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76.女の子同士の絡み合いって、いいと思います

 船内から外に出た瞬間、ぶわっと風が吹く。

 トイレのふりをして艦橋(ブリッジ)から抜け出し、ぼくらが向かった先は甲板(こうはん)の物陰だった。


「おお、ウィルベルさん。本当に来てくれたでありますね!」


 そこで待っていたのはニアだった。


 人気(ひとけ)のない物陰でさらに身を小さくしている。

 他の生徒と一緒に出撃しなかったのかな? って思うんだけど、ニアは突撃隊の第二陣に編入されているとのこと。

 でも、なんというか、


「に、ニアさん大丈夫なんよ?」


「だ、大丈夫であります! ……うーっぷす」


 船酔い?

 見た目でわかるレベルでげっそりとしてるなぁ……。

 

「わ、わたしのことはどうでもいいであります! では、ウィルベルさん。さっそくこれを!」


 とニアが渡してきたのは、


「……覆面?」


 これから銀行強盗でもしようぜ! って感じの目出し帽!


「? だって、覆面くらいしないと正体がバレバレでありますよ?」


 ほらほら早く被るであります。

 そんなことを言いたげに押し付けてくるんだけど。


「えー。ほんとにやる気なの? 絶対にバレるからやめといたほうがいいと思うんだけど」


 ここまでくればほとんどの人はご明察。

 あのとき、ニアがぼくたちにお願いしてきたのは、ニアに変装してリトルコンクエストに参加することだった。


 なんでも、今回のリトルコンクエストは絶対参加。

 でも、新品のラムジュートボードを壊してしまったなんて言えない! とのこと。(どうやら教室の支給品であったらしい)


 気持ちはわからんでもないけど……新入生になんてお願いするんだろ、このアホの子は……。


「というか、ニアとウィルベルじゃ身長差がありすぎて、覆面くらいじゃ正体を隠せない気が……」


「そういうことは気にせんとこ! ニアさん。これを被ればええんやね?!」


 ぼくの一理(いちり)二理(にり)もある言葉を遮ったのはウィルベル。


 もう! ご主人様ってば、さっきの突撃隊を見てやる気満々になりすぎぃ!

 その勢いのまま「デュワ」っと覆面を被ったご主人様の姿は――


「うわ。だっさ!!」


「ミカってば女の子に向かって、ひどくない!?」


「だって、どう見ても悪役プロレスラーだよ!

 銀行に行ったら強盗に間違われちゃうやつだからね、それ!? 変装っていうか、ただの変質者だよ!?」


 しかも、なんでこんなの選んだの? ってくらい悪役レスラーみたいな模様がついてるんだけど!

 ニアっぽさって言ったら……ネコミミっぽいのが垂れてるくらい?


「誤魔化す気ないでしょ、これ……」


「ふふん。もちろん、それだけじゃないであります!」


 ぼくの呆れに対し、ニアは不敵な笑顔。


「え? どゆこと」


「それはこういうことであります。――とう!」


 すとりーっぷ(脱衣)

 ぼくが見てる前で制服をがばっと脱ぎだすニア。


 んま! なんて色気のないパンツ!


「ほら。ウィルベルさんも早く!」

 

「えひゃい!?」


 さらに、ウィルベルの制服を脱がしにかかる。

 え。なにこの子。そういう趣味の持ち主なの?


「でも、ふひひ。()んず(ほぐ)れつな女の子同士の絡み合いっていいと思います。」


「そんなん言うてる場合ちゃうんよ!? うちの貞操の危機なんよ!?」


「勘違いしないでください! 勇者候補生の制服は見た目でわかっちゃうであります! そんなの着てたらすぐにバレちゃうのであります! 交換するであります!」


「えぇ……。それ以前の問題な気がするけど」


「問答無用でありまーすっ!!」


 ニアがウィルベルの制服を脱がし、代わりに自分の制服を無理やり着せていく。そうして出来上がったのは――


「うわぁ……」


 その姿を見たぼくは思わずため息をついた。もちろんそのため息に付随(ふずい)する感情は『呆れ』である。


 ニアの制服をまとい、つんつるてんになった恥ずかしい恰好の我がご主人様!

 おへそ丸出し! 二の腕ぽよん! 胸のあたりはパッツンパッツン!


 呆れて声も出ないとはまさにこのこと。

 うわー。これに使役されるとか、精霊としてちょっとはずかしいんだけど……。うわー……。ないわー。

 誰かに見られたら他人のふりしよ。ぷいっ。


「ひーん!」


 ウィルベルが涙目になるけど、突撃隊を見てやる気満々になったあなたの自業自得だと思います!


「ニ、ニアさん? やっぱり、お願いを聞くことはなし――」


「――ニアー? ニーアー!? どこ行っちゃったのー? もうすぐ出発するわよー。 ――! あ、いたいた。まったくもうっ! 空が怖いからってそんな覆面なんてして。ほら! 行くわよ!」


「ああああれええええ!?」


 がしっ。ぼくらはアーニャ教室の人に、有無を言わせずに引ったてられていった。


 ……この変装、効果あるんでやんの。

【マグロ豆知識】

ちょっと前の話【猫とマグロ】で天保3年あたりから江戸付近でマグロが獲れるようになったと書きました。

ところでその直後の天保4年~天保12年といえば――みなさん学校の授業を覚えておられるでしょうか。


天保の大飢饉と呼ばれる、江戸四大飢饉が発生した年でもあります。

さて、この天保の大飢饉の最中に各地でマグロフィーバーがあったわけですがその時のお話で特に有名なのが熊野。

人々が飢餓に苦しむなか、クロマグロの大群が湾内に入ってきて複数年にわたってそのお腹を満たしてくれました。


その冥福を祈るために漁民たちがお墓を作ったのが、三重県尾鷲市須賀利町にある普済寺です。


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マグロ豆知識補足はこちら
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