、そんなわけで。今回「拙作を俎上にどうぞ」と、俺を板前か何かと勘違いしてやいないかという感じで踏み台を差し出してきたのは『かわかみれい』君だ。
どこかで見かけたがどうやら「かわかみ」が姓、「れい」が名前とのことらしい。(どこで見かけたかは覚えていない)
ただ、俺個人的にこの場で「れい君」だったり「かわかみ君」だったり呼ぶのが何となくしっくりこなかったので、素直に「かわかみれい君」と呼ぶことにしようと思っている。ちょっと長いが、まあ仕方あるまい。
ちなみに。いつぞや言った通りだが俺は作者本人の性別を一切考慮せず、この日誌では同志のことを君付けで呼ぶことにしている。パッと目にしてしまったが、かわかみれい君がエッセイで思いっきり『旦那うんぬん』と語っていたのでそれなりの確率で女性だろうと予想しているが、俺個人が好き勝手に語る感想に性別なんて関係ない。よって非常に高確率で女性だろうと思っている今回も君付けで呼ぶし、今後呼ぶ際は彼と呼ぼうと思っている。
ただ、これもいつぞや言った通りだが本人からの申し出があればそういった機微は尊重すべきだと思っている。よって、今までの同志もこれからの同志も、もしどうしてもということであれば言ってくるように。
さて、(俺的に)どうでもいい儀式を無事に済ませたところでさっそく本題に入っていこう。今回かわかみれい君が差し出してきてくれた作品は以下、募集要項からの引用だ。
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【作品名】
『護衛官 マイノール・タイスンの誓い』
(https://ncode.syosetu.com/n6108et/)
【あらすじ】
王子の乳兄弟である主人公が王子の護衛官になってすぐ、王子が心身ともに瀕死の重傷を負う事件が起き、主人公が自責の念にかられて病みつくほど悩む。
【セールスポイント】
十代後半以降の、比較的若い世代の人がターゲット層ですが、それ以降の人も読むに足るよう書いたつもりです。
日常が壊れたような事態に至った場合、どう己れと向き合い、現実を受け入れ、乗り越えてゆくかを丹念に書きました。
【フックポイントの話数】
『1 誓い④』
ここで日常を揺るがす事件が発生します。
『悩み他』
十代半ばから二十代まで、少し書いたり雑誌に投稿したりしておりました。が、仕事などが忙しいのと思う所があった為、中断しておりました。
しかし、頭の中にいろいろと見えてくるものがあり、見ないふりで忘れ去ることが出来なくなったので、腹をくくって中年を過ぎてから再び書き始めました。
【本気かどうか】
書くからにはド本気です。
言い訳はしません。
私の書く目的はおそらく(自分のことはわからないものです)、私自身が楽しみ、読者の方にも楽しんでいただくこと。広い意味で、です。
しかし拙作は、ありがたいことにそれなりに読みに来て下さる方もいらっしゃいますが、一瞥で嫌がってしまう方も多いのかもしれません。
その為かポイントはほとんど付きません。
十代の頃から流行りのタイプのものは書けない書き手でしたので、我が道を行くつもりではありますが、私の書くものはお客様の心へ届かないのだろうか、と不安になることもあります。
退屈と感じさせる、あるいは疎ましく思われるであろう点をいくつか、自覚している部分もなくはないのですが、第三者の目で検証いただければ幸甚でございます。
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さて、募集要項を見た際のぱっと見の印象を述べよう。
まず、作品名。かなり硬派な作品であることが伺える。本気かどうか欄に書いてある通り、流行りものだったりマジョリティ読者へ迎合したり、そういったものを全くせずに突っ走っている感じは前回のプチ君の『銀の歌』と同様であろう。
ただ、『銀の歌』と大きく違うのは、作品名だけである程度読者の選別を行っているだろうというところだろうか。あくまで俺個人が感じたことだが、『銀の歌』は作者本人の「このタイトルでないとこの作品は成り立たないんだ!少なくとも俺はこれしか考えられねぇ!」という熱い想いの方が先に感じられたんだが、今作の方は読者に対して「どういった作風のどういった傾向の話か分かるだろう、あぁん? 読みたきゃ読めよ。お前が期待している通りの作品がここに置いてあんよ」といった感じで―――いや、そこまで挑発的な感じではないものの、わりとタイトル時点で篩にかけている印象を受ける。
早速すげぇ偏見と偏屈が入ってしまって申し訳ねぇが、『このタイトルの世界観を受け入れられる方はお入りください』とでも言うのだろうか。スッと入れる人だけお通りください、あとのお方はお帰りください的な?
