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94.アリッサという少女

 アリッサ・シア・リヴィエール。


 勇者候補生中等部。

 幼少期――2歳のときに才能を見込まれてレヴェンチカにスカウトされた、いわゆるガチガチのエリートコースの生徒。


 順調にいけば来年には勇者候補生となって、ウィルベルの後輩になる女の子は、まさにミミズクのような気だるげな表情で言った。


「みなさんはいつもこんな感じなのですか」


 どことなくユーリアさんに似ているかもしれない。

 表情を悟らせないようにふるまっているせいか、神秘的な気品を感じさせる。

 ウィルベルより1歳年下でちょっとクールなおませさんは、珍獣を見るような目でぼくとウィルベルを見ながら言葉を続けた。


「悩みのない人生を送っていそうでうらやましいです」


 うーん……これって嫌味? それとも本心?


 ふつうに考えたら嫌味だろうけれど、表情が読めないので何とも言いがたい。

 レヴェンチカで育った、清く正しい人格的にはたぶん本心から言ってるような気がするけど。


 ウィルベルはどう思う? 


「うらやましいって褒められたんよ! いえーい」


 キラッと笑顔でダブルピース!


 聞いたぼくがバカだったよ! うちのご主人様ってばなんてアホなんだろう!

 ほんとに悩みのなさそうな人生でうらやましいんだけど!!


「そ、そんなことないし!? うちかって、昨日のランチを豚にするか牛にするかくらいは悩んだし!?」


「くそっ! うちのご主人様ってば、ほんとに悩みがなさすぎな人生してるんだけど!?」


 ともあれ、アリッサちゃんのほうは悩み多き年頃であるらしい。


 そんなぼくらを見て悩まし()に「ふう」ともう一度ため息をついて、船室の丸い窓から空を眺め、


「すいません。わたし、外行ってきます」

 

 空気になじめないと言わんばかりにさっさと着替えると、船室を出ていった。


 うーん。なんだろう? あんまり打ち解けれてない感じ?


 馴れ合いはよくないかもしれないけれど、それにしたってクールすぎるよね。

 こじらせた厨二病みたいな感じで孤立しないかちょっと心配。


「……やっぱり今回の研修が不服なのでしょうか?」


 出ていったドアを見て心配そうに言ったのはサーシャちゃん。


 中等部の生徒がなぜモジャコにいるかというと、それはひとえに研修と呼ばれる制度のため。

 というのも、精霊を召喚するのはレヴェンチカでも例に漏れず15歳になる年度。

 年初に精霊を召喚した中等部の生徒は、高等部になるまでの1年間を、いろんな教室に師事しながら研修という形で過ごすのだとか。


 そんでもって、精霊を召喚したばかりの子らは、さっさと精霊のレベルを上げたいわけで……。


 今回の演習(クエスト)の内容は、とある迷宮の”低層”に蔓延(はびこ)る魔獣の駆除。

 そう考えると、レベル上げに不向きな演習(クエスト)に参加させられるっていうのは不服なのかもしれない。


 でも、それにしても、


「アリッサちゃんってば、なんであんなに余裕がないんだろ?」


 面白くなさそうっていうよりは、苦しそうって感じ?

 高校受験直前で偏差値が5くらい足りなくてやばい。ってときの受験生みたいなんだけど。


「……焦ってるのよ。あの子は」


 その問いに答えてくれたのは、アリッサちゃんと同じく、幼年期からレヴェンチカに在籍しているクァイスちゃんだった。


「焦ってる、ですか?」


 サーシャちゃんがオウム返しに尋ねると、クァイスちゃんは「そう」とうなずきながら、ベッドに腰かけた。


「中等部から高等部へ内部昇格できる生徒の数は知ってる?」


「確か、中等部の所属は1学年100人で、高等部へは30人……でしたよね?」


「よく覚えているわね。でも正確には多くて(・・・・)30人よ。で、あの子の順位は同学年で84位ってわけ」


 うひぃ。


 セレクションからの入学ってすごい狭い門って感じだったけれど、内部昇格も思ってたよりも修羅の道。

 倍率だけで言うならせい3倍ちょい。

 倍率だけなら、そんなにすごくは感じないけれど、なにせ全員ガッチガチのエリートたち。

 いわば、将棋エリートがあつまる奨励会みたいなもので、そのレベルは折り紙つき。


 そう考えるとあの態度も仕方ないのかな?

 表情を表に出さないのは冷静さからくるものじゃなくって、余裕がないってやつだったのかもしれない。

 将棋なんかではプロになる直前のリーグでは『首にロープをかけられたまま戦う』なんて表現するけれど、まさしくその気分?

 いや、これからたった1年後に進退が決まるのに84位ってことは、むしろすでに……。


(ちょっと同情しちゃうかも?)


 みんな、同じことを思ったのかもしれない。船室の空気がしんみりしちゃった。

 その空気を感じ取ったクァイスちゃんが吐き捨てるような表情を浮かべる。


「とはいえ、他人がどう思うか考えもせず、あんな態度を取る時点で勇者候補生失格だと思うけど」

 

 わーい。過激!


 クァイスちゃんってば、なんだかんだ言って勇者っていう言葉に対して意識高いよね。

 さらにしんみりしちゃった船室内で、クァイスちゃんが足を組む。


 クァイスちゃんってば、勇者候補生の難易度の高さを改めて認識させることができてご満悦っぽい?

 この娘ってば可愛いところもあるじゃないの。


「さらに言うと――」


 クァイスちゃんがキリッとした顔で説明を続けようとして、


「あ。そんなことより。ウィルベルちゃん! 外! 外! 島が見えてきたよ!」


「おおお!! すごーい!」


「……」


 サーシャちゃんってばひどい!!

 あまりにも華麗なスルーっぷりだったもんだから、クァイスちゃんがドヤ顔で固まってるんだけど!?


 サーシャちゃんの声に釣られてウィルベルが窓から外を覗き見る。


「あれが今回の目的地!」


 雄大な樹を有する神秘的な浮遊島。

 あの浮遊島こそが、今回の演習クエストの目的地――


「水と世界樹の国、リヴィエラ!」

【マグロ豆知識】

『ザギンでシースー』といえば、バブル時代の言葉。

みなさんご存知、『銀座で寿司』の意味です。

このような銀座⇒ザギン、寿司⇒シースーという言葉遊びを倒語といいます。


縁起⇒ギエン⇒ゲン(ゲンを担ぐ)、種⇒ネタ(寿司ネタ)などなど、実は身近な用法なのですね。

※寿司ネタってよく言いますが、本来は寿司種が正しい言葉なのです。

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