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56.高等部第三席

「はっ!」


 クァイスは息を吐くと、一気に飛び込んできた。


 一瞬で詰められる間合い。

 予備動作無しの動き。2日前のウィルベルなら一撃でカタがついていただろうほどに洗練された動作。

 そこからまっすぐに打ち出された正拳突きが、ウィルベルの身体の中心を打ち据える。

 

 ずどんっ。


 そんな音が聞こえるほどの衝撃によって、ウィルベルの身体が後方に弾き飛ばされる。


「げぶー」


 そのあまりの威力に、ぼくの尻尾をもつウィルベルの手が離れてしまう。

 ああん。ぼくを置き去りにしないで!


 吹っ飛ばされたウィルベルが円柱にぶち当たり、砂埃がぶわっと舞い上がる。

 硬そうな円柱の表面にヒビが入り、そのダメージの深さを想像して観客の人たちが悲鳴を上げた。


 そんななか、一番冷静だったのは正拳突きを放ったクァイスだった。

 

「思ったよりは動けるのね。一撃で終わらせてやろうと思ったのに」


「あいたたた……」


 砂埃がおさまったとき、そこに立っていたのは攻撃を腕でガードしていたウィルベル。

 というか、ガードの上から叩かれてこの威力とか、在校生やべーな。


「まあいいわ。すぐ終わらせることには変わらないのだから」


「わひぃっ!?」


 ウィルベルが身を投げ出したかと思うと、その直後に背後にあった円柱が粉砕される。

 クァイスの放ったバックハンドブローによるものなんだけど、あんなのくらったらミンチになっちゃう!

 そして、ウィルベルが距離をとって立て直そうとしたところに、追いすがってヤクザキック。


「げぶぅ!?」

 

 今度こそ鳩尾(みぞおち)にヒット!

 地面をずざーっと海老ぞりになりながら、顔面でコロシアムに線を描くウィルベル。


 女の子にあるまじきダメージの食らい方である。


「ぺっぺっ。口の中に砂が……でも、やられてばっかりじゃ、おれんのよ!」


 でも、今度はすぐに立ち上がると、追い打ちをかけにきたクァイスに向かって、カウンターで攻撃すべくとびかかる。

 

「でやああ!!」


 ドロップキック!

 でも、さすがクァイスと言うべきか。その両足をこともなげにむんずとつかんで、


「わひーーーーっ!!」


 ウィルベルの体をジャイアントスイングでぶんまわす。

 普段、ウィルベルがぼくを武器にして振り回すようなそんな感じ。って……武器?

 

「ねえ、あなた。どの柱にぶつかりたい?」


「ど、どれも勘弁してください」


「それは聞けないわ」


 クァイスが振り回しながら狙いを定めたのは、一番硬そうな素材でできた円柱。

 その結果を想像して、またしても観客が悲鳴を上げる。

 

「でやあああ!!!!」


 気合一閃。すさまじいスピードでウィルベルが振りぬかれた。

 

 ――べきぃ。


 ひどい音がした。

 骨が砕けたんじゃないかっていうくらいの衝撃がクァイスを(・・・・)襲う。

 

「……お前」


 クァイスが憎々しげに手を押さえてつぶやく

 さっきのドロップキックを両手(・・)でつかまれるのは想定通り。

 

 ジャイアンストスイングって、振り回してる側はそんなに動けないからね。その手の甲を狙って空から急襲したぼくの尻尾――犬殺しが炸裂したってわけ。

 

 ふはは! クロマグロ舐めんなよ!

 さらにビターンと地面を跳ねて、追撃をしてやるー。……って思ったら、今度は尻尾掴まれた!


「この程度が通じると……」


「いやん。お尻触らないでよ。えっちー」


「死ねっ!」


「ぎゃー! 死ぬー!」


 どすん、とぼくのお腹に突き刺さる抜き手。

 ぐえー、大トロが出ちゃう。でも、抜き手は突き刺さってはいない。

 

 それはクァイスにとって想定外だったのだろう。

 弾力のあるお腹にぽいーんと弾かれて体勢を崩す。

 

「まだまだぁっ!」


 そこにウィルベルの拳が顔面にクリティカルヒット! 一瞬、クァイスが棒立ちになる。


 ――いまだっ! 

 

 ぼくは地面を尾ビレで蹴って、そのままクァイスの頭上、上空へと舞い上がった。

 そして、くるりと後方二回宙返り(ムーン)一回ひねり(サルト)

 

「くらえ。天空一文字・ツナアタァァァック!」


 200キロの体重で押しつぶしてやる!

 見よ、VRMMO『マグログランドフィーバー』で何人もの釣り人プレイヤーを葬り去ってきた序盤最強の荒業を!

 

 このタイミングは絶対に避けれない。

 ダメージがあんまりなかったとしても、今のウィルベルを前に致命的な隙をさらすことになるからだ。


 よっしゃあ! 勝った! 第一部完。次回、学園編にご期待ください!

 なんて、思ったのは一瞬だけだった。


「――なめるなっ!!!」


 声とともにぶわっと砂煙が舞った。


 風の勢いだけでぼくの身体が押し戻される。わひょー。

 っていうか、熱い! なにこの風!? めっちゃ熱いんだけど! あばば、焼き魚になっちゃう!


 ぼくがコロシアムにぽてんと落ちた横、ウィルベルがごくりと唾を呑みこむ。

 

「あれがクァイスさんの精霊……」


 クァイスの手の上には、燃え盛る炎の上級精霊イフリート。

 そう……。驚くべきことに、クァイスはさっきまで精霊を召喚していなかったのだ。

 補正値なしであの動きって、在校生って化け物すぎない?


 コロシアムに炎の風が渦巻き、ぼくらを焼き魚にしようと燃え盛る。

 対するウィルベルが口角を吊り挙げながら、楽しそうに言う。


「ようやく本気ってわけやね」


「本気? 違うわ。少しだけ遊んであげようっていうのよ」


 うひー。絶対めっちゃ怒ってるよ。

 そうそう。勝負といえば例の数値はどうなっているのかな?


 後ろを見ると、バックスクリーンの数字は500をカウントしていた。

 ぜんっぜん足りないでやんの。

空からの強襲ですが、リーセルが避けれたのに対して、クァイスが避けれなかったのは単純に知識の差です。

普通、精霊がここまで自律して動くとは思わないので……。

(あと精霊召喚してなかったのもありますが)


リーセルはグランカティオでの出来事を知っていたので対応できた感じです

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