例えば『クロステラ』とか『時フラ』とか『虫から魔王』とかって、わりとタイトル見ただけで「あ、ファンタジー小説っぽいな」って思うと思うのよ。
他に『チャリチャン』とか『枢機卿』とかは、「自転車」とか「復讐」とかって単語をつけることによってパッと見ただけでどういった内容の作品であるのかが明快にしたうえで読者を選別している感じだと思っている。
そして『銀の歌』だったり『サウセン』や『テーベ』なんかは、上述した通りの作者の想い優先っぽいなって雰囲気なのよ。
それでもって異色なのが『畢罪』。これはパッと見てどんな作品なのか皆目見当がつかない。だけど作者の想いが優先されているというよりも、「どういった内容なのかはタイトルで語るつもりはない。真意を知りたければ読むがいい」といった侍魂的なものを感じる。気迫と重みと熱と冷たさが内包されている、ような気がしなくもない。
そうして『護衛官 マイノール・タイスンの誓い』である。俺的に最も『畢罪』に近しいと思ったのだがニュアンスの細かいところでだいぶ違うように感じた。つまりは「どういった内容なのかタイトルだけで分からないはずなんだけど、作者から『どういった内容なのかはタイトルを読めば分かるだろう? 合う奴は寄ってこい』と言われている感じがする」といった感じなのだ。
あ、ちなみにこのタイトルに関して殴るつもりも殴っているつもりもない。何が言いたいかっていうと、俺が初めてタイトルを目にしたときに『何となく作品の方向性が見えるけれど俺向きじゃなさそうな気配がするな』と感じたって、ただそれを言いたかっただけだ。
さて。
初っ端からだいぶ話がそれてしまった。募集要項の中身について引き続き語っていこう。
あらすじやセールスポイントを見る限り、重めな内容であろうと想像できる。読む前からこちらの背筋が伸びる思いである。
そして悩み及び本気かどうかについて、俺的共感ポイントが高い。自分が面白いと思ったもの、きっと他人を楽しませられるだろうと思ったもの。それが本当にそれなりの人数に(世の大多数とは言わない)受け入れられるものなのだろうか。そういった不安を感じているというのが察せられる。
かわかみれい君自身、自分の作品に自信と誇りを持ちつつも他人の目から見てどうなのかを教えてもらい、きっと自分の心の鋭敏化を図っていきたいと思っているのだろう。そういうことであれば、いつも以上に目つきを厳しくして読んでやろうじゃないか! そういう気分になる。
そんなわけで、『護衛官 マイノール・タイスンの誓い』(以下、護衛官)について、いつの間にか恒例になってしまった俺的概要説明だ。ちなみに、いつもはネタバレしないようにしながら書く概要説明だが、今回はネタバレ要素を含んでいる。注意しな。
身命をかけて主を守る仕事がある。彼、マイノール・タイスンはアイオール王子専属の護衛官である。
彼の仕事は王子の命を守るだけではない。身に及ぶ危険はもちろん、存在・意義・立場を守るために彼は彼に出来る限りのことを果たす。
しかしある日。マイノール不在の折にアイオール王子が宮中で何者かに襲われ、心身ともに深く傷つけられてしまう。
それまで毅然とした態度であった王子が一変し、痛みを恐れ、自身を見失い、殺してくれとマイノールへと頼んでくる。狂気と絶望に満ちたまなざしは、彼を守れなかったマイノールの心をも蝕んでいく。
心深くまで傷を負った者、負った傷をまざまざと見せつけられる者。それぞれ傷みを抱えて如何に苦しみ、如何にしてそれを乗り越えるか。
護衛官―――ただ身命を守るだけではないその使命。果たすに必要なのは頑丈な肉体、逆境にもめげない精神、そして主を思い遣る心である。
あー、また適当なあらすじ作りやがって!(←どうした?)
そんなわけで、いつも通りだ。気になった奴は読みに行けばいい。ただ、俺はあらすじと作品の同一性は一切保証しない!(←相変わらずひどいな)
ってなわけで、下手なあらすじは放っておいて感想の方に入ってくとしよう。
まずは今回も良いところから。
特になし。
以上。
―――というのは冗談で。
いや、すまない。今回も久しぶりにどうやって感想を書こうか悩む感じでな。
うむ、良いところなしというのは半分くらい冗談で、訳あって今回の感想の書き方はいつもと違って良いところと気になったところを入り乱れで書いていくスタイルにしようと思っている。
正直に言うと今回の『護衛官』、手放しに褒められるべき部分なんだろうけど裏返って俺の気になるポイントになっているってところが多かった。その為、良いところなしというのは偽りでもあり真でもある的な?
まあ、そんなわけで今回はいつもと違って明確に良し悪し分けずに好き勝手に語っていこうと思っている。あと今回は感想の内容を語っていくのに対して感情グラフが大して役に立っていないので、最後に載せておくことにする。
そんなわけで、いくぞ。
※ここで書かれている内容は全て個人的な意見であり、真に受けるかどうかは読み手に任せる。無視するも反論するもナニクソと思うも好きにしろ。
さて、まず本作の感想を述べていくにあたり絶対に外せない要素がある。それというのが本作の最大の特徴でもある、『本作では1つ大きな事件が起こるものの、その事件を解決するのが主ではなく、その事件を受けて起こる登場人物の精神的変化』に主眼を置いた作品という要素だ。
どういうことか。まず本作のストーリーラインを起承転結抽出してざっと眺めてみよう。
起:昔むかしあるところに、アイオールという王子と、彼に護衛官として仕えるマイノールという青年がおりました。
承:ある日、マイノール不在の折、アイオール王子が宮中で謎の暴漢に襲われ、心身ともに傷ついてしまいました。
転:アイオール王子の身体の傷は時間とともに治っていくものの、心の傷が一向に治りません。つられて本来王子を守るべきであった護衛官たるマイノールも自責の念に駆られ、徐々に心身へ異常をきたしてきました。
