第2章:2節 世界(World of life)前編
通常の世界感とは違いますので、軍事・科学等に相違がありますご了承ください。
索敵訓練を終え、基地に帰還したハルカ小隊、中間試験項目ということもあり、ハルカは単身、司令に報告に赴く。
「第07機動戦闘部隊 教育隊所属 遥小隊 1200時 第13工程索敵訓練をおえ、帰還しました。 」
つぶらな瞳に赤渕のメガネをかけ、黒の制服に身を包んだハルカは、乾いた厚い唇を開き申し訳なさそうに報告を上げる。
その眼前には、恰幅のいい40代前半の少し頭の薄い男が、重役椅子に深く腰掛けていた。
「・・・・・・1200時ねぇ?!」
やさしい口調に嫌味をこめた言い方をし、目の前の木製の机に手をかけゆっくりと立ち上がった。
「・・・・・・・」ハルカは押し黙ったまま、毛の長い赤絨毯を見つめてる。
「本来の作戦であれば、懲罰ものだな・・・」
男は手を後ろで組み、窓の方に振り返った。
「申し訳ありません、司令」
「まぁ、君たちは相当な問題児らしいじゃないか?!暁教官の報告は聞いているよ。それよりも、今日は小隊長面談の意味も含めているのはもちろん知っているね?」
「ハイ、存じ上げております。」
短めのスカートの裾とニーハイソックスの間にある白いふとももの前で手をもじもじさせながらハルカは答えた。
「では、何か私に言っておきたいことはあるかね?!」
「・・・・・・・・・・・・・はい、精一杯頑張ります!!」
はっきりと、精一杯の声を絞り出すが、もともと声が細いハルカの声は8畳ほどの部屋でも響くことはなく、相変わらず赤絨毯を見つめていた。
男はふぅとため息も漏らし、基地を見渡せる200インチ液晶でできた窓をじっとにらみ
右手をあてスライドさせると映像は消え、部屋も薄暗くなった。
「小隊中間試験、小隊長適正面談の結果は追って連絡する。以上!」
「了解しました、・・・・・・では、失礼します・・・」
黒いパンプスを履いた足で踵を返すとドアの方に歩いていった。
ハルカの白い細い手がドアノブにかかった、時、男が音もなく背後から近づき黒髪がかかった耳元でつぶやいた。
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《グラン基地内第4ハンガー》
「ハルカ隊長大丈夫かな〜?」
紺のフェイタルスーツに身を包んだツルギが青いマルスの足先に腰をかけ、コックピットを見上げ問いかけた。
ひょこっと顔を出した茶髪のナオが答える。
「大丈夫なわけないでしょ。間違いなく今回はヤバイわよ。」
「作戦時間を丸1日オーバーしたから?」
ハイハイと言ったような顔し、ナオはコックピット内に顔を引っ込めた。
「あんた本気で言ってるの??それだけじゃないでしょ?」
「そういえば、3回全滅、丸1週間の任務で補給は受けても1回だけなのに2回も受けたから?!」
「そうよ、中間試験でこんな結果で怒られないわけがないでしょ??」
「でも、シュミレーション実施のときは10回くらい全滅したし、基地まで帰れたことないよ、僕ら。」
「ほんとにバカね、他の部隊は補給なし、約6日で帰還してるのよ」
「だって、模擬敵は実践配備前の第三世代機、しかも、乗ってるのは現役バリバリの仕官クラスだぜ、そら勝てるわけないよ」
「あんた、一回死んだほうがいいんじゃない?相手はローカルネットも、高性能レーダーも切ってるのよ、見つからないように索敵するのが今回の任務でしょ」
「じゃなんで僕らだけみつかったのかな?」
「ほんといいかげんにしてよね〜、あんたのせいでしょ、オープンチャンネルでしゃべるわ、勝手にマニュアル操作に切り替えてマニュピュレーターに砂を詰まらせて、動けなくするわ・・・」
「でも、その後補給用の発炎筒を指定の場所以外で打ち上げたナオが悪いんじゃないの?」
「うっ・・・うるさいわね、あれはちょっとした勘違い・・・そもそもあんたがね〜」
「・・・あっ」
ツルギの視界に砂煙をあげ第三世代機が通り過ぎる。
流線型のか細い黒染めの機体は明らかに、第二世代マルス機に比べると頼りなくみえるが、反重力物質の搭載により浮遊機動を可能にしただけでははく、地球の重力との反発作用を用いることにより自らエネルギーを発生、逐電し、放電させることで得られる電磁フィールド(バリア)を発生させることができる。そのため、マルス機のような重い装甲を取り付ける必要もなく生産コストも安価で、機動性の高い機体となっている。
「かっこいいよな〜、あの第三世代機、ダークナイトだっけ?!」
「ツルギ、さぼってないで、さっさと洗浄すませちゃってよ。まだ、おっさんの機体もやらないといけないんだから」
「はいはい、わかりましたよ、ナオお嬢様、あっそういえばリョウ先輩は?」
「え〜、指数係数はこのままで、たぶん大丈夫、OSの更新は終わったから・・・次からは砂地でもひっくり返ることはないわね♪」
ツルギのコックピットでぶつぶつとつぶやきながらパネルをてきぱきと操作するナオ。
「ナオー、聞いてる?」マルス機の右足首の洗浄する噴射機のスイッチを切り、再び見上げ声をあげるツルギ。
ひょっこと茶髪の少女は顔を出し、
「何か言った?」
「リョウ先輩知らない?」
「ハルカ隊長の白いマルスの所にいるでしょ?」
「いないよ、またサボりかな・・・、それよりもナオ、どうしてそんなにニヤニヤしてるの?変だよ?!」
少女は顔を赤らめ、コックピットに引っ込んだ。
「知らないわよ!!あんたバカじゃない!!!」
次回:第2章3節 世界(World of life)後編
「世の理に順ずるものが正しいとはかぎらない」BYリョウ