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66.入学式典が終わって(上)

長くなったので上下に分けてます。

「なにさっきの。アユの遡上?」


「すごい勢いやったんよ……」


 レヴェンチカの制服に身を包んだウィルベルとぼくは、さきほどの光景に思わずため息をついていた。


 ぼくらがいるのはレヴェンチカの玄関口付近にある講堂。


 入学式典が執り行われていたその場所は、講堂というよりはコンサートホールというほうが正しいのかもしれなかった。


 階段状・扇形に設置された席。過剰(かじょう)残響(ざんきょう)を排除するための複雑な構造の天井。

 暗くなったときに色の反射を邪魔しないシックな色使い。


 昔、一度だけ聞きに行ったクラシック音楽のコンサートってそういえばこんな感じだったなー、なんて構造である。


 とはいえ、今日のような式典では、暗くなりすぎないよう様々な箇所に魔法による白い光が灯っており、また、式典も終了すると同時に光量が増したので昼のごとく明るく照らされている。


 っていうか、天井とか見るとほんと現代チックというか地球っぽいというか……。

 物理現象のいきつく先っていうのはファンタジー世界でも変わらないんだなとかって思っちゃうね。


 ――あの死闘から1ヶ月。

 入学試験の合格を勝ち取ったウィルベルは、無事にレヴェンチカの入学式典を迎えていた。

 

「今度は遅刻しなかったんですね」とは一番初めのあいさつをしたマシロの言葉。


「うっせえバカ。春鮭(トキシラズ)とは違うんです」とはぼくの返事。


「いい加減にしなさい。グーで殴りますよ」とはククルさんのありがたいお言葉である。

 

 うう。ククルさんにグーで殴られた頭がまだ痛いよう……。

 でも、マシロも一緒にお仕置きされたのでセーフ! いや、むしろ権威失墜(けんいしっつい)分を考えるなら栄光ある勝利とさえ言えよう。



 閑話休題。


 さて、ぼくたちが言っているのは入学式典を終えた瞬間のこと。


 来賓(らいひん)のVIPさんたちが去り、入学式典が終わりを告げるや否や、それまで講堂で(おごそ)かに着席していた他の学部の新入生たちが、まるで雪崩(なだれ)のように外に走り出したのである。 


 その勢いはすさまじく、さすがのぼくもあっけにとられちゃって呆然としてしまうほど。


 一応、言っておくけれど、さすが世界最大最高の学園だけあって、式典自体は厳かだったんだよ?


 例えば祝辞。

 普通なら退屈でウトウトするところだけど、壇上に立って挨拶をしてるのが〇〇国の王様だとか、△△国の皇帝閣下なんて人たちなもんだから、緊張で背筋がシャキーンってする感じ?


 もともと真面目な生徒達なんだろうけど、さすがに今日は特別。

 ぼくにすら緊張が伝わってきたくらいだったのだ!


「……の割には、ミカはぐーすか寝とったんよ?」


 ウィルベルがジト目でツッコんでくるけど、だが待ってほしい。

 

「そもそもなぜ、ご主人様(マイ・マスター)は体長2メートルのクロマグロを連れて入学式典に参加しようと思ったのか」


 想像していただきたい。新生活に緊張する生徒たちのなかをノッシノッシとマグロを抱いて闊歩(かっぽ)する少女の姿を。


 ぎゅーっとおっぱいの間に抱かれて過ごしたので、ぼく的には役得(やくとく)っちゃ役得だったけれど、


賓客(ひんきゃく)席にいたVIPな人たち、めっちゃ目を丸くしてたからね? 呆れてたからね?」


「うぐ……」


「まったくウィルベルにはやれやれだな! こんなことじゃ、学校生活でボッチになっちゃわないか心配だよ!」

 

 日本だって、田舎から東大に行ったら文化や生活レベルの格差に苦しむって言うけどさ!

 クロマグロを連れて入学式典に参加するとか、文化レベルが違うってレベルじゃないよ!


 進学で田舎から上京した彼女が、ヤリサーに入っちゃってチャラ男にひっかかって、いわゆる『信じて送り出した彼女が以下略』状態にならないか、ほんと不安! でもちょっと見てみたい気もするな。いいぞ、もっとやれ。


「ミカ……」


 めしぃ。ぼくの頭蓋骨が、ウィルベルのアイアンクローを受けて、軋みをあげる。


「ぐえー。脳天からツノトロが出そう」


「……まったく。あなたたちは何をやっていますの」


「あ、リンちゃんじゃん。おひさー」


 その様子を見て、あきれたようにため息をついたのは近くに座っていたミス・ツンデレことリンネちゃん。

 頭はポニーテール。パリッと制服を着こなしている姿は、名前の通り凛としていてとってもカッコいい。


 制服を着ても田舎娘がにじみ出るウィルベルとは雲泥の違い。さすが上流階級である。さらに、


「さっきのあれは教室選びのためだね」


「お。リーセルもおひさー」


 さっきのぼくらの疑問を解決してくれたのは。同じく制服姿のリーセルだった。


 こちらもやはり上流階級らしい、厳かな着こなし。

 イケメン・王族・超強い、の3ステップ揃っててなろうアニメの主人公みたいで嫌になるね!


 ともあれ、


「教室選び?」

 

「ああ。レヴェンチカの教育は、学部学科(がくぶがっか)共通の共通課程と、学部ごとの専門課程、そして実践演習(じっせんえんしゅう)や議論をおこなう"教室"にわかれているんだ」


 大学のゼミみたいなもんかな? レヴェンチカって高校からそんなもんがあるんだね。

【マグロじゃない豆知識】

春鮭と書いてトキシラズと読むことがあります。

日本で鮭が採れる時期が秋なので、春の鮭は時季を知らないという意味です。


――というのは日本の常識。

鮭は回遊魚なので、各国によって時期が違ったりします。


英語でスプリング・サーモン(春の鮭)というとキングサーモン(和名:マスノスケ)を指します。


アメリカでは春と秋に鮭が川を上るんですね。(地域によります)

ネイティブアメリカンな人々は季節の最初にとれた鮭を儀式に使い、春を祝っていたのだとか。



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