63.4章エピローグ2:その輝きは遥か
今回はルセル視点です
――遠い。
ルセルがこの戦いを見て思ったことは、その一言だった。
彼女の知る限り、ウィルベルの素質は元々高かったように思う。
異常な観察力や、熟達の速さ。その例を挙げればキリがない。
そういったものを総合的に見て、口ではライバルとは言いながらも、頭のどこかで敵わないな、と思っていたような気がする。
だけど、ウィルベルがセレクションへの切符を手に入れたあのとき、「やっぱり」なと思うのと同時に、いつか自分も、と思っていたのも事実だ。
自分とウィルベルの間にはそこまで差はないと、そう思っていたのだ。
だけど目の前のこれは……。
(遠すぎる………)
ウィルベルと別れたのはつい5日前。
そう。”たった5日前”。
この場にいる10万人のなかには、同世代の若者――この場で演武をするウィルベルに対抗心を燃やしていた者や、来年レヴェンチカを受験しようとした者も多い。
例えば、隣の席に座っていた少年はおそらく後者だ。
ウィルベルが入場してきたとき、彼の目にあったのは純粋に将来のライバルを見ようという、いわば対抗心だった。
彼は、審判が言った「この場にいる者が認めれば入学を認める」という条件を聞いて「絶対に認めてやるもんか」という、子供らしい意地と対抗心に燃えていた。
そのはずだった。
「……」
それがいまはどうだ。
呆然とたたずむその姿は、信じられないものを見た、という少年の心中を、これ以上ないほどに表していた。
「ふ……ふふ……」
バックスクリーンに表示された10万という数字を見て、ルセルは乾いた笑いを浮かべた。
ウィルベルが勇者候補として認められた?
違う。認めさせたというほうが正確な表現であろう。
この場にいる同世代の者たちは、みな同じような表情を浮かべていた。
嫉妬と憧憬。悔しさと称賛。相反する感情の入り混じったなんともいえぬ表情。
「ふふ……」
そして、嫉妬を通り越して呆れの感情になったところで、ルセルは笑った。
感情が前後左右にぶんぶんと振り回されて、こころのなかを掻き乱す。
(こんなの見せられたら……認めるしかないじゃない)
目を離さずにいられない。「がんばれ。負けるな」と応援せずにはいられない。
たぶん、英雄の資質というものがあるとすれば、こういうものなのだろう。
「ルセル、どうかしたのかい? 笑いながら涙なんて流して……。ウィルベルちゃんが合格してそんなに嬉しいのかい?」
父親が尋ねてきて、ルセルはようやく自分が涙を流していることに気づいた。
感動極まって涙を流していると思ったらしい父親はハンカチーフを差し出し、ルセルは表情覆うようにして顔を拭いた。
ウィルベルに対してがんばれと思うと同時に、自分のプライドが悲鳴を上げてもいた。
それもそうだろう。ルセルはまだ15歳。同じ年齢の人間に対して『絶対に敵わない』なんて認められるはずがない。そんな不甲斐ない自分に怒りすら感じる。
ルセルは立ったまま気絶したらしいウィルベルを見た。
(でも、なんというか……応援したくなっちゃうのよね。不思議なことに)
あれこそが勇者候補生。将来、人類の守護者となる者。
ところで皆さん覚えておられますか。
このクロマグロ。ここまでやっておいて、まだレベル3です。
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