結:しかしアイオールとマイノールは互いを想う友情や周りのひとの寄り添いなどによって心の復調を果たし、無事に明日へ向かって生きていくことを決意できたのでした。めでたしめでたし。
さて、だいぶ気合の入っていないあらすじで申し訳ないが、まあざっとこんな感じだ。起承転結の概念も本来あるべき姿になっていないが気にするな。
そんなわけで、本作は上記の通り一貫してアイオール及び主人公たるマイノールの、主に精神状態にフォーカスを当てて物語が進められている。その間に細かいイベントが挟まりつつも、例えば『王子様を襲った謎の暴漢の正体を暴き、復讐する!』とか、『心身復調して覚醒した王子様や護衛官が英雄譚に語られるほどの偉業を成し遂げる!』とか、そういったヒロイックだったりアドベンチャーだったり的な話は本作に全くない。
言ってしまうと、俺が肩透かしを食らうほど徹底して『王子様とマイノールの精神状態しか追っていない作品』だったのだ。
読んでねぇやつに分かりやすいところで言うと、王子様を襲った暴漢っていうのがいるんだが、物語上暴漢の正体は騒動が起こった時には謎である。それというのも王子様が襲われたとき、目隠しをされていたからだ。
ただ、読者的にはその騒動が起きる前に王子様に突っかかっていた奴がおり、そいつがまた分かりやすいほどに悪役っぽい表現をされていたので彼が復讐相手だろうというのは想像に難くない展開となっていた。さて、王子様がヒールたる彼に復讐するときはいつなのだろうか?と一読者たる俺は密かに期待を抱いていた。
ところがどっこい、そのヒールたる彼は王子様や主人公マイノールのあずかり知らぬところで殺されてしまうのだ。その死ぬときの描写はない。マイノールが同僚から『実は奴が殺されたんだ』と聞かされるだけである。
まあ、その殺され方っていうのは『護衛官』の世界での倫理観上かなり惨憺たる殺され方をしており、『アイオールをこんな目に遭わせた奴は絶対に許さない』的なスタンスであったマイノールでさえ一片の同情を抱いてしまうほどの惨たらしさがあるらしいので、読者たる俺も一応の溜飲は下せることができる。
ただ、何となく復讐劇を期待していた俺は奴が殺されたと聞かされた時に『あ、え、あいつ死んだの? えぇ、こっから先どうなるの?』という風に狼狽えてしまったのだった。というのも、そこまでを読んだ時点では俺はこの作品を『護衛官か王子様が復讐を見事果たす復讐劇』と思っていたからだ。まさか『全編通しての心理模様物語』だと思っていなかったのだ。
ただ、『読者の期待を裏切るなよ!』という思いは抱かなかった。あくまで『復讐が主題の物語かな?』と勝手に思い描いていた俺の読みが外れただけで、最初からそっちサイドの話であるとも取れるようになっている。つまり、どっち方向の話かな?という二者択一で、俺が間違った読みをしてしまっただけなのだ。なので、ここは全く殴りポイントではない。
例えでいうと、作者から物語の材料を最初に提示される。じゃがいも、にんじん、牛肉…と並べられていったときに俺は『カレーだ!!』と期待してしまったが出てきたのは肉じゃがだったみたいなものだ。『あ? あっ、あぁ……なるほどなるほどそう来たか。ほほう…そういうことね、なるほどなるほど…』といった感じで、すっかり舌がカレー味の気分であった俺は行き場の失った刺激物欲を抑え、だし香る肉じゃがを食べ始める。そこに料理人たる作者に罪はないって話だ。
(ちなみに、前回のプチ君のときの感じは同じ材料を提示されたのに出てきたのはラーメンだったくらいの感じである。(あくまで俺的感覚の話である))
まあ、そんなわけで色々ごちゃごちゃ言ってきたが、ここで俺は言いたいことをまとめると、『物語の展開関係で、作者は悪くないんだけど俺はそれで肩透かしを受けてしまった』ということだ。
さて、そんなわけで次の話題に行こう。『登場人物の心理描写』についてである。これはなかなかに趣深いものであった。
まず、『護衛官』では主人公であるマーノ(マイノールの愛称)の一人称視点で物語が進む。その視点は最初から最後まで一貫してぶれない。
そして物語の本筋としては先ほど言った通り、主人公であるマイノールやその主であるアイオール王子がとある事件に巻き込まれ、心身ともに追い詰められていってそこから復活を遂げていく物語なんだが。
主人公の悩みだったり、悩んだ結果出した答えだったり、その答えの歪さ、人の良さ、後悔、自己嫌悪、他人の行動に対する自己解釈。そういった逐一の心理描写がなかなかに趣深い。
そういった心理描写は時たま結構な長文になってしまったりしているのだが、それがまたこのマーノという主人公の「石橋を叩いてから自己認識に落とし込んでいく」というある意味頑固で、ある意味不器用な人物像をよく表している。
作品の途中で、マーノが『一進二退半進』という言葉を使う。これは王子アイオールの心の病の快復具合を指して言っているのだが、俺的にはマーノの心理状態もこの『一進二退半進』といった感じで、段々と自分でも気づかぬうちに弱り追い詰められていく様をかわかみれい君はうまく描写している。
ともすれば冗長的ともとらえられかねないような心理描写、情景描写であっても、マーノという人物が語っているのであれば『彼らしい』と思える。そんな感じ。
ただ、これも手放しで称賛に値するか?と俺自身へ問うと答えは否であった。『よくぞここまでマーノという人物の精神状態を細かく書いた』という賛辞は送れるが、『うぉぉ、よくこんな心を書けたな…』という称賛は送れない、といった具合である。
マーノという人物・心理状態を表現する方法については何らケチもつけようがないほど良いのだが、そのマーノという人物や心理状態を追って心に突き刺さるほどの感動要素がなかった、というのだろうか。特にこう…「はっ!」とする感じがなかったというか、まあ、無自覚のうちに自責の念に駆られて追い詰められていく主人公の精神状態について、物語のスパイスにはなりえるもののそれ自体を主食にすることはできないというか。
