第2章:4節 意志(Will)
□■機体DATA■□
第二世代機後期型マルス
型式番号:XZ−216
全高:18.1m
本体重量:42.7t
装備重量:換装型のためポジションによる。
ジェネレーター出力:1420kw
装甲材質:チタン合金セラミック複合材
(一部ナノチューブ繊維配合)
「いやぁ〜!!!何なのよ〜、こいつら〜!!!」
ナオのマルス機は、ライフルを逆に持ち、まるで餌に群がる蟻のような形態をした全高約1m全長約2mの黒い物体達に振り回していた。
「ナオ〜、何やってるんだよ!!!狙撃手が突撃手より突っ込むなんて無茶しすぎだよ!!!」
後方600mにいるツルギが叫ぶ。
本来、後衛のミサイルランチャー等を装備した支援手が面制圧を
行った後、スナイパーが中衛より援護しつつ、前衛の大剣を装備したバンガードと
マシンガン等を装備した攻撃手が殲滅、もしくは突破口をつくるのだが・・・
ジリジリとナオ機に詰め寄る十数匹の通称アントと呼ばれる神の使者。
戦闘能力はカーボンナノチューブを織り込んだマルス機の超合金装甲をモノともしない強靭な顎だけだが、
常に数百匹単位で行動し、時には万に近い軍団を形成し襲ってくる。物量に包囲されなければ、容易く殲滅できる部類である。
「ツルギ何とかしなさいよー!」
リョウ機のミサイルランチャーとポジトロンバズーカの一斉射撃により数千のアント軍団は半数以下に減らし後、
ナオが「お手本を見せてあげる♪♪」とライフルをマシンガンのように乱射しながら突っ込み孤立。
ライフルの銃身の上部部がヒートサーベル加工されているので逆手に変えることによりある程度の敵の掃討できるが、
相次ぐ各小隊の出撃回数が増え、整備が万全とまでは言える状態ではなかったため、
弾切れになったナオ機は、本来の性能を出せず現状、死地にもっとも近い最悪の状態に陥っていた。
「何とかしなさいって言っても・・・」
バスタードを振り回し、救出の突破口を開こうとするが、一撃で大型種に致命傷を与えられる、
共鳴振動を備えた振り上げられた刀身が空を切り、地の砂煙を巻き上げる。
ジリジリとナオ機に詰め寄るアントの1匹が左足後方に取り付く。
「もう、あっちに行きなさいよ〜!!!」
まるで狂乱したかのようにライフルの柄を振りますが、死角のアントには届かない。
装甲がかじりとられる、鈍い振動がコックピットに、ナオに伝わってくる・・・
「早く!!早く!はやく・・・助けて・・・・」ナオは懇願する。
「くそ!!!リョウ先輩!!!隊長!!!!!ハルカ隊長〜〜〜!!!!!!何とか何とかしてください〜!!!!!!」
ツルギがさほど広くないコックピット内で反響するほどの絶叫をあげるが・・・
「・・・・・・・・・・」
領域MAPに目を落とす、先ほどまで友軍機を示す緑色のポインタが2つあった場所は1面、赤色に変わっていた。
アントは地中にトンネルを掘り、移動する性質を持っているため地盤の質によっては後方から突如出現し
包囲されてしまう。敵を示す赤のポインタが数百が集まり赤に染めていたのである。
また、1匹黒く醜悪な生物がナオ機に取り付く・・・
「いや!いや!!死ぬのはイヤ!!!ツルギ助けて・・・」
装甲に備え付けの対人、対小型種用の近接防御兵器を打ち上げる。
ソフトボール大の3つの塊は地上から30mほどの高さで飛散し、
黒い生物達に突き刺さり白い液体を撒き散らす。
「ナオ待ってろよ、今助けに行く!!!」
やっとの思いで数匹のアントを片付け、セミオートからマニュアルに切り替え、残り少ない推進剤で
ナオ機に向かってフルブーストする。
前方に向けられたまるで槍のようなバスタードと、加速する頑丈な装甲により、アントは次々に白い液体とともに吹き飛ぶ。
体の彼方此方に、危険信号を表す電流が流れ、ネト付く液体の感触が伝わる。
「ナオ!ナオ〜!!」
「ツルギ!ツルギ!!ツルギ〜〜〜!!!!」
視界に入ったナオ機には馬乗りになるかのように数匹のアントが覆い被さっていた。
「この醜い輩ども、僕の、俺のナオから離れろ〜〜〜〜〜!!!!!!」
近接防御兵器を打ち上げるとともに、バスタードの外装ブレードをパージする。
左右に飛んだ外装は、砂煙ともにアント達を巻き込み爆散、
太く長い大剣は細く長い刀に変わり、横から斬りつけると前方の3匹のアントは上下に真っ二つ割れた。
「はぁ、はぁ、ナオ大丈夫か??!」
「あんた、遅いのよ、バカ・・・」ウインドウに移しだされた髪の長い茶髪の小柄な少女は涙ながら答えた。
「よかった。本当に良かった・・・、まだ動きそうか?!」
ナオは、震える手でパネルを操作し各部の被害状況を確認する。
「・・・・・・ダメね、まぁ生きてるだけ良しとしましょう♪」引きつった笑顔でナオは強がって見せる。
「こっちは、機動にはさほど問題ないけど、推進剤は尽きちゃったし、武器も刀しか残ってないや。」
刀は敏捷性が高く、切れ味も抜群で高い攻撃力をもつが、刀身が大剣に比べ、いうまでもなく薄く耐久性に優れない。
あくまでも、緊急用の物なのでいつ折れてもおかしくない。
「じゃ、私のナイト様、この地獄から連れ出して。」涙目のナオは、両手で自らの両足を抱くような姿勢で答えた。
ツルギのマルスはナオ機のコックピットに手を伸ばす・・・・
その刹那・・・ツルギの背中に悪寒、醜悪な触覚、電流を感じるともに、
装甲が食い破られる振動と死への恐怖が伝わってきた。
「ごめん、ナオ」
次回:第2章5節 意図(just as one intended)