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90.懲罰清掃

アーニャ教室の主要キャラ紹介的なお話です。

間話として3話。

 大型(おおがた)浮遊有船(ふゆゆせん)停泊所。

 レヴェンチカの西側を占拠するその場所は、ありていに言うと壮観の一言である。


 湾の面積4000キロ平方メートル。

 レヴェンチカの島って近畿地方くらいの大きさと形なんだけど、ちょうど大阪湾と播磨灘を足したくらいって言えばわかりやすいかもしれない。


 広い湾口の岸や、島から突き出すように伸びている複数の桟橋には、外空を飛べる大きな船が浮かんでいて、現代日本でもかくや、という光景。


 湾口を埋め尽くす船は彩りも鮮やか。


 船に人格があるなら、まさに「おーっし、これから出港するぞ」みたいなやる気を感じる。

 それとは別に、その横には羽を休めるように地上――露天ざらしの工廠で整備をされてる船も見える。


 桟橋の船が170、工廠の船が50で合計220隻。

 レヴェンチカの教室の数が1000ということだから、実に20%の教室が船を保有していることになる。


 外空を渡ることのできる浮遊有船の価格は、日本円で言うなら最低でも数十億円くらいらしい。


 そんなものを教師たちがなんらかの伝手(つて)を使って自前で用意するっていうんだから、レヴェンチカの教師陣の財力とか人脈ってすごいね。


 さらにはレヴェンチカ内には、バスや電車代わりの小型の浮遊有船(ふゆゆせん)航行網が整備されていて、学校ってなんだっけ? くらいの勢いである。


 ちなみにアーニャ教室の船『モジャコ』は、先生の祖国からの供与品。


 もともとは同じ国出身の教師たちが持ち回りで使用していたもので、いまはアーニャ先生以外の教師が引退しちゃったから専用船になっているんだって。


 モジャコの形状は大きく分類すると、いわゆるオーソドックスなファンタジー飛空艇。

 ガレー船のオールのように並ぶヒレみたいな翼。船体の上には紐でつながった卵形の飛行装置が乗っている。



 その飛行装置の側面で、


「ワッショイワッショイ!」


 ブラシでワシャワシャと装置を洗っているのは我がご主人さま(ウィルベル)


 ブラシでこすったあとがブクブクと泡立っていて、まるで船がシャンプーをしているようにも見える。


 もちろん、高さはかなりのもの。足を滑らせて落ちたら死亡間違いなし。

 なので、装置の頂点からは2本の命綱が伸びていて、がっちりとウィルベルをサポート中。


 ――懲罰清掃(ちょうばつせいそう)


 これが、替え玉なんてアホなことをした罰として、このたび指導教師となったアーニャ先生から申しつかまつったお仕事であった。


 現在、モジャコがいるのは露天ざらしの工廠。


 リトルコンクエストで使用されたあと運ばれて、船長(ユーリア先輩)と機関長(ミミ先輩)の立ち会いのもと、製造・修理を専門とする学部に引き渡されたのだ。


 周囲には専門の先生や生徒、および島外から研修にやってきている人たちとレヴェンチカに在住の作業員。


 っていうか、こんなところまで学生がやるんだね。


 あーん。もう! みんなチラチラとこっち見てるんだけど! 恥ずかしい!


「だから言ったのに。替え玉なんてやめといたほうがいいってさ」


「そんなん言うても……ウズウズしちゃったからしゃーないんよ。ね。ニアさん? ……ニアさん?」


「きゅー……」


 ウィルベルの隣では懲罰(ちょうばつ)の張本人ことニアが、命綱に全体重を預けて気絶中。


 高所恐怖症だからね。仕方ないね。

 やめときゃいいのに「今回の責任はぜんぶわたしにあるであります!」などと正直に白状した結果がこれである。


 ぴくっ。ぴくっ。


 スカートから伸びる尻尾が呼吸に合わせて動く。ふりふりと揺れる尻尾はパっと見た感じやっぱり猫。


 基本的にだらーんとしてるんだけど、欠かさずにブラッシングされていると思わしき、キレイな毛並み。


 キューティクルが天使の輪っかをこんにちわ。その尻尾の(つや)を例えるならば、まるでイカ!


 うずうず。


「……ミカ?」


 ウィルベルが怪訝な顔でぼくを見る。


 え? ぼくが何にうずうずしてるかって?

 あのね。イカってね。マグロの餌なんだよね。


 ぴくっ。ぴくっ!


 まるで熟練のルアーさばきのように動くニアの尻尾。


「ぐ、ぐぬぬ……」


 その動きを目にするたびに、マグロの本能が「かじりつけ」とぼくに命じてくるのである。

 でも我慢我慢。女の子のしっぽにかじりついたら、ただの変態だしね。


 ぴくっ。ぴくっ!