つまり、俺はマーノという人物を主人公にするのであれば『そういった心理状態を克服したうえで何かしら主人公に成し遂げてほしい』と思ってしまったんだ。
かわかみれい君の描写は素晴らしいものがあり、マーノへの感情移入・共感というのはすごいしやすいものがあった。ただ、共感・没入したうえで何事かを一緒に成し遂げたかったなぁというのが俺の本音である。それが例えば復讐であったりすれば最上だったのだろうと思う。
これはあくまで俺の感覚の話なので真に受けてもしょうがないが、俺は心理描写に始まり世界観描写・風景描写などは大概作品への調味料みたいなものだと感じている。ちなみに、俺はその調味料が大好物な人種だ。
ただ、調味料だけではお腹が膨れないのだ。物語性といったきちんとした素材があってこそ調味料は役立つのだ。(こんな話を、『サウセン』のときにもした気がする)
俺的には『色々と精神やられたけれど周りの助けもあって何とか復調しました』というのは物語ではなく下ごしらえなのだ。そこから、何か、来るのか…!?と期待したところで何も起こらない。う~ん…肩透かし。
ただし、ここでも俺はかなり好き勝手にけなしているように見えてしまうかもしれないが、実は本作を殴ろうという気はさらさらない。俺の読み方が間違えているという認識があるからだ。
つまり、初見の俺にとっては『物語性がねぇなぁ』と感じてしまうものであったが、かわかみれい君やその他読者にとってそうではない事情があったのだ。それについては、また改めて後述する。
さて、そんなわけで自由気ままに次の話題に行こう。『世界観・雰囲気づくり』―――これもなかなかに趣深いものであった。
描写に使う言葉の端々、それが行動描写であっても心理描写であっても、この『護衛官』というかなんというか、かわかみれい君の他作品を読んでいない俺が言うのもおこがましいが、『かわかみれいワールド』的なものが非常によく表れているのである。
作者の色というのだろうか。それら描写は綺麗でありつつも綺麗さで染め切っていない、淫靡さを感じつつも淫靡さで染め切っていない。なんというのだろうか―――恐らく似たような雰囲気の作品は世にあるのだろうが、かわかみれい君はその何かを模倣しているというよりも、『色々な世界を見知ったうえで自分が描ける世界・雰囲気というものを確固たるものとして得ることができていて、それをごく自然体で表現している』といった感じなのだ。
実際に文字として起こす際に生む苦しみは当然少なからずあっただろうが、この世界観・雰囲気を創造することは『かわかみれいという作者にとって息を吐くのに等しいほどに自然とできることなのだろう』というのを感じ、自然と読む側も落ち着いた雰囲気で読み進めることができたといった感じなのだ。
―――さっきから対比として例に出してしまっていて申し訳ないが、反対のところに『畢罪』があるのだろうと俺は勝手に思っている。あれは俺の偏見でいうと『八刀皿 日音という作者が渾身の気合を込めて作った世界・雰囲気である』という印象があり、自然と読者たる俺も背を正して読まなくてはという気持ちになった。現れている世界観や雰囲気に通じるものが(俺個人的には)ある2作品だが、多くの部分で対極だなと俺は感じている。
しかし、そんな『世界観・雰囲気づくり』についても手放しで称賛できるか?と自問すると答えは否であった。その世界観が『護衛官』の物語の中で活かされ切っていないのだ。
まったく活かされていないわけではない。『学友』という制度であったり『護衛官』という制度であったり、物語の展開に関わる固有の設定は色々ある。
ただし、多くの設定は『名ばかり設定』であり、世界を広く表現するために使われる設定の多くが名前だけしか登場しないことが多かった。例えば、『レーン』という国であったり、『カタリーナ王妃』の存在だったり、『レクラ』だったり。まあ他にも色々あるが、設定は凝っていそうなのにこの物語の根幹に食い込んでこない感が何ともモヤモヤするというか。
これが別にありきたりなよくある設定みたいな感じであれば特に説明がなかったりそれに付随するエピソードがなくても違和感がないんだが、何となく『この言葉は作者にとって、及びこの物語にとって大事に違いない』と端々感じる存在感のある要素であるのに、なぜか作者ががっちり触れてこない感があり、俺はモヤモヤしてしまったのだ。(他にもシュルツ君だったり、神山ラクレイだったり)
まあ、それらの要素のうち1つや2つが触れられなければ『そういったもの』として受け入れられるんだが、この『護衛官』に関してはそれが目につくほど多い(と俺個人は感じた)。どう考えてもうすうす感じられる設定の奥行きと本作の文字量15万文字とではギャップがあり過ぎるのだ。
そして、そのギャップを感じたままに本作は終わりを遂げる。
う~ん……? 読めば読むほどに違和感を覚えるのだ。本作はこれで終わっているのだが、何か作者が語りたいことを取りこぼしている感というか、俺の腹の満たされなさは文字量以外の他に何か原因がありそうだというか。
そうして、そんなモヤモヤを抱えた俺であったが2回目読み終わった後、ついにそのモヤモヤの原因を突き止めることに成功したのだった。
そしてそれは、それまで俺が抱えていた様々な不満点の原因解明につながったのだ。
果たして、その原因とは―――
閑話休題。
さてさて。一回ここで話をぶった切って、小休憩たる小話を挟んでおこうと思う。このままいくと挟む余地がなくなりそうだったからな。
まず、登場人物の名前についてだ。
かわかみれい君、『護衛官』に出てきたキャラクターの名前を名前が出てきた順で以下に羅列していくぞ。ちなみに敬称略だ。
・アイオール
・マイノール
・レーンの方(女性)
・スタニエール
・セイイール
・ライオナール
・クレイール
・グラノール
・トルニエール
・サーティン
・ロン
・カタリーナ(女性)
・サルーン
・シラノール
・シュルツ(外国人)
・アーナン(女性)
しりとりの「る」攻めでもしてんの???
