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82.戦場はぼくらの手のなか

「oh……。戦闘民族がもう一人増えた……」


 アミティさんとウィルベルの戦いっぷりを見て、ぼくはげっそりしていた。


(なんでげっそりするん!?)


 ウィルベルが抗議してくるけど……だって、ねえ?

 ご主人様だけでも何度も死にかけてるっていうのに、さらにもう一人増えたんだよ? 想像するだけで「うげー」ってなるよね。


 まあ、いまはそれはいいや。

 頃合い(・・・)になったので、ぼくはレフェンディ君の袖をツンツンと突っつく。


「そろそろ、いいんじゃない?」


 見ると、レフェンディ君たちが相手にしていたへリングの群れ――ぼくらの周囲にいたへリングたちは完全に戦意を失ったらしく、壊乱した群れは外空へと逃げ去ろうとしていた。


 それに対してモジャコからバサっと網が投げかけられる。


 投げているのはやっぱり経済部とかの生徒。

 うんしょうんしょって人力で引き上げてるけど、あの役割って案外と重労働だよね。大変そう……。


 それはともかく大漁大漁!

 残りはウィルベルたちが相手をしているあの集団だけ!


 一瞬、レフェンディくんは呆けた様子を見せたけれど、すぐにぼくが言っている意味を理解したらしい。


「え? あ! みんな、下へ!!」

 

 レフェンディ君の声を聞いて、ハッとする生徒のみなさん。

 その先にいるのは、ウィルベルたち相手に貯めていた魔力を使い果たし、へばっているへリングたち!


「「おおおおお!!!」」


 無防備を晒す群れは、レフェンディ君たちにとって絶好の獲物!

 先程の採り放題タイムがもう一度やってきたことを知り、テンションを上げる生徒たち。


 ひゃっはー! 魚群(ナブラ)だーっ!


 気分は漁師さんである。

 彼らを先導するように降下するのはもちろんぼく。すれ違いざまにヘリングをぱくっとな!!


「シャアアッ!?!?」


 ウィルベルに夢中だったヘリングたちは、予想外の方向からの襲撃に一瞬混乱し、


「うおおおおお!!!」


 その直後、別の角度から突撃してきたレフェンディ君たちよって壊乱(かいらん)し、群れが吹き散らされる。

 魔法が使えて空が飛べると言っても、しょせんはニシン。3つ以上のことは考えられないのである。


 ……えーと、ウィルベルはどこにいったかなっと。


「こっちなんよ!」


「おっけーい!!」


 ぼくのほうはと言うと、奈落(ならく)へと落下中のウィルベルと合流!


 いつの間にかアミティさんを解放してあげてたらしい。

 当のアミティさんといえば……あ、向こうで涙拭いてる。やっぱり多少は怖かったらしい。


「ただいま!」


「おかえり!」


 そのままマジカル・ラムジュート換水法により、一気に加速していく。

 向かう先は、レフェンディ君たちによって吹き散らされ、ひと塊となって逃げ惑うへリングたち!


 完璧に注文通りミッション・コンプリート! よっしゃ。どんぴしゃ!


「一番おいしいところ、いただきぃっ!!」


 ばくぅっ。


 完全に統率を失ったところをぼくの口がとらえ、さらに加速&反転してさらに襲いかかる。


 ぱくっ! ぱくっ!


 入れ食い状態っていうのはまさにこのこと!

 完全に戦意を喪失したヘリングたちはぼくらから逃げ出そうとして、


「よーっし! ウィルベルさん、完璧よ!」


 そして待っていましたと言わんばかりに、アミティさんをリーダーとした生徒たちが群れをモジャコのほうへと追い立てる。


 戦果を最大にするための、限界ぎりぎりのタイミング。

 それはつまり、ぼくらの持てるポテンシャルの限界ぎりぎりを要求してくるスパルタな注文だ。


「すごいっ! すごいっ!」


 気持ちいい風を受けてウィルベルが笑った。


「どうしたの? すごく楽しそうなんだけど」


「うん。こういう戦い方って、めちゃんこ楽しいなって!」


 この空域のメンバーにチームワークなんて欠片もない。


 でも、断言できる。

 統率を失った魚を前に『自分たちが活躍したい』って欲は他の空域のメンバーに負けちゃいない。


 他の空域は『勇者候補生の邪魔にならないように控え目にしよう』っていう感じなんだけど、彼らにはそういうのがぜんぜんない!


 むしろ、ぼくらに『もっと養分よこせ』って要求してくるくらいの貪欲さがある。


(それって、とってもすごいことやと思うんよ!)


 みんなが最善を尽くし、他人にも最善を要求する。

 だから、ぼくらもそれに応えるために成長できる。


 もちろん、それらをコントロールして一番おいしいところをいただくのがぼくらなんだけどね!


 これこそがクロマグロの群れの先導者のあるべき姿なのだ!


 ――いま、この空はぼくらが支配している。

無双まであと2話。ちなみに今回の連続更新はあと6話の予定です。


【マグロじゃない豆知識】

燻製ニシンの虚偽(レッドヘリング)とはいわゆるミスディレクションを誘う仕掛けを意味します。


猟犬がきつい匂いに惑わされないよう、燻製ニシンの臭いで訓練したことに由来されるんだとか。(このあたり異説が多くてよくわかりません)


とは言っても、本作はミステリーではないので別にミスディレクションを誘うとかそういう仕掛けはないです。

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