62.4章エピローグ1:勝った者に女神は微笑む
「……馬鹿な」
それは誰が言った言葉だったろう。
だがしかし、この場においてもっとも相応しい言葉であった。
ククルも同じことを言おうとして、そこでようやく自分の口がカラカラに乾いていることに気付いた。
一度、唇を湿らせ、そしてマシロに問う。
「……マシロ様はこの決着を予期しておられたのですか?」
「あはは。まさか。いくらなんでも、この結果は出来過ぎですよ」
ククルの問いに、この戦いをお膳立てした女神は、屈託のない笑顔で笑った。
そして、周囲にいる人々が自分に注目していることに気づき、マシロは「ふふーん」と胸を張る。
「でも、どうですか。いいもの見れたでしょう?
わたしの言ったとおりに! わたしの言った通りに! 大切なことなので2回言いました!」
「いいものというか、あれは……」
異常に過ぎる。
実力だけなら過去に同レベルの者はいた。
むしろ、実力だけであれば高等部3年になる”あの2人”のほうがよっぽど異常だ。しかし……。
言葉を飲み込んだククルの横で、前に議会の司会を務めていた初老の女性教諭、ウーナが口を挟んだ。
「マシロ様……。ですが、本当に彼女を入学させてもよいのでしょうか。はっきり言って、彼女はその……」
「自分たちの手に余る?」
「……」
マシロのその問いに対し、ウーナはプライドにかけてうなずくことはなかったが、その目は「そうだ」と言っていた。
その態度にマシロはにっこりと微笑む。
「確かに、彼女はここにいるわたしたち全員の想像を超えてきました。
イレギュラー。ハチャメチャ、風変わり。そんな言葉がお似合いな感じですよね。
"いまのレヴェンチカにはあまり相応しくない"と思うあなたの意見は、ある意味において正しいんでしょう」
意見が肯定されたことに、ウーナがほっとした表情を浮かべる。
自分の言葉がマシロの気に食わなかったら、という怯えがあったのだろう。
マシロはウーナの緊張を解きほぐすように笑いながら、「ですが」と心底不思議そうに首をかしげた。
「逆に聞きたいんですが……わたしの想像を超えない程度の者って、本当に勇者と呼ぶにふさわしいんですかね?」
その言葉はその場にいる者を凍りつかせた。
くるりんとした目は誰を責めるでもなく、屈託なく尋ねかけてきているだけだというのに、その場にいるククルたち教師陣と、各国の王侯貴族たちは背筋を凍りつかせた。
「あはは。みなさんそんな表情を浮かべないでくださいよ。何も責めているわけではないんです。
でも、いまのあなたたちの反応を見て安心しました。ちゃんとわかっているみたいで」
これが女神マシロ。この世界の唯一神にして、常に一歩引いたところから人類を見守る者。その性質は間違いなく善良である。だが、
「ふふふ。とっても楽しくなってきましたね!」
彼女が何なのかを理解している者は少ない。