上のリストから女性を抜いたらロンさん、サーティン、サルーン、シュルツ君以外全員語尾が「ーる」じゃねぇか。ってかロンさんについても本名がユニアールらしいし、サーティンとサルーンも名前じゃなくて苗字っぽいし、こいつは外国人であるシュルツ君以外全員「なんとかーる」なんじゃねぇかって疑っちまうわ。
それでなくても語尾が「る」と「ん」だけって国内でしりとりでもやってんのかって感じなんだよな。まあ、せひろ君の『サウセン』みたいに頭文字が偏っているよりは全然判別つけやすいんだけどさ。
なんかこだわりがあるの? 頭文字が散らされているといってもまだ人物把握ができていない序盤とか『これ、誰ーるだっけ?』みたいになっちまってさ、ややこしいんだよね。(特にクレイールとグラノールはパッと見の名前が似ているのにこの2人で打ち合うからややこしくって仕方なかったわ)
すごくそれ以外の設定がしっかり凝られている感があったから、この「なんとかーる」問題についても何かしら設定があるのかな?と思ったけどそれらしい描写がなかったので、作者の遊び心かな?と思わなくもない。まあ重ねて言うけど、せひろ君のラ行変格活用よりは全然判別つきやすいから別にいいんだけどさ。
さて次だ。
『護衛官』についてはほぼ誤字脱字はなく、とはいえ若干数あったから気になったところだけ誤字報告を送ったんだけど、1つだけ誤字なのかどうかわからずに放置したところがある。
第7話部分の「誓い⑥」に出てきたアイオールの台詞だ。彼が兄や父の名前を呼ぶときに、なぜか苗字が『デュ・ラク・ラクレイノ』となっている。
俺が認識しているアイオールの名前は『アイオール・デュ・ラクレイノ』だ。それが兄や父の時は何故か『ラク』が1個増えている。
微妙な差だ。う~ん……成人した王族には『ラク』を1個付け足すとかいう習慣があるのだろうか? 説明がなく多少もやっとしたが、作者が明らか自信満々に書いているっぽくそういう設定っぽいと思ったのでそのままにしておいた。
そして後述にも関わってくるが、本作以外のところで恐らくこの『らくらく問題』についてはどうやら誤字ではないということが分かり、誤字報告しなくてよかった~と俺は思ったのである。
ちなみに結局どうして『らくらく』になっているのかは未だに謎が解明されていない。
さてはて3個目、物語の起承転結の分かりにくさについてだ。
本作『護衛官』は第1話部分「序」から始まり、ここはマイノールが正式に護衛官に任命され、アイオールへ護衛官の誓いをするところから始まる。
そうして始まった第2話部分「1 誓い①」からは過去にさかのぼり、マイノールがアイオールへ出会った経緯から語られ始める。このストーリーラインについては何ら問題はない。
しかし第5話部分「1 誓い④」にて問題が発生する。ここでマイノールが護衛官になったと読者へ知らされるのだが、俺は初回読んだ時、ここと「序」の関係性を見誤ってしまった。
俺は回想から始まった「1 誓い」の章について、少なくとも章が終わるまでを回想だと思い込んでいたのだ。というか、タイトル自体も「護衛官 マイノール・タイスンの誓い」であるから、この「序」で披露された『誓い』というのは非常に特別なシーンであると思い込んでいたのだ。
だから初回読んだ時に章の途中でマイノールが護衛官になったと聞かされた時に、「あ、一回護衛官になったんだけど紆余曲折問題があって罷免とかされて、もう1回任命された時の万感の思いなシーンが「序」なんだろうな」って思ってしまった。つまり、「序」の話は「1 誓い④」と比較して後だと判断してしまったのだ。
そうしてその後マイノールは護衛官を罷免されることなく、「あれ?」と思いながらも、「あぁ、もしかしてこれは完結部分を最初に持ってきたパターンか」と誤解したままずるずると読み進めていき、第25話くらい(完結まで残り5話のところ)までを読んだ時にどう考えても今後の話の流れと「序」の話が繋がらない段階に至ってようやく『あ! 「序」のシーンはもしかして「1 誓い④」のシーンのことだったの!?』とかなり遅ればせながら気づいたということがあった。
これに関しては、俺がもっと素直に読むべきだったなぁと反省している。ただ、「1 誓い」の章のどこまでがマイノールの回想で、どこからが現時点の話であるのか明確な線引きが何もなかったので、そこはもう少し分かりやすい工夫があるといいかなと思った。
そうして4個目、最後の小話だ。
今更ながらのネタバレになってしまうが、本作ではアイオール王子が男色めいた形の暴行を受け、精神をやられるという物語になっている。
そうしてここ「小説家になろう」のサイトでは例え男色であろうと性行為を連想する表現への規制は厳しく、R-15までの表現しか許されない。
まあそういうわけで、アイオール王子が襲われている最中の描写は本作にはなく、事後についても直接的な表現はない。まあ、そもそもかわかみれい君がそういった情事の表現を直接的に書きたい書きたくないの問題もあるだろうが。
そんなわけで、本作ではアイオール王子が『そういったこと』をされたと読者へ間接的に分かる表現として隠語が用いられている。それというのが『栗の花の匂い』である。
―――んん? 栗の花の匂い? なんだそれは? と俺は思ってしまった。実際、俺は倒れているアイオール王子の身体から栗の花の匂いがしたという描写を受けて、「どこぞの貴族のひとが栗の花の匂いの香水でもつけていて、マイノールは誰がアイオールを襲ったのか分かったのかな?」とかそんな想像をしていたのだ。
ただ、その後しばらくしてマイノールが「アイオールも性知識くらい身に着けてはいただろうが自分に対して行われるなんて想像もしなかっただろう」みたいなこと言い始めてそこで初めて『んんん!? あ、そういうことなの!?』と性的暴行があったのたと気づいたということがあった。
いや、寡聞浅学にして存じ上げませんでした…まさか、栗の花の匂いというのが俗に言う『イカ臭い』とかそういった類のものであるとは……
