表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/149

91.ユーリア先輩

 ミミ先輩に昼食に誘われたぼくらは浮遊有船(ふゆゆせん)の頂上――卵形の装置のてっぺんを目指していた。


 装置の内部から階段があるらしいんだけど、せっかくということなので外側からぼくの空中遊泳で移動中。……なんだけど。


「ぐ、ぐぬぬぬっ!!」


 ウィルベル、ミミ先輩、ニアの3人を背中の上に乗せてるからめっちゃ重い!

 

「マグロすげーな。3人分の体重でも飛べるもんなんだな」


 ミミ先輩が豪快に笑いながら褒めてくれるけど……。ぐ、ぐぬぬ。重い……。


 気分は4人乗りの軽自動車。

 エンジン全開! でもパワーが足りない! まだレベル5だしね。仕方ないね。


「ひっひっふー! ひっひっふー!」


 それでも、ふらふらとしながらも浮遊有船の頂上にたどり着くと、


「浮遊有船の頂上ってこんなんなっとるんですね。めっちゃ広い!」


 浮遊装置の頂上は平たい広場のようになっていた。

 小さな柵で囲まれた、オープンデッキみたいなやつって言えばいいのかな?


 なるほど。ここなら美味しくご飯が食べれそう!

 気分はアニメとかでよく見る、屋上でのランチタイム!


「うう……こんなところでご飯を食べるでありますか……」


 ニアだけはゲッソリしてるけど、ほんとうに広々としている。


 具体的に言うと、テニスコート2面分くらいの広さがあって、簡単な運動くらいならできそう。


 というより実際に『カキーンカキーン』なんて音を立てて、運動してる人たちがいるし。


「あれはアミティさんとユーリアさん?」


 ランチ前の運動と言わんばかりに、熱い剣戟(けんげき)を交わしているのはアーニャ教室の先輩2人。


 互いに振り回しているのは、もちろん模擬剣。

 精霊は呼び出していないので、純粋な剣の技量を確認してる感じ?


 その姿を見て、思わずウィルベルが感嘆の声を漏らす。


「おお……。やっぱり強いんよ」


 まず、アミティ先輩。

 赤毛で長身、スレンダー。ボーイッシュな大学部2年の女子生徒。


 前の演習のときも思ったんだけど、大学部の生徒だけあってその技量はピカイチ。


 誰がどう見ても文句なし。一流の腕前の持ち主だ。


 騎士課程を履修しているらしいけれど、いまの時点ですでに立派な女騎士さんって感じ! でもそれ以上に、


「ユーリアさんってば、強すぎない?」


「あいつは高等部まで勇者候補生だったからな。しかも学年次席で」


 ユーリアさんはアミティ先輩のさらに上をいく。

 猛攻を軽く受け流し、逆に踏み込んで確実に隙を突いていく。


「あー。もうだめ。降参! 参った!」


 やがて、アミティ先輩が仰向けに倒れたのを見て、ユーリアさんは微笑みながら剣を鞘に納めた。


 荒い息をつくアミティさんに比べて、ユーリアさんは余裕の表情。額に多少の汗をかいている程度である。


 船長なんていうエリートコースなのに、さらに強いってチートすぎる。


「まだまだアーニャ先生には遠いわね、アミティ」


「そりゃあねえ」


 2人の戦いが一息ついたのを見て、ミミ先輩が「よう」と声をかける。


「そろそろメシにしようぜ」


「あら、珍しいお客さんをつれてきたわね。ミミ」


 ミミ先輩に連れられたぼくらを見て、ユーリアさんはいつものように涼しげにほほ笑んだ。


☆★


「はむ! はむ! はふ! はふ!」


 肉・肉・米。

 お弁当は身体を動かす生徒向けの高カロリーなものばかりだった。


 それにしても、びっくりだな。


 っていうのは、ウィルベルを除く4人の食事風景。

 お弁当をがっつくウィルベルに対し、他の4人ってばとってもお上品なんだもの。


 いや、ユーリアさんとアミティさんは割と予想通りではあったんだけどさ。


 口の悪いミミさんと、ヘタレなニアですら、貴族然とした背筋の伸びた美しい姿勢。


 なるほど、これが上流階級の基礎力か……。


 つかわれる身としては、ウィルベルにももうちょっとこういう風になってほしいなー、なんて。……チラッ。


「う……うるさいなぁ。もう」


 ウィルベルも()ねるように言って、少しだけ真似をしようとするんだけど。


「ほら! 足開きすぎ! アジの開きだってそんなにバーンって開かないよ!?」


「ぐぬぬ」


 一朝一夕にはいかないよね。こういうのはさ。


 食事は貴族らしく談笑しながらも黙々と進み、やがて一通り食べ終わったところでウィルベルが口を開いた。


「あの……聞いていいですか? ユーリアさんはどうして勇者候補生やめちゃったんです?」


 すごいな!? うちのご主人様ってば、いきなり聞きにくいことを聞きだしたよ!?


 ぼくですら、なかなか踏み込めないセンシティブなところにズバリだよ!? 度胸ありすぎないっ!?


「そうね……」


 でも、ユーリアさんは気を悪くした様子もなく、遠くを見つめるように空を見た。


 吊られてぼくも空を見る。


 とてもきれいな青空。


 そういえば、この世界ってどういう形をしてるんだろね? この空をまっすぐ行けば宇宙があったりするのかな?

 早く宇宙適正を上げて、さっさと惑星間(わくせいかん)光速移動(こうそくいどう)を取得したいな。


 思わずそんなことを思いを馳せてしまう、どこまでも透き通った空。


 ユーリアさんは視線を戻すと嫌な顔ひとつ見せずに、ほほ笑みを返した。

 ちょっとお茶目な感じに、軽くウィンクをしながら、唇にひとさし指を当てて、


「まだ内緒よ」


 あ、さっきまであんまり興味なかったけど、逆に興味出てきたかも。そんな、誘うようなお茶目さである。


 いつか教えてもらえる日がくるのかな?


(それも気になるけど、そんなんよりも!)


 ウィルベルはバッとユーリアさんの手を掴んだ。


 ……そんなんよりも?


「さっきのユーリアさんはほんとに強かったです! あの! うちも一度、相手してもらえませんか!」


 さすが脳筋ゴリラ。ほんと戦闘民族っていうか、『俺より強いやつに会いに行く』を地で行くよね。


 対するユーリアさんはやっぱり嫌な顔ひとつせずに、傍らに置いた模擬剣を手に取った。


「ええ。喜んで」

【マグロじゃない豆知識】

船のなかで絶対的に偉い人が船長です。

最高責任者として乗客だけでなくクルーの安全も確保する責任があり、事故が遭った場合には乗客、クルーの全ての避難を確認する義務があります。


映画とかだと、沈没する船と一緒に沈んでいく人です。

というか、現実でもひと昔前は殉職されるケースが多かったり……


※マグロ漁船などの漁船では、船長の上に漁労長や船頭がいることがあります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\お読みいただきありがとうございます!/
kca6igro56nafpl9p7e8dm7bzjj_yhg_6n_78_1klike2.gif
マグロ豆知識補足はこちら
↓アクセスランキングサイトのバナーです(気にしないでください)
cont_access.php?citi_cont_id=448265494&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