48.3章エピローグ:勇者の資質(上)
長くなったので上下に分割してます
すべての試験が終わって、試験官を務めていた教師たちはレヴェンチカの一室に集まっていた。
室内にいるのは教師だけではない。
オブザーバーとして傍聴しにきている各国のスカウトも合わせると総勢50人を超える大所帯だ。
部屋の前方にあるボードには不思議な青い文字で、最終選考に残った受験生の名前が表示されている。
書かれている名はリーセル、リンネ、その他もろもろ。合計30名。その大半は前評判どおりといったところか。
試験官を務めていた教師の一人、ヴァンはその一覧を見て嘆息した。
(……ウィルベルの名前は残ってないか)
それも当然か。とは思う。
最後に才能は見せたが、他の成績が平凡すぎた。それに最初の大遅刻は心象が悪すぎる。
リーセルとの戦いの最中に見事な成長を見せたので推してやりたいところだが、推薦者であるヴァンにその権限はない。
そんなことを思っているうちに会議の司会を務めている初老のベテラン女性教師、ウーナが周囲を見回しながら選考を進めていく。
「では、リーセルは全会一致で確定ですね」
ほぼすべての科目で1位だったリーセル。
彼が合格するのは、最終試験の前にはほぼ確定事項であったため、誰の反対もなく進む。
「あとは、リンネ。レドリック……」
他にもリンネなどの総合成績で3番以内だったものが、それぞれ全会の一致をもって合格することが決定していく。
ここまではほぼ予定調和。
……毎回、ここからだ。揉めに揉めるのは。
ここに名前が残っているのは27名。
彼らの才能を疑う者はおるまい。各国がもろ手を挙げて歓迎するだろう逸材たちである。
それほどの者たちのなかから、最大であと7人を決めねばならないのだから慎重にもなる。
「まず、私から」
ベルギスという最年長の男性教師が手を挙げた。
白髪の入り混じった、屈強な肉体をもつ老人である。
御年80歳を超える元勇者で、教師歴も長い。
ここにいる教師のなかにも彼の教え子は多い。
ある意味においては、女神の代弁者であるククル学園長よりも権力を持っていると言ってもいい。確たる実力者だ。
彼が手に持ったタブレットを操作すると、教室の前に設置されたボードに一人の少年のパーソナル情報と今回の試験の成績が表示される。
総合20位。名はレスティバン・オルブロ。
出身はソレイユ経済同盟に所属している国家のひとつ。
圧倒的強者であるリーセルの影に隠れがちだが、2番の地位に腐ることなく努力をしてきた骨のある少年だ。
「私はこのレスティバンという少年を推そう」
「総合成績では20番だが?」
「彼は賢い。模擬戦闘で例の2人に相手を倒させて、我々が指名する前に次の相手に目星をつけておくだけの余裕があった。指導者さえよければまだまだ伸びる余地がある」
ベルギスの言葉に、数名の教師から拍手が上がる。
ボードに記述されたレスティバンのプロフィールにマルがつき、彼の合格が確定したことを示す。
それを見てベルギスが満足げにうなずき、着席する。
次に手を挙げて発言をしたのは司会役のウーナ。
「ソレイユ経済同盟からはこれで3名ですか。バランスをとるなら、リバ諸王国のほうからも1人挙げるべきでなのでしょうが……」
「それであればこのフロンという少女はいかがでしょう」
それを聞いて、今度は若年の女性教師が手を挙げ、タブレットを操作する。
先ほどと同じように教室の前方に、一人の少女のパーソナル情報と試験結果が表示される。
総合17位。名はフロン・フローレル。
出身はバルバンティラ。
バルバンティラの『賢者の学園』で主席卒業をした、通称『バルバンティラの賢者の秘蔵っ子』。
「彼女の魔法を制御する能力は素晴らしいものでした。身体能力は見劣りしますが、現時点での完成度はかなり高いと思われます」
女性教師はそのあといくつか推薦理由を上げるが、拍手はあがらない。つまり不合格だ。
女性教師も心得たもので、それ以上推薦はしない。
フロンの名を出したのは『あくまでもバランスをとるなら』という話でしかない。そんな者はどうせどこかで落ちこぼれる。
その後も試験官たちが名前をあげていき、あるものは合格が決まり、ある者は不合格と決まっていく。
各試験官たちが合格に足る者と思う者を推薦しきったところで、合格のサインがついたのは10人の枠のうち6人。
定員に満たないのはいつも通りのことだ。
枠こそ10名ではあるが、10人が合格したことは過去かつてない。
「――ククル学園長はいかがですか?」
会議の司会をしているウーナに話を振られて、ククルが「ふむ」とうなずいた。
ここまで発言がなかった学園長に、スカウトたちは興味津々のまなざしを向ける。
若くして学園長に選ばれただけあって、彼女の才能を見る目は卓越している。
ここで出た名前が合格枠の最後の一人となる。
そんな予感が会議室の全員に共有され、各国のスカウトたちもつばを飲む。
「そうだな。わたしは……」
大勢の注目のなか、ククルは口を開いた。
「ここに名前は残っていないが、ウィルベルという少女を推したいと思う」
その言葉に会議室全体が大きくざわめいた。