どうなんだろう。俺が無知であるだけなのか、ブロマンスやBLといった界隈で通用する言葉なのか。栗の木は地元の近くにもあったはずなんだけど、そういった匂いだって今まで身の回りで話に上がったことがなかったしな。
ちなみに今まで俺が生きてきた中でそういった匂いの話が出た時には『イカ臭い』とか『精子臭い』とかそういった直接的且つ下品な感じでしか表現されなかったので、マイノールがそういった匂いを栗の花の匂いと例えていると知った時に、別世界の住人だなぁと強く感じたって。
うん、まあそんだけの話だ。
そんなわけで本題に戻ろう。
小話を4個挟んだところで、さて、もはやかわかみれい君には俺が何を言いたいのか分かっているだろうと思う。
まずおさらいをすると、この作品には俺的に良いところと気になるところの両面を内包した点が多い。
・パッと目立つ展開があるわけではなく、登場人物の心理状態を追っていく話であること
・心理描写の表現はうまいもののそれだけで主題になりえるほどの物語性があるわけではないこと
・世界観や雰囲気づくりは素晴らしいものの何となく違和感を覚えるほど設定が放置されていること
以上3点について、俺は最初『作者がそういうものとして作ったのであれば、そういったものとして捉えたうえで感想を書こう』と思っていた。
つまり。
展開は地味で薄味だが特定人物の心理状態だけを深堀していった文芸作品。そこに設定や雰囲気というスパイスがつけられているが、薄味な物語性のうえにまぶされた過剰なスパイスが違和感を発生させてしまっており、作者の書きたいこと・伝えたいことに対して設定や世界観が邪魔になっていないか? もしくは、世界観や設定こそ語りたいのであればもっと物語性を付与すべきである。
といった趣旨の感想を送ろうと思っていたのだ。
だが、違った。本作はこの『護衛官』だけで完結している話ではなかったのだ。
シリーズもの。本作はかわかみれい君が展開する『ラクレイド・クロニクル』というシリーズのうち、第3弾にあたる作品だったということに、遅ればせながら2周読んだ後に気づいたのだ。これは俺が目次トップのタイトルの上にある『ラクレイド・クロニクル』というリンクに気づかなかったのが悪いと思っている。
そしてシリーズのうち、短いものをいくつか(さすがに40万文字超の『レクライエーンの申し子』は読まなかった)ところで、俺の感じていた疑問やモヤモヤは解消されることとなった。
つまり、本作『護衛官』はシリーズものの中継ぎ且つ主力作品といった位置づけの作品だったのだ。それであれば前述したモヤモヤも解決する。
パッと目立つ展開がなく登場人物の心理状態のみを追っかけていたり、主題になりえるほどの物語性がなかったのも、シリーズの前後で色々とキャラクターが動いており、大きな物語として俯瞰して見た時に本作はマイノールとアイオールという2人の成長に主眼を置いた作品だということが分かり。
世界観や雰囲気がかなり作りこまれているものの違和感を覚えるほど放置されているのも、シリーズの前後で語られているからであると分かって。
ああ、なるほどね。と俺は納得してしまったのである。
さて、上記を述べたところで最後の話題に入ろう。『この作品は内輪ネタであるか否か』である。
以前、『まほろば』に対しての感想で俺は内輪ネタを披露してきた作者に対して烈火のごとく怒り、批判を頂くような感想を送り付けてしまっていた。
さて、それでいうと今回の作品はシリーズの途中の作品を一部抜粋して俺に読ませてきたというものになる。果たして、これは俺の爆発ポイントになったかどうか?
答えは否である。本作は本作単体で作品として認められる出来になっている。
もちろん、シリーズの前後を読むと圧倒的に見えてくるものが違う。特に、アイオールやマイノール達の世代の一個前、スタニエール王がまだ王子であった時代の話からきちんと読めば、世界観への没入感具合だったりアイオールへの感情移入具合が抜群に変わってくる。ほか、『護衛官』では端役としてしか出てこないカタリーナ王妃やスタニエール王についても見え方が全然違ってくる。
そして、『護衛官』のシリーズ後作品である『マリアーナの初恋』では、本作『護衛官』で出てきたアイオールやマイノールが『護衛官』で成長した因子をコミカル且つ大胆に披露してくれて感無量なのである。そういった、シリーズ通して読んだ方が面白いという要素はもちろんある。
ただ、それであれば『護衛官』だけでは価値がないのかと問われればそうではない。俺個人的には物足りなさを感じてしまったが、この作品単体だけでも楽しませようというかわかみれい君の努力は見えた。シリーズ前作品を読んだ人にしか分からない表現はせず、徹底して初見の人でも世界に入り込めるようにという配慮が確かにあった。
……逆説的に、そういった配慮があったからこそ俺なんかはこの『護衛官』をシリーズものだと初見で見抜けなかったんだろうと思う。難しい問題である。
そうして、俺は初見でこそ不満を感じたのだが、シリーズものであると最初から知った上で読んでいれば、読んでいて感じたいくつかの違和感は『まあ、シリーズものだからきっとどこか別作品で解消されるのだろう』と納得できるようになる。
つまり、シリーズものであると分かった上で読めば全然読めるものであり、なおかつ内輪ネタ作品ではない。という結論に俺は至ったという話だ。
そうして最後に総括として結論に入ろう。『この作品は俺にとって面白かったか否か』。
答えは―――単純に応か否かでは答えられない。
繰り返しになってしまうが、この作品単体を評するのであれば『物足りない』の一言に尽きる。ただしシリーズものとして評するのであれば『十分に面白く感じられる要素のある作品である』というものになる。ちなみに、この評価は重ね重ね言うが俺の超個人的なものである。
そして、『であればこの作品をシリーズものだと知ったうえでこの『護衛官』を最初に読んだ時にシリーズを追っかけたくなったかどうか?』と問われれば、俺は否と答えただろう。
