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44.最終試験開始

 遅めのランチタイムが終わり、ぼくらは最終試験の会場でそれが始まるのを待っていた。


 ぼくらがいるのは最終選考の会場。グラウンドとは違うコロシアムのような場所。


 基礎能力を測る午前中とは異なって、ベルメシオラたちVIPさんたちもガラス張りになった賓客席から見下ろしているのが見える。


 さらにコロシアムの向こうの方にはエリオ君やリンちゃんの姿。みな、真剣な面持ちで最終試験の開始を待っている。


 ――これから1時間。

 レヴェンチカの最終試験は、時間制限いっぱいまで模擬戦をひたすらおこなうものであるらしい。


 相手が気絶や降参をすれば、すぐさま次の相手が告げられ、ただひたすら1時間戦い続けるという、過酷な戦い。


 でも、過酷だなんて言ってはいられない。合格しようが、不合格であろうが、この最終試験で受験生たちの人生は大きな転機を迎えるだろう。


 最上(さいじょう)の結果はレヴェンチカへの入学。だけど、落ちたとしても国家のトップギルドにスカウトされることもあるという。


 ここでの成績は、どうあっても彼らの進路にとって大きな岐路なのである。


 だからかな? 殺気(さっき)めいた重厚なプレッシャーが会場を渦巻いていた。


 本来、15歳の少年少女が持ち合わせることのない、重厚な殺気……。


 ある意味、これって才能の証明なんだろうと思う。


 ここにいる子供たちは、人類トップクラスの才能を持ち、なおかつ不断の努力をしてきたという自負があって……だからこそ、こんな重圧を発生させることができるのだ。

 

 300人分のギラギラとした視線が会場中を縦横無尽に駆け巡っているのがわかる。


 彼らの相手は、一番初めに指定された相手だけではない。相手を打ち倒したならすぐさま次の相手が指定され、また倒したなら……。それが1時間ずっと続くことになるのだ。


 どこでどう体力を使うのか。奇襲されないよう、どのように位置を取るのか。彼らはみな、神経を張りつめらせ戦略を練っているのだった。


 ――そのなかで。


「ぐーすかぴー」


 うちのご主人様ときたらこれこの通り!


 お腹がぽっこりするくらいにご飯を食べたウィルベルは、会場に着くなり「1時間だけ寝る」と宣言し、すぐさまこの状態!


 おへそ丸出し! パンツ丸見え! いったいこの娘は恥じらいをどこに捨ててきたんだろう!?

 

「あーもう! 新しいタオルもってきてもすぐにびしょ濡れだよ!」


 でも、ぼくはそんなウィルベルの世話をせっせと焼く。

 頭に乗せたタオルを取り替えようとして、胸ビレがウィルベルの額に触れる。


 ――熱い。


 すーすーと眠るウィルベルからはすごい熱量が発生し、まさに超回復中! って感じ。


 汗が水蒸気となって、周囲の湿度をぐんと上げる。なんて野性的な光景なんだろう。まさにゴリラである。


「熱いの熱いのとんでいけー!」

 

 ぼくはというと、ご主人様が快適に眠れるようにタオルをもらってきて汗を拭いたり、枕になったり、どさくさ紛れにおっぱいにタッチしたり。


 なんて甲斐甲斐(かいがい)しい精霊なんだろう! 誰か褒めてほしい。


 ――やがて最終試験の開始時刻が迫って、乱戦の一人目の相手がぼくたちの前に立った。


「ウィルベル、君の状態には同情する。でも、オレも必死なんだ。手加減はなしだ」


 普通さ。異世界転生で入学試験のテンプレっていったらアレだよね?


 因縁つけてきたいけ好かない相手をぶちのめして、スカっとして周りから「スゲー」って言われて気持ちよく入学ってやつ。


 あるいは試験官の度肝を抜いて「アレ? ぼくなんかやっちゃいました?」みたいな展開!


 だっていうのに相手がこれ(・・)だなんて、この異世界の神様は逆境がお好きだ。


 じゃりっとコロシアムの土を踏みしめてやってきたのは、リーセル・A・ソーラ・ディオルトくん。


 さっきまでとは違って、ブレストプレートを装着し、模擬剣を携えた姿。最終試験における、ウィルベルの初めのお相手である。


「わかっとるんよ。リーセル君。うちもそういうのは好きじゃない。それに、いまのうちの状態は万全なんよ? ミカのおかげでね」


 ぱちっと目を開けたウィルベルは、うんしょっと背筋だけで立ち上がると、リーセルに向けてにっこりとほほ笑んだ。


 こちらはさっきまでと何も変わらぬド田舎ファッション。鎧も武器も何もない。あるのはぼくだけ。クロマグロのみである。


「よかった。この戦いで、オレはまだ強くなれる気がする。ありがとう、ウィルベル」


 言って、リーセルくんが油断なく模擬剣を構える。すごくサマになっていて、まさしく隙がないってやつだ。


 ぼくが女の子だったら惚れちゃうくらいにかっこいい。


 彼が具現化しているのは光の精霊スピカ。犬のような輪郭をしていて、頭を撫でてやりたいくらいに可愛らしい。


「うん。うちも、おんなじなんよ」


 言ってぼく――クロマグロを構えるウィルベル。


 周囲から見たら超シュール! ぼくが男の子だったら、指さして笑うくらいおバカな光景。


 さっきまでの発熱のおかげでウォームアップは充分。全力全開で動く準備は万全である。


 コロシアムのステージに一人の教師が立った。そして宣言する。


「時間は1時間。どのような手段をとってもいい。戦い続けなさい」


 負けを認めず、気絶せず。戦い続ける気力さえあれば、すぐさま失格にはならない。そんなある意味、泥臭い戦い。

 

「ミカ」


「うん」


 すぅーっとウィルベルが細く息を吐く。ぼくもエラの後ろから細く息を吐いた。


 ウィルベルと意識が溶け合い、ひとつになる感覚。

 格上(リーセル)相手に出し惜しみはできない。初めから全力全開の赤身モードだ。


 周囲にはたくさんの受験生。1対1ではあるものの、ごちゃまぜのなかでの乱闘。だからこそ――勝機はある!


「はじめ!」


 本日最後の死闘が始まった。

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