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83.渇き餓えるもの

アーニャ先生視点です。

「みんな、すごい! すごいあります! ……アーニャ先生?」


 教え子のニアが声をかけてきたにもかかわらず、アーニャは目の前の光景に言葉を失っていた。


(わ……わたしは何を見ているの?)


 白覧(はくらん)試合でのクァイスとの試合は見ていた。

 まだまだ才能に頼った、いわば我儘(わがまま)な戦い方だと思った。


 言ってしまえば、仲間のことを気にしなさそうなエゴイスト的な戦い方というか。


 さっきアーニャが指導したつもりだったのは、いわゆるチームワーク――いわば、『一人がみんなのために』という献身性についてだった。だがしかし、これは……。


(け、献身性の欠片もないまま、こんな光景を?)


 アミティもレフェンディもどちらかというとまだまだ若い、いわば自分勝手な動きをする生徒だ。


 いや、それはあの2人に限ったことではない。

 なんせ、レヴェンチカに入学している時点で、将来を嘱望(しょくぼう)された才能の持ち主なのだ。

 自分が自分が、という思いを抑えることができる高等部の生徒などそうはいない。

 

 それは特に勇者候補生――圧倒的強者のいない教室の生徒に顕著(けんちょ)な傾向ではある。

 そして今回、モジャコに乗り合わせた教室に勇者候補生はおらず、まさにその傾向が前面に出ていたのだが……。


『アーニャ先生は、この光景を……想像されていたのですか?』


 震える声で通信してきたのは、この船の船長(キャプテン)で元勇者候補生のユーリア。

 なんの気まぐれか、3年前に落ちこぼれの集まるアーニャ教室に移籍してきた優秀な生徒。

 ほぼ最下位に近かったアーニャ教室のランキングが700番台まで上がったのは、ほぼユーリア一人の奮闘に等しい。


 そのユーリアでさえ、絶句する光景。


(敵も味方も……空域そのものを完全にコントロールしているというの? まだ一度も授業を受けたことのない新入生が?)


 地上ならまだあり得るかもしれない。

 俯瞰(ふかん)で地上を見る能力を持ち、卓越(たくえつ)した判断力があれば不可能ではない。だが――


「バカを言わないでください、ユーリア。こんなことは……こんなことは、ありえないわ」


 ここは3次元の動きが求められる空で、そして外空の激しい風が吹く空の狭間(はざま)なのだ。



 アーニャが目の前の光景に絶句していたときだった。


「――いい指導だな、アーニャ」


「ヴァン先輩? どうしてここに!? っていうかどうやって!?」


 かつてレヴェンチカで共に学んだ勇者、ヴァン・エゼルレッドが声をかけてきたのは。


「ヴァンって……あのヴァン!?」


「アーニャ先生、知り合いなんですか!?」


 当代最強の勇者の登場に甲板(デッキ)がざわつく。


 ラムジュートボードを片手に持っているところを見ると、ここまで単独飛行してきたのだろう。


 普通の人間ならこの高度まで上がってくるだけで息切れするだろうに、疲れた様子は全くない。


(昔からそうだったけれど……やっぱりこの人ってば化物だわ)


 そんなヴァンがつれているのは、今年、開講されたばかりのヴァン教室の生徒であるクナギ・ハツトセ・ミヤシロ。

 揃ってここまで単独飛行してきたらしい。


(まったく、勇者っていうのは化物ばかりね。普通な自分が嫌になっちゃう)


 もちろん、そんなアーニャの気持ちに気づくヴァンではない。


 生徒たちの質問に、ニカッと野生的な笑みを浮かべ、わしわしと乱暴にアーニャの髪を掻き回す。


「おう。昔、ウーナ教室で一緒に学んだ仲でな。ずいぶんと世話になったもんさ。いまだにこいつ以上の騎士は見たことないくらいだ」


「ヴァン先輩! 前から言ってるんですが、子ども扱いしないでください!」


 むきーっと手を振り回すと、ヴァンは「ああ、悪い悪い」と手を離す。

 けど絶対にわかってない。これはわかってない顔だ。


「でも、ヴァン先輩。どうしてここに?」


 簡易征伐演習(リトル・コンクエスト)は決められた教室のみが参加できるクエストだ。

 基本的に評価の横取りはできないのである。


 けれど、ヴァンはこともなげに肩をすくめた。


「ああ、それは……」


 言って、ヴァンは空の向こうを親指で指さしながら、もう片方の手で傍らに控えるクナギの肩を叩く。


「とある実習(クエスト)こいつ(・・・)のためにな」


「?」


 言って、いぶかしげにしているアーニャの持っていた通信機を奪い取ると、この空域の生徒たちに告げる。


「あー、すまないが諸君。演習(クエスト)は終わりだ。へリングの匂いに紛れて()()()が来た」


 ヴァンが指し示すは空のはるか向こう。

 逃げていった数千万のへリングたち生み出す銀色の壁。


 数はまだまだいるけれど、今日のところは大成功と言ってもいいだろう。いったいあれの何が問題だというのか。


 アーニャが首をかしげた瞬間だった。


「ヤツ……って? あわわ!?」


 そのへリングの壁が突如として崩れた。


 崩したのは大きな……網?

 それもかなり大きな網だ。ヘリングたちを根こそぎにもっていくような。


「あれは……」


 甲板長(ボースン)のオランがその奥にある巨躯を見て、呆然とする。


 その声が聞こえたというわけではないだろう。

 それ(・・)はモジャコを見ると、左右に船体を振った。


「ああ。塩水の民(クロラド)さんのお出ましだ」


 まるで死を振りまくような真っ黒な光沢の浮遊有船(ふゆゆせん)

 モジャコよりも二回り大きな船がそこにあった。

chlorideクロライドは塩化物の意味。

一番有名なのはsodium chloride(塩化ナトリウム)=塩ですね。

ちなみに彼らは今回の相手なだけで、メイン敵ではありません。メインは大精霊や神々などの超自然的な存在です。

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