つまりは、俺の中に2パターンの感想があるのだ。
まず1つは厳然且つ純粋たる俺の評価である。『シリーズものであるという前提のうえでこの作品を読んでいたとしても、俺はこの『護衛官』を読んだ後にシリーズを追っかけようという気を起こさなかっただろうから、その仮定のうえでの俺の感想を述べるのならば、本作は物足りない』というもの。
もう1つは日誌採掘者たる俺の評価である。『どうして物足りないのか引っかかり、色々探したうえでシリーズものであると知って、そこに答えがある気がしてシリーズを読んでみた結果面白さを発見・発掘することができた』というもの。
ようするに、この企画をやっていない状態の俺であれば、シリーズものだと分かった上であろうが『護衛官』を読み進めていくうちに力尽きて消えていっただろうということ。
対して、この企画をやっていたが為に最後まで読み続け、更に感じた疑念を追求すべくシリーズを読みに行くほどの探求心がある状態の俺だったから、最後には本作の面白さを見つけられたということ。
相反する感想だ。だが、そんな感じでしか答えが出せない。
加えて言うのであれば、本作には作者の意向や趣味嗜好は知らないがブロマンス的な雰囲気を感じられる。強くは感じないし、BLみたいに行きつくところまでは行っていない。俺みたいな奴でも安心して読める作品だ。
ただ、俺にとっては安心して読めるだけだが、そういう雰囲気が大好物な奴は結構いるだろうと思う。特に女性では。そういった読者であれば、本作を物足りないなんて思わず、他のシリーズまで読み漁るのだろうと思う。
―――と、ここまで感想を書いておいてふと気が付いた。俺は本作を評して『面白さを見つけられた』とか『面白さを感じた』とは思っているものの『面白かった』とは思えていない。
やはり、一番大きなところで言うと『物語性が薄い』ということだろう。シリーズ前後品の短いやつをいくつか読んだ今も改めて思ったがシリーズに繋がりはあるものの躍動感と厚みがない。シリーズであることから感じられる、分厚い本のような奥行きは感じられず、ただ一枚の紙切れがある程度の間隔置きに置かれているといった感じの、繋がりと立体感を感じない…とでもいうのだろうか。
何となくであるが、かわかみれい君が描きたいのは世界であり、人物ではないと思えてしまったのだ。『護衛官』ではこれほどまでにマイノールという人物の心理状態に描写の焦点が当てられ続けているのに、作者は別のものを見ている。そんな気がしてならない。
こっから先は俺の超々個人的な思い込みであるから、あんまり真に受けて聞いても意味がないかもしれないんだけど。好きに語らせてくれ。
マイノールが精神をやられたとき、トルーノだったりサルーンだったりアーナン女史だったりに色々元気づけられる。俺は彼ら彼女達が語っている内容こそかわかみれい君が本作を通して語りたかったことなのかな?と当初思っていたが、何となくそうではない気がしてきた。
さっき挙げた彼らの言葉がかわかみれい君の語りたかったことだと考えるには、あまりに当たり前すぎてつまらないのだ。これは『彼らの台詞・思いがつまらない』と言っているわけでも、『作品を通してテーマとして語るには凡庸すぎる』と言っているわけでもない。なんていうのか―――彼らがそれを語るのは当たり前すぎるというか、意外性がないというか、物語の流れだったり登場人物へのスポットライトへの当たり方だったりからすると自然過ぎるというか。
毒がないのだ。別に嫌味や皮肉を言ってくれというわけではなく、展開や台詞や場面が整い過ぎているのだ。
メリハリがないともいえるかもしれない。俺の完全なる妄想になるが、こういった場面で彼らがマイノールを元気づける台詞について、彼らは彼らの信念に基づいてしゃべっている感覚がなく、世界に言わされている感があるのだ。
空気を読む―――と微妙にニュアンスが近いかもしれない。世界の流れや物語の流れ、それらを橋渡しする役でもなくもっと下位のもの。世界を構成する無毒なもの―――つまりは空気や水みたいなものに彼らは近いのかもしれない。
例えばだが。マイノールが立ち直れない時に、読者が読んであからさまに異物感のあるものが登場してきたら、俺は鮮烈な驚きと感動をもしかしたら覚えていたのかもしれない。例えばでしかないが、マイノールが鬱々としていた時に街に出て、通りを歩いていた時に怪しげなおばあさんが水晶玉片手に占いをして、『次はこうしたらいいよ、イッヒッヒ』とか言ってきたら―――ああ、それはダメかもしれないけれど、つまりはそういった異物感があったらこの作品に対しての見方がかなり変わるかもしれないなと思った。
ああ、分かった。分かったぞ、かわかみれい君。これはあくまで俺の中での結論であって正解か不正解かの判断は君に任せることにするが、俺にとってマイノールに何か言ってくる奴ら全員の言葉がデウスエクスマキナなんだ。
次にこうしなさい、ああしなさい、こうすればいい、君は体調が悪いんじゃないか?、こんな失敗を自分も過去していた。そんなことを言ってきて逐一マイノールの状態や方向性を決めてくる奴ら。それらは演劇のストーリーの方向性を勝手に決めつけていく機械仕掛けの神様と一緒なんだ。
何故そう思ったか。それはマーノが物語上で主体的に動いたことが一つたりともなく(唯一セイイールに助けを求めた時くらいか?)、常に周りからの言葉や働きかけに対しての反応でしか感情・状態を表されておらず、極論、『あなた、熱があるんじゃないかしら?』と言われたから熱が出たり、サルーンが草むらに隠れていたからこそ『落ち込んでいても護衛官らしく動ける状態』になったりみたいに、マーノの状態が主ではなく周りの意見や存在が主みたいに感じてしまったからじゃないかと思ったんだ。
だから、あえてもっと異質でめちゃくちゃなもの―――それが例えばさっき例に出しためちゃ怪しげなおばあさんみたいなものが出てきたら、相対的に他の登場人物のデウスエクスマキナ感が薄まるのかなって思ったんだ。
