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59.カウント・ゼロ

 ルセルちゃんに呼び止められたぼくらが見たのは、泣きそうな顔のルセルちゃん――だけではなく、その後ろの人たちだった。


 ぼくたちを応援してくれてる人もいれば、そうでない人もいる。 

 個ではなく民衆としての、人。


「ウィルベル」


「うん」


 ぼくらは改めてコロシアムを見回した。

 いつのまにか、バックスクリーンの数字は千を超えて1万に到達しようとしていた。

 必要な数にはぜんぜん足りていないけれど――でも、そんな数字なんてどうでもいい。

 

(うちらを認めてくれた人があんなにおったんやね)


 そのうちの一人であろう、ルセルちゃんに向かってウィルベルはほほ笑んだ。

 そして「イエーイ」とサムズアップ。心配すんなってもんである。


 ぼくらは目の前の戦いに必死になりすぎて大切なことを忘れていた。

 なにをって? ここ(・・)で戦うってことの意味を。

 

「ウィルベル、見える?」


「うん。ちゃんと見える」


 前に、ぼくらは魔力が見えるって言った。


(魔力って、人間からも発生するんだね)


 目を凝らすと、この場にいる人々から色んな色の魔力が発生しているのが見えた。


 小さな小さな粒子って言えばいいのかな?

 青、緑、赤。自然界に含まれているものと比べれば、ほんの些細な量の粒子。


(きれいなんよ……)


 見ている間にも、粒子はバックスクリーンに吸い込まれていき、ぴこーんとカウントアップされる。

 たぶんだけど、バックスクリーンの数字は魔力をカウントしているんだろう。


 ヴァンのおっさんは言った。

 あの数字は、ぼくらを勇者候補にふさわしいと認めてくれてる人数だって。


「1万人近い人に認められるっていうのは、すごいことなんやねえ」

 

 ウィルベルがベルメシオラにもらった髪飾りを撫でながら言った。

 ベルメシオラは前に言った。この髪飾りは王家を信用してくれる人々の祈りを、再委託した証だって。


 ――ってことはだよ?

 あのバックスクリーンの数字っていうのは、再委託どころかぼくらを直接信じてくれた人の数だ。

 よく考えてみたらそれってすごいことじゃない?


 また魔力の粒子が吸い込まれて、ぴこーんと数字が増える。 

 

 ぼくは思い出していた。

 ウィルベルと出会ったときに見た、昔の勇者様の銅像がまとっていたあのときの光。


 もしかするとこの世界において人の思いっていうのは魔力の一種なのかもしれない。

 だとするならば、あの魔力の光こそがぼくらを信じてくれたって証だ。ならば――


 ぼくは尋ねた。


「ところでクァイスちゃん。クロマグロがどれくらい貪欲か知ってるかい?」


「はぁ?」


「マグロっていうのはさ、稚魚のときに共食いするぐらいに貪欲なんだぜ?」


 ぼくは空に向けて、大きく息を吸った。

 ――秘技! マジカル・ラムジュート換水法。ぼくに食べられたいって魔力あつまれ!


 空に含まれていた魔力が、ぼくの意志に応えるようにゆっくりと動き出す。

 それはまるで元の持ち主の思いを汲んで、魔力そのものが意志あるように。


 ずず……。


 魔力に引きずられるように風が動く。

 動いた風はさらにぼくの元へと魔力を呼び寄せて、魔力はさらに風を動かして――。


「な、なんだ。これは……」


 不穏な空気の流れに、今日初めてクァイスが後ずさる。

 

 でも、まだだ。まだ、ぜんっぜん足りない。

 ぼくがなんでクロマグロになったのか、ちょっとわかった気がする。


 キハダでもなく、ビンチョウでもなく、クロマグロになった理由。それは――


「ふははは! 知っているか。クロマグロはマグロのなかで最も雑食性が強いんだぜ!」


「絶対にちゃうと思う」


 なんと。


「でもそんなことどうでもいいや。この空間にある魔力を全部ぱくーっとな!」


 風に混ざった赤の魔力。青の魔力。その他もろもろ。ぜんぶぼくのなかに取り込んでやる!

 バックスクリーンに数字を表示するための魔力すらももったいない!


 ぱくぱくー。


 吸うたびにバックスクリーンの数字が減っていくけど、知ったことじゃあない。

 そして、あふれるほどに蓄えた魔力をステータス補正値――身体強化魔法に変えて。

 

「ウィルベル!」


「うん!」


 ウィルベルの目が赤を通り越して、ピンクになる。

 バックスクリーンに表示されていた数字が0になった。

 

 凄まじい力の奔流がウィルベルの身を包み込む。

 前にスパチュラ・ドラゴンと戦ったときのように、心の内から湧き出る闘志に魔力が応えてくれる。


 ――急激な魔力の圧縮に、コロシアムの内部に砂塵が舞い上がった。


「い、いったい、なにが……?」


 相対するクァイスがうろたえるなか、ウィルベルは静かに一歩踏み出した。

 その身を包むのは、半透明の精霊の衣(エレメンタルローブ)。半人前の、でも絶対的な人類の守護者(勇者)の証。


「こっからが本番なんよ!」

 

 言ってウィルベルは拳を前に突き出し、堂々と構えた。


 ドラゴン戦のときよりも、はっきりくっきりと見えるその雄姿。

 その姿は、誰よりも勇者にふさわしいように、ぼくには見えた。

【マグロ豆知識】

クロマグロは雑食性! と書きましたが、そもそも魚って雑食性の魚がめちゃくちゃ多いんですよね……。

身体の大きなクロマグロは、そのぶん雑食性が強いだけというか……。


ちなみに魚の食性は大雑把に分けると、

動物食(肉食動物):ミミズや小魚などが餌

植物食(草食動物):プランクトンや藻などが餌

に分類されます。


また、魚をメインに食べる場合には特に魚食と呼びます。

ちなみに、クロマグロの捕食対象にはイワシやアジなんかもあるんですが、別に魚メインで狙うってわけでもないので魚食動物とは呼ばれません。

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