58.幕間:超常の者は予感する
見ていられない。
それがこの追加試験に対するおおよその者の評価であろう。
戦いと呼ぶにはそれほどに実力差がありすぎる。
「マシロ様。やはりこれは無謀だったのでは」
ククルは、今回の試験の発案者であるマシロに尋ねた。
彼女らがいるのはコロシアムを一望できるVIPルームだ。
――喧々囂々としたあの会議。
ウィルベルを合格させるべきか否かに紛糾していた場に乱入してきたのは女神マシロだった。
彼女は会議室の扉をバーンと開け放ち、こう言った。
「だったら、勇者が守るべき民衆に決めてもらいましょう!」
普段はこういったことには口を挟まず、強権も発動しない女神の提案。
実施可能かどうかといえば物理的にギリギリ可能。
権力的にもギリギリセーフ。さらに言うならマシロ以外の誰かが提案できる内容でもない。
あらゆる意味で本当に限界を見極めた、誰も反対できない提案。
そしてあれよあれよとこの場が整らえれるに至る。
(本当にこの女神は何者なのだろう)
女神はわきわきと手を動かして、戦闘を食い入るように見ているが、この凄惨な光景のいったい何が楽しいと言うのか。
(試験というなら、せめてもう少し実力の拮抗した者をあてがうべきだったのだ)
あるいは実力差があったとしても、適した者はいくらでもいたはずだ。
確かに、クァイス・バルハラーロは学園でも卓越した能力をもつ生徒ではある。
だがその容赦のない性格は、このような場面において最も不適当であると言わざるを得ない。
同程度の技量の者でも、大学課程の生徒にもっと温和な者がいたろうに。
「これはやりすぎです。止めるべきです」
各国の王族たちもVIPルームで観戦しているが、彼らもククルに同意するようにうなずく。
この場にいる者たちは、勇者の活躍を横で見てきた者たちだ。観客とは違い、目が肥えている。
レヴェンチカの在学生に精霊を出させることの意味をよく知っている。
彼らは思う。
むしろ、精霊召喚前にあれだけ健闘したことを讃えるべきなのだ、と。
しかし、マシロは耳をぴくぴくさせながら、そのような言葉には耳を貸さない。
目を見開いてその戦いに没頭していた。
そして心底楽しそうに言った。
「お前たち、黙って見ていなさい。もう少しで面白いものが見れますよ」