いや、違うな……今のままでは作者もデウスエクスマキナの望んだままに物語を描いている感があり、誰もこの作品をコントロールできていないように俺には思えた。実際には全然そんなことはないんだろうが、この『ラクレイド・クロニクル』という世界はかわかみれい君がかなり自然体に表現しているだろうこともあり、自然体であるが故に確固として制御できないものになっているのではないかと俺には感じた。
そうして作者も登場人物も『ラクレイド・クロニクル』という世界に操られるがまま、自然が自然であるかのように違和感も異質さもないままに物語が進み、俺としては物足りなさを感じてしまったんだと思う。
これが、その世界から逸脱した存在―――何度も例に出しているが怪しげなおばあさんみたいなのを出してきて、それをこのデウスエクスマキナが日常に溢れた『ラクレイド・クロニクル』という世界に対して、日常のデウスエクスマキナが霞むほどの異様で異質で巨大なデウスエクスマキナをかわかみれい君がうまく紛れ込ませられた時こそ、『ラクレイド・クロニクル』を書いたかわかみれい君ではなく、かわかみれい君が作り上げた『ラクレイド・クロニクル』になるのではないのかと思ったんだ。
……すげぇ妄想を繰り広げている自覚はあるし、何やら矛盾していることを言っているつもりもある。もしかしたらシリーズ最長編である『レクライエーンの申し子』を読んだら印象ががらっと変わるかもしれないけどよ。
たた少なくとも、『護衛官』を読んだ俺はそんな風に思った。日常で周りのデウスエクスマキナに操られ続けたマーノが、最後の最後で巨大で異質なデウスエクスマキナに抗い、自分で行動を決めた時こそ、俺が求める物語性とマーノの成長が見れるんじゃないかって。
そんな意味のなさそうな妄想をしたって、それだけだ。
以上。
―――あっ、忘れてた。
すまん、かわかみれい君。1つ語り忘れていたことがあった。だから感想書き終わった〜ってな感じの流れになっていたが流れをぶった切って、頼む、もう1つだけ語らせてくれ。
俺が『護衛官』を読んで、「作者が自然体に世界を表現できている」だったり、「彼らの台詞が当たり前すぎる」だったり、ひいては「かわかみれい君が世界を制御していない」とか「デウスエクスマキナだらけだ」とかだったり感じてしまった、原因と思われる話だ。
それというのは、『解釈の不要性』から来ているのではないかと俺は思っている。
何かというと、この『護衛官』には俺の目線で遊びがなく、精神の活動にしろキャラクターの造形にしろ行動にしろ『読者に解釈させる余地がない』と感じたんだ。
描かれている何某かに関連する全てが描写され尽くしている。精神の活動についても何にしても「もしかしたらこのキャラがこういう考えをしたのは、あるいはここがこうなったのはこういう理由からかな?」とか妄想する余地が全くなく、全ての答えが出ている。そんな風に感じたのだ。
あえて悪い言い方をすると『設定の行き止まり』とでも形容できようか。読者が誰であろうとこの作品を読んだ時に浮かび上がる世界・人物像は固有の一つだけしかないのではないか、なーんて妄想をしてしまったのだ。
そうなると俺みたいなやつは「この作品にとって読者は必要なのだろうか?」なんて思ってしまうのだ。読者の存在不要で成り立っている世界があるのであれば、俺は別に読まなくてもよかったんじゃないか?なんて読後に思ってしまったのだ。
ただ、そんな風に思わない奴もいるだろうと思うし、そっちの方がマジョリティな読者な気もしている。
それに『全て描かれ切っている』なんて生意気な風に俺は言ったが、ところがどっこい『この作者、語り過ぎor書き過ぎだろ!』なんてまったく思わなかったのだ。
「長ったらしいなぁ、まどろっこしいなぁ」なんて欠片も思わせず、描き切った描写をするするっと入れてくるもんだから逆に凄い。
結論、この話題も俺の中で賛否両論なのだ。本作についてはどこまで掘っていっても『なんか凄いんだけど、なんか俺が求めているものとは違う』感が増すばかりで、手放しで称えることもできず、かといって『ここはこの方が良いと俺は思ったんだけど、それは決して正解ではないと思う』なんて中途半端なことしか言えず。
恐らく、『完成された作品であるのに俺には刺さらなかった』。それだけのことなのだ。
つまり、タイトルを読んだ時の『ん、俺はこの作品合わなさそうだな』というのがずるずると最後まで尾を引いてしまったということで。
それが先入観による弊害であるのか、あるいは展開の読み違えなどからも見れるようにやっぱり単純に俺の思考・嗜好とマッチしなかっただけであるのか、それは確実な客観性をもってどちらであるか言えないが。
俺は後者だろうと思った。勝手な判断だけどな。
以上、これで本当に感想終わり。
さて、俺的には好き勝手に語れた俺はすっきりすっきりってなもんよ。
ってなわけで、最後に感情グラフ載せて、毎度恒例の2つをやって終わりだ。
【PC版】
【スマホ版】
※ここで書かれている内容は全て個人的な意見であり、真に受けるかどうかは読み手に任せる。無視するも反論するもナニクソと思うも好きにしろ。
【作品名】護衛官 マイノール・タイスンの誓い
【URL】https://ncode.syosetu.com/n6108et/
【評価】5~7点
さて、次は野良犬騎士野郎の出番か。
《雷霆》実行ぉぉぉぉっ!!
あと、前回の感想あとがきで載せていた仮除外対象作品については、次回の俺の日誌更新を目途に正式除外対象とさせて頂く。
その際に補充作品を募集するかどうかは気分で決める。もし募集する際は次々回日誌更新までの応募期間を設けて、先着順じゃなくて上限決めての抽選方式にしようと思っている。
その他条件もその時の気分で決める。この期に及んでも俺に踏み台を差し出したいという稀有な奴がいるんだとしたら気長に待っていてくれ。