 あ、でも。そういえば、日本の昔話で狐が尻尾で魚釣りをする話とかってあったよね!


「なので、本能に逆らえきれずにぱくっとなっ!」

 

「に゛ゃあ゛あ゛ん!?」


 ぼくが口でくわえた瞬間、ニアの尻尾の毛が逆立った。ぴんと背筋が伸びて、弛緩していた筋肉が一気に強張る。


「い、いきなり何するでありますか!?」


 あ。さすがに目を覚ました。


 フシャーっと威嚇してくる表情はまさに猫。

 噛みつかんばかりの勢いっていうのはきっとこのこと。


 あまりの表情の急変にぼくはしゅんとなって反省。


「ごめん。咥えてみたけど、毛だらけであんまり美味しくなかった。ぺっぺっ」


「ぜんっぜん反省しとらんやん!? 女の子のしっぽに噛み付くなんて! ……変態っ!」


「そうであります! 猫人(ネコサント)の尻尾は婚約者以外に触らせてはいけない聖域でありますよ!? 変態であります!」


 女の子2人に変態と罵られるぼく。だが待ってほしい。


「マ グ ロ が 変 態 で 何 が 悪 い!」


 魚類は脳みそがちっちゃいのだ! 本能で生きる生物なのだ!


「そう! 変態だろうがなんだろうが、これが正統なマグロのライフスタイル! 大自然の摂理っ!! 本能に逆らってクロマグロができるかぁぁぁああああっ!!」


 ちなみにアイヌの昔話では男の人がチ〇チンで魚を釣ったそうです。魚のアホさもすごいけど、チンチ〇もすごいよね。


 あ、やめて。頭を本気でギリギリしないでプリーズ。


 ――と、そんな折り。


「おう! あんたら、ちゃんとやっとうか!?」


 バン! という音がしたと思ったら、卵形の飛行装置のハッチが開いて、ひとりの女の子が顔を出した。


「ミミ先輩!」


 顔を出したのはアーニャ教室の大学部3年。ミミ先輩。

 こんな口調だけど、女の人。


 役割は機関長(チーフエンジニア)

 機関士と機関部員をまとめあげる、船長に次いで船のナンバー2とも言える人だ。


 装置の中で整備をしていたらしい。堂に入った作業着姿。

 女の人にこう言うのは正しいかどうかわかんないけど、とても似合っていてカッコイイ。


 ピンクブロンドのショートヘアの女の子で、ものすごく背が低い。そして頭には1対の角。背中には小さな翼が1対。


 竜人(ドラゴニュート)って種族らしい。


 背が低いっていうと頼りなさそうに聞こえるんだけど……実際に見てみると、なんというかすごい怪力の持ち主であることが納得できる。


 少女と言うよりは大人の女の人をつぶしたような感じって言えばいいのかな? 普通の女の子に比べると明らかに肉の密度が高い。


 あと種族の特性として熱にも強いらしく、全体的に工場なんかで活躍することの多い種族なんだって。


 ミミ先輩はウィルベルがワッシャワッシャと洗った部分を見てニカっと笑った。


「なかなかやるじゃねえか。洗いにくいところまでちゃんと磨いてるな。 よしよし、ご褒美にそっちの精霊にアメちゃんをくれてやろう」


 口からは牙のようなものが見えていて、まさにドラゴンの系譜って感じ。


 そして、ぽいっと投げられる赤い飴玉。


 わーい。イクラみたい。

 風に流されて不規則に揺れるけれど、マグロの反射神経を舐めてはいけない。


「ぱくっ。びゃあああ、あまいいいいい!!!」


「ははっ。いまのを捕らえるってほんとすげえな。それに比べて……」


 はあ、とミミ先輩はため息をついた。


 誰にって? もちろん気絶したニアに。

 目を離した隙に再び気絶していたらしい。


 ミミ先輩は作業服を脱ぐと、ぼくらに来い来いと手招きをした。


「まあ、いいや。メシにしようぜ。まだ食ってないんだろう?」


 言われてみれば、太陽はちょうどてっぺんの高さ。


 お昼ごはんにはちょうどいい時間だった。

【マグロじゃない豆知識】

機関部の責任者が機関長(チーフエンジニア)になります。

船のなかでは船長に次いでナンバー2に偉い人で、そのぶん責任も重いです。


タイタニックでは最後まで機関室に残って作業をし、そのまま最期を迎えました。


機関部員の袖章の背景色をロイヤルパープルと呼びますが、このタイタニックの機関部クルーを讃えるため英国王から送られたものだったり。

(甲板部員や艦長は黒)


ちなみにマグロ漁船の冷凍室の動作担保は、基本的には機関部の管轄です。

(冷凍長という役割がありますが、こちらはクロマグロの置き方とか冷凍庫の温度とかを決める人です)

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