第2章:3節 世界(World of life)後編
通常の世界感とは違いますので、軍事・科学等に相違がありますご了承ください。
<ブリーフィングルーム A−03>
「それでは只今より講義を開始する、中間試験の発表は最後とする。」
壇上にあがった身長180CMはあろうかという女性が声高らかに語り始めた。
Aルームは30名ほどが座ることのできるブリーフィングルームだが、席はまばらに空いている。
「前回の復習として、まず、我が人類のおかれてる状況を説明せよ」
釣り上がった眼光が獲物を探す。
「ナオ、答えてみろ」
「・・・・・・・」
「どうした、早く答えんか?!!!」
「わかりません」
どうもナオは暗記科目は苦手らしい。それをあえて当てる暁教官ってS?!
「バカ者!!!では・・・部下の責任をとって、ハルカ、答えてみろ!!!」
「はい」自信満々で勢いよく立ち上がろうとしたとき、例のごとく椅子に備え付けの膝をぶつけたがいつもどおり気にせず答えた。
「2015年グランドゲートが突如、太平洋南岸に隆起、出現し、そこから後に神の使者と呼ばれる生物が大量発生。
それらは、知的生命体である我が人類に対し敵対意思をむき出しに襲ってきました。科学を持つ人類にとってそれは
当初脅威ではなく掃討できるレベルでしたが、2018年先進国の資本主義の荒廃、発展途上国の軍国主義の台頭に
より戦線は瓦解し、ゲートから溢れ出る使者が人類の生命活動圏へ侵食した結果、
2022年、総人口は半数以下の20億人まで減少しました。
事態を重くみた各国は国際連合から連邦へ移行し、世界統一国家を形成、
翌2023年、限定核兵器の一斉使用によりグランドゲートの一時的な封鎖に至りました。
現在2030年まで大規模な使者の進行はありませんが、核の使用による地軸のずれにより、
温暖化はいっそうに進み異常気象も多発しています。以上が前回の要約です。」
”さすがはハルカ隊長、講義だけは強い。実践は相変わらずだけど。”
と一番後ろの5列目、右端2番目にすわるツルギは思った。
そんな彼の右隣にすわるリョウが小声で話しかける。
「大女狐に睨まれると石になるんだって。」いつものくだらない冗談を言ってくる。
講義初日に、気の良いツルギが信じてしまい、いつもリョウがからかって遊んでいたからである。それ以来、暁教官は通称キツネとなったことはいうまでもない。
「うむ、宜しい。」
目の前のハルカが席につく。
「諸君らも知っての通り、使者を退けなければ我々人類に未来はない。科学者たちの見解によれば、
グランドゲートは一種のワームホールであり、そこから溢れ出てきた生物、いや、怪物達は地球外生命体とされている。
一時的な封鎖とはそのワームホールに繋がる入り口を核で物理的に塞ぐとともに、放射能汚染により死の大地に
変えたことにより進行を防いではいるが、いつ突破されるかわからないうえに、いつ第2のグランドゲートが
出現するかわからない。貴様たちのすべきことは、一刻も早く、技術、知識、を身につけ立派な防人となることである!!」
”防人って守る人ってことだよな、そうすると退けたことにならないんじゃないかな”とふとツルギは思った。
淡々、粛々と進むキツネの講義は決して楽しいものではないが、一同は真剣に聞き入っている。
もちろん、知らなければいけないことだからということもあるが、中間試験以降は、
それよりもこの部屋にいる20名5小隊がそのままアカツキ教官を隊長とする戦闘機動中隊として機能するからである。
また、20名中男性は5名しかおらず、モデルのような体型、気の強さからアカツキに憧れをいだく女性もすくなくない。
男性遺伝子であるY染色体の劣化により生まれてくる女性の比率が圧倒的に高まってきているのに加え、
2022年までに死亡したのが防人として戦った男性が多かったため、現状のようになっている。
「以上、これにて本日の講義を終了する。最後に中間試験は合格である。」
誰一人として喜ぶ者はいなかった。通過事例である中間試験合格は、地獄への片道切符と揶揄されることもたびたびある。
「起立!!敬礼!!!」
アカツキ教官は去り際にこう言い残した。
「小隊得点、個人得点は各員のメールに送付してある。確認しておくように!!」
この得点により、稀に小隊長の降格はありえるが、それよりも今後の各小隊の役割、兵装が割り当てられることを
重要視している。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
寮の部屋へ戻り、メールを確認しようと廊下を歩いていると、
「ツ〜ル〜ギ〜君♪」リョウ先輩が見た目に似合わない声を出し、肩を組んでくる。
いやな予感がする。
「なっ、なんですか?」
「ツルギさん、今、二人部屋独りで使ってるんだって♪」
「健二先輩が卒業したんで今は独りですけど・・・なんですか?気持ち悪いしゃべり方しないで下さいよ」
「気持ち悪いって、おじさん傷ついたな〜、責任とって?!」
「本当に何ですか?」
リョウは親指で後ろを指差すと、少し離れたところに、同じ中隊の恵子小隊長が立っていた。
「部屋貸して、ツルギ君♪」
まさか?
「自分の部屋使えばいいじゃないですか?」
「ダメだ!!俺の部屋には相方がいる。」
「別にいてもいいでしょ。」
「俺3人でってのは趣味じゃないのよ。恥ずかしいし・・・」
「・・・・・・・・・何をするつもりですか?」
「エッチなこと」顔を赤らめるツルギ。
「絶対にイヤです。」
「なぁ、お願い。こないだ調べてほしいことがあるって言ってでしょ。それ調べといたから。」
「それは、リョウ先輩のマルスの調整との交換条件じゃないですか。」
「あっ、そうか、じゃ、あのこと、ナオっちとハルカちゃんにいっちゃおうかなー?」
「ずるいですよ、脅迫だなんて。」
「部屋貸してくれなかったら、口滑らすかも・・・」
リョウは組んだ肩をはずすときに、ツルギの右胸ポケットからルームキーを抜き取り、
「ツルギ君、やっぱり君はいいやつだよ、1時間散歩してきて♪」
右手に持ったカードキーをケイコにチラつかせると一緒に寮の方に走って行ってしまった。
「部屋、汚さないで下さいよ〜〜〜凹」
・・・・・・・・・・・・最